●リプレイ本文
能力者達はナタリー研究所の面々とともに近くの演習場まで来ていた。かなり広い場所のようで新型のナイトフォーゲルが三機並んでいる。
「わおv」
MIDOH(
ga0151)が思わず歓喜の声を上げる。他にもどこかしこと似たような声が上がっていた。しかしナタリーを始め研究所の所員は浮かない顔をしている。
「お疲れですか」
リチャード・ガーランド(
ga1631)の差し出す飴を笑顔で受け取り、ナタリーは早速口へ運んだ。
「やっぱり疲れたときは糖分よね〜」
どこか親父臭い台詞が聞こえてくる。リチャードは直感した、聞かないことにした方が良いと。そして視線をナタリーから新型ナイトフォーゲル、F−107バイパーへと向けていた。
「さて、では演習を始めましょう。乗りたい人から順番に乗るように、割り込み禁止ね」
演習を始めるにあたって、ナタリーは簡単に演習項目の説明に入った。飴を食べたからなのか、いつも着ている白衣を今日は着ていないためなのか、いつもよりフランクに話し始める。
「今回の演習は表向き射撃練習、特に命中を確かめることになっているわ。一応静止目標ってことになっているけど物足りなかったら的動かすんでヨロシク」
「質問してもいいか?」
須佐 武流(
ga1461)が挙手して発言を求めた。
「新型機に乗せてもらえるのは嬉しいが、わざわざ俺達がする必要はあるのか? AIに確認させれば済むだろ?」
「その通りよ」
須佐の質問にナタリーは素直に認めた。
「ここから先は私の推測になるから余り大きな声では言えないけど、今回のテストの本当の目的は正規軍人以外にKVを触らせることにあると思うわ。本当に性能テストしたければ、ここにエンジニアの二三人はいるはずでしょう?」
そう言われて皆一斉に周囲を確認する。確かに辺りには能力者達とナタリー研究所の所員しかいない。
「つまり、今回のテストはバグアの襲撃が近いこと、あと今度の襲撃には貴方達にも力を貸してもらうということを理解してもらうためでしょうね。こんなこと、上の人間は立場上言えないし、普通のエンジニアはそこまで考えていないでしょうし」
「ということは変形しても問題ないのでしょうか?」
大曽根櫻(
ga0005)が尋ねる。しかし今回はナタリーも承諾しない。
「変形機構の制御装置切ってあるから、やると死ぬわよ」
大曽根も須佐も絶句した。
「私もKVの開発に直接関わったわけじゃないからはっきりとは言えないけど、例えば今回使うバイパー一機でも小国の国家予算くらいになると思うわ。それだけは認識しておいてね」
現実的な問題になったためか場が急に静まり返った。その中で建宮 潤信(
ga0981)が次に発言を求めた。
「経済的な話の中発言しにくいが、KV内蔵の固定武装と言うものはないのだろうか?」
「それは私も気になるな」
崎森 玲於奈(
ga2010)も同意する。
「見たところ内蔵武器らしきものが無い。どうなっているのだろう?」
ナタリーが軽く溜息をついて答えた。
「内蔵武器の予定はありません。今回は固定ですが、武器は基本的に能力者自身で選んで装備できることになっています」
「ということは今後高周波刀等の近接武器も開発されるのかしら?」
緋室 神音(
ga3576)が期待を込めて尋ねる。ナタリーは苦笑を浮かべて答えた。
「そんな意見を吸い上げるために、私達が今回の任務に当てられたと思うわ」
早速能力者達は順にバイパーに乗り込む。そして乗り終わった者は研究所所員達とお茶を飲みながら感想を語り合っていた。
「やはりレーザーは減衰率が激しいわね。レールガンのような電磁加速式の銃は作れませんか?」
リズナ・エンフィールド(
ga0122)が雪子・レインフィールド(
ga3371)の作ってきたおにぎりを片手に話しかける。遠距離射程銃ということでジェーンが嬉しそうに相槌を打っていた。
「特に雨天時は酷い。天気に左右されるのはどうかと思うわ」
「そうですね、水中では本来の半分の射程も出ませんでした。何かいい方法ありませんでしょうか?」
かつて自衛隊に所属していた里見・さやか(
ga0153)は空からだけではなく海上から襲撃も考えていた。そこで水際を叩くといういわば常套手段をシミュレートしたわけだが、結果的にはあまり芳しくはなかったらしい。
「二〇粍機関砲の方は水中でも問題無いようですが、威力の方に難があるようです」
「KVが万能兵器ということで考えられていますが、水中戦を考えると運用が難しいのは事実ですね。人によっては20mmでは物足りないと感じる人もいるでしょうし、ポールに相談してみますか」
「しかし持ち替えできるように重量は軽めでお願いするでござるな」
雪子は鏑木 硯(
ga0280)におにぎりを差し出しながら言う。一方ジェーンは大曽根の作ってきたおはぎに舌鼓を打っていた。
