●リプレイ本文
「アリさんも怪我やら病気で弱った人間だらけの場所を狙うとは、頭良いんだかセコいんだか」
「それは難しいところよね。キメラの狙いが人間とは限らないし」
院内を早足で駆け巡りながら、吾妻 大和(
ga0175)と麓みゆり(
ga2049)は言葉を交わしていた。本来病院内では早足で歩くこともあまり褒められた行為ではないだろうが、今回は緊急である。
その証拠に能力者達の首には立ち入り許可書と院内用PHSがかけられて、手には院内の見取り図が握られていた。
「人間じゃない?」
聞き返す吾妻に麓は地図を指差した。
「病院には高価な薬品や機械があるでしょ。そっちが狙いの可能性もあるわ」
二人の地図にはルーシーから確認した優先的に確認する部屋に印がつけられている。その部屋の中にはボイラー室、オペ室、ナースステーション、守衛室などが挙がっていた。
「‥‥ま、アリに好き勝手させるわけにはいかないわな。いっちょやりますか」
二人はまず始めに手近なボイラー室へと向かった。
同時刻、屋上では間 空海(
ga0178)と烈 火龍(
ga0390)がキメラアント(羽根)によって作られたと思われる穴を発見していた。間が全体連絡役のシャロン・シフェンティ(
ga3064)に連絡、烈は応急処置として穴を塞ぐように板を固定していた。
「目標の穴一箇所目を発見、現在修復中です‥‥了解」
「‥‥シャロン君は何と?」
通話が終了したのを見計らって烈が尋ねると、穏やかな表情で間は答えた。
「穴はまだ私達が見つけたのが最初らしいけど、患者さんの移動は順調に進んでいるみたいですね。特に大きな混乱は今の所無いようです」
「ふむ、まだ一つ目アルか」
今までの事件では四つの穴が確認されている。今回もまだ三つは残っていると見るべきだろう。
「他の部隊も穴の捜索とキメラアントの発見に全力を上げているということです。私達も頑張りましょう」
「そうでアルな」
烈は双眼鏡を手にし、這い登るキメラアントとキメラアント(羽根)の再襲撃に備えたのだった。
「‥‥こちら地上班ランドルフ、東側部分側面に穴を発見しました。おそらく二階天井部分か三階床あたりだと思われます」
ランドルフ・カーター(
ga3888)と水理 和奏(
ga1500)は病院の外、地上部からキメラアントの襲撃と穴の発見を行っていた。まだキメラアントは確認できていないものの、穴の発見が皮肉にもキメラ襲撃が迫っていることを予感させている。
「‥‥了解しました。お願いします」
通話ボタンを押すと同時に、ランドルフは一言「悪くないな」と呟いた。
「どうしました?」
不思議そうな顔で見つめる水理、ランドルフは遠くを見つめて答えた。
「すぐに院内班を派遣してくれるそうです。それとあなたに伝言で突っ込み過ぎないように、と。」
「そんなに僕がはねっかえりに見えるのかな?」
更に首をかしげる水理にランドルフは優しく諭した。
「キメラアントは一体に攻撃を集中させる習性があるようです。新しい武器を購入して喜んでいたあなたのことを、彼女なりに心配しているのでしょう」
後半はほとんどランドルフの推測だが、それほど外れてはいないだろうという自信が彼にはあった。年長者の経験というものだろう。
「また穴は屋上でも発見されたそうです」
「ということはあと二箇所だね」
水理の問いにゆっくり頷くランドルフ。そして二人は再び巡回を再開した。
今回の依頼に関し、能力者達は『穴は一つの除いて全て塞ぐが、玄関は開けておく』という作戦を採った。出入りを一箇所に限定することでキメラの動きを見るという意味合いも含まれている。そしてもっとも戦闘が起こりやすいと思われる玄関にはホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が控えていた。
「‥‥そちらの様子はどう?」
「ルーシーは俺に惚れているかもしれないな」
「私に冗談は必要ないわ」
「これは失敬」
