●リプレイ本文
「アンジェラ、ニックさん、ちょっとだけお久しぶり。んで、今回の作戦なんだけ‥‥いくつか協力してもらう点があるの」
作戦を開始するに当たり、鷹代 由稀(
ga1601)が依頼人であるランドール親娘に今回の作戦について簡単な説明を行った。それほど難しいことを頼むわけではないのだが、重要である事に違いない。そこで二人に面識のある鷹代が説明役に選ばれていた。
「‥‥というわけで、アンジェラには外出した振りを、ニックさんには練成強化を施してもらいたいの」
「わかったわ」
素直に承諾するアンジェラ、しかしニックの方は何故か憮然としている。
「それだけでいいのか?」
練成強化は武器の攻撃力を底上げする有効なスキルである。しかし効き目は決して長くはなかった。
「しかし護衛対象であるニックさん自身が前に出られては、あたし達が戦う意味が無くなりますよ」
ニック自身が戦うのだと判断した鷹代は止めに入る。しかしニックは何処か不気味ともいえる笑いを浮かべている。
「こういうこともあろうかと、このようなものを準備しておいたのだよ」
「説明役御疲れ。作戦内容は理解してもらえただろうか?」
戻ってきた鷹代に気付き翠の肥満(
ga2348)が声を掛ける。と同時に鷹代の腕にある物に気付いた。
「それは?」
「ニックさんからの差し入れ。インカムらしいわ」
「そりゃ助かるな」
罠の作製に当たっていた御嶽星司(
ga0060)が颯爽と現れ、インカムを一つ拝借する。スーツにインカムというのは本来不釣合いな出で立ちだが、上背があるためかどこかのエージェントを彷彿とさせた。
「これで両手が使えるな。サイエンティストも多少見直すべきだな」
本部から貸し出された通信機はかなり古びたトランシーバー型のものだった。メンテナンスはしっかりしているため通話に問題は無いが、通話中どうしても片手がふさがってしまう。これは両手武器を使う能力者にとって大きな痛手だった。
「しかしなぜこれを?」
翠が尋ねる。以前の話ではニックは消毒液の代わりにテキーラを使う程物資に困窮していたはずだった。
「前回の依頼の最後、あたし達は町の人に『ニックさんとアンジェラはキメラ集めているけど、やましい事してませんよ』って説明したの。それがドローム社の誰かの耳に入ったらしいわ」
そしてそれ以降、額として多くは無いが物資を援助してくれているらしい。
「つまりパトロンということか?」
「それほど大掛かりなものじゃないみたいだけどね。相変わらずテキーラを消毒薬代わりに使ってたし」
しかし小額でも援助があるのは有難いことに違いは無い。現に研究の成果が鷹代の腕にあるのだから、ニックの研究者としての腕前は悪くないのだろう。
「ところで罠の準備は?」
鷹代が御嶽に確認すると、彼は無言で親指を立てた。
「あとはこのインカムを配布して準備完了、ってところだ」
「それじゃ二人にも伝えてくるわね。配布は頼んでいい?」
鷹代は残りのインカムを御嶽に渡して再び奥へ、一方御嶽は入り口へと向かっていった。
「‥‥こちらブラボーワン、アンジェラの姿を確認」
「敵の気配は?」
「未だ無し‥‥いや、今何か動いたな。確認に当たる」
「了解。大丈夫だろうけど、周りには常に気を配って。こっちから見えるってことは、逆に敵からも見えるってことだから」
気が乗らないのか無言で通信を切ると、リン(
ga1215)は双眼鏡片手に不審物の確認へと向かった。
今回の作戦はニックを襲ってくるであろうキメラを、逆に洞窟内で挟撃するという作戦だった。依頼に参加した八名をA、Bの二部隊に分け、それぞれ外部からの監視と内部での待ち伏せを担当するという作戦だ。ちなみに内訳は
A班:御嶽、桐生 禍斗(
ga0560)、鷹代、翠
B班:リン、御影・朔夜(
ga0240)、ファルロス(
ga3559)、棗 当真(
ga3463)
ということになっている。
「‥‥こちらからは上手く見えないな。手前から三番目の岩陰に何か見えるか?」
「ブラボーツー確認できない」
「ブラボースリー同じく‥‥ん、何か草が飛んできたかアレのことか?」
ファルロスが指摘すると同時に、岩陰から転がるようにして丸まった植物が転がってくる。どうやら風に飛ばされてきたらしい。
「タンブルウィードですね。西部劇ではよく見られると聞いていましたが、実際に見られるとは思っていませんでした」
棗が淡々と語る。しかし直後、御影が短く呟いた。
「来たぞ」
