タイトル:密林でのサバイバルマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/23 08:53

●オープニング本文


 西暦二千七年十二月 アマゾン川中流域

 UPC南中央軍所属アレッテ=クロフォードは、今日も南米を流れる大河アマゾンの流域を歩いていた。周囲に見えるのはアマゾンに生える熱帯雨林と熱帯特有の赤土、アレッテはそんな風景に半分見飽きながらも、仕事を続けていた。
 彼に与えられた仕事はアマゾン周辺に住む現地の人々の調査だった。多種多様の人種が入り混じるアマゾンでは、人類派と親バグア派が両方存在している。そこで戦線を調査することもUPCの仕事となっていた。だが親バグア派が素直に白状するわけが無い。そのため調査は遅々として進まなかった。

「つまんないよな、この仕事」
 アレッテはチームを組むパトリシア、アントニオとともにアサルトライフルを肩に掛けて歩いていた。銃を撃ちまくれることを期待して入隊したアレッテにとって、この調査任務は退屈としか言い様の無い物だった。全くバグアやキメラが出ないというわけではないが、無駄弾を使えば隊長から雷が落ちる。アレッテは心のどこかで、日本のようにバグアが襲撃してくれることを期待していた。
 そんな時、アントニアが集落を見つけた。

 彼が見つけたのは小さな集落だった。家の数は五軒ほど、人口にすれば多くて三十程だろう。アレッテはあからさまに大きな溜息をついては集落に近づいていった。
「あーあー誰かいます?」
 見たところ人の気配は無い。しかし水瓶には水が入っており、火を使った跡もあった。そこでアレッテが三人を代表して一軒の家に近づいていく。すると背後で四発の銃声が響いた。
「え?」
 とっさの判断で家の中に入るアレッテ。するとそこには小さく身を潜めている少年がいた。年齢にすると十歳くらいだろうか。だがあまり食事をしていないのか、妙に痩せている印象がある。しかし物陰にいるせいか、痩せているというより凹凸があるようにアレッテには見えていた。
「おじさん、勝手に入っちゃ駄目だよ」
 少年はゆっくり立ち上がり、アレッテの方に近づいてゆく。聞こえるはずの無い足音が何故かアレッテの耳には聞こえていた。
「ここは僕の家。おじさんの家じゃないよ」
 妙に喉が渇く。先ほど聞こえた銃声もアレッタの脳裏から忘れ去られていた。
「だから‥‥消えて?」
 少年が目の前に来る。一瞬の痛み、そしてアレッテは意識を失った。

 アレッテが次に気付いたのは、どこかの家の中だった。手と足が縛られているのか、上手く動かすことができない。何とかならないものかともがいている所に、見知らぬ男がやってきた。
「ここはどこだ?」
 アレッタが尋ねる。すると男は答えの代わりに腹に一撃蹴りを入れた。
「お前に質問する権利は無いんだよ。わかる?」
 そこでアレッテは悟った。自分は目の前の男に囚われているのだと。
「まぁいいさ、俺の名前はジャック=スナイプ。お前には実験に付き合ってもらおうと思ってな。人の精神力の限界ってやつを調べてみたいんだよ」
「‥‥」
 アレッテは答えない。何かを言えば男に殴られると悟ったからだ。その反応に男は満足そうに笑みを浮かべた。
「人は水が有れば一週間生きられるらしいからな、ちとアンタで実験だ。三日後周辺の部隊に無線入れといてやるから、見つかるまで生きてみせな」
 それから男は三日間アレッテに水のみを与えて、彼の前から姿を消した。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
クラウド・ストライフ(ga4846
20歳・♂・FT
鬼界 燿燎(ga4899
18歳・♀・GP

●リプレイ本文

 アマゾンを覆い尽くすように生える木々の隙間を縫うようにして、ジャックは対象の動きを観察していた。
「せめて誰かと合流してくれよ」
 対象が死ぬのは構わない、しかし簡単に死んでもらってはつまらない。その不確かさを彼は楽しんでいた。
 人間には寿命がある、故に必ずいつかは死んでしまう。だが時に想像以上の力を発揮することも事実だ。先の名古屋防衛戦でも、破壊不可能と考えられていたギガ・ワームが撃墜されている。
「奇跡なんてチンケな言葉を使いたくはないが、できれば俺様もその奇跡とやらを直に拝見してみたいものだからね」
 危機的状況に追い込まれて奇跡を発揮するのであれば、今の対象は間違いなく危機的状況。つまり奇跡を起こす下準備が完了した状態にある。そしてジャックは更に一枚切り札を用意していた。
「準備はできたか、ボマー」
「大丈夫です。ジャックさん」
 ジャックの視線の先にいるのは、まだ十歳程の少年だった。

