タイトル:最年少の能力者マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/04 04:54

●オープニング本文


 西暦二千七年十月、ある夜のこと、ジェームス=トンプソンは軋むベッドに腰を下ろし、三年にも渡る禁煙の誓いを破って煙草に火をつけた。
「ふぅ」
 肺の中に煙を循環させる。
 久しぶりに味わうニコチンの味は、ジェームスに懐かしさを同時に血の臭いを思い出させていた。
「またあの世界に戻るべきなのか」
 誰もいない部屋で煙草の火を見つめながらジェームスは一人考えていた。

 事の発端はジェームスが軍を辞め、今の場所に住み着いたことに始まる。多くの死体を見てきたジェームスは子供のために逃げることを主体とした戦闘講座を行ってきた。そして能力者にも協力してもらい、逃げることの重要性や機転の利かせ方を教えたつもりだった。
 しかし自体は違う様相を呈した。子供達が能力者に興味を覚えたのだ。

「あたしも能力者じゃないのかな?」
 一番始めに言い出したのはマリーという最年少の女の子だった。まだ六歳になって間もない少女は自分とそれほど年の離れていない少女が戦う姿を見て、自分も能力者ではないのかと言い出したのだった。

「町の中で一人か二人いる程度の確率なんだぞ」
 ジェームスはマリーに何とか思いとどませるようにした。しかしマリーにはジェームスの言っている言葉が分からなかった。
「おじちゃん、何言っているのか分からないよ」
 ジェームスは思案した結果、マリーが能力者ではない確率に期待することにした。

「陽性ですね」
 最寄のUPC支部で能力者適性検査を受けた結果を、サイエンティストと思われる女性が伝えた
「お嬢さんは能力者になれます」
「‥‥」
 ジェームスはすぐには自体が飲み込めなかった。しかしジェームスの隣ではマリーがジェームスの袖を引っ張っている。
「おじちゃん、あたし能力者になれるんだね」
 マリーの瞳は輝いていた。ジェームスは「そうだな」とそれしか言えなかった。

 町へ戻った後、マリーは仲間に能力者になったことを自慢していた。
「あたし、能力者になれるんだって」
「凄いじゃないか」
 仲間はマリーを羨ましがっていた。
「あたしは能力者になってみんなを守るんだよ。おじちゃんもあたしが守るんだ」
「何で俺達がマリーに守られなきゃいけないんだよ」
「あはは」
 
 軽く睡魔に襲われながらジェームスは一計を案じた。
「また能力者に頼むか」
 できれば子供を血と硝煙の世界に足を踏み入れて欲しくない、それがジェームスの切実な願いだった。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
リリィ(ga0486
11歳・♀・FT
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
風巻 美澄(ga0932
27歳・♀・ST
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
ルドア・バルフ(ga3013
18歳・♂・GP
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 待ち合わせ場所のホテルの廃墟の外で、依頼人のジェームス=トンプソンは能力者達を待っていた。
 かつてUPC軍の兵士として戦った老人の姿は、六十を過ぎた今でも現役でいけるのではないかと思わせる程の筋肉に覆われていた。
「遠方よりわざわざ申し訳ない。まずはマリーを紹介しよう」
「こちらこそ、よろしくお願いする‥‥」
 初任務ということもあり、多少緊張の色の見える終夜・無月(ga3084)にジェームスは握手を求めた。
「気負い過ぎないで良いよ」
 何を知っているというのか、初対面の終夜に対しジェームスはそんな言葉をかけた。
 そして戸惑う終夜を後に能力者達をホテルの跡地へと案内する。だが、肉体的にはまだ若いものの歩き方がぎこちないことに御影・朔夜(ga0240)は感慨深く見つめていた。 

 今回の依頼目的であるマリーの説得。そこでジェームスは、まず始めに今のマリーの心情を確かめるためにも能力者の紹介を兼ねて会わせる事にした。 
「あ、マリー! 久しぶりだね♪ 元気だった? ジェームスのおじちゃんもこんにちは!」
 愛紗・ブランネル(ga1001)が屈託の無い笑顔でマリーに挨拶をする。
 マリーは二度目の能力者達の来訪を心から歓迎した。しかし依頼人であるジェームスをマリーの気持ちには大きな隔たりがある。
 ジェームスはマリーを説得してくれる役として能力者を歓迎。一方マリーは先輩能力者から体験談が聞けると信じての歓迎だった。
 そのためかマリーの目には期待の色が伺える。
「マリーね、実は能力者になれるんだよ。これから一杯敵を倒すんだから。愛紗‥‥さんも一杯敵を倒したんでしょ?」
 所々遠慮を見せつつも、マリーは愛紗に友人のように話しかける。しかしマリーの質問に愛紗は言葉を濁した。
「え? 愛紗? ‥‥うーんと、能力者になってまだそんなに年数は経ってなかったりするんだよね。実戦経験だって少ないし」
 そこでフェブ・ル・アール(ga0655)がフォローを入れる。
「あれだぞー、能力者になったら友達とずっと一緒にいられないかもだよー? ご飯も好き嫌い出来ないしー、マリーは夜一人で寝られるかにゃー♪」
「マリー、好き嫌い無いもん! それに夜はいつも一人だもん!」
 怒ったのか悔しいのか、子供扱いされたマリーは泣き出してしまった。
 ファブは思わず頭を抱えた。
「子供扱いされるなんて、今の内だけだぜ」
 そんな言葉を飲み込んで、必至にあやすのだった。

