タイトル:子供達の台頭マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/13 01:58

●オープニング本文


 西暦二千七年十一月 アメリカ北部サンライズ孤児院

 冬も間近となった十一月下旬、同孤児院では問題児であったハーリー、サムソン、トムの三人、通称ハムサンドが庭の掃除をやるようになっていた。今までは理事長の娘で子供の世話役であったジャスミン=グリーンの仕事だったが、彼女が留守にすることが多くなったからだ。
「今日も先生休みなの?」
 最年少のトムが尋ねるが、ハーリーもサムソンも答えない。ただ黙々と掃除を続けている。
「ねぇ、無視しないでよ。先生休みなの、って聞いてるじゃないか!」
「聞こえてるよ!」
 思わずサムソンが大声を上げた。
「俺達がこの仕事をしていること自体、先生がいない証拠じゃないか」
「いいすぎだ、サム」
 ハーリーが軽く諌める。しかし内心の苛立ちはサムソン、トムと同じ、彼もジャスミンの不在を快く思ってはいなかった。

 事の発端は一月前、孤児院に出入りするファルマー商会の社長の息子ハンスにジャスミンが求婚したことに始まる。彼女は急な求婚に対し、結婚を前提とした交際ということで承諾。何度かのデートを重ねて、愛を深めていた。しかし二人の交際を良く思っていない者もいた。ハンスの父親、ラルフ=ファルマーである。
 ラルフは現在のアメリカを一つのビジネスチャンスだと考えていた。多くの分野で需要と供給のバランスが崩れている、その中で最も重要なありそうな食料品、日用品を戦争前と同等の値で扱えれば十分知名度とシェアを稼げると踏んでいたのだ。加えて息子の結婚、皆が不安に仰ぐ中で幸せの門出を祝うことが出来れば、社会的にいいイメージを確立できる。つまりラルフは息子の結婚をビジネスに使うつもりでいた。
 しかしジャスミンはこれに反対。
「私はまだ結婚するつもりもありませんし、過度な演出もするつもりはありません」
 サンライズ孤児院に限らず、まだ食糧不足を喘ぐ人は多い。その中で式を挙げるつもりは無いということだ。
「私は父こそいませんが、立派な母と可愛い子供達に囲まれて生きています。それだけで十分です」
 ジャスミンの強固な姿勢に感化される様に、最近はハンスまでも自分の意見を述べるようになった。挙句にはファルマー商会を継ぐ気は無いとまで言い始めている。ラルフには全く持って面白くなかった。そこで二人の妨害を開始、故にジャスミン達は姿をくらます事を余儀なくされているのだった。

「だったらいつもの手でやろうよ。ハムサンドの専門は隠密と行動力、ハリーがいつも言うじゃないか」
「粋がるな、トム。下手すると理事長先生にまた怒られるぞ」
 サムソンはまた大声を上げる。しかしハーリーは何か思いついたのか箒を持つ手を休めた。
「悪くないな、それ?」
「おいハリー、お前までそんなこと言うのか?」
 呆れるサムソン、ウンザリした表情でハーリーに視線を向ける。するとそこでは不敵に笑う顔があった。
「‥‥何か考えているな」
「俺達が動くから問題なんだ。能力者に頼めばいい」
「頼み方知ってるのかよ?」
「‥‥理事長先生が頼んでいるのを見たことがある。やってみるだけやってみようぜ」

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
レーヴァ・ストライフ(ga1925
28歳・♂・FT
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP

