タイトル:子供だけの戦争マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/16 17:16

●オープニング本文


 西暦二千七年年十月、アメリカ東部の街サンフランシスコでは大荷物を抱えた人がちらほら目撃されるようになっていた。
 理由は戦火の拡大にあった。

 詳細な情報は誰にも分からないが、戦火は南部から広がっているらしい。そしてこのサンフランシスコの街が焼かれるのも秒読みに入っていると噂されている。
 そのためか、ちらほら空き家が出始めていた。

 そんな空き家の一つにスーパーマーケットがあった。
 店の名前はガリバー・ストア。駐車場も広く、品揃えも悪くない。客の評判も上々だった。
 しかし戦火の拡大を聞きつけ、店主は金庫を抱えて夜逃げしたらしい。おかげで食料を始め、多くの品が残されていた。
 そう、子供の遊び場には最適だった。

 夜逃げするのに必要な条件とは何か、答えは人目につかないこと。そして素早く行動することだ。
 そのため夜逃げをするなら荷物は少ない方がいい。時には家を、時には店を、時には子供を捨てて人は夜逃げする。
 ガリバー・ストアに集う子供は所謂捨て子であり、ガリバー・ストア自身も捨て子のようなものだった。
 子供達は身を寄せ合うようにして、店に残された食料で食いつないでいた。
 しかし時が経つにつれ子供達の心も変わる。日に日に増える捨て子を前に、一人の子供が受け入れ拒否を提案した。
「もう俺達に仲間は要らない」
 子供達の反応は様々だった。反対するものもいれば賛成するものもいる。泣く子もいれば逃げ出す子供もいた。
 そして翌日、子供達は大きく二つの派閥に分かれていた。一つは今後も受け入れを容認する容認派、もう一つは受け入れを拒否する拒否派だった。
 こうしてガリバー・ストアでは戦争の火蓋が気って落とされたのだった。

 本来なら子供の争い、大人が目くじらを立てるほど大きな問題にはならない。しかし残念というべきか、ガリバー・ストアには包丁や鋏といった刃物も置かれていた。そして止めるべき大人もいない店内では怪我人が出たのだった。
 治す術も病院への治療費も無い子供達は、放置するしかなかった。

 翌日、血を流して死んでいる子供の死体が駐車場で発見された。近所のおばさんが見つけたらしい。
 バグアの先遣隊が来たのだと考えたおばさんはULTに連絡したのだった。  

●参加者一覧

ベールクト(ga0040
20歳・♂・GP
MIDNIGHT(ga0105
20歳・♀・SN
柴崎 琢己(ga0215
20歳・♂・FT
海森 水城(ga0255
18歳・♂・SN
小鷹狩 境(ga0370
18歳・♀・FT
八田光一郎(ga0482
17歳・♂・GP
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
櫻塚・弥生(ga2000
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

「確かにでかいな。ガリバーとはよく言ったものだ」
 ガリバー・ストアを前にベールクト(ga0040)は呟いた。
「でもここがバグアの要塞になっている可能性もあるってことね」
 髪をゴムでまとめながらMIDNIGHT(ga0105)が答える。
 依頼人のおばさんの話ではこの辺りに子供の死体が上がったのが数日前。そしてそれを物語るように駐車場のアスファルトには未だに染みが残っている。
「見ていて気持ちのいいものではないな」
「ガキの死体ねぇ‥‥珍しくもないご時世だがよ、イラッとくるもんだな、実際」
 柴崎 琢己(ga0215)、 八田光一郎(ga0482)がそんな感想を漏らした。
 八田は被害者の死体の調書を見たいと考えていたが、能力者とはいえ一傭兵に見せるわけにはいかないと拒否された。結局のところ、死体を見たのは今回の依頼人である近所のおばさんだけということになる。
「他にも目撃証言があればいいんだけどね」
 実際にバグアの先遣隊によるものなのかどうか小鷹狩 境(ga0370)は現場を見ただけでは判断できないと考えていた。
「聞き込みが必要みたいね」
「そして最後は内部調査やるしかないみたいね」
 櫻塚・弥生(ga2000)が指差した。そこにはクローズドの看板のかかった扉の奥に何らかの人影が見える。
「あの中には誰かがいるわ」
 人影がこちらを見つめている。距離があるためはっきりとは分からないが、身長はそれほど高くは無いようだ。
「あの中は無人のはず‥‥ですよね」
 新条 拓那(ga1294)は言う。
「依頼人がたまたま気付いていなかっただけなのでしょうか」
 思案に暮れる新条。その横では海森 水城(ga0255)はただ何も言わずに出入り口を眺めている。
 
 今回聞き込みもだが張り込みも行うべきだと考えた能力者達は二手に分かれた。
 敵の動きを見たいという柴崎と櫻塚が張り込みを行い、他の六人は順次交替しつつ張り込みと聞き込みを行うことにした。
「依頼期間はそれほど長くは無い。今後再調査をする必要もあるだろうから地元民だけには嫌われないようにしないとな」
 ベールクトが言うと、小鷹狩も同意した。
「私もこの日のために、わざわざ別の衣装も準備してきたからね。しっかり調べさせてもらうよ」
 お気に入りのオウムのぬいぐるみを肩に乗せ、腹話術で答える小鷹狩だった。

