タイトル:ロッタの冒険マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/04 03:59

●オープニング本文


 西暦二千七年十二月 ラスト・ホープ、ショップ

 ULT出張所であるショップ、その看板娘のロッタ・シルフス(gz0014)は寄せられる投書や書き込みに頭を悩ませていた。
「スキルが使えない」
「もっと強いスキルをよこせ」
「値段が高い」
 これらは彼女だけの問題ではない。しかしロッタは看板娘として責任を感じていた。そして考えた結果として、ロッタ自身が使えるスキルを探しに行くことを決意したのだった。
 行き先の候補地は南米アマゾン。ショップに来た能力者の話によると、非能力者でありながらキメラと戦う術を研究している柔術家達がいるらしい。グレムソン道場という道場名らしく、ロッタは地図の準備も行っていた。
 しかしULTとしては彼女の単独行動を認めるわけには行かなかった。明言はされていないものの、ULTの会長がロッタの祖父であることも関係している可能性もある。
 そこでロッタは護衛として能力者をつけることでULTから許可を貰うことに成功した。

「でもロッタがいない間お客さん来たら困るのです」
 予定では五日間を計画、しかし五日もショップを閉める訳にはいかない。そこでロッタは着ぐるみなど変装グッズを用意して、修行の旅に出かけるのだった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
風巻 美澄(ga0932
27歳・♀・ST
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
アークレイ・クウェル(ga4676
30歳・♂・BM
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
伊達正和(ga5204
25歳・♂・PN

●リプレイ本文

 一日目夜。アマゾンの密林のテントの中で、ロッタ・シルフス(gz0014)は事前に準備した地図と風巻 美澄(ga0932)から借りた方位磁石を睨めっこしていた。
「どうしました?」
 コーヒーを片手に伊達正和(ga5204)がテントから姿を現す。ロッタにもカップを見せ飲むかどうかを問うと、彼女は小さく首を振る。それを見た伊達は多少肩を落とし、コーヒーを啜った。
「‥‥戦場で飲むコーヒーの味は、苦い」
 一人悦に入っているのか、伊達は静かに目を閉じ雰囲気に浸っている。そんな空気を切り裂くように角田 彩弥子(ga1774)が言葉を投げかけた。
「そんなに苦いものをロッタに飲ませるなよ」
 ロッタに自分の子供の事を重ねているのか、多少厳しい口調になっている角田。言った後で気付いたのか、「‥‥や、なんでもねえ」と訂正した。
「だけどあんまり外にいないほうがいいだろ? 昼間ヒルに襲われそうになったしね」
「そうなのでした」
 アマゾンは現在バグア、UPC、親バグア派、人類側が入り混じる混戦地帯。しかし当然それだけではなく、野生の生物も多く生息している。ヒルもその一つだ。
「あの時はアークレイが庇ってくれたからいいけど、無理するもんじゃない」
 昼間に襲ってきたヒルは、ロッタの頭上の木の枝から落ちてきた。アークレイ・クウェル(ga4676)がとっさの判断で彼女を庇い、風巻が煙草に火をつけヒルに押し付けて退治。そしてその二人は今、次の見張り番に備えテントの中で就寝中だ。
「そうだな。そろそろ先行偵察班も戻ってくるはず‥‥」
 伊達が話そうとして途中で口を閉ざした。何者かが近付いてくる気配がある、念のため警戒する角田と伊達。そして姿を現したのは九条・命(ga0148)、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)、辰巳 空(ga4698)、時雨・奏(ga4779)だった。
「出迎えご苦労さん」
 ジュエルが陽気に話しかける。夜にも関わらず彼の白い歯が良く映えていた。そしてその歯を目印に時雨のツッコミが飛んだ。
「武器向けられて、何が出迎えやねん」
「それもそうか」
 全く懲りた様子も無く答えるジュエル。そして一度場が落ち着いたのを確認し、辰巳が発言する。
「ロッタ君の言う場所に遠目ながら建物を確認しました。恐らく例の道場に間違いないでしょう」
 隣で九条も静かに同意する。そして建物の位置を地図で確認し、能力者達はしばしの休息をとることにした。