●リプレイ本文

「社長さんに会わせていただきたいのだが、大丈夫だろうか?」
 ファルマー商会の営業所に真田 一(ga0039)、九条・命(ga0148)、緋室 神音(ga3576)、南雲 莞爾(ga4272)は赴いていた。ファルマー商会の社長であるラルフ=ファルマーに面会を求めるためである。
 だが、受付兼事務を担当する女性は難色を示していた。
「アポとか無いんでしょ? 失礼ですが、社長はアポ無しではお会いにならないのですよ」
 ファルマー商会はまだ成長途中の会社である。それほど大きな会社ではないが、勢いはあった。そこに便乗しようとする企業も少なくないと言う。
「この前もトラックの会社の営業の人が来ましたよ、ウチのトラックを使ってくださいってね。でもね、いきなり来られても、やっぱり問題じゃない? 中にはお土産なんか持って来る人もいるのよ」
 聞いていないことまで話してくるが、社長には会わせないの一点張り。四人には女性がただ時間稼ぎをしているのではないかと感じ始めていた。
 そこで真田が明言した。
「社長の息子さんとバグアについて話があるんだ」
 すると受付の女性の顔が見る見る青ざめていく。そして倒れそうな顔で能力者から見て右側を指差した。
「突き当たりを右に行くと階段があるわ。それを上がって一番手前の部屋が社長の部屋、この時間ならいるはずよ」
 指差された方向を見ると、確かに右側の通路の奥には階段らしきものがある。しかし受付の方が気になった九条は声を掛けた。
「‥‥大丈夫か?」
 すると女性は泣きそうな声で答える。
「大丈夫‥‥です‥‥」
 どう見ても大丈夫ではないのだが、本人は大丈夫だと言っている。真田も自分の発言を頭の中で反芻してみるが、自分で考える中ではそれほど大きな間違いを起こしたつもりは無かった。
 後ろ指指される様な思いで、能力者達は社長室へと向かっていった。

「それで、君達の要求は何だね?」
 社長室には受付の女性が言ったとおり社長が待っていた。加えて能力者達の訪問も知っていたようだ、内線か何かで連絡を受けたのだろう。しかし社長の態度は毅然を装いながらも、どこか落ち着きの無い様子だった。
 何となく違和感を感じながらも、再び真田が答えた。
「『息子の捜索と保護。周辺キメラ退治』を目的とした依頼を出さないか?」
「息子の‥‥保護?」
 社長が問い返してくる。真田は全員の顔を見渡し、大きく頷いた。
「あんたの息子のハンスが家を飛び出したんだろう? それを探そうと言うんだ」
「‥‥腹の探り合いはやめにしないか?」
 社長は腹立たしそうに歯軋りをたてながら言う。そこで南雲が切り出した。
「何か勘違いをしていないか? 俺達は孤児院の方から話を聞いたんだが‥‥」
「孤児院‥‥そうか、ハンスの相手の方か‥‥」
 社長はそう言うと、大きく息を吐いた。
「タリアが『誘拐犯が交渉に来た』と言っていたもので、何事かと思っていたんだよ」
 恐らくタリアというのは受付の女性のことだろう。それが分かったことで、九条は胸を撫で下ろした。
「では改めて聞こう、あんたの息子ハンスの捜索と保護に俺達を雇わないか?」

 面接班は社長のラルフとともにトラック搬入口へと向かっていた。「雇うかどうか決める前に実力が知りたい」というラルフの意見を聞き入れたからである。
 そして搬入口では潜入班であるリディス(ga0022)、メアリー・エッセンバル(ga0194)、レーヴァ・ストライフ(ga1925)、崎森 玲於奈(ga2010)が既に潜入を済ましている手はずなっている。つまり、簡単に忍び込めるということで自分達の実力を証明しようとしたのだった。しかし肝心の潜入班の姿が無かった。
「どういうことだろうか?」
 尋ねるラルフ。先程までの態度と代わり、社長としての顔に戻っている。そこで九条が無線で連絡すると、リディアが一台のトラックから姿を現した。手には彼女愛用のファングが装着されている。
「何匹かキメララットが侵入していたので退治しておきました」
 リディアの背後ではメアリーが面接班と社長を手招きしている。行ってみると、トラックの中にはメアリーの他にレーヴァと崎森、そしてキメララットの死体が三つ転がっている。
「元庭師として言わせて貰うと、ちょっと手入れが行き届いていないわね」
 そういうメアリーではあったが、内心は「襲ってきてくれて有難う」という気持ちがあったのも事実だった。

