タイトル:鉄くずの再利用プランマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/06 02:28

●オープニング本文


 西暦二千七年十二月 北米 ドローム社ナタリー研究所

 雪が周囲を埋め尽くし一面の銀世界を作り出している中で、今日もジョン・マクスウェルはナタリー研究所を尋ねていた。普段なら面倒事を持ち込み、所長並びに所員全員から敬遠される彼だったが、今日は歓迎されて迎え入れられる。理由はジョンが持って来たジュラルミンケースにあった。
「ボーナスか!?」
 時は十二月、確かにボーナスの可能性は低くない。しかもジュラルミンケースとなると、それ相応の額となるだろう。ポール、ジェーン、マイクは密かに額の相談を始めた。
「俺とジェーンが一度ずつ採用、お前は無採用。取り分は俺達が上だな」
「その前に宴会でしょう? いい加減インスタント食品には飽きました」
「俺は旅行に行きたいね。何日缶詰にされたかわかりゃしない」
 加熱していく話し合い、やがて所長室からジョンが出て行った。手にはあのジュラルミンケースが無い、三人は急に色めき立った。

 ジョンを見送った後、所長であるナタリーが3人を集めた。
「私達の敬愛なる上司、ジョン・マクスウェルからの伝達をお伝えします」
 ざわざわ‥‥ざわざわ‥‥三人しかいないはずの室内にざわめきが起こる。
「口で説明するよりも先に見てもらった方が早いですね」
 ナタリーが礼のジュラルミンケースを持ち出し、中を見せる。
 そこには鉄くずが入っていた。

「先日社長がラスト・ホープに立ち寄った際に未来科学研究所で貰ってきたそうです。強化に大失敗した能力者達が廃棄したのだろうという話でした」
「でしょうね」
「だな」
「で、どうしろと?」
 何となく話の見えた三人は呆れた顔でナタリーに聞き返した。
「ライフルは近々ショップに並べられるらしいが、徹甲弾がどこかの企業の横槍で発売延期になっていると聞いた。その上、俺達は何をすればいい?」
 多少棘のある言い方ではあったが、ポールが尋ねる。するとナタリーは答えた。
「この鉄くずの有効な利用法を考えて欲しいそうです」

 社長曰く、「有効利用したい」ということで貰ってきたらしい。そして重役会議を経てジョンの下へと巡ってきたということだ。
「ジョンが言うには、この鉄くずにはエミタが含まれているだそうです。確かにSES搭載兵器が鉄くずになったものにはエミタが含まれているでしょう。それを有効利用しようということです」
 確かにエミタは希少金属であるといわれている。バグアとの戦いが苛烈化していく今、エミタを鉄くずにしておくことも、廃棄することも有効な利用法とは言えない。
 しかしエミタは未来科学研究所の独占技術であって、外部の人間で知る者はいない。実際どのようなものかも分かってはいなかった。
「判明していないものをどう扱えと?」
 尋ねるマイク。ナタリーは窓の外に見えるジョンを遠い目で見つめながら答えた。
「それを考えるのが、今回私達に与えられた仕事です」

 できるかどうかは別問題として、まずはアイディアを出して欲しい。そういう条件で三人はそれぞれ意見を言い始めた。
「だったらこの鉄くずで武器のコーティングだな。具体的な数値は不明だが、エネルギー伝導率上昇と攻撃力増加が見込めるんじゃないか?」
 そう言ったのは一発屋ポールだった。
「多少武器は重くなるだろうが、それは気力と根性でカバーだな」
「本当に多少で済むのかしら?」
 口を挟んだのは狙撃手ジェーン、彼女が上げたのは命中率の向上だ。
「ですがエネルギー伝導率が上がるのであれば、伝導速度も上がるでしょう。ならば命中率も上げられるはずです」
 当初は乗り気ではなかったジェーンも饒舌になっていく。そして二人の意見を聞いた上で、乱射王マイクが口を開いた。
「だったら俺は軽量化を推す。攻撃力も命中力も上がるのなら、それら二つを現状のまま維持し軽くすることを考えたほうがいいんじゃないか?」
 単なる意見の出し合いに過ぎないものの、相変わらずまとまらない。ナタリーは四度目となる依頼をULTにあげるのだった。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
ライアン・スジル(ga0733
25歳・♂・SN
シェリル・シンクレア(ga0749
12歳・♀・ST
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
青山 凍綺(ga3259
24歳・♀・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
景山 幸輝(ga4344
20歳・♂・ST
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL

