タイトル:サンライズ孤児院マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/15 15:32

●オープニング本文


 西暦二千七年十月、アメリカ北部の寒空には今日も元気な子供の声が響いていた。彼ら、彼女らは戦乱の最中親を失い、現在サンライズ孤児院に身を寄せている子供達だった。

 『日はまた昇る』
 それが創設者モーリス=グリーンの遺志だった。しかし彼も既に他界、今は妻のジェニファー=グリーンと、孫娘ジャスミン=グリーンが切り盛りしていた。 
 女性二人での経営は何かと問題はあったが、利益を追求しているわけではない。子供の笑顔のために二人は身を粉にして働いていた。

 しかし冬を前にした今、二人は悩んでいた。バグアとの抗争の激化のためか孤児が増え、食料と毛布が不足していたからだ。
 利益を追求しているわけではないので、過剰な食料が欲しいとは考えていない、多少の蓄えがあればいいと思っている。しかし不足するとなると大問題だった。

 窓から聞こえる子供の声を余所に、グリーン母娘は理事室で二人顔をつき合わせて今後のことを話し合っていた。
「とりあえずあたしが各方面に交渉してみるわ。ジャニーは子供達に動揺を悟られないように」
 母ジェニファーは娘ジャスミンに注意した。外で遊ぶ子供達には聞こえないように小声での注意だった。
 しかし理事室の扉に耳を当てていた三人には、全てが聞かれていた。
「ご飯たりないらしいぞ」
「毛布もみたいだな」
「‥‥ここは俺が一肌脱いでやらないとな」
「俺達だ、バカ」
「バカという奴がバカなんだぞ」
 三人の子供はお互い罵りあいながら、理事長室から一歩一歩遠ざかっていったのだった。

 そして夕方、三人の子供が揃って姿を消した。事実を知ったジャスミンは慌てて理事長室へと訪れていた。
「ハーリー、サムソン、トムの三人が姿を消しました。どうしましょう」
 通称ハムサンドと呼ばれる悪ガキだった。いろんな問題を起こす三人ではあったが、同時に孤児院内でのムードメーカーでもある。
「やはり昨日の件、聞かれていたのでしょう‥‥」
「かもしれませんわね」
「ULTに頼む方が早いかもしれませんね」
 それほど余裕があるわけではなかったが、子供の命に代えられるものは無い。ジェニファーは孤児院の経営者として子供の捜索をすることにしたのだった。

●参加者一覧

フィオ・フィリアネス(ga0124
15歳・♀・GP
メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
トウィッグ(ga0857
17歳・♂・FT
リン(ga1215
22歳・♀・SN
hiroki(ga1540
11歳・♂・SN
ムニムニ(ga1789
14歳・♂・SN
レーヴァ・ストライフ(ga1925
28歳・♂・FT

●リプレイ本文

「‥‥故郷に錦、とか言える雰囲気じゃないわね」
 街の郊外に着陸した高速艇を降りながら、フィオ・フィリアネス(ga0124)は思わず涙した。
 見えるのは弾痕の跡のある建物、聞こえるのは肌を切り裂くような風の音、ただそれだけだった。
「これが今のアメリカということだろうな」
 フィオの背後から御影・朔夜(ga0240)が声をかける。しかし現状を憂う様子はなく、数時間振りの煙草を満喫してようだ。
「建物が原型を留めてるってだけマシじゃないか?」
 屋根があれば雨が凌げる。壁があれば風が凌げる。両方あれば寒さが凌げる。冬を前にした北の都市にとってそれがどれだけ大きな意味があるかは計り知れない。
 しかし‥‥
「‥‥言葉を選べ、朔夜」
 レーヴァ・ストライフ(ga1925)がスピアを片手に高速艇を降りる。そして降り立つと、正面から御影を見据えた。
「世の中おまえのような人間ばかりではない。何故それが理解できん?」
「理解してるさ。例えばおまえは俺を殺したがっている、とかな」
「ちょっとまって」
 さすがに不穏な空気を感じたのか メアリー・エッセンバル(ga0194)が二人の間に割って入る。
 一方でトウィッグ(ga0857)は御影とレーヴァ双方に義があると判断し、二人の争いには手を出さず、刀の手入れを始めていた。そしてリン(ga1215)はフィオのそばに近づきハンカチを差し出していた。
「今の状況を変えるために私達はいる。そうでしょう?」
「‥‥そうね」
 フィオはリンからハンカチを受け取ると、再び街を、現実を直視したのだった。