ホアキンは玄関外で煙草を咥えながら周囲の警戒に当たっていた。しかし普段見ない人物が玄関に立っているということで警戒する患者もいるらしく、冗談を言って場を和ませていた。
「今の所異変は無い。あと穴を一つ発見した」
「応援は必要か?」
尋ねるシャロンにホアキンは不必要である旨を伝えた。
「玄関横、地上スレスレの位置に穴があけられている。玄関とともに俺が監視しよう」
「了解」
通話が切れる。ホアキンはPHSを懐に仕舞うと、空に向けて煙を吐いた。
煙はしばらくその場を漂っていたが、やがて見えなくなった。
キメラアントが襲ってきたのは院内班が最後の四つ目の穴を塞ぎ終わった頃だった。
「玄関前にキメラアントが出現、数五、羽根つきは未確認。至急玄関に向かえ」
シャロンは院内班、屋上班、地上班全てに連絡した上で、自らも玄関へと向かった。
「‥‥良いデータは取れそうですな」
覚醒し、肩を揺らしながら不気味に笑うシャロン。彼女が玄関に着いた頃にはホアキンと水理がすでに戦闘に入っていた。最初から戦っていたホアキンが集中攻撃を受けているようだが、勇ましく戦っている。
「闘牛士は常に一撃必殺を旨とせよ、だ」
豪破斬撃を発動させ触覚を狙うホアキン、Lv10まで強化された彼のソードの一撃は確実にキメラアントを捉えていた。五感が狂ったような様子は見せないものの、キメラの動きは確実に鈍くなっている。
「五感が無いのか、こいつらは?」
「キメラだから普通のアリと一緒にしてはいけないということでしょうね」
シャロンが答えつつ、練成治癒を発動。ホアキンを完全回復させる。
「五感に関しては僕も同感。こいつら引くということを知らないよ」
水理も新調したルベウスでキメラアントにダメージを積み上げていく。しかしキメラは動かなくなるまでホアキンを攻め続けている。
「まずは患者さんの誘導をお願い」
場所が玄関付近ということもあって、まだ多くの患者が逃げ遅れている。
「一般人がいては実験も行えないな」
シャロンはこれを承諾し、ちょうど到着したランドルフと二手に分かれて待合室と玄関近くにいる患者を誘導させる。そして誘導が完了した頃には院内班である吾妻、麓と屋上班である間、烈も玄関に到着。キメラの数が多い分時間はかかったものの、一匹ずつ確実に倒していくことで無事全滅させた。
「無事何とかなりましたね」
話で聞いていたキメラアントはかなり硬いと言うことだったが、無事退治できたことに麓は一安心していた。
「ルベウスと研究所での強化のおかげかな」
「だろうな」
シャロンは何らかの効果が得られないものかと救急セットから消毒薬を取り出しキメラアントにかけてみていた。だが大した変化は見られないという結果だった。
「あとは属性が合えばよかったけどね」
今回の戦闘で役に立ったルベウスだったが、キメラアントには特別な効果は得られなかった。
「あとは事後処理だな」
吾妻の言葉に再び能力者は散開した。
屋上班である間と烈は再び屋上へと戻りキメラアント(羽根)が襲ってくる様子が無いかの観測に入る。
「これで終わりにしてもらえればありがたいのですけどね」
「羽根蟻が残っている以上、また同じような事件が起こるアルからな」
しかしキメラアント(羽根)は姿を現さなかった。
地上班の水理とランドルフはたまたまその日通院に来ていた外来患者を見送っていた。
「多分もう大丈夫、安心して帰ってね」
「年寄りが見送るというのもおかしな話ですけどね」
院内班の吾妻と麓は一時的に避難してもらっていた患者の誘導を行っていた。
「変に動くと傷口開くから気をつけてね」
「それと多少棚の配置が変わったけど気にするなよ」
穴の位置を地図に書き記し、ルーシーにPHSや立ち入り許可書を一緒に手渡した。
玄関班のホアキンは同じような事件が起こったときに備え、避難体制の徹底を依頼した。
「キメラアントにも女王アリがいるかは不明だが、可能性は否定できないからな」
そして今回連絡役だったシャロンは帰りの高速艇の中でも今回得られたデータをまとめていた。
「クク‥これで私の研究がまた一歩‥‥」