●リプレイ本文

 すっかり冬模様となったナタリー研究所。窓から見える景色も紅葉から雪へと移り変わり、時の経過を物語っている。そして雪の中を恐らく歩いたであろうジョンの姿を沢村 五郎(ga1749)は思い浮かべていた。
「どうしました?」
 不審に思ったナタリーが沢村に話しかける。彼女の顔には疑問の色がありありと浮かんでいる。彼女にジョンについて尋ねようかという衝動に一瞬駆られた沢村だったが、喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。彼女がジョンの背後を知っている可能性は少ないと判断したからだった。
「何でもない」
 苦笑を浮かべ沢村が席に着く、それを確認した上でナタリーは開会を宣言した。

 相変わらず意見の分かれるポール、ジェーン、マイクの意見の中で今回一番注目を集めたのはマイクの軽量化案だった。鳴神 伊織(ga0421)、 木花咲耶(ga5139) そして篠崎 公司(ga2413)、 篠崎 美影(ga2512)の夫婦が仲睦まじく同じ軽量化案を最優先に提案した。
「皮肉な言い方になるが、攻撃力や命中率は研究所である程度は強化が可能。一方重量は余程の幸運が重ならない限り軽減出来ない」
「公司さんからの受け売りになりますけど、古の闘いに於いては”ダメージを受けないこと”、更には”攻撃を受けないこと”が勝利への近道ですからね」
 どこまでも仲の良い二人である。そんな二人の様子を見た後で、 ライアン・スジル(ga0733)は思わずポール、ジェーン、マイクの三人の顔をそれとなく見つめた。
「武器、といっても種類により特性は様々だろう。ナイフやソードであれば攻撃力の上昇が欲しいところだ。銃の中でもスナイパーライフルであれば、優れた命中力が好ましい。そしてバスタードソードなど巨大武器では、軽量化によるメリットは大きいと思われるのだが」
 三人の意見はある意味どれも的を得ている、だからこそ合同で考えればよりよい意見がでるというのが彼の考えだ。悪くは無い考えだ、他にも御影・朔夜(ga0240)、 御山・アキラ(ga0532)も近い考えを持っていた。
「強化前と重量は変わらぬものの攻撃力と命中は高まっている‥‥この状態が理想だな。個人的なことを言うならば、武器は当たってこそ真価を発揮する。必然的に攻撃力以上に命中の優先度が高いとも感じているがな」
「通常の武器かKV用の武器かで意見は分かれるところだろうが、一グラップラーとしていえば必中で高火力の武器はありがたい。
 研究室長であるナタリー自身も合同作業を考えなかったわけではない。だが合同でやれば客観性が失われ、殴り合いをするまで討論をやめないだろうという予感があるのも事実だった。アイディアをまとめあげることは悪くないことではないが、その前に出てくる芽を潰したくないという思いもあった。
 
