タイトル:ワームと戦ってみようマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/20 22:26

●オープニング本文


 西暦二千七年十二月 北米UPC軍本部

 マックス・ギルバートは私室に息子トーマス=藤原を呼び出していた。よく言えば親子対面ではあるが、息子の名前からも分かるようにトーマスは父親であるマックスを快く思っていない。周囲からは「ガキだ」と言われているが、軍務に構って家族をないがしろにしていた父親を許せるほどトーマスはまだ大人ではなかった。
「何のようでしょう、大佐」
 私室であるにも拘らず階級で呼ぶトーマス。マックスは奥歯を噛み締めて怒りを堪えると、トーマスに尋ねた。
「トーマス。お前は自宅謹慎中に能力者に依頼したな」
「しました。マーリンの友人ヘレンが困っていましたので、能力者に依頼をするように手配しました。何か問題でございましょうか?」
「自宅謹慎中だったから能力者に依頼した、そういうことで良いのだな?」
「はい、間違いありません」
「だがまず始めに、親である私に一言相談があっても良かったのではないだろうか?」

 マックスはそれなりに戦功を立ててきた人物ではあったが、それ以上に部下の能力を見抜き育てる事で評価を得ていた。良く言えば人望が厚いということだが、一部では大佐という重職ではなく教官の方が向いているという穿った見方をする人もいた。そして問題点の一つが息子、トーマスにもあった。
 トーマスは腕は確かに良い。また士気を高めるという意味では同僚の受けも良いらしいが、協調性が欠けている。その責任が父親であるマックスにあるのではないかという見方である。そこでマックスが考えたのが、トーマスに一時的に部下をつけるということだった。
「これからお前に訓練を与える。傭兵達にヘルメットワームとの戦い方を指南してみろ。日本では現在大規模な作戦が行われている、色々と戦い方に疑問を持ち始めている傭兵も少なくないだろう。一方こちらでは多少バグア進行の手が緩まった。良い機会だと思わないか?」
「それは命令でしょうか?」
「‥‥そう捉えてもらって構わん」
「ならば従うまでです」
 そう言って退室するトーマス。マックスはひとつ大きな溜息を付いてULTに連絡をとるのだった。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
MIDOH(ga0151
23歳・♀・FT
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
河崎・統治(ga0257
24歳・♂・FT
八田光一郎(ga0482
17歳・♂・GP
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG

●リプレイ本文

 UPC北米軍基地のシミュレーター室、そこでトーマスは能力者達が来るのを待っていた。
 やがて能力者達が姿を現す。鳳 湊(ga0109)が事前打ち合わせで決まった組み合わせ表を見せると、思わずトーマスは苦笑した。
「‥‥俺が三連戦? まぁいいか。口で説明するよりも手っ取り早い」
 能力者達の考えた組み合わせ表では、トーマスが始めに三連戦こなすことになっていた。始めに鳳、河崎・統治(ga0257)とのチーム、次に西島 百白(ga2123)、威龍(ga3859)とのチーム、最後に八田光一郎(ga0482)、クリア・サーレク(ga4864)とのチーム。
 トーマスの希望では今回参加する能力者同士で組んで四組の予定だったが、なぜか彼がチームに組み込まれていた。また、わざわざ先に三連戦をこなす必要は本来無いのだが、先に腕前を見せてもらいたいと言う希望があったからである。
「それともエース様ってのは嘘なのか?」
 八田が冗談交じりに挑発する。しかしトーマスはただ一言「見てれば分かる」と答え、セッティングを開始した。 

 まず始めに鳳、河崎から戦闘が開始された。用意された敵は小型のヘルメットワーム、名古屋防衛戦でもよく見られた形だ。
「先に言っておくが‥‥」
 シミュレーターに入りながらトーマスが能力者達に話しかける。
「ワームやヘルメットワームに関してはまだ分からないことも多い。特に敵の武器に関しては、どれほどの能力があるか不明だ。あまりシミュレーターの結果を過信するべきではないと思っている」
「‥‥」
 わざわざ戦闘前に言う必要があるのか、河崎は疑問に感じつつも口にすることは無かった。
 やがてシミュレーターが起動し、三人の目の前にはヘルメットワームが映し出される。
「今度はKVのコーチとして御会い出来るとは幸いです。どうぞ宜しく御願い致します」
 一礼をした後、ワイバーン(鳳)が火属性のホーミングミサイルを打ち出す。呼応するようにストライカー(河崎)もミサイルを撃ち込んでいった。そしてタイミングを見計らってトーマスが飛び込んでいく。

