タイトル:五大湖選択嘆願書マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/22 00:43

●オープニング本文


 西暦二千七年一月 シカゴ

 シカゴはかつて商業、金融、流通の中心地であったが、五大湖周辺までバグアが攻めてきたことにより人口の減少、軍事以外の各種産業の衰退を余儀なくされた街である。
 しかし今、その街がにわかに活気を取り戻しつつあった。理由はUPC戦略軍により五大湖周辺が次回解放地区に選ばれたからである。
「嘆願書書こうぜ」
 誰が言い出したのかは最早不明となっていたが、いつしか嘆願書の話は街中に広がりを見せた。そして有志の人達も集まり、彼ら彼女らの元にはシカゴだけではなく近隣の市町村からも嘆願書が集まり始めている。やがてある程度の集まりを見せた所で、一人の有志が呟いた。
「誰に送ればいいんだろう?」
 当初は最寄のUPC基地に送ればいいと誰もが考えていた。しかし考えてみれば北米のUPC隊員が五大湖周辺を推すのはある意味当然、嘆願書を出してもそれほど意味があるとは思えない。そこにまた別の有志が意見を述べた。
「だったら能力者の傭兵に送れば良いんじゃないか?」
 今回のアンケートには前回の名古屋防衛戦の功績としてUPC正規軍以外の傭兵にも投票権がある。となると傭兵に送るのも意味があるものだ。
 そこで有志の人達はULTに連絡を取り、多くの人の名前と一言を書かれた嘆願書の束を能力者に手渡す準備を整え始めた。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ブランドン・ホースト(ga0465
25歳・♂・SN
シェリル・シンクレア(ga0749
12歳・♀・ST
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
キリト・S・アイリス(ga4536
17歳・♂・FT

●リプレイ本文

 能力者達はシカゴのあるシェルターで、今回の依頼主兼要望書取りまとめ代表となった女性と面会した。
「今日はすみません、わざわざこんなことのためにお呼び立てして‥‥私、代表をさせてもらっているユイリーといいます」
 それは眼鏡をかけたおとなしそうな女性だった。時代が時代なら図書館で読書に勤しんでいただろうが、今は薄暗いシェルターの中で要望書を抱えている。
「早速本題のお引渡しの事ですが、後日別の場所でということでいいでしょうか?」
「今では何か問題ある?」
 大山田 敬(ga1759)の目には、彼女の腕にある要望書の束が映っている。今受け取って中身の確認をするのも悪くは無い話だが、彼女は慌ててその要望書を背に隠した。
「皆さんに話を聞きたい人はそれなりにいると思いますし‥‥それに依頼金を出したのは私だけではありませんから‥‥」
「‥‥」
 依頼で来た以上報酬をもらわなければならない。しかし急に現実的な話へと戻り能力者達の頭には黒幕の存在を思い出させていた。
 
 今回の依頼能力者にとっては都合のいい話ではない、少なくとも白鐘剣一郎(ga0184)はそう考えていた。
「その受け渡しには俺の方からも要望があるのだが、いいだろうか?」
「どのようなものでしょう?」
 問い返すユイリーに白鐘は以下の三つの条件を出した。
1、嘆願書の受け取りに際し、会議場のような場を設ける
2、市民側から会場へ入るのは、事前に選出された代表者数名(〜5名程度)
3、会議場内の様子は外部への中継を許可(ただしリアルタイムは会場近隣に有線のみで。スタッフと機材の安全確認は徹底して厳に)
 この条件を聞いたユイリーは暗い表情を見せた。
「‥‥何故そんなに条件があるのですか?」
 白鐘は絶句するしかなかった。その理由を答えていいのかすぐには判断できなかったからである。
 能力者はこの依頼の背後に誰か黒幕がいると考えている。そしてその黒幕の尻尾を捕まえるのが能力者の考えだった。だがしかしこれには問題がある、その黒幕に悟られないように慎重に行動する必要があるからだ。
「何か問題があるのか?」
 沢村 五郎(ga1749)がそれとなく話を逸らす。
「大勢の市民が押し寄せないようにする配慮のつもりだ、是非検討して欲しい」
「ん‥‥検討といわれましても、かなり無理があるかと」
 シカゴは競合地域と言われてはいるが、その実情はかなり押され気味だった。携帯電話も圏外、電力も大部分がバグアに使われている。有線放送しようにも機材、電力ともに問題があった。
「では会議場と代表者だけでも大丈夫だろうか?」
「それなら何とか。確かに大勢こられても対応に困りますし、それくらいなら」  
 条件に関する話がまとまったところで、ブランドン・ホースト(ga0465)が次の話題へと切り替えた。 
「ところで、今回の話は誰から聞いたのですか?」
「えっ?」
「今回の投票の話です」
「何か間違っているんですか?」
「‥‥間違ってはいないんですけど」
 頭を抱えるシェリル・シンクレア(ga0749)。ユイリーの言うことに間違いは無い、だが間違いが無いために厄介である。そしてこれ以上言及するためには能力者達が黒幕の存在について説明する必要性が出てくる。話を逸らすために獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が言葉を挟んだ。
「どこまで広まっているのかを確認したいのだ、獄門としては。まさかとは思うがバグアにも知られていないかと懸念したわけだ」
「そこまで考えているんですね、ありがとうございます」
「それで、誰から聞いたか覚えてます?」
 何とか誤魔化したと判断して改めて問うシェリル、そしてしばらく考えた後で答えたユーリーの答えは『分からない』だった。
「誰からって言われるとちょっと‥‥何と言うかいつの間にか周知の事実になっていたというのでしょうか」
「そうですか」
 これ以上得られるものは少ない、そう判断した能力者達は各々の判断で受け渡し式までの日を過ごす事となった。