 その後能力者達は孤児院に立ち寄り写真を譲り受けると、事前に話し合ったチームに分かれて捜索を開始した。
 しかし本部に申請したバイクは許可が下りなかったらしく、手渡されたのは骨董品の通信機だけだった。
「急だったからバイクを回してもらえなかったのか、それとも本部が財政難って噂は聞いていたが‥‥」
 トウィッグが唸った。
 バイクも借りられず、ナイトフォーゲルも使えない以上、自分の足で歩くしかなかった。
「通信機借りられただけ良しとしましょ。年代物みたいだけど、一応ちゃんと使えるみたいよ」
 フィオが通信機に向かって呼びかけると、メアリーの声が聞こえてくる。
 多少ノイズが混じっているが、通信には問題はなさそうだ。
 フィオは通信機の電源をオフにし、再び捜索を開始した。
「もう一組には連絡しないでいいのか?」
 トウィッグが尋ねる。するとフィオはしばらく考えて答えた。
「今通信入れると、また喧嘩になりそうだからやめておくわ」
 トウィッグは苦笑するしかなかった。 

 問題の二人はまだ孤児院のそばにいた。孤児院の裏手に足跡らしきものを見つけたからだった。
 大きさ的には子供のものでも女性のものでもない。大人の男のものだと推測された。
「どう思う?」
 レーヴァが尋ねると、御影は一言で「知らん」と切って捨てた。
「こんなところで監視すべきものなど見当がつかん。また誰かが生活しているとも思えん。暮らしたければ孤児院の手伝いでもしながら生活するほうが合理的だ」
「そうだな」
 御影の言うことは正論だろう。しかしレーヴァには素直に納得できなかった。
「人にはそれぞれ事情があるのだろう? 孤児院の手伝いをしたくてもできない人かもしれんぞ」
「だったらこの足跡をつけさせてもらおうではないか」
 二人は周囲を警戒しつつ、足跡を追った。

 一方通信を受けたメアリーとリンは公園で暮らす親子に何とか交渉を持ちかけていた。
 ハムサンドの写真を見て親子は明らかに反応したのだが、二人して知らないと主張していたからだ。
「何とか教えてはいただけないでしょうか?」
「あんたらが何者かわからないのに教えられるわけがないだろう?」
 おばさんは決して口を割らなかった。子供はおばさんの後ろで小さく隠れている。
「この子達が孤児院から逃げ出したらしいんです」
「子供はやがて成長する。孤児院にいつまでもいるわけにはいかないだろう?」
 中々交渉が発展しないため、リンは子供の方に話しかけた。
 近くに落ちていた紐を使って罠の要領で簡単な手品をして見せると、子供は素直に驚いていた。
「すごいね、お姉さん。ハムサンド君達にも見せてあげたいよ」
 そんな感想を漏らす子供に、リンは素早く聞き返した。
「彼らの居場所知ってるの? 良かったら教えてくれる?」
「あっち」
 子供が指を刺す方向にはビルが建っている。
 そして子供の隣ではおばさんが頭を抱えていた。

 その頃、フィオとトウィッグはある農家の家で一人の老婆と話をしていた。どうやらハムサンドのことを知っているらしい。
「彼らはね、たまにやってきてはあたしの話を聞いてくれるんだよ。一人暮らしのあたしにとっては唯一の楽しみだね」
 他にも同じようなことを言う老人が数人いた。彼らも話を聞いてくれたお礼にお駄賃を上げていたらしい。
「一回五セントくらいじゃな。あたしなんかにゃ息子も娘もいないからね、残ってもしょうがないお金なんだよ」
 そんなことを言いながら嬉しそうに笑う老婆。どうやら本当にハムサンドのことが好きらしい。
「そういえば、そのお金でどうするとか聞いてないか?」
 小額ながらも金が手に入っているのなら、何かを購入している可能性がある。しかし老婆は首を横に振った。
「普通に考えれば食料か毛布よね」
「小額なら食料品だろうな」
 フィオとトウィッグは老婆に礼を言い、食料品店を回ることにした。