 通信機と地図を借り受け、行動を開始する能力者達。しかしその前に依頼人から一つ注意があった。
「情報収集のために地域住民と接触することもあるでしょうが、必要以上の干渉は控えてください」
「‥‥」
 藤田あやこ(ga0204)と愛輝(ga3159)が思わず絶句した。そして一度呼吸を整えて藤田が問い返す。
「それには治療も含まれますか?」
「‥‥含まれる、残念だがな」
「理由は聞かせてもらえるんだろうな?」
 沢村 五郎(ga1749)が静かに問う。その言葉には、つまらない理由ならば認めないという強い意志が含まれていた。そんな気持ちを汲み取ってか、依頼人も一度居住まいを整えて答える。
「かつて私の仲間がある村で食料を配った。アマゾンの事が知りたい、どこが親バグア派の集落か知りたいと言ってね。食料を貰った村人は始めは親切に教えてくれた、だが次の日は更に食料を要求された。‥‥あとは想像できるだろう」
「そういうこともあるかもしれんが、全てがそういうわけじゃない‥‥」
「まだある」
 醐醍 与一(ga2916)の言葉を依頼人が封じた。
「他の村では罵倒され、食料を投げ返された。後で聞いた話だが、UPCが毒入り食料を配っていると噂されていたらしい」
「‥‥」
 醍醐も思わず閉口した。
「疑心暗鬼が更なる疑心暗鬼を呼ぶ。そう言った事情を含めて、このアマゾンは未だに調査が進んでいない。理解してもらえただろうか」
「理解はしたわ」
 地図を眺めながら江崎里香(ga0315)が答える。
「でも、そんなことじゃ調査は進展しない。今後何か対策は考えてあるの?」
「‥‥残念ながら」
 依頼人は視線を逸らした。
「このような調査をいつまでも続けるのか、と不要論を訴える者もいる。特に被害者が出れば世論は更に傾くだろう。だが、私はこの地道な作業を続けるべきだと考えている」
「俺も賛成だ」
 愛輝が同意する。
「無駄な殺し合いはしたくない、例え相手が親バグア派であってもね。奇麗事だと自分でも思うけど、此処に居る人たちは本来関係の無い人達のはずだ」
 二人の言葉を国谷 真彼(ga2331)はしばらく反芻させていた。彼の考えていた最大の敵は貧困、そして貧困からの脱却を救いだと考えていたが、どうやらそれほど単純な事ではないらしい。
 自分が考えていた「救い」とは何なのか、どうすることが「救い」なのか。すぐに答えの出ない命題に心を刻むことにした。

 やがて藤田がおもむろに通信機を取り出し、そのアンテナを地面に水平にして構えた。
「事情は分かりました。まずはアレッテさん探しに全力を上げましょう」
 想定と違う事情に多少戸惑いを覚えつつも、藤田は地面に線を引き、その両端でアンテナをかざした。
「三角測定法ですか」
「正確さにはかけますけどね」
 地図と直線の長さと角度、この三つが正確ならばアレッテ達の居所は割り出すことが可能だろう。しかし今、正確な角度を割り出す方法が存在しない。
「それでも十分だ、随分範囲は絞られる」
 沢村が藤田の調査結果を写し、それを江崎ら他のの能力者に回す。
「念のため符丁を決めておこう。これから何が起こるかわからん」
「ですね」
「そういうことなら、緊急時わしは呼笛を使おう。斯様な音───今は失敗したが、斯様な音が為たら警戒願う。わ、笑うなっ!」
 鬼界 燿燎(ga4899)が呼笛を吹き鳴らすと、奇怪な音が周囲に響いた。笑い出す能力者達、だがおかげで変な緊張が解けたのかもしれない。
 落ち着きを取り戻し、彼ら彼女らはアマゾンの密林に挑んだ。

 数時間後、藤田と愛輝は一人の少年と遭遇した。水を汲みに行くつもりなのか、頭の上の大きな水瓶を手で支えながら器用に歩いていた。
「このあたりに集落があるということよね」
 水を汲むということは、誰かが生活をしていることになる。しかも子供がしているのであれば、大人もいるはず。
 しばらく様子を見た後、2人は少年に声を掛けた。
「君、このあたりに住んでいるの?」
「‥‥お姉さんたちは誰?」
 可愛らしい声だった。まだ声変わりする前の、天使をおもわせるような声だ。
「お姉さん達ははぐれた仲間を探しているの。この辺りで軍服を着た人を見てない?」
「ぐんぷく‥‥それってどんなの?」
 思わず自分の衣装を見る藤田。そして次に隣の愛輝を見て、最後に空を見上げた。
「木や草の色だ。一つの色じゃなく、似たような色で縞模様なんかを作ってる」
「‥‥」
 少年はしばらく考えて歩き始めた。
「ついてきて。心当たりがある」
 その一部始終を沢村は遠くから眺めていた。彼の新の目標は今回の黒幕であり、また彼はその黒幕をジャック=スナイプだと考えていた。
 そして今の少年の動き、何か違和感がある。そう感じた沢村は尾行を開始した。