「‥‥これで一戦目終了だな」
 スクリーンにはWINと書かれている。完全勝利とはいかないものの、ヘルメットワームは撃墜。一方味方の三機は今も飛行している。
「ミサイルによる牽制は、昔から使われた悪くない手段だ。だが同じ武器を使ってはリロードのタイミングが被る」
「‥‥確かにそうですね」
「だがそのあたりは訓練次第だろう‥‥さて、次に行くぞ」
 トーマスは次のセッティングを始めた。

 二戦目はチームC、敵は小型ワーム。今回は威龍と西島飛び込み、トーマスが援護するというフォーメーションだ。シミュレーションということで、威龍がグラップラーとしての敵を翻弄する動きが出来るかどうかを試したいということだった。
「実戦ではただ一つのミスが死に繋がるしな‥‥せっかくのシミュレーションだ。どういった戦い方が自分に合い、合理的かを試させて貰うぜ」
「‥‥腕には自信があるということだな?」
 確認を求めるトーマスに威龍は頷いてみせる。
「では始めるぞ」
「‥‥了解だ」
 
 ガドリング砲でワームを牽制しながら、DARG(威龍)と西島が距離を詰めていく。二人の突入角を見計らいながらトーマスは後ろから長距離バルカンとホーミングミサイルで支援していた。
「ヒットアンドアウェイも可能だな」
 ガドリング砲を掃射しながら突撃していくDARGと西島、一方のワームは手出しできないのか反撃してこない。
 いけると判断した二人。ディフェンダーとKVスピアを構え、一気に距離を詰めようとした時だ。ワームがまばゆい光を放った。

「‥‥あれは何だ?」
「知らん」
 シミュレーション後、二人の問いにトーマスは短く答えた。
「始めにも言ったがシミュレーターの結果は当てにならん、だからそれほど気にするな。ちなみに、さっきの攻撃は誰かが体験したバグアの範囲攻撃だな。理論も原理も不明、ゆえに当たったら撃墜という扱いにしているだけだ」
「やりすぎじゃないのか?」
 西島が異議を唱えるがトーマスは首を横に振る。
「当たり所が悪ければ撃墜される。同期で背後に回り込みながらも落とされた奴もいる」
 さすがに二人とも押し黙った。

 三戦目は八田とクリアのチーム。最初からどこか喧嘩腰だった八田と、TACネームの命名をお願いするクリア。トーマスはコンビネーションを気にしていた。
 敵は先程と同じく小型ワーム。トーマスはユニコーンズホーンとミサイルポットという中近距離専用装備で参加した。
「と言うわけで、教官! よろしくお願いします!」
 TACネームの命名の次には教官と呼ばれ、思わず苦笑するトーマス。ちなみにTACネームは本人の希望もありRippleで決定した。

「シムだろうが関係無ぇ! 行くぜ!」
 開始と同時に飛び出す八田。ガドリング砲を撃ち込みつつ、敵を足止めして距離を詰めていく。慌てて飛び出すトーマスが八田と間隔を空けつつミサイルポットを一斉掃射、開いた隙間にクリアがスナイパーライフルで狙撃を開始した。
「せっかくだ、コイツを試させてもらうぜ!」
 好機と見たブーストを発動させ一気に距離を詰める。そしてアグレッシヴ・ファングを乗せた右ストレートを放ったが‥‥
 そこはワームの主砲だった。

「‥‥死にたいのか?」
 戦闘後、ゆっくりと近付いてきたトーマスが八田に尋ねた。
「ブーストは機体消耗が大きい、一度の戦闘に使えるのはせいぜい三度まで。基本は緊急回避に使うものだ」
 加えて慣性制御の出来ないKVにおいて、ブースト中は方向転換もできない。敵に近付いていけば、それだけ被弾率も上がる。
「なぜ三対一であたるのか、考えてみろ」
 そう言葉を残して、トーマスは四戦目の準備に取り掛かった。