「でもロックオンまでの時間や反動は少なめでお願いしますね」
紅一点女の中に一人だけ男の鏑木が混じっていたが、不思議と誰も気を止めなかった。
「ところで今回使われなかったという帯電粒子加速砲はどのようなものなんだ?」
テストを終えて、ライアン・スジル(
ga0733)はポールに話しかけていた。
「バルカンとレーザーは使わせてもらった。ブレや反動も少なく非常に使いやすい、だが帯電粒子加速砲の充電時間を間に合わせるには辛くないだろうか?」
M−1帯電粒子加速砲を使用するためにはいくつかの制約がある、その内の一つが充電時間だ。人によって異なるものの、M−1帯電粒子加速砲を撃つためには五〜二十秒ほどかかると言われている。
普段生活している分では五〜二十秒というのは決して長い時間では無い。しかし戦闘時においては死活を別つに十分な時間である。
「まだ調整中ということだが、一応な」
だがポールは「無理」とはっきり答えた。
「その開発には直接ではないが俺も一枚噛んでいる。ヘルメットワームに一矢報いるために何とか攻撃力を上げられないか、ってことで多くの攻撃力馬鹿に相談持ち寄られたんじゃないか? その結果、充電という答えが出たのかも知れないな」
傍にいた建宮 潤信(
ga0981)も話に参加する。
「運用の仕方で、欠点を埋めることが可能だが‥‥そうなると汎用性が問われるな」
「だがこれ以外でヘルメットワームに致命傷を与えることは出来ん」
現在ヘルメットワーム一機に対しナイトフォーゲルは数機がかりで対抗している。それだけの性能差の開きが両機にはある。
「加えてヘルメットワームの上位機が出るようなことがあれば、俺達では手も足も出せん」
「上位機? あるのか?」
建宮が尋ねると、ポールが遠い目をして答えた。
「ある。でかい作戦の時にしか出てこないがな」
日も傾き始めた頃、最終搭乗者となったドクター・ウェスト(
ga0241)、嶋野輪(
ga1453)、櫻小路・なでしこ(
ga3607)の三人がバイパーから降りてきた。しかし初搭乗ということもあってか、三人の顔には疲労の色が浮かんでいる。
「大丈夫か?」
マイクが尋ねる。しかし降りるところで何も無いところで転倒した櫻小路は、まだ失敗を引きずっているのかうなだれている。一方、転倒した櫻小路を助けようとして同じく転倒した嶋野は彼女を慰めていた。
「大丈夫ですよ、失敗は誰にでもありますって」
「しかし最後の最後で失敗してしまうとは情けないです。加えて嶋野さんまで巻き込んでしまうとは‥‥」
「私なら大丈夫ですよ、身体だけは丈夫ですから」
櫻小路が見たところ嶋野は確かに怪我をしている様子は無い。隣で泥だらけになったバイパーを眺めているマイクの方がよほど体調が悪そうだった。
そして他者の運転を観測するために最後に回ったドクターは、ナイトフォーゲルのGの凄さに口から魂を吐き出しかけていた。
「もうすこし何とかならないかね〜‥‥」
「そればかりは慣れてもらうしかないわね」
背後から声をかけられる。ドクターが振り向いてみると、ナタリーが立っていた。
「先日は貴方の研究所の所員様から試作品を貸していただきありがとうございました」
「けひゃひゃ、何かの参考になったかね」
「何とか実用したいとマイクが頑張っています」
敵に攻撃させないことをメインに考えるマイクは、以前キメラの動きを封じる方法としてトリモチを考案した。しかしいくつかの事情から材料の変更を余儀なくされ、そこで持ち出されたのがウェスト研究所で作られている試作品だった。
「一つ尋ねたいのだが、もしかしてニック=ランドールという人物はここの社員だったかね〜?」
ドクターはテキサスでニックというサイエンティストと会っていた。しかしナタリーは残念ながらニックには会ってはいないという。
「ですが聞き覚えはありますね、多分ジョンの知り合いの一人だったかと思います。機械関係に強く、今もどこかで研究をしていると伺っています」
「例えばこの超機械一号とかにも詳しいのかね?」
ドクターの野望の一つには電磁波による防御フィールドがある。ゆくゆくは個人装備にしたいという大きな野望だった。しかしナタリーは「さぁ、そこまでは‥‥」といいつつ苦笑を浮かべるのが精一杯だった。
「ですがSES搭載武器はどうしても限られた環境でしか研究できません。いくら機械に強くとも超機械にまで強いという人は少ないと思います」
「ふむ」
思ったほどの収穫が無かったためかドクターはあまり釈然としていない。そんな彼にナタリーは言う。
「ですが構想自体は興味深いですね。何か分かりましたら連絡しましょう」
こうして得られたいくつかのアイディアを元にナタリー達の研究の日々がまた始まるのだった。