タイトル:新しい機体の開発プランマスター:八神太陽

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 27 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/06 03:42

●オープニング本文


 西暦二千八年一月 ドローム社ナタリー研究所

 年末の慌しい中、再びナタリー研究所にジョン・マクスウェルが姿を現した。しかも前回と同じくジュラルミンケースを携えての登場である。
 ジュラルミンケースの中は金。そんな思いを持っていた所員のポール、ジェーン、マイクの三人だったが、入っていたのは鉄くず。そして今、研究の片手間に鉄くずを眺める毎日を送っている。そして今回もジュラルミンケースを持っての登場、さすがに今回はだまされまいと三人とも無視を決め込んでいた。
 やがて件のジョンが所長に挨拶を済ませ、三人の前に姿を現す。本来ならここで挨拶を済ませて帰る彼なのだが、今回は珍しく三人を呼び止めた。
「今年一年勤勉に働いてくれたポール、ジェーン、マイクに特別報酬です」
 そういってジョンがケースを開ける。すると今回は本当に現金が納められていた。思わず顔がにやける三人だった。

 当初「宴会だ」「旅行だ」と使い道を相談していた三人だったが、受け取って一つの疑惑に駆られた。
「何か裏があるのではないか?」
 三人の視線は自然とジョンと、その隣に立つナタリーに向けられていく。
「何か‥‥あるのか?」
 代表してポールが尋ねると、ジョンが微笑を浮かべた。
「実は新しいKVのコンセプトを考えてもらいたいのです」
 三人は同時に空を見上げた。しかしそこには薄汚れた天井しかなかった。

「当社はS−01、R−01、F−104と三機体を世に送り出しました。それぞれ中距離、近距離、遠距離というコンセプトで作られた機体と私は思っています。実際の使われ方は当方の予想とは多少異なっているようですが、距離に関するバランスはとれていると言えるでしょう」
「ですね」
 近、中、遠距離を全て作製し、武器もそれなりに揃っている。そして現に先の名古屋防衛戦ではバグアに対し歴史的な大勝利を収めた。これもバランスが取れているという証拠だろう。
「ですがこのまま防衛を行うわけにもいかない。そろそろ攻勢に出るべきだと私は考えます」
「ふむ‥‥ん?」
 今後の展開の予想しながら、マイクが相槌を打つ。そして話しながらジョンの言いたいことに見当がついてしまった。
「次のKVのコンセプトを考えろってことか?」
 マイクが値踏みをするようにジョンを見る。するとジョンは大きく首を横に振った。
「考えろとは言いません。しかし今のままでは人類はジリ貧に陥るでしょう。地下資源も多くはバグアに押さえられていますからね」
「‥‥」
 地下資源が押さえられているのは事実だが、三人にはそれは仕事をさせるための言い訳にしか聞こえなかった。
「とりあえず年末までに何か案を出してください」
 そう言うとジョンは去っていった。

 翌日、いつものようにプレゼンテーションが行われた。始めに一発屋ポールのプレゼンである。
「俺の案は後継機作製だ。『戦争は質より量』それもわかるが、能力者の数を考えると大量に生産しても使いこなせないだけだろう。さらに攻勢に出るとなると防衛以上に戦力が必要となる。やはりここはKVの性能向上が望ましいと俺は考える」
 そういうポールが考えたのは初代KVとも言えるS−01の後継機だ。
「本音から言えば火力特化にしたR−01後継機を作りたいところだが、今後の展望を考えれば汎用性の高いS−01の後継機ということになるだろう」

 次に狙撃手ジェーンがプレゼンを開始する。
「私が考えるのは電子戦。奉天北方工業公司の岩龍が正式採用されているわけですが、性能に不満が上がっているとも聞きます。これを機に我が社も電子戦対応KVを考えてみるのがいいかと思います」
 遠距離射撃の命中を上げることを考えたジェーンの選択だった。
「電子戦の重要性は先の防衛戦でも証明済み、攻勢にでるとなるとさらに性能の上げた電子戦KVが必要となるはず。これは多くの能力者にも同意を得られるでしょう」

 最後にマイクがプレゼンを行った。先の二人とは大きく異なる意見である。
「俺は水中戦だ。現状KVは水中ではほとんど使い物にならない。逆に言えばバグアも水中からの攻撃を予期していないと考えられる。ここで水中、厳密には水陸両用KVの開発に着手すれば攻撃の選択肢も増えると言うものではないか?」
 水陸両用KV。それが敵の動きを止めたり、奇襲を好む乱射王マイクの意見だった。
 