 そして翌日、能力者達とロッタは入念な下準備の甲斐もあってか早い内に目的地であるグレムソン道場に到着した。既に訪問の意を伝えておいたためか、道場主のグレムソン=クルーソーと主将のロベルトが玄関で訪問者を迎える。
「遠い所、よくおいでくださいました」
 相手がULT関係者や以前世話になった顔もあり、一通り礼を尽くすグレムソン。だが続く言葉はわざわざ訪問した能力者達にとって辛辣なものだった。
「まずは私達に目をつけてくださったことには感謝します。しかし今の貴方に教えるものはありません」
 グレムソンだけではなく、隣に立つロベルトも静かに同意する。
「‥‥理由は聞かせてもらえるな?」
 口にくわえていたパイポを外し、角田は二人に視線を向ける。彼女の動きに促されるように伊達もグレムソンとロベルトの方を見る。しかし二人はそんな視線に微動だすることなく答えた。
「誰かに守ってもらわねばここまで来れない人に、私達が教えるものはありません」
 思わず聞きもらしそうになる程、低く凛とした声だった。そして言い終わえうと同時に、もう話すことは無いというつもりなのかグレムソンとロベルトはともに席を立った。
「待ってくれ」
 戻ろうとする二人に九条が声を掛ける。
「あなた方の言うことも分かるが、こちらの言い分も聞いてもらいたい」
 以前世話になった者の言葉ということもあってか、二人は足を止めた。顔こそ見せないが、とりあえず聞くだけ聞こうということなのだろう。それならそれでかまわない、そう割り切り、九条が話し始めた。
「一部報道されているが、人類は名古屋防衛戦で初勝利を納めた。敵がどれくらい力を注いでいたのかは俺にはわからんが、それなりに本腰は入れていたと考える。だがこの勝利は能力者自身の力ではなく、ナイトフォーゲルを始めとした兵器の力に依存した部分が多い」
「‥‥そうだな」
 整備士希望の風巻も、九条の言葉に納得してか一人頷いている。
「まだあたし達は機械の性能を十二分に引き出しちゃいない。手持ちの武器で戦うことが軍隊の決まりだけど、効率のいい戦い方があるのなら知りたいものね」
「スキルを使うのは所詮人間、兵器を使うのも人間だ。真の勝利を収めるには人間の成長以外に手段は無い、違うだろうか?」
 感想を聞きだすために、あえて疑問で言葉を締めくくる九条。そしてしばらくの沈黙の後、相変わらず背を向けたままのグレムソンから声が聞こえてきた。
「‥‥俺達に何をしろというのだ?」
 顔だけ能力者の方を向けて尋ねるグレムソン。その言葉を聞いた角田がロッタの背中を押した。
「キメラとの戦い方を教えてもらいたいのです」
「‥‥」
 グレムソンとロベルトの返事を、能力者達は固唾を呑んで見守った。そして当の二人はしばらく相談を交わした後、一つの条件を出した。
「残念だが教えられる状態までには達していない、だが何も得られたものが無いわけでもない。そこで強化特訓を行おうと何人かで相談していたところだ」
「ギアナ高地を解放してもらいたい」

 ギアナ高知はコロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ、ブラジルと6つの国と地域に跨る高地帯。独自の進化を遂げ他地域では見られない生物が存在し、地球上でも希少な地とされている。しかし近年、種の保存や周辺地域が親バグア国家で囲まれていることを理由に立ち入りが全面的に禁止されている。
 しかし同時にかの地は一部格闘家にとって聖地と呼ばれている場所でもある。他地域ではありえない生物に囲まれていることで、人間自体もありえない進歩を遂げられると言われているからであった。しかし残念ながら帰って来た者はおらず、伝説を証明するものは何も無い。
 
「‥‥失礼ですが、迷信の可能性は?」
 ロベルトの話を聞いた後、アークレイが慎重に問いかける。現実的な問題として証明した者がいないのであれば、それは一種の宗教的なものに過ぎない。信じる人がいる以上正面から否定するわけにもいかないため、アークレイは言葉を選びつつ問いかける。
「戻ってきた人がいないのでしたら、証明する人もいない。世界情勢的にも危険なギアナ高地に向かうのは自殺行為だと思います」
「否定はせんよ」
 アークレイの問いにグレムソンが答える。
「だが君達も危険だからという理由で戦地に赴かない事は無いだろう?」
「‥‥ですね」
 非能力者だから戦地に行くな、というのは多くの非能力者に対する差別となる。現に世界中の各地で非能力者も武器を持ちバグアに立ち向かっている。
「我々としても不完全なものを提供したくはない。バグアとの戦い方がおぼろげながらも見えてきた今、より洗練されたものにしたいのだ」
「分かりましたです」
 答えたのはロッタだった。
「お爺様に確認を取って、後日改めて連絡するのです」
「すまんな」
 何がすまないのか本人にも自覚は無かったが、ロッタを見ていたグレムソンの口をついてでた言葉は謝罪だった。
「せっかくだ、少し見ていくといい」
「いいのか?」
 見せたくないものだと考えた時雨が尋ねる。すると初めてロベルトの口元が笑った。
「どれだけ難しいのかは、見てもらった方が早かろう?」
「その通りやな」
 能力者達はグレムソンとロベルトに案内され、道場へと入っていった。

「キメラとの接近戦は私達が以前考えていたほど難しくは無かった」
 苦笑交じりにロベルトが今構想中の格闘術を能力者達に解説してくれた。
「基本的な形状は現存する生物と大差無い。違う点は関節を極めても効果が薄いということだ」
「それは大差あるのでは?」
 辰巳が尋ねると、ロベルトは首を横に振る。
「何も関節を極めるだけが柔術ではない、要は相手の動きを封じれればいいのだ。爪や牙など相手の武器を使えない状態に持ち込めばいいわけだ」
「‥‥理論としては単純やな」
 ロベルトの言う事は別段特殊なものではない、誰もが一度は考えたものだろう。問題は実践できるだけの技法を身に付けることだ。
「どんな状況下でも瞬時に相手の不利な箇所を押さえる方法、それが俺達の考える目標だ。だが聞いた話では自爆するキメラも存在するらしい」
「‥‥」
 閉口する能力者達、それがどれだけ怖い事か容易に想像できたからである。そして同時に戦闘法の構築にはかなりの時間がかかることにも気付いてしまうのだった。