 御影とレーヴァが捕まえたのは小太りの男だった。身なりから多少裕福な家庭に育っていることが分かる。
「孤児院に何の用があった?」
「ひぃぃぃ‥‥」
 男は御影とレーヴァの二人に詰め寄られ、今にも泣きそうな表情を浮かべている。
「知っていることがあれば残らず吐いた方が身のためだぞ」
 そこまで言われて、男は知っていることを全て吐いた。
「ぼっ、僕は、僕はね、ただジャスミンさんが好きなだけなんだ」
「‥‥」
「優しくて、綺麗で、子供が好きで‥‥最高なんだよ」
 腰を抜かしながらも必至に逃げようとする男に二人は愛想を尽かしつつあった。
 しかし、ここでレーヴァに一つの考えが浮かんだ。
「‥‥ならば、そのジャスミンのために一肌脱いで見たいと思いませんか?」
 急に敬語に変わった口調が男にはより一層恐ろしく思えた。

 廃ビルについたメアリーとリンは扉の前で考えていた。
「ハムサンド君、結構罠とかにも詳しいのかしら?」
 扉にはマッチが挟んである。
 リンはマッチを取ってポケットに大事にしまい、扉を開けた。
「ハムサンド君、います? 先生達が心配してるよ」
 反応が無い。どうやら三人はいないようだ。
 何か手がかりは無いものかと捜索した結果、メアリーが一冊のノートを発見した。
「七月十日五セント、十五日八セント、十八日三セント‥‥何でしょう?」
「セント、といっている以上お金でしょう。何か欲しいものがあったのではないでしょうか?」
 メアリーが再度ページをめくる。すると大きく文字が書かれているページがあった。
「『食べ物をいっぱいにふやすまほうを見つけたぞ』」
「魔法?」
 リンが問い返すと、メアリーは更にページをめくる。しかし、魔法について詳しく書かれている所は無かった。
「とりあえず、食べ物を探しに行ったって事でしょうか?」
「ですね」
 ノートを元の場所に戻し出て行くメアリー。その後リンがマッチを扉に挟み、二人はフィオとトウィッグに通信を入れた。

 同時刻、ある食料品店で三人の子供が店員に捕まっていた。店員は三人を万引きに来たのだと考えているらしい。
「金持っているのか?」
「持ってるって。ほらここにあるじゃないか」
 子供の一人がビスケットの空き箱を差し出す。そこには一セントや五セントといった小額貨幣ばかりが入っていた。
「‥‥ガキがよくもまぁこんなに集めたもんだ。どこで拾った?」
「拾ったんじゃないやい。お小遣いを貯めたんだい」
「僕達はしごとをしてたんだ。そのお金はぼくたちのきゅうりょうなんだぞ」
「五月蝿い!」
 店員が一喝した。
「仕事といいつつスリでもやってきたんじゃないのか?」
 店員は箱を奪うと、子供達を店から追い出した。

 何も買えず、お金さえも奪われて途方に暮れる三人。
「どうしよう? ハーリー、サムソン」
 今にも泣き出しそうなトム。
「黙ってろ、次の手を考えてるから」
 髪を掻き毟るハーリー。
「でも何も浮かんでこない、っと」
 誤魔化そうとするサムソン。
「基地に帰るか」
 誰ともなくそう言うと、三人の視界に影が映った。
「話を聞かせてもらえるかしら?」
 三人が声の聞こえた方向を振り返る。そこにはフィオとトウィッグがいた。
「げっ」
 逃げ出す三人。しかし三人の行く手にはメアリーとリンが待ち構えていた。
 
 四人がハムサンドをつれて孤児院へ帰還すると、入り口では御影とレーヴァが毛布を運んでいた。
「どうしたんです?」
 尋ねるメアリー。御影が答えた。
「孤児院の一大事を知って支援を申し出るって男がいたんだ。こちらの事情を話したら例の三人の手がかりも調べておくから、とりあえず毛布だけ運んでくれって言われてな」
「三人とも見つかりましたけど?」
 メアリーの足元に三人の子供が立っている。しかし御影は三人を無視して続けた。
「おまけに俺達への依頼料も肩代わりするらしい。まるで神だな」
 御影の口元は笑っていた。

 その後、ハムサンドの三人が店員から買ってきたジャガイモをジャスミンに手渡した。
「聞いた話なんだけど、これでイモが増えるらしいんだ。だから先生、これ植えようぜ」
「よく知ってたわね。でも育て方も知ってるの?」
 ジャスミンが問うと三人は声をそろえて答えた。
「もちろん」
 先ほどまで『ポケットにでも入れとけば勝手に増える』と信じていた三人の様子を思い出し、メアリーは忍び笑いをするのだった。