 相変わらずまとまりの無い意見に、ナタリーはこれがこの研究所の特色なのだと悟りを開きつつULTに連絡するのだった。

●参加者一覧

/ 真田 一(ga0039) / アルフレッド・ランド(ga0082) / 緑川 安則(ga0157) / 白鐘剣一郎(ga0184) / 鷹見 仁(ga0232) / 鳴神 伊織(ga0421) / 響月 鈴音(ga0508) / ライアン・スジル(ga0733) / 時任 絃也(ga0983) / 須佐 武流(ga1461) / ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634) / 沢村 五郎(ga1749) / 月影・透夜(ga1806) / 麓みゆり(ga2049) / 漸 王零(ga2930) / ファルティス(ga3559) / エレナ・クルック(ga4247) / UNKNOWN(ga4276) / 辰巳 空(ga4698) / ファルル・キーリア(ga4815) / 樹エル(ga4839) / 雪村 風華(ga4900) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 伊達青雷(ga5019) / 佐伯 純(ga5022) / シリウス・ガーランド(ga5113) / 香倶夜(ga5126

●リプレイ本文

 最早恒例となりつつある能力者を交えたナタリー研究所での意見発表会。既に今回四回目となるわけだが、いつになく白熱した話し合いとなった。論点はマイクの提案した水陸両用機の可能性だ。
「地球が陸より水面の方が多いんだ。空だけ見ている訳にもいかないだろう」
 真田 一(ga0039)の意見はもっともだ、地球上では陸と海の割合は3:7と言われている。先の名古屋防衛戦でも、キメラが周囲の海から上陸作戦を仕掛けてきたらどうなっていたかは誰にも分からないことである。
「活動可能エリアを広げると言う意味でも水陸両用KVは必要だと思います」
 アルフレッド・ランド(ga0082)も水陸両用機を推す、だが問題点が無いわけではない。彼自身も気付いてはいたが、ライアン・スジル(ga0733)に指摘され沈黙せざるを得なかった。
「発想は面白いと思うが、すぐにというわけには行かないだろうな‥‥武器も新しく作らなければいけないだろうし」
 幅広い業種に手を伸ばしているドローム社には、船舶技術を持つ研究所も存在する。しかし水中で激しい動きを可能には水圧、抵抗など壁が多い。また使用可能武器もどうしても制限がかかる。試作品が完成するまでにどれほどの時間がかかるか不明である。水陸両用機に反対の佐伯 純(ga5022)が提案者であるマイクを盗み見ると、彼は髪を掻き毟っている。
「不可能、できない、そんなことは分かってる。だがここでやらなければ更に追い込まれるぞ」
 溜まりかねたのか、マイクが席を立ち声を荒げて叫ぶ。名古屋防衛戦では確かにUPCが勝利を収めた、人類の初勝利、今まで誰もが切望しつつも達成できなかった偉業だ。もちろん実際に戦った能力者の功績もあるが、SESの発明、KVの開発、補給等の援助、多くの人の支えが合って初めて勝ち取った金星である。
 しかしそれまでの道のり、誰もが不可能と感じ挫折していったことがある。誰が十年前にKVなんかが実際の空を飛ぶことを予想できただろうか。
「確かに俺達は初勝利を収めた、UPCの方も盛り上がっているだろう。だが世界規模で見た時、それほど重要なのか? バグアは本気で名古屋を攻め落とそうとしたのか?」
「ギガ・ワームは出てきましたよ。メトロポリタンXを壊滅させたのは、あのギガ・ワームなのでしょう?」
 鳴神 伊織(ga0421)がマイクをクールダウンさせるためにも言葉を挟む。そして当のマイクも自分が熱くなりすぎていたのに気付いたのか、一度大きく深呼吸して続きを述べた。
「あくまで俺の仮説だが、あのギガ・ワームは捨て駒だったのじゃないか? 確かに多くの援軍が、遠くはウランバートルから駆けつけギガ・ワームを援護した。しかし海面からの上陸作戦を決行したキメラがいない。日本と言う四方が海で面した国という絶好の機会であるにも関わらずだ」
「‥‥話の途中で申し訳ありませんが、制空権を重視したからではないでしょうか?」
 断りを入れつつ、マイクの話に言葉を挟んだのは麓みゆり(ga2049)。能力者となる以前から空を飛んでいた彼女は空の重要性を身をもった感じていた。
「地表の割合の話が先程出ていましたが、空は地表全てを覆っています。それにバグアに占領された地域、独占されている地域を開放するために最終的に必要になるのは白兵武器ではないでしょうか」
 確かに上陸作戦というのは一つの選択肢ではあるが、逆に言えば選択肢に過ぎない。水中に大都市など重要拠点、攻略対象が無い限り水中を切ってしまうというのも一つの考え方もある。
 麓の考えに一部共感した時任 絃也(ga0983)が続いて発言。
「現行S−01、R−01が存在するため、水陸両用ではなく水中専用機というのはどうだろう? 武器等の再開発は必要だが、変形機構などをオミットすれば開発は早いはずだ」
「反対だ、水中専用機では都市の占拠は行えない。上陸できることに意味がある」
 反論したのは緑川 安則(ga0157)、今回の意見会に無理を押して出席している。
「むしろ数を増やして、水中部隊を設立するべきです」
 確かに緑川の意見には一理ある。だがその場合問題になるのは、水陸両用KVの開発コストと開発期間、そして売り出される価格だ。いくらなら買うか、その議論になると参加した能力者は揃って沈黙した。安ければ安いほうがいい、それが人情なのかもしれない。