 それから式までの数日、能力者達は代表者の選考や周辺確認に追われていた。そして彼ら彼女らの耳に一つの凶報が届けられる。ここから程近い場所でキメラが現れ、隠れていたレジスタンスが数名捕らえられたと言うことだった。
「嫌な感じだな」
 大事の前の小事というわけではないが、何かが起こりそうな雰囲気を誰も拭うことができなかった。

 そして受け渡し式当日、会議場となったシェルターに現れたのは三名の代表者だった。
「他の二名は?」
 キリト・S・アイリス(ga4536)が尋ねるが、代表三人は黙すばかり。代わりに警備に当たっていたリチャード・ガーランド(ga1631)が答える。
「先日この辺りにキメラが襲撃をかけてきたそうです。定期的な襲撃なのか、こちらの動きを察知したのか詳細は不明です」
「せめて前者であってもらいたいですね」
 後者にしたところで襲撃があった事には変わりない、しかしバグアに対する対応がかなり異なってくる。
「多分二人はバグア襲撃を恐れたんだと思います」
 代表の一人が恐る恐る意見を述べる。他の二人も特に驚いた様子が無い、同じ事を考えているのだろう。そしてこの場にいた多くの者達が同じ事を考えていた。
「仕方ないだろう」
 呟く獄門。そして仕切りなおしに一つ咳払いをして、受け渡し式兼意見交流会が開始された。
「まず理解して欲しいことは、傭兵の立場である俺達は次作戦の選定について多くは語れないということ。そしてこの嘆願書を受け取っても皆さんの希望に副えるかどうかは保証出来ない」
「バグアから家族を。その友人を。皆さんを。人類の自由と命を守るために、私たちはこれからも命をかけて戦っていくつもりです」
「困った時には、我々に助けを求めて頂きたい。必ず、助けにゆく。必ずだ。」
「可能な限り早急にレコンキスタ、領土回復できるように尽力を尽くしますので、もうしばらく待っていてください。お願いします」
 一つずつ参加した三人に自分の言葉で説明する能力者達。当初五大湖解放を確約できないなどの言葉に苛立ちを思えた代表者もいたが、懇切丁寧な説明に最後は力なく理解を示したようだった。
「終わりか?」
 周囲を警戒しつつ様子を眺めていたブランドンは何事も無く終わりそうな様子に胸を撫で下ろしていたが、何かあると感じていた沢村と大山田は物足りなさを感じていた。
 式もお開きになろうかと言う時、シェルターに一人の女性が姿を現した。見知らぬ女性だった、少なくとも代表の人間ではない。
「どちら様で?」
 女性の身分を確認するキリト、すると彼女はある代表者の代理だと答えた。
「昨日の襲撃で友人が命を落として‥‥私、彼女の敵を討って欲しいんです」
 一晩中泣いていたのだろうか、彼女の目は赤く充血している。心情的には助けたい衝動に駆られる、だが身分の不確かな人間を極力能力者達は拒みたかった。
「悪いがもう式は終わりなんだ」
 全員にアイコンタクトで意思を確認し、キリトが女性に退場を願う。だが有志代表のユイリーはそんな能力者の態度に納得できなかった。
「そんな‥‥せっかくだから話聞いてあげましょうよ、危ない中来てくれたんですよ」
 他の代表三人も能力者達に非難の視線を浴びせる。自分達の発言を嘘にはしたくない、だがしかし‥‥。
 そんな葛藤の中で、臨時代表と名乗る女性が一つ提案した。
「では一つだけ聞かせてください」
「何です?」
 流石に一つだけと言われて答えないわけにはいかない、発言を許すと彼女は微かに笑顔を浮かべた。
「もし、もしもですけど‥‥五大湖が次の作戦の舞台になったら、勝てるんですよね?」
「‥‥」
 言葉に窮する能力者達、代わりに答えたのはユイリーだった。
「勝てますよ、先程から力強い言葉を沢山いただいたんです」
 その言葉を聞いた女性は、満足した様子でシェルターを後にしたのだった。