 そして依頼開始から二日後、今までの情報をまとめて能力者達は内部に入る算段をつけていた。
 聞き込みで分かった事として、内部には食料品を始めとして多くのものが残されている可能性が高いということだった。
「店主の逃亡当日、といっても実際に店主が逃げ出すところを見た人を見つけることはできませんでしたが、店は通常営業していたようです」
 新条が話す。
 どうやらこのガリバー・ストアの事を気味悪がっている人は少なからずいるらしく、新条が能力者の証であるエミタを見せると多くの市民は事情を説明してくれた。
「ガリバー・ストアは品揃えも量も良かったらしく、常連客も多かったようですね。そのためか閉店になった日まで覚えている人が多くいました」
「私も同じようなこと聞いたわ。加えて子供にも人気だったみたいね」
 MIDNIGHTが答える。
「お菓子とかの品揃えが良かったということと子供だけで遊べるスペースがあったことが利点だったみたいね」
「‥‥子供」
 柴崎が考え込むような素振りを見せる。
「子供がどうかしたのか?」
 ベールクトが尋ねると、柴崎が何かまだ言葉を選びながら話した。
「二日間張り込みをしてきたわけだが、内部からこちらを警戒するような視線は感じるもの動きが拙いような印象があった」
「罠かもしれないよ?」
 一応小鷹狩が釘を刺すと、柴崎はさらに考え込んでしまった。
「とりあえず乗り込むしかないんじゃないかな?」
 海森が皆を促す。そして能力者達は内部に侵入することになった。

 内部はひどい有様だった。灯りはついていないものの、あちこちにお菓子の袋などのごみが窓からの光でかすかに光っているのがわかる。どうやらかなり散乱しているらしい。
 そのためか広いはずの店内が妙に狭く感じられる。
「臭いも‥‥酷いな」
 見た目だけではなく、臭いも酷いものだった。
 もはや何の臭いか判別もつかないほどに色々な臭いが混雑しており、何が何だか分からなくなっている。
「これはバグアやキメラの臭いなのかな?」
 誰とも無く新条が周囲に問うが、誰も反応しない。誰も嗅いだ事のない臭いだったからだろう。
 しかしバグアの全貌が明らかにされていない今、バグアやキメラの中に異臭を放つものがいてもそれほど不思議ではないはずだった。
 
 気を引き締めなおす能力者達。そんな時、MIDNIGHTが一人の少女を発見した。
 年齢は十歳くらいだろうか? しきりに周囲を警戒している姿がどことなく可愛らしくさえ見える。
 しかしそんな動きとは対照的に右手には包丁が握られていた。
「なんだあれは!」
 あまりの情景に八田が飛び出した。当然女の子も八田の存在に気付いたのだが、八田は少女が行動に移すより先に少女の手から包丁を叩き落していた。
「どうして包丁なんか持っている?」
 怒りの表情を見せている八田に少女は涙目になっていた。
「何か言えよ」
 しかし少女は何も答えない。海森はそんな二人の状況をただ眺めている。
「仕方ないわね」
 小鷹狩が肩につけていたぬいぐるみを手にし、少女に近寄った。
「もしもーし、俺フリント。君の名前は何ていうんだい?」
 しばしの沈黙。そして少女は一言「‥‥タリア」と呟いた。
「タリアちゃんか、いい名前じゃないか」
 小鷹狩は腹話術を続ける。できれば詳しい内部事情を聞きだし、お礼にお菓子でも上げようかと考えていた。
 しかし、能力者達の方に誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
「タリア、どこにいる?」
 男の子の声だった。声変わりしているかしていないか位の印象がある。
「誰?」
 腹話術をする事を忘れて小鷹狩が問うと、タリアはお兄ちゃんだと教えてくれた。
「タリア、怪我でもしたのか?」
 声が近づいてくる。能力者達はそれぞれ隠れる場所を探し始めた。
「大丈夫。ちょっと眠くなっただけ」
 タリアが答える。すると足音は再び遠くなっていった。
「嘘ついていいのか?」
 思わず尋ねる柴崎。するとタリアはまたしばらく考えて答えた。
「いいの。今のおにいちゃん、おにいちゃんらしくないし」

 タリアの話によると、タリアの兄は最近人が変わったのか偉そうに振舞う様になったらしい。
「最近のおにいちゃん、何か怖いんだ」
 特にここ二三日は、タリアを始め何人かを店の中に配置し周囲を警戒に当たらせているらしい。
「子供が軍隊ごっこですか?」
 新条が思わず悪態をつく。
「しかも刃物まで使ってとは感心出来ませんよ」
「‥‥」
 海森はまだ沈黙を守っていた。
「ちょっと掴まえてきます。彼からも話を聞かないといけませんからね」
 ベールクトは先ほど声のしたほうに向かって歩き出した。その後を他の冒険者達も追いかけることとなった。 

 その後能力者達はタリアの兄を発見、妹と同じく包丁を持っていたが能力者の相手ではなかった。
 捕まえて話を聞くと、自分が子供を思わず殺害したことを白状した。
「どうして殺したの?」
 海森が訪ねると、タリアの兄は答えた。
「いつの間にかここも人が増えた。でも人が増えると、またいつか捨てられるような気がしたんだ」 

 その後、ガリバー・ストアを出た能力者達は周辺住民と相談。その結果、中にいた子供は近くの孤児院で引き取ることにした。そして報酬代わりに店内のものを自由に使ってよいということになったようだ。
「よろしく頼む」
 ベール・クトが言う。
 そして能力者達はその場を去ったのだった。