●リプレイ本文
今回の依頼人であるジェームスは白髪の老人だった。本人曰く今年で六十三を迎えるそうだが、鍛えられた肉体のためかとても年齢通りに見えなかった。
「本当に六十超えてる?」
相麻 了(
ga0224)が思わず尋ねる。しかし髪は年齢を物語っている。
「超えてるよ。身体のあちこちにガタが来ている。見るか?」
ジェームスが見せてくれたのは左足‥‥だった部分だ。そこには本来の足はなく、義足がはめ込まれている。
「失礼ですが、戦争で?」
慎重に言葉を選びながら向山 斐夜(
ga1393)が尋ねると、何処か寂しげな目をしてジェームスは答えた。
「そうだ」
敵にはただ近づいて殴るだけのタイプもいれば、そうではないものも存在するらしい。
そしてジェームスの左足は不意をつかれた部下のために無くなったものだった。
「この戦争では多くの血が流れた。そして今も誰かが傷つき倒れているだろう。私ももう年老いた身ではあるが、手の届く範囲で守れるものは守りたいと思うのだよ」
その後ジェームスは街の中心に程近い場所にある廃ビルに能力者達を案内した。
「‥‥ここはどこです?」
愛紗・ブランネル(
ga1001)が周囲を見回す。追いかけこをするにはやや手狭な感があるが、天井が高く窓が少なかった。
「単なる廃墟だ。昔はホテルだったらしいがな」
言われてシャロン・エイヴァリー(
ga1843)が改めて見回すと、確かにフロントらしきものが存在する。
「ということは、ここには多くの部屋があるわけね」
「そういうわけだ。いくつかは子供達が占領しているが、まだ余裕はある。着替えなどが必要なら使うといいだろう」
「なるほどね」
神無月 真夜(
ga0672)が思わず頷く。
部屋が大量にあれば子供達も自分の部屋が持てるだろうし、一斉に集まろうとおもえば集まることも可能。内線などひょっとしたら生きているかもしれない。
「何か必要なものがあれば言って欲しい。ある程度は準備できるはずだ」
それを聞いたロリコン伯爵(
ga1409)はすぐさま反応した。
「ブルマーはあるだろうか?」
「‥‥ブルマーか?」
ジェームスが動揺を見せた。
「必要なのか?」
一応尋ねるジェームスにロリコン伯爵は胸を張って応えた。
「絶対に必要だ。私の人生の汚点に成りかねない‥‥もごっ」
「無理ならいいですから」
水理 和奏(
ga1500)が伯爵の口を塞ぎ、シャロンが訂正する。
「その代わり悪役っぽい仮面を三つ準備していただけますか?」
「あとはゴムボールもお願いする」
七瀬 帝(
ga0719)が付け加えると、ジェームスは承諾した
翌日、ジェームスは能力者達を子供達に紹介した。全部で二十名ほどいるだろうか。男女比は半々といったところで、年齢はだいたい六〜十歳といったところだろうか。
「最年長が十二、最年少が五歳のはずだ」
ジェームスが言うと、子供の一人が猛然と抗議した。
「マリー、一昨日六歳になったもん。もう五歳じゃないもん」
頬を大きく膨らませてマリーと名乗る少女はジェームスの右足の膝辺りをぽかぽかと殴っている。
ジェームスは苦笑を浮かべて能力者達を見つめていた。
能力者がまず始めたのはロリコン伯爵と相麻とによる模擬戦だった。
「オッス皆!俺は了ってんだ。宜しくな!」
相麻が挨拶すると子供達も元気に挨拶を返す。しかしロリコン伯爵扮する仮面のバグアが登場すると、子供達は急に静まり返った。
「出たな!悪のバグア!」
相麻が覚醒した。
相麻とロリコン伯爵の様子を見て、何人かの子供が悲鳴を上げていた。水理が子供を一人一人諭していった。
「あのおにいさんも強いから、心配すること無いんだよ」
愛紗、向山も一緒になって諭す。
「能力者って凄いんだよ。絶対大丈夫だから」
半信半疑のまま見つめる子供達。しかし相麻が有利と分かると、歓声が上がった。
「兄ちゃん、いいぞー」
子供達から歓声が上がる。傍では神無月が解説を行っていた。
「今の戦いを参考にしてね。視覚だけに頼っていたら惑わされることもあるわ」
ロリコン伯爵は神無月の指示もあって不規則な動きをしている。それがかえって伯爵を怖く見せていた。