「‥‥ならば狙撃銃はどうだ?」
 話は海に潜ることなく敵を倒す、つまり超長距離での狙撃が可能かという方向に流れた。提案者はUNKNOWN(ga4276)、本心としては全部の試作機を作って欲しいという気持ちがありつつも、余り言い過ぎるわけにもいかないと自制しつつの言葉だっだ。
「本当に勝つためには、俺達は人間の殻を破るべきなのかもしれんが‥‥現状ではこれ以上望めないな」
 彼の考えているものは、人間が無意識的にセーブしているという潜在能力を発動させる装備品だった。KVの能力を上げることも可能だろうが、最終的には能力者自身が更なる覚醒をすべきだというのが彼の考えだ。
 しかし彼自身が指摘するように、まだそのようなものは開発の目処が立っているわけではない。そして話は特化型へと変貌していく。
「では重装甲型というのはどうでしょう? 複雑な構造を廃して機体強度を上げられれば、ハードポイントを増やし武器の搭載量を増やせるかなと」
「シェイドと戦って思ったのはその機動性と耐久性の高さであり、それに対抗する機体として高機動かつ高い命中補正を付加した機体が必要だ」
「大戦での勝利も必要だと思いますが、小さな依頼のために汎用性の高い機体も必要だと思うのです」
「電子戦KVは生存していることが重要。偵察機、電子戦機として必要のない能力、例えば攻撃力は、完璧にそぎ落としちゃってください」
 拠点防衛を前提とした響月 鈴音(ga0508)提案の重装甲型、打倒シェイドのために漸 王零(ga2930)提案の高機動型、エレナ・クルック(ga4247)提案の汎用型、雪村 風華(ga4900)の提案する強行型、多種な要望が出されていく。S−01の後継機を考えたポール、更なる電子戦を考えたジェーンとも一風違う提案だ。
 また重装甲型にシリウス・ガーランド(ga5113)が興味を示し、考えたのが装甲重視の水陸両用機。特に水中では武器が制限されるためパイルバンカーのような格闘武器を考案する、だが操作がかなり特殊になる可能性の高さから香倶夜(ga5126)は婉曲的に否定。それに対し白鐘剣一郎(ga0184)、月影・透夜(ga1806)は水陸両用KVも含めて固定武装を提案した。
「水棲型キメラへの対抗手段として水陸両用型は価値ある物だと思う。ただ水中では水圧と最大の難敵があり、人型が最適な運用形態と言い難い事実もある。SESの水中使用が可能なら魚雷などの対水中攻撃装備の充足を図ってはどうだろう。個人的にはR−01の後継機、あの稼働率、攻撃力と運動性の高さを活かした機体と武器、バルカン内蔵ランスなど期待する」
「今のKVは武装の組み合わせで、傭兵個人の得意とする戦闘方法を成り立たせている。そこに機体の性能も加えれば、個々の戦力は数倍に上がるはずだ。短所は異なるタイプの機体とフォローし合えば部隊もより充実し戦術も増えるしな」
 R−01の後継機という点では沢村 五郎(ga1749)も賛同、R−01は白鐘の言う運動性と攻撃力の他に多くの練力量を搭載できるというのが彼の意見だ。

 喧々諤々の意見発表会、個々の能力者はそれぞれの意見を聞いた上で所長ナタリーは感想を述べた。
「ポール、ジェーン、マイク三人の案だけではなく、それぞれみなさんが希望を抱えていることは分かりました。特にマイク提案の水陸両用機、これが本当に必要なのか、いつ開発されるのか、値段がどれほどになるのか、疑問が尽きないことも理解したつもりです。私個人の意見を言えば水陸両用機は将来的に必要と感じています、ですが開発に時間がかかるのも事実。今回ばかりはジョンに別予算を組んでもらいましょう」
 ジョンの名前に反射神経的に嫌悪感を感じる沢村だったが、お金の話では沈黙。代わりに須佐 武流(ga1461)が一つ提案した。
「新機体にお金がかかるのはよくわかったけど、だったらS−01の生産ラインを一つにまとめるといいんじゃね?」
 確かにまとめればコスト削減が狙える。またS−01を主軸に据え開発を行えば、手間は格段に省けるだろう。だがこれには問題があった。
「私も同じことを以前提案しました、でも結果は不可。ラインを一つにまとめるとバグアに襲われた時に被害が大きくなるというのが理由でした、ね」
 最後はナタリーに確認するようにジェーンが答える。ラインをまとめるのはコスト削減としては有用だが、銀河重工八王子重工跡地の様にバグアに転用される危険は極力省かなければならない。
 色々な意味で不透明な先行きではあるが、バグアに勝ちたい思いは同じ。研究所員のみならず参加した能力者達も予算案が通ることを祈るのだった。