 四戦目はMIDOH(ga0151)、緑川 安則(ga0157)、藤田あやこ(ga0204)。敵は小型ヘルメットワーム。
「地上用ワームって見た事が無いんだよね。キパっ! なので、地上チームのモニタリングは、結構楽しみなんだよ♪ もっとも今回のトレーニングも空中戦だけど 」
 恐らく今回参加者の中で一番純粋に訓練を楽しんでいるのがMIDOHだった。自分の出番が近くなるにつれ「緊張する」と言いつつ、どこか喜んでいる様子がある。
 また緑川と藤田はBGMを所望、しかし他部署の迷惑を考えた上でイアホンでの視聴ということになった。
 
「よーし一発目からぶっ飛ばすよ♪ TACネーム『ドミノライン』」
 BGMのリズムに合わせて、まず始めに囮役のドミノライン(藤田)が飛び出す。遠距離からレーザーを放ち、注意を引き付ける。
 続いてチャシャ(MIDOH)がヘルメットワームに背後から接近。空中ロールを繰り返すドミノラインにヘルメットワームが気をとられている間に煙幕銃を発射する。
 最後にフェンリル(緑川)がブーストで接近、三人のスキルをのせた一斉射撃でヘルメットワームを撃墜した。

「ふむ‥‥滑空砲も命中率さえ克服できれば使えるものだな。改造の対象にするか」
「そうだな。確かに使えない武器は無い」
 戦闘を終えた後、トーマスが感想を述べた。
「いいコンビネーションだ。ブーストもスキルも有効に使えたと思う」
 MIDOHと藤田が笑顔を浮かべた。そしてトーマスが最後に釘を刺した。
「‥‥だが煙幕を張った後、敵も一斉掃射してきたらどうするつもりだったんだ?」
 煙幕を張った以上、それなりの目論見があることがヘルメットワームにも気付かれる。問題はその後の行動に移る速さとなる。
 返答に困る三人、そこに外野からブーイングが飛んできた。
「コーチなんだから、お前が教えてやれ」
「勘以外の答えをお願いしますよ、コーチ〜」
 同じく返答に困ったトーマスは逃げるように五戦目のセッティングに入った。

 最終五戦目は雪ノ下正和(ga0219)、烏莉(ga3160)、鈴葉・シロウ(ga4772)の三人、敵は陸上戦のワームだった。
「ロボットを操縦するゲームを思い出すな、このシミュレーター」
「ギャラリーがいらっしゃるとなると――格好つけたくなりますよね?」
 感想を漏らす雪ノ下。合わせた様に鈴葉も軽口で緊張をほぐす。一人、烏莉だけが無表情のまま扱い方を確認していた。

 戦闘開始と同時に雪ノ下とKUMA(鈴葉)が飛び出す。チーム名「特攻Aチーム野郎」の名前は伊達じゃないらしい。後衛を受け持つ烏莉がスナイパーライフルとホーミングミサイルで支援役となっていた。
「さぁ、私のドリルはどこまで届く? どこまで穴を空けていける? どこまで――螺旋を描き続けることができる?」
 ワームの攻撃をディフェンダーで受け流す雪ノ下の隣で、KUMAがツインドリルの変形具合を確認。そしてワームの装甲にその先端を突き立てる。
 しかしまだ倒れないのを見るや、一度後退してミサイルポットを発射。
「ちぇりおー」
 その掛け声とともに雪ノ下は避難、何とかワームを撃墜していた。

 戦闘終了後、トーマスの感想の前に鈴葉が尋ねた。
「単機敵陣に突っ込んだ時の機体の足運び、支援する味方に邪魔にならない動きとはどんな具合なのでしょう?」
 自分の動きに不満があったのか、積極的に質問する鈴葉。同じく興味のある他の能力者もトーマスに注目する。
 しかし彼は「勘」という言葉以外、具体的な答えが出せなかった。
「別に対ワーム、対ヘルメットワーム戦だけじゃないが、敵が何かやろうとした時には空気が変わる。そうだな‥‥例えば急に動きが遅くなったり、止まったりすることがある」
「‥‥意味は分かりますが、その説明では、敵が本当に身動きできない時もあるのでは?」
 鳳が質問すると、トーマスは空を見上げた。
「確かにそれもある。そしてこっちを油断させようとしているときもある。だからやっぱり勘なんだよ」
 勘の説明は、その後藤田の提案した寿司屋でも行われる事となった。