タイトル:ゴーストからの挑戦状Bマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/01 23:56

●オープニング本文


 西暦二千七年十一月、雨の降る夜のことだった。とあるモーテルの一室でドローム社社員ジョン・マクスウェルはPCを立ち上げ、報告書をまとめていた。
「新型テストは順調、多くの機体は既に日本に移送完了。あとは現地の人々の活躍に期待でしょうか」
 入れたての紅茶を少し口に含み、ディスプレイに映し出されている報告書を眺めるジョン。紅茶の渋みがゆっくりと彼の感覚を研ぎ澄ませてゆく。
「しかしなぜ日本なのでしょうね」
 ふと彼の思考が停止した。
 ジョンはドローム社の中でも武器開発部に所属し、本社と研究所の連絡役と研究の進行具合の監査役の二役を担当していた。自然と行動範囲は広く、面識のある人物は多くなる。そして彼の耳に入る情報も少なくなかった。しかし今回のバグア襲撃地点とみられる日本に関しては思い当たるところが無い。
「‥‥まぁ仕方ありませんね」
 立場上多くの情報が入るとはいえ、ジョンはドローム社の一社員に過ぎない。自分にあずかり知らぬ所で物事が進んでいると言うのはあまり気持ちのいい話ではなかったが、知らぬ方がいいこともある。ジョンはそう割り切り、PCの電源を落とし眠りについた。

 それからどれくらい経っただろうか、まだ暗い室内にジョンの携帯電話が着信音が鳴った。
「‥‥誰でしょう?」
 耳を澄ますと、着信音に混ざって雨の降る音が聞こえてくる。どうやらそれほど時間は経っていないらしい。手元の灯りをつけ携帯電話のディスプレイを確認すると三時十二分という数字と公衆電話という文字が並んでいた。
 ジョンは職業柄、見知らぬ番号からの電話も少なくない。勿論イタズラ電話の類も少なくないが、緊急連絡である場合も無いわけではない。しかし公衆電話からの連絡というのは実に久しぶりだった。多少の好奇心もあり、彼は点滅する通話ボタンを押した。 
「‥‥もしもし」
「ジョン・マクスウェルさん?」
 受話口から聞こえてきたのは加工された声だった。ヘリウムガスを使ったのか、ボイスチェンジャーの類によるものかまでは判断できないが、少なくとも緊急の連絡ではないらしい。
 しかしイタズラ電話にしては手が込んでいる。そう判断したジョンは会話を続けることにした。
「どちら様でしょう?」
「誰だっていいじゃないか。それより今度のバグア襲撃に関するいい情報があるんだけど、聞きたい?」
「それは聞きたいですね。どんな情報です?」
 電話口の相手は今度のバグア襲撃に関する情報を持っているという。ジョンはカマをかけるつもりでその情報について尋ねてみたが、「教えるわけ無いじゃないですか」という人を小馬鹿にしたような返答がかえってきた。
「世の中ギブアンドテイクでしょ? タダでは教えられないよ」
「それでは貴方が本当にいい情報を持っているのか私には判断できない。電話を切りますね」
 焦らす様に言うと、相手は笑いながら答えた。
「んーだったら例えばドローム社にスパイがいるとか‥‥ジョンさんなら聞いたことあるんじゃない?」

 会話がきな臭くなるのを感じ、知り合いの科学者が作った逆探知装置の準備を始めた。その一方で『ゴースト』との会話は続いている。
「スパイというのは大仰ですが、私の偽者が出没したのは何度かありますね」
「ジョンさんにはお世話になってますよ、変装するのに丁度いいからね」
「‥‥それはどうも」
 褒められている気はしなかったが、ジョンは一応礼を述べる。すると『ゴースト』は機嫌が良くなったのか、取引を持ち出してきた。
「良く考えたら、あたし結構ジョンさんのお世話になってるね。んー、今回サービスするよ」
「サービス?」
「そ、サービス。ドローム社の新型機、バイパーだっけ? あれを一機頂戴。そしたら今回のバグア襲撃作戦について教えたげる」
「‥‥気前がいいですね」
 『ゴースト』の目的が分からない。悩むジョンだったが、逆探知機はすでに相手の電話番号を割り出していた。そこで取引場所や時間を決めて、取引に応じる素振りを見せて電話を切った。

 その後、ジョンはバイパーの手配に取り掛かると同時に知り合いの警察官に電話番号の照合を依頼、そして判明したのがアメリカ南部のバグア占領地区に程近い競合地区からの電話と言うことだった。
「こちらにも網を張りますか」
 ジョンはその公衆電話周辺の捜索をULTに依頼するのだった。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
近伊 蒔(ga3161
18歳・♀・FT
ラウラ・シュラウドラフ(ga3357
13歳・♀・FT
七瀬 弥(ga4329
16歳・♂・FT

