●リプレイ本文
能力者達が現場に到着した時、人々はスコップやフライパンを手にスライムと対峙していた。そして落とし穴を掘り、スライムを叩き込んでいく。そして火をつけて一掃。それがこの街でのキメラとの戦い方だった。
能力者達から見れば非効率としか言えない、また見方を変えれば一匹の敵に集団で襲い掛かっているようにも見える。しかしそうしなければ戦えない、そしてそういう戦いを人々は強いられていた。
能力者というのは千人に一人の割合でしか存在しない。街によっては一人も存在しないことも少なくなく、また能力者が一人で戦うことも稀である。
一方キメラの方は、忘れた頃にやってくる。単体であることもあれば複数で襲来することもしばしば、街の人達は自然と能力者抜きでも戦う術を身に付ける必要性があった。
依頼を受けてやってきた能力者達だったが、お呼びでないのなら仕方ない。自分達の出番が無いのかと考えつつ街の人達の戦いぶりを眺めていた。
「‥‥皆さん我流の様ですが、よく動けてますね」
大曽根櫻(
ga0005)は剣道有段者として、人々の動きを見ていた。ただ闇雲に動いているように見えて、協力し合っている。長年の積み重ねとでも言うべきものだろうか。
「確かに非能力者にしては戦えると思うが、スコップやフライパンを使った武術があるのかね〜」
誰もが疑問に思いつつ、そして口に出来なかった事をドクター・ウェスト(
ga0241)は尋ねる。隣にいた MIDOH(
ga0151)も興味深そうに大曽根を見上げる。そして大曽根は答えを求めるように、街の人々を眺める。すると隠れていたスライムが背後から狙っていた。
「拙い」
大曽根が叫ぶより早く刀を手にし、走り始める。後ろからはファルロス(
ga3559)もアサルトライフルで弾幕を張って援護。、蒼羅 玲(
ga1092)、キョーコ・クルック(
ga4770)も急いで大曽根の後を追った。
「黄色と緑だけっていうのはやはりおかしいんだよね〜」
スライムを片付けた後、現場検証を行っていたドクターはそう感想を漏らした。
「赤や青も存在するべきなんだよ〜」
「それは違いますから、所長」
同じく検証に立ち会う国谷 真彼(
ga2331)がドクターに言葉を掛ける。するとドクターは不敵な笑みを浮かべた。
「確かに目の前にはいない、だが世の中に存在しないと言い切ることは出来ないのだよ〜。私としてはバグアが地球の文化を取り込み、五色揃えていると期待しているけどね〜」
そこまで本気なのか判断には難しいところだが、緑と黄色のスライムしか姿を現さなかったことにドクターは悔しがっていた。
「だが、当初の目的は達成できそうだね〜」
ドクターの手には、彼自身が考案したカーボンナノコイルを使用した特殊弾丸が握られている。二人は祝勝会兼臨時病棟となっている酒場へと足を運んだ。
酒場ではクラリッサ・メディスン(
ga0853)が街の人々を治療していた。普段から戦いなれをしているせいか、それほど大怪我をしている人はいない。加えて大曽根、蒼羅が庇ったこともあって、ほとんどの人達が無傷だ。
「いやー悪いな。危ないところを助けてもらってよ」
戦いに勝利したためか、人々はどこか上機嫌になっていた。特に今クラリッサの治療を受けている大柄の男は、まだアルコールが入っているわけでもないのに、すっかり出来上がっているようだった。
「あんたらがいなきゃ怪我人が出ただろう、町を代表して礼を言うぜ」
「ということは、あなたがここで一番偉い人?」
クラリッサが尋ねると、男に代わってマスターが答えた。
「自称代表だ。いずれは世界を手に入れると言っているが、適当に聞き流してくれ」
「ちょっと待てよ、本当なんだって。俺はUPCのハインリッヒ・ブラットって偉い人ともガキの頃から遊んでいたんだぞ」
クラリッサが記憶を探る。ハインリッヒ・ブラットといえば「原子時計」と称されるUPCの重鎮、先の名古屋防衛戦でも初動では指揮をとっている。しかしその将軍はドイツ出身、断言はできないものの目の前の男が嘘を言っていると見るのが自然だろう。
「ガキの頃のあいつは泣き虫で、いつも俺が世話してやったんだぜ。そうだな、言ってみれば俺がいたから今のアイツがいるわけだ」
男の話は留まることを知らない。クラリッサはマスターに助けを求めるが、空気を読んだのか彼は逃げるように大曽根や蒼羅の会話に参加している。ドクターと国谷は現場検証、MIDOHとキョーコは周囲の警戒、ファルロスは事後処理に出かけている。
「つまりだ、UPCが世界を取れば俺が世界をとったのとほぼ同義なわけだ。俺の天下も遠くない、分かったか?」