 交渉の結果、ラルフは能力者達に息子捜索を頼むことで話がまとまった。とりあえずここまでの進行の報告を兼ねて、一度サンライズ孤児院に帰ろうとする能力者達。そこに先程の受付の女性、タリアが走ってやってきた。
「さっきはごめんね、はやとちりしちゃって」
 開口一番謝るタリア。何のことか分からない潜入班の四人は面会班の顔色を伺うが、面会班の方はタリアの方を真剣に見つめている。そこで潜入班も事情を聞くのは後に回し、とりあえずタリアの話を聞くことにした。
「社長はね‥‥何とかして立派な会社を息子のハンスに跡を継いでもらいたいのよ」
 どうやらタリアはある程度事情を知っているらしい。噂好きの女性の実力なのかもしれない。そこで緋室が正直に答えた。
「‥‥それは分かる。だが手段があまり良くないとは思わないか?」
「他者の思惑が介入する余地は無く、ましてや力や重圧を以ってして支配する権限など無いはずだ」
 崎森も言葉を付け足した。だがタリアは首を横に振る。
「確かに支配しようとしているかもしれません。ですが、社長はハンスさんが結婚を気に社長の椅子を譲るつもりなのです」
 タリアが言うには、結婚式と同時にハンスの社長就任式もやってしまおうという話らしい。そして立派な会社を息子に譲ることがラルフと彼の妻、マリアンヌとの最後の約束ということだった。
「マリアンヌさんはいい人でした。私もよくして貰ったものです。ですが彼女はハンスさんを生んで間もなく、バグアに連れ去られました」
「‥‥」
「そのためかハンスさんは母親のことを覚えていないようです。ですが社長は、何とか会社を譲るために多少強引な手段を使おうともしています」
「そうですね。父親は息子の恋愛の妨害を、一方の息子は身を隠す。どちらもどちらですがね」
 レーヴァが迷える羊を諭すように答えた。
「どうぞ良しなにお願いします」
 そう言ってタリアは営業所へと戻っていった。

 孤児院に戻ると、ちょうどジャスミンが帰ってきていた。そばにはハムサンド達もそろっている。直接話していいものか多少悩んだ能力者達だったが、ジャスミンと面識のあるメアリーとレーヴァが代表して交渉することにした。
「‥‥というわけでラルフさんはハンスさんに社長になってもらいたいようです」
「私達も判断に悩むところではありますが、貴方の意見も聞かせていただければと思うのです」
 これまでのいきさつを説明した上で、二人はジャスミンに意見を求めた。依頼を受けた当初は社長のやり口にあまり良い気分ではなかった二人だが、今ではタリアの言葉に少なからず心を揺さぶられている。
 そして事情を聞いたジャスミンは言葉少なに答えた。
「恐らく無理です、彼には経営の才能はありません」
「‥‥だろうな」
 二人はハンスにも面識があった。外見はそれほど悪くはないが、人見知りをするタイプの人間だった。にも関わらず人が良く、だまされやすい。人の上に立てる存在ではなかった。
「むしろこの子達の方が適任ですよ。今回の依頼人もこの子達なのでしょう?」
 ジャスミンがハムサンド達の頭を撫でながら答えた。それを聞いたメアリーも思わず破顔する。
「私も同じことを考えていたんです」

 その後、能力者達は再度二手に分かれた。一組はハムサンド達をつれて再び営業所へ、もう一組はジャスミンとともにハンスの隠れ家へと向かっていく。営業所班は社長と直接交渉した真田と九条、それにジャスミンと交渉したメアリーとレーヴァの四人。一方の隠れ家にはリディス、崎森、緋室、南雲の四名だった。特に崎森と南雲は自分の戦いができそうな場所がいいということだった。
 営業所へと着いた能力者達はハムサンド達を社長と会わせて、ジャスミンの意見も交えて彼らを育ててみるように進言する。
「残念ですが、やはりハンスさんは社長になるつもりは無いようです。代わりにこの子達に経営学や帝王学を教えたらどうです?」
 しかし社長としては、そうすんなり了承するわけにもいかない。ハンスと話させるように求めてきた。そこで九条が無線機を取り出し、隠れ家班のリディスに居場所を確認して社長に手渡した。
「父さん、俺は社長なんて無理だ。俺よりそこにいる少年達の方がよっぽど才能があるはずだよ」
 ハンスにそこまで言われた社長は、額に手をあて目を閉じた。やがて納得したのか無線機を九条に返すと、ハムサンド達の方に向き直る。
「確かに利口そうな子だ。分かった、面倒を見よう」
 ラルフが三人に握手を求める。だが三人は、握手する前に一言断った。
「その前に一発殴らせてもらいます」
 三人は一発ずつ殴った後で握手に応じたのだった。