 そして鉄くずとは別に武器、防具を考案した能力者もいた。 シェリル・シンクレア(ga0749)、景山 幸輝(ga4344)、ザン・エフティング(ga5141)の三名だ。特にシェリルはエミタを使った防御アイテムも提案している。
「エミタの含まれた粉末でこちらもフィールドに類似するものを展開できないか、ということです。相手のフィールドには叶わないまでも数秒。相手によっては数十秒受け止めることができるかもしれません」
 彼女が提案したのは鉄糸、攻防一体と言うことなのだろう。それを聞いた景山がわずかに眉を動かした。
「私もクライアントである辰巳 空(ga4698)も攻防一体の武具、SES内蔵の漆黒のガントレットをベースに鱗状のパーツでダメージを吸収する機構と相手を掴める様な鉤爪を考えているそうです。名称は『ブラックドラゴンクロウ』なんて言ってましたけど‥‥まあ、『見た目』がそうなんですね‥‥」
「‥‥気持ちは分かるけどね」
 頭の痛いことなのか、髪を掻き毟りながらマイクが答える。
「エミタの再利用を前提にしている以上、回収が難しい粉末にするのは賛同できない‥‥俺もできないものかと考えたけどな。あと爪の方だが、これはポールが専門か」
「爪に限らず敵と接触することを前提とした格闘武器は、複雑な構造を持ち込まないほうが強いと言われている。簡単に言うと複雑化した武器は故障しやすく壊れやすいという欠点があるからだ」
 マイクの言葉を受け、ポールが顎に手を当てながら答える。そして近接武器に話が及んだため瓜生 巴(ga5119)も言葉を挟む。
「基本的に近接武器においては複雑化、軽量化は威力低下を招く。当然便利さもあるため一概に否定はできないが、弱体化するのではないか?」
 そういう瓜生が指摘したのはデータ不足だった。しかしそれは何より当の本人達が分かっている、時間、資金いろいろなものが足りない、だからこそ知恵で補おうとしている。
そんな苦悶が表情に表れたのか、ナタリーを含めた四人とも眉間に皺を寄せたり、腕を組んで瞑想に浸っていたりしている。
「ベンチャーという考えがある。10を挑戦し‥‥5が失敗でも。3が利益が出ないものでもいい。残り1で利益が出れば上々だ。そして‥‥最後の1つで大成功となれば幸運だ」
 声を掛けたのはUNKNOWN(ga4276)。
「『これが必要だ』と思考を固めて動いても、小さな成功は何とかなるかもしれんが大きな成功にはならん。他の者のアイデアも含め一度、やってみなさい」
「‥‥パトロンになってくれるって意味でいいのよね?」
 ナタリーがUNKNOWNを見つめている。釣られた様にポール、ジェーン、マイクもUNKNOWNを見つめ、そして徐々に近付いてくる。
「‥‥パトロンになってくれるって意味でいいのよね?」
 目を逸らすUNKNOWN。そして誰かに助けを求めると、間に入ったのはドクター・ウェスト(ga0241)だった。
「ちょっと話を戻させてもらうよ〜。まず我輩達がやるべきことはフォース・フィールドを持つキメラに有効な手段を考える方が先ではないかね〜?」
「それもそうですね」
 あっさりと新パトロンを諦め、ドクターの意見に耳を傾けるナタリー。それを見てドクターは話を続ける。
「いいかね〜、能力者しか対抗手段がないから地球は侵略されているのだろう〜? ならばノーマルの軍人でもキメラに決定的なダメージを与える武器がいいね〜」 
「‥‥難しい問題ですね」
「技術的には難しいかもしれないが、それを超えるのが我輩達の役目ではないのかね〜?」
「‥‥それはそうですが、作れたら現在の世界のバランスが崩れる、そう感じたことはありませんか?」
 どうもきな臭い話になってきた、そう判断した沢村が聞き耳を立てる。そして出てきた言葉は彼の予想する人物の言葉だった。
「当研究所と本社のパイプ役をやっておりますジョン・マクスウェルの話によりますと、非能力者によるフォース・フィールドの破壊実験は各地で行われているようです」
「だろうね〜。結果は芳しくないようだけど〜?」
 ドクターが相槌を打つ。そしてナタリーはゆっくり一度息を吐いて、言葉を続けた。
「ではその非能力者でもフォース・フィールドを破壊できる装置が完成したとして、いくらなら買いますか?」
「‥‥」
「私達も大きな声では言えませんが、この混乱の中で社会進出を狙う人もいるようです。特に非能力者でもキメラを簡単に倒せる商品があれば高く売れるでしょう。ですが高く売れても多くの人の手に渡ることはない‥‥っと話がずれましたね」
 ナタリーが大きく手を打った。
「データ不足も指摘されましたし、これからまた実験に入りましょう。実際どれくらいの鉄くずで効果が得られるのかが一番の焦点になっているようですしね」
 鳴神やシェリルがそっと目を閉じる。
「あとは汎用性ね、武器だけじゃなく防具にも希望があることも判明した」
 ジェーンが言葉を補う。そして最後に御山が締めくくった。
「また何かあったら呼んで欲しい。鉄くずは捨てずに持っておくから」
 そっと取り出した鉄くず。それは散々見慣れている物体ではあったが、今日は妙に輝いているように見えていた。