●リプレイ本文

 そこは死んでいるかのような静けさだった。
 立ち並ぶ家々には所々破壊されており、人が住んでいる気配は無い。灯も気配も感じることは無かった。
「‥‥不気味」
 柚井 ソラ(ga0187)がぽつりと呟いた。ラウラ・シュラウドラフ(ga3357)も同意するように小さく頷く。 
「出発前国谷さんが言っていた『必然性』が俺にも疑問に思えてきたよ」
 柚井の言う国谷さん、こと国谷 真彼(ga2331)は出発前から事前調査を丹念に行っていた。しかし『わざわざ競合地域から電話をかけなければならない必然性』は見つからなかったという。そして現地まで来た今でも分からないらしい。何より公衆電話自体が見受けられない。
「本当に‥‥ここなの‥‥?」
 ラウラは柚井の袖につかまるようにして歩いている。多少の緊張もあるのだろう、しきりに周囲を警戒している。
「このあたりのはずだよ。国谷さんの話では深夜に電話かかってきたみたいだし」
「そうだったね‥‥」
 電話がかかってきたとき、今回の依頼人のジョン・マクスウェルのいた場所は今能力者達のいる場所と時差はなかったらしい。つまり『ゴースト』はやはり深夜に電話をかけたことになる。
「とりあえず公衆電話探そうか」
「探す手間は省けるかもね」
 近くに公衆電話がいくつか存在するようなら、特定に時間がかかる可能性がある。しかし今の状況を見る限り、今でも使える公衆電話はそれほど多くは無いだろう。二人は周囲を警戒しつつも、電話の特定を開始するのだった。

 その頃、行商人に扮し聞き込みに入っていた大山田 敬(ga1759)と七瀬 弥(ga4329)は立ち行かない捜査に多少苛立ちを覚え始めていた。街の片隅で話し込んでいるような主婦の姿が見えないからである。本部でかなり無理を言って借りてきたおんぼろリアカーも悲鳴のような音を上げている。
「どうすっかな」
 周囲には人影はおろか気配さえ無い。そんな時、考えあぐねている二人を見かねたのか、近くで中年の男性が二人に向かって手を振っているのが見えた。

 一方、国谷と近伊 蒔(ga3161)は簡単な挨拶を交わした後、街に踏み込んでは携帯電話が使えるかを試していた。しかし電話は電源こそ入るものの、電波を受信することは無かった。
「やっぱ使えない?」
「ですね。アンテナもバグアのもの、ということでしょう」
 盗聴されにくいという理由で国谷が申請した携帯電話だが、本部はこれの貸し出しを渋った。理由は恐らく使えないから、そしてそれが皮肉にも証明されたことになる。
「バグアも携帯電話が盗聴されにくいことを知っていたのでしょうか?」
 現在人工衛星などはバグアの手に落ちているといわれている。バグアが通信の重要性というものを知っていてもおかしくは無い。
「んー俺は詳しいことよくわかんないけど‥‥」
 横で国谷の顔を見つめながら近伊が言う。
「先に待機場所確保した方が良くないか?」
 武器の入った大きめのバッグはどうしても浮いて見えてしまう。近伊の言う正論に国谷も同意、二人は歩き始めた。

 先に街に入った六人に遅れる形で水鏡・シメイ(ga0523)と崎森 玲於奈(ga2010)の両名は街に足を踏み入れた。すでに柚井・ラウラ組が公衆電話を特定しているという報告をもとに周囲を警戒して歩くと、いくつか気配が感じられた。
「妙ですね」
 違和感を感じる水鏡。
 柚井・ラウラ組の話では気配さえ感じられないということだった。しかし今は間違いなく、いくつかこちらを見ている。
「だが殺気はない。襲ってくる気配が無い所を見ると、周辺住民ということか?」
 あまり人に気付かれたくはない水鏡は隠密潜行を使い一度身を隠す。その後、崎森と再び捜索を開始したのだが、残念なことにこれといった情報を手に入れることは出来なかった。