「いい友達をお持ちですね」
クラリッサは精一杯の笑顔を作って答えると、男は畳み掛ける。
「だろだろ? そん時はアンタを嫁さんにしてやるよ。世界を取った男の嫁、いいだろう?」
「‥‥ははは」
ぎこちない笑顔を浮かべながら、クラリッサは遠くを見つめ始めていた。誰か助けてくれと願いながら‥‥すると扉の開く音が聞こえる。振り返ると、現場検証を終えたドクターと国谷が戻ってきたのだった。
「この中で射撃の腕に自信がある人はいるかね〜?」
「別に危険な事をするわけじゃないです。ちょっとした実験に付き合ってもらおうと思いまして」
ドクターの言葉を国谷がフォローする。
「ただ特殊弾丸を使ってみてもらいたいのです。能力者では無い人もキメラが倒せないものか考えて作っています」
「といっても二発だけだけどね〜」
ドクターが白衣のポケットから二つの弾丸を取り出した。
「これでキメラのフォースフィールドが無効化できるかを試してもらいたいんだよ〜」
「おもしろい」
今までクラリッサの前で法螺ばかり吹いていた男がドクターの話に興味を持った。
「俺の名前はライアン、昔軍に所属していたこともある。多少は銃の心得もあるつもりだ」
また嘘だろうと思って周囲を見渡すクラリッサだったが、今度は周りの反応が薄い。本当の事なのなのだろう。再び彼女がライアンと名乗った大柄な男を見ると、ドクターから特殊弾丸を受け取っているところだった。
「ところで肝心のキメラはどこにいるんだい? 残ってたのは全部お仲間さんが片付けちまった気がするが」
「それはね〜そろそろくると思うのだよ」
「くる? くるって何がさ?」
「んー、きたよ」
それは周囲警戒に出かけていたMIDOHとキョーコからの通信だった。
二人は一つの仮説を立てていた。キメラが頻繁にやってくるのであれば、どこか決まった出入り口のようなものがあるのではないかと考えていた。そして見つけたのが街の外れにある穴からだった。
「どこに繋がっているのかは分からないけど、一応応急的に埋めといたわ。あとスライムも弱らせてる」
街の人々の戦い方を見て、どうやら火炎瓶は有効だと判断。マスターの所から失敬した
酒でもそれなりに効果はあるらしい。ただしフォースフィールドを貫通しているわけではなく、長時間燃やせばダメージが蓄積されるということのようだ。
「んじゃやらせてもらいますか」
ライアンが銃を構えてスライムを狙う。開発者であるドクターも興味深く見つめる中、ライアンが放った弾丸はスライムに命中した。
「どうだ?」
手ごたえを感じたのか、ライアンの顔がほころぶ。しかしドクターも治療役として付いてきたクラリッサ、そして興味と万が一の警護として大曽根と蒼羅も同行している。そんな中行われた実験は、命中こそするものの見て分かるような違いは無かった。
「ライアン君、手応えはあったんだね?」
「んー、それは間違いないな」
銃を握っていた右手の感触を確かめるように、ライアンは指を動かす。だが何か釈然としないのか、首はかしげたままだった。
「もう一発も撃っていいか?」
確認してライアンがもう一射、しかし期待するほどの効果が得られることは無かった。
実験を終えて、能力者と人々は酒場に戻ってきた。そこで待っていたのは事後処理を終えたファルロスと途中から合流した国谷、そして二人に隠れるように小さくなっているシャリアだった。
「火災とかの確認もしてきたが、どうやら大丈夫だったようだ。その他被害も少ない、良くも悪くも慣れているということだろうな」
褒めているのか貶しているのか微妙な評価をするファルロス、その一方で国谷がファルロスが調べた情報をまとめた地図をマスターに渡す。
「地図には今回見つかった穴も記しておきました。何かの役に立ててください」
「これはどうも」
マスターは受けとった地図を開いて確認。そこには今回の被害地点、戦闘地点、穴の位置が確かに記されている。
「今後の参考にしますよ」
感謝の気持ちを込めて笑顔を作るマスター、しかしファルロスと国谷は更に困惑した表情を見せる。
「気付いていると思うが、今回の依頼主はシャリアだ。だが当の本人は懐に余裕が無いと言う」
「だろうな」
「えと‥‥出て行く街のために依頼を出すなんていい子じゃないか、な?」
キョーコもシャリアに肩入れする。するとマスターが呆れた顔を浮かべてはカウンターに回り、そして金庫から紙幣を取り出した。
「助けられた人もいるし、いいものも見せてもらった。その餞別としておくよ」
「ご迷惑おかけします」
か細い声で答えるシャリアだった。