 その頃、国谷と醍醐は一つの集落を発見していた。家の数はそれほど多くない、五軒ほどだろうか。村という程の規模ではないが、人が住んでいる可能性は高い。
「行きましょう」
「だな、だが足元には気をつけろ」
 人が住んでいなくとも、誰かが捕まえられている可能性もある。醍醐が先頭に立ち、罠を警戒しながら二人は前に進んだ。
 やがて家の前まで来る。罠を警戒していた二人だったが、草を結んだものなど子供だましのものだけ。多少肩透かしを喰らった感が無いでもなかった。
「‥‥」
 家の前で改めて周囲を警戒する二人。醍醐は家の周辺を、国谷は周囲の高い木々を見渡す。すると、室内から何かが落ちる音が聞こえてきた。 
「誰かいる、気をつけろ」
 ここで二人は、また別の可能性にたどり着いた。それは家の中にバグアが隠れている可能性だ。醍醐、国谷は一度視線とジャスチャーで意図を確認し、武器を構える。そしてタイミングを合わせて室内に侵入した。

 そこにいたのは二人の男女、江崎と鬼界だった。
「あなた達だったのね」
「それはこっちの台詞だ」
 お互い構えた武器を下ろす。そして状況を確認した。
「‥‥というわけだ。そこで気配を感じ、わざと音を立てておびき出そうと考えたわけだ」
「こちらとそれほど大差ないですね」
 江崎と鬼界も地図を頼りに捜索したところ、この集落を発見したらしい。途中で少年を見かけたので誰かが住んでいると予想していたらしいが、どうやら違うようだ。
「一応周囲は簡単に調べたわ。どの家にも住んでいる人はいない、でも少なくとも最近まで誰かが住んでいたわね、埃の積もり方がおかしいもの」
 江崎の言葉に鬼界が付け加えた。
「あとは火を使った形跡がある。何に使ったのかは不明だが、順当なところは料理だろうな」
「なるほど」
 状況整理を終え、国谷は無線を取り出した。
「他の三人にも確認を取ります。この近くまで来ている可能性が高いですから」
「確かに、そうだな」
 七人中四人が終結した。ならば他の三人も近くに来ている可能性も少なくない。そして無線の先からは意外な言葉が聞こえてきた。
「アレッタさん、無事見つけたわ」
 間違いなく藤田の声だった。

 国谷の予想どうり、藤田と愛輝も集落のそばまで来ていた。そして無事合流を果たした能力者達は、これまでのいきさつと案内してくれた少年について情報をかわす。
「‥‥というわけで、この子のおかげです」
「だな。協力感謝だ」
 藤田の言葉に合わせて、醍醐も礼を言う。少年は一度笑うと集落の方へと戻っていった。
「‥‥あの家には誰もいなかったけど?」
「それでも死んだ人の供養をするらしい。あの少年が火葬もしたということだ」
「‥‥」
 周囲に沈黙が走る。そしてそれを破るように鬼界が尋ねた。
「ところで沢村殿は?」
「近くにいるわ」
 答えると同時に歌いだす藤田、そしてしばらくすると彼女の無線が鳴った。
「‥‥近くに怪しい人物はいるか?」
 沢村の声だ。藤田が誰もいないことを伝えると、彼も姿を現した。
「スコープで覗き盗聴器で聞いていると思ったが、ご丁寧にダミーまで準備されていた。流石というべきか」
 沢村が見つけたのは金属片や鏡といったものだった。しかも能力者達の行動を読むように南側に配置されている。
「あとは盗聴器がどこかに仕掛けられているのは間違いない。近くで音が反響した」
「黒幕がこの辺りに?」
 慌てて周囲を見渡す愛輝、しかしそれらしき人物はいない。代わりに水滴が彼の顔に落ちてきた。
「スコールか、ちょうどいい」
 まだ不明な点があるが、とりあえずアレッテは保護した。彼の体力も気になる、そこで能力者達は撤退することにした。
 
「単純に考えれば、だが‥‥」
 アレッテを無事依頼人に引き渡した後、沢村は自分の意見を語った。
「あの少年が黒幕、あるいは協力者だったのだろう」
 だが確かめる方法は既に無く、信じたくない気持ちがあったのが彼の本音だった。