 やがて時は経ち、街に夜が訪れる。待機所には少しずつ能力者達が戻ってきたのだが、行商班の大山田、七瀬が帰ってくる気配が無い。心配し始めた頃になってやっと二人は廃墟へと姿を現した。
「遅れたかな? 主婦の皆さんが中々帰してくれなくてね」
「後半は自分から聞いてた割によく言うね」
 飄々と言う大山田を七瀬が軽く諌める。すると少し真面目な顔になって大山田は聞いてきたことを話した。
「みんなも気付いていると思うけど、この街は人の気配がほとんどしない。聞いた話ではバグアに住む場所を制限されているということだ。そのせいでストリートチルドレンの類も一切見られない」
「まだ捕まってない人は何とか解放しようと計画しているみたいだけど、現状では人手も武器も足りないらしい。足しになればと思って食料全部あげちゃったんだが‥‥大丈夫だったか?」
「問題ないでしょ?」
 近伊がさも当然のことのように言い、言った後で皆に同意を求める。誰も駄目とは言えない雰囲気だった。
 そこで大山田が付け足す。
「そこで俺と七瀬は明日、もうちょっと話を聞いてこようかと思っているが大丈夫か?」
「多少バグアの目的が分かるかも知れんのだ」
 七瀬も付け足す。そしてその後そのまま作戦会議へと移行した。

 調査二日目、柚井とラウラは公衆電話の調査を打ち切り、廃屋調査へと移っていた。
「もしキメラと戦闘になるようなことがあれば遠慮なく連絡してください」
「『ゴースト』が潜んでいる可能性も捨てきれないからな」
 言葉を残し、水鏡と崎森が前日予定していた廃屋の一つに入っていく。そして二人を見送り柚井とラウラも調査を開始しようとすると、不意に声を掛けられた。
「何してるの?」
 二人がほぼ同時に振り向く。そこにはまだ小さな女の子が立っていた。飴でもくわえているのか、口から白い棒がはみ出している。
「ちょっと探検してみたくなって」
 予定していた通り台詞を言う柚井。続いてラウラも「私もなの」とフォローした。しかし少女は納得してないのか二人に言った。
「『ゴーストさん』のこと調べてるんでしょ?」

 水鏡と崎森は、柚井とラウラが見知らぬ少女に続いて調査予定だった廃屋に入っていくのを物陰から見守っていた。
「どう思いますか?」
「判断に難しいな。柚井とは以前依頼で一緒になったことがあるが、一時の感情に流されるような人間ではなかった。何か考えがあると見るべきだろう」
「少女が親バグア派、あるいはバグアに憑依されている可能性は?」
「‥‥待機班にも連絡しておこう」
 崎森は通信機を取り出し、水鏡はそのまま尾行を開始した。 
「私ガーベラ、よろしくね。あなたたちのお名前は?」
「‥‥柚井ソラです。よろしく」
「ラウラ・シュラウドラフです」
 自分の名前を言っていいものなのか多少悩んだものの、二人は正直に名乗った。そして柚井がラウラの方に一度視線を投げると、ガーベラの注意を引きにかかる。
「ガーベラはこの街に住んでるの?」
 ほぼ同年代だと判断した柚井は、ガーベラに対し砕けた感じで話しかけた。
「昔は隣の町だったんだけど、今はここで暮らしてるよ」
「お父さんやお母さんも?」
「‥‥」
 一瞬目を大きく見開き、ガーベラが視線を外した。どういう意味なのか察した柚井は一言「ごめん」と呟くしかできなかった。
「気にしないで、私には『ゴーストさん』いるし。ほら、これも彼女がくれたんだよ」
「彼女?」
 ガーベラの言葉にわずかな引っ掛かりを覚えた柚井だったが、とりあえずはガーベラの差し出す棒を見つめた。それは今まで彼女が口にしていた飴の棒だった。
「これね、何日か前『ゴーストさん』がくれたの。また来てくれる様に大事に持っておくんだ」
「いい人なんだね。他にも何か貰ったものある?」
 尋ねる柚井に、ガーベラは満面の笑顔で答えた。
「名前。私の名前、『ゴーストさん』がつけてくれたの」
 ラウラはそんな二人の会話を何とかばれない様に無線で拾っていた。

「確かに口調が似ていると思ったんですよ」
 帰りの高速艇に乗り込みながら、国谷は感想を漏らした。
「実際に電話したのは、ガーベラさんだったんですね」
「らしいです。『ゴースト』も傍にいて指示を出していたそうですが、基本はガーベラさんがやっていたみたいですね」
「そこまでする理由があるのか?」
 崎森が口を挟んだ。
「ガーベラが電話をしている間に『ゴースト』が逃げる、それならまだ分かる。だが傍にいたのでは意味があるまい?」
「単純に考えれば特定されるのを恐れた、と言ったところでしょうか。バグアには私達にはない技術があるのかもしれませんね」
 『ゴースト』の行動にまだ違和感を覚えつつも、能力者達はラスト・ホープへと戻っていくのだった。