しかしロリコン伯爵は相麻の必殺ジョーカーパンチの前に倒れたのだった。
相麻のもとに子供達が集まる。子供達はそれぞれ相麻を褒め称えていた。
「お兄ちゃん、強いんだね」
「かっこいいです」
あまりにも不用意に相麻に近寄る子供達。そこにロリコン伯爵が再び立ち上がった。
「ククク‥‥」
伯爵は標的を相麻から子供に変更。そして第二ラウンドの追いかけっこが始まった。
ジェームスはフロントに一人腰掛け、ロビーの様子を眺めていた。
追いかけっこではシャロンと七瀬が鬼役として追加、七瀬は威嚇の意味も込めて覚醒をしての登場だった。
「ゴージャスパワー! メーイクアーップ!」
加えて七瀬はジェームスに用意してもらったゴムボールを武器として投げ込んでいた。
「視覚だけに頼っちゃ駄目よ」
神無月がペイント弾でゴムボールを打ち落としながら子供達を誘導する。向山と愛紗と水理も泣いている子供を見つけては、あやしながら一緒に逃げていた。
しかし子供達も利口なもので、ゴムボールを拾っては反撃してくる子供もいた。
今までの講義の中で、キメラに会ったら逃げるように子供達には教えていた。追い詰められたら考えろとも教えてきた。
しかし現実とは残酷なもので、話を聞いただけで実践できるような子供はほんの一握りしかいない。実際にゴムボールで反撃する子供はほんの一握りだった。
だが、これでいいのだとジェームスは考えていた。今はできなくとも、実践ではこの経験は役に立つはずなのだから。
最後は愛紗と水理のツインデビルすぺしゃるでロリコン伯爵が倒れたことで幕を閉じた。
「お姉さんたち、小さくても強いんだね」
最年少であるマリーは尊敬の眼差しで愛紗と水理を見つめている。そこに二人はやんわりと訂正した。
「お姉さんたちが強いのは能力者だからなの。小さいから若いからというのは関係ないんだよ」
「でもね誰でも能力者になれるわけじゃないからね。キメラは怖い、見つけたら逃げるとこ。あるいは能力者に頼むこと。分かった?」
マリーは大きく頷いた。
その日の夜、ジェームスは能力者達と簡単な食事会を開いた。
「缶詰ばかりで申し訳ないが、私の気持ちだ。食べてくれ」
愛紗が一つの缶詰に飛びつく。それをきっかけに能力者達は思い思いの缶詰を手に取った。
「私達の講義はどうだっただろうか?」
伯爵が尋ねる。
「いいアイディアだったよ。特に視覚に頼らないというのは効果的だっただろう。奴らはどこから攻撃してくるか分からないからな」
「そうなのですか?」
向山が尋ねると、ジェームスは静かに頷いた。
「やつらの生体にはまだ不明な点が多いが、一匹だけに集中してしまうと背後を取られているということはしばしばある。これは対人間でも変わらんがな」
「確かにそうですね」
水理が相槌を打った。
「背後から撃たれるということも警戒すべきなんですね」
「背後からといえば‥‥」
七瀬が食事をする手を一旦休めて、ジェームスに尋ねる。
「私のゴムボール案はどうだったでしょう?」
ゴムボールは一時的とはいえ子供達を混乱に陥れた。おかげでまずは逃げると頭では分かってはいても逃げられない子供が続出した。
「おもしろかったな。今回のことは子供達にいい経験になっただろう」
「でも泣きそうな子もいましたよ?」
愛紗が口を挟むとジェームスは笑って答えた。
「マリーの事だな。だが君達の活躍を見て多少気持ちが変わったようだ。礼を言わせて貰おう」
思わず愛紗と水理は照れてしまった。
「無事逃げたものもいれば、逃げ遅れたものを救うためゴムボールで反撃するものもいた。今後の参考にさせてもらうよ」
和気藹々と食事会は進む。やがて宴もたけなわになった頃、シャロンが一つ質問した。
「先ほどの話ですが‥‥ジェームスさんも背後から狙われたことが?」
ジェームスは沈黙した。そして返ってきた答えは意外なものだった。
「そうだ。味方に撃たれた」
「‥‥えっ」
思わずシャロンが息を飲む。
「やつらの中には死体に乗り移る能力を持つものがいる。おかげで同士討ちをすることもしばしばあったよ」
それは後悔にも懺悔に聞こえる悲痛な魂の叫びだった。