サングラス越しに御影が捉えたキメラは、猿のような姿をしたものが三体だった。
「来たみたいだな」
桐生が二メートルを超える巨体をゆっくり立ち上げ、キメラの襲撃に備える。隣では同じく二メートルを超える御嶽
が、自分の獲物であるファングの具合を確かめていた。
「今回の相棒頼りにしてるぜ?」
「こちらも頼りにしているよ、桐生」
一方、巨体の後ろでは鷹代と翠が隠れている。二人とも決して小さくは無いが、桐生と御嶽の前には霞んでしまっていた。それはそびえたつ壁のような景観がある。
「鷹代、翠の〜最悪俺事撃っても恨まねぇぜ?」
「馬鹿いってんじゃないの」
茶化すように笑う桐生、しかし通信と共に全員の顔から笑みは消えた。
「話より数が一匹多い。加えて三倍のスピードで動くぞ」
すぐに鳴子が鳴り響く。しかし連絡を受けていたB班は立ちはだかり、キメラの行く手を阻む。
「来やがったな‥‥残念だがここはあの世への一方通行だ」
御嶽がファングを構えて覚醒。すると対応するようにキメラの方も一回り身体が大きくなった。
「こいつらも俺と同じで近接戦闘型か‥‥面白い」
桐生も構えて覚醒。するとキメラは御嶽と桐生に一匹ずつ襲い掛かり二人の視界を塞ぐ。そして残りの一匹が隙間から突撃をかけてきた。
だがそれを予期していた鷹代と翠は覚醒し、鋭角狙撃を発動させていた。
「甘いわね‥‥スナイパーだからって接近戦が出来ないわけじゃないのよ」
「ご退場願おうかッ!」
二人の放つ弾丸が確実にキメラを捉える。しかしキメラの方も引くことなく、右手で鷹代を左手で翠を攻撃する。
「器用なものですね‥‥ですが」
入り口から棗が瞬天足で駆けつけ、続いて疾風脚で跳躍。洞窟内の低い天井を利用し反動をつけ、キメラにそのままファングを突き立てた。
「‥‥さあ、ガチで踊り合いましょうか?」
一方、御嶽と桐生の視界を塞いでいた二匹のキメラは奇襲失敗を悟るや退却を開始した。しかし入り口には御影、リン、ファルロスがすでに狙撃体勢をとって待っていた。
「甘いですね」
最初に発砲したのは現状の最長射程武器であるアサルトライフルを持つリンだった。続いて御影とファルロスが発砲する。
「――アクセス。任務開始だ‥‥精々、私の既知感を拭ってみせろ‥‥!」
「避けられるものなら避けてみな」
三人の一斉射撃の中、脱出不可能と判断したキメラは再び御嶽と桐生に襲い掛かる。しかし二人は同じ方法に二度もやられることはなかった。疾風脚を発動させた御嶽のファングと豪破斬撃を発動させた桐生のヴィアがキメラを返り討ちにする。
「わりぃが‥‥俺らの勝ち‥‥だぜ‥‥‥‥」
桐生が背後を確認すると、そちらでもキメラの死体が転がっていた。
任務完了を受け、リンは挨拶を済ませ帰り支度を始める。そして御影は今回も属性効果の手ごたえを得られなかったことに不満を感じていた。
「“悪評高き狼”の牙は、未だ本来の力を見せぬか‥‥」
そしてニックが、すぐにキメラの観察に入った。
「どうやらコイツはオンコットと呼ばれるキメラらしいな。どこかの神話がモチーフにされているのだろう」
淡々と事実を述べるニック。しかし鷹代には別に気になることがあった。
「‥‥観測中申し訳ないが、ニックさん。研究はどこまで進んでいるでしょう?」
バグアが日本を襲撃するという噂は能力者達の耳にも聞こえ始めていた。しかし鷹代はニックなら何か分かった事があると信じていた。
「日本が狙われているということは知っているか?」
ニックが尋ねる。「噂程度なら‥‥」と能力者達は口々に答えた。
「ふむ。ここまで広く言われている以上、多分日本は狙われているのだろう。だが何故日本なんだ?」
顎に手をあて、ニックは語りだす。
「私が知る限り、日本に何か特別な拠点があるという記憶は無い。そこで私は当初陽動だと思っていた」
「つまり本来の目的地は別の場所だと?」
翠が尋ねると、ニックは「当初はな」と言葉を繰り返した。
「しかし今も目的地は日本だと言われている、ということは日本には何かあると見るべきなのだろう。だがこれは、おかしくないだろうか?」
「おかしいか?」
既視観に襲われながらも御嶽が問い返す。するとニックは力強く頷いた。
「おかしいんだよ。なぜ私達が知らないことをバグアが知っているんだ?」
「‥‥どっかから情報が漏れた」
「あるいはスパイってところだね」
ニックがもたらした情報を噛み締めながら、能力者達はそれぞれラスト・ホープへと戻っていくのだった。