 マリーへの紹介が終わった後、ジェームスは能力者達とともに別室でこれから行う作戦について耳を傾けていた。
「‥‥模擬戦闘か」
 武器は棒にホテルで使えなくなったような布団や毛布を厚く巻いたものを使用。リリィ(ga0486)が危なくないようにいろいろと配慮したつもりだったが、ジェームスは深いため息をついていた。 
「リリィの作戦、駄目ですか?」
 上目遣いで尋ねるリリィ。ジェームスはすぐに笑顔に戻ったが、瞳だけはどこまでも哀しげだった。
「前回も能力者達に模擬戦をやってもらったんだ、キメラやバグアの怖さを知ってもらうためにな。だがそれが今回のような事態を招いた」
 誰とも無く語りかけるジェームスの声には後悔の念が篭っていた。
「正しいことが正しく回るとは限らない世界、それが戦争です」
 如月・由梨(ga1805)がジェームスに話しかける。
「マリーさんもきっと分かってくれますよ」
 ジェームスは小さく「そうだな」と呟くと、立ち上がった。

 模擬戦闘と聞いて、マリーは始め喜んでいた。能力者達の凄い技などが見られると思ったからだ。しかし中身を聞かされると、抵抗し始めた。
「そんなの、ほとんどせんそうとかわんないじゃない」
 その時、マリーの頬に風巻 美澄(ga0932)の手が飛んだ。
 思わず倒れこむマリー。しばらく自分の何が起こったのか把握できていない様子だったが、やがて自分のそばに風巻が立っていることに気付く。
 自分の目線からゆっくりと上に視線を向け、目と目があったところでマリーの動きが止まった。
 風巻が怖かったのだ。

 当の風巻としては、どれほどの覚悟があるのか品定めをするつもりだったからだろう。だがある意味予想通りの実物を見せ付けられ、凍りつくほど冷たい視線をマリーに向けていた。
「‥‥ガキがいきがってんじゃないよ、気に入らねぇ。アタシらは遊びで戦争やってんじゃないんだ」
 そんな本音が見え隠れしたのだろうか、マリーには風巻が睨んでいるように映っていた。
 ルドア・バルフ(ga3013)もマリーが抵抗する様子を冷酷な瞳で見つめていた。
「お子様はまだ来るところじゃないんだ。甘い考えだったらいられるだけ邪魔だ‥‥」
 それからマリーは助けを求めるようにジェームスを、愛紗を、フェブを見つめた。
 しかし誰も手を差し伸べてくれないことを悟ると、やがて自分で立ち上がった。
「やります」
 そして模擬戦が始まった。

 模擬戦は傍から見れば悲惨なものだっただろう。マリーは涙を流しながら、如月の出す指示にただただ従っていた。
 右も左も分からずに飛び交うペイント弾や奇襲用の照明弾、そして怒号に踊らされるように、マリーは動くことしかできなかった。
 途中であまりの有様に見かねたジェームスの教え子の一人、ロイがジェームスに抗議しに来た。教え子の中でも最年長である彼は、おそらく全体の代表として抗議に来たのだろう。
 だが、能力者を始めジェームスもロイの訴えに耳を貸さなかった。
「何でこんなことするんだよ! こんなことして楽しいのかよ!」
 叫ぶロイ。しかしそれでも効果が無いと見るや、模擬戦を止めようと強硬手段に出た。戦闘区域に飛び込んで来ようとしたのだ。
 その気配を察知した御影は、ペイント弾を抜き取り実弾を再装填。すばやくロイの足元に二発の銃弾を打ち込む。
「おまえに入り込む資格は無いのだよ」
 短くなった煙草の火を消し、新たな煙草を咥える朔夜。煙草に火をつけ、銃にペイント弾を再装填という一連の作業を流れるようにこなすと、再び模擬戦に意識を集中させた。
 ロイは足元の銃痕から立ち上る煙を見つめるしかできなかった。

 模擬戦終了後、ペイント弾で汚れた衣服で涙を拭うマリーの下へ愛紗が駆け寄った。
 近くにあった椅子にマリーを座らせ、自分のハンカチを取り出し涙を拭う愛紗。一通り涙を拭き終わった後、マリーと視線を合わせるように自分も別の椅子に座り、足をぶらつかせながらマリーに語りかけた。
「適性があるって言われた時は、マリーと似たような感じだったかな。嬉しかったよ? ‥でも、まだ早いかなって思ったの。だから、ちょっとずつちょっとずつ‥経験を積んで、それで‥」
「それで?」
 問い返すマリーに愛紗は笑顔で答えた。
「急ぐことでも無いんだよ」
「そうそう、十年くらいは待って頂戴。商売敵が増えちゃうからね」
 いつしかマリーの周りにはジェームスと能力者達が、先ほどまで敵味方分かれて戦っていた者達が集まっていた。
 
 帰る間際、終夜はジェームスに自分の銃を渡した。
「あの子が俺達と同じ所に立つ時が来たら渡してください‥‥そんな日、来ないようにするつもりですけどね」
 だが、ジェームスは終夜に銃を返した。
「何故?」
 問う終夜、ジェームスは寂しげに答えた。
「マリーはいつか巣立つ、君達を見ていると何故かそんな気がしたよ。機会があればその銃で、マリーを守ってやってくれ」
 飛び立つ高速飛行艇の中で、能力者達は小さくなっていくジェームスを、ホテルの廃墟を見続けていた。