タイトル:孤児院に現れる不審者マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/04 04:35

●オープニング本文


 西暦二千七年十月、アメリカ北部のある町に小さな孤児院があった。孤児院の名前はサンライズ孤児院、どんな状況であろうとも再び日は昇るという祈りを込めて立てられた孤児院だ。
 創設者モーリス=グリーンはすでに他界しているものの、その妻であるジェニファー=グリーンと娘のジャスミン=グリーンの二人で今は切り盛りしていた。
 そんなサンライズ孤児院の玄関に、一人の小太りの男が前に立っていた。ハンス=ヒルター、二十八歳。親が社長である日用品チェーン店で現在経営学を勉強中の男だ。孤児院が毛布不足で悩んでいたところに無料で毛布を届けた救世主でもある。
 しかし一方で、以前からジャスミンを狙って孤児院の周囲に出没していたという過去もあった。
 そして今日はタキシードで身を固め、手には小さいながら花束を抱えている。
「‥‥よしっ」
 意を決してハンスは孤児院の扉を叩いた。

「ジャスミンさん、いらっしゃりますでしょうか?」
 緊張のあまり声が裏返りながらも尋ねるハンス。しかしその時ジャスミンは不在、現れたのは通称ハムサンドと呼ばれる孤児院の悪ガキ三人組、通称ハムサンド(ハーリー、サムソン、トム)だった。
「先生ならいらっしゃりませんですよ」
 冷静に答えるハーリー。
「理事長先生ならいらっしゃいますけど、どうしましょうか?」
「んじゃ俺が呼んでくる」
 サムソンが背中を向ける。慌ててハンスがサムソンを呼び止めた。
「いや、そこまではしなくていい‥‥また来るよ」
 ハンスは三人に背を向けて、孤児院を後にする。
「何しに来たのかな」
 サムは疑問に思いながらも、三人はハンスを見送ったのだった。 
  
 その後三人は理事長室に向かい、理事長であるジェニファーにハンスの来訪を伝えた。
「また来たのか。しつこいのか、本気なのか微妙だね」
 理事長であるジェニファーはハンスをあまり快く思っていなかった。いくつか理由はあるのだが、その中の一つにハンスがストーカー紛いの行為をしていたことにある。
「俺もあまり好きじゃないけど、孤児院を救ってくれたことは事実だよ」
 ハーリーが言うと、理事長は渋い顔になった。
 もちろん孤児院の窮地を救ってくれたことに恩義は感じている。しかし見た目といい、過去の所業といい好きにはなれなかった。
「お金さえあればいいってことでもないんだよ」
 とはいえお金が常に無いことも困り物、理事長はしばらく思案した上で能力者に依頼することにした。

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
柴村千鳥(ga0701
17歳・♂・GP
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
レーヴァ・ストライフ(ga1925
28歳・♂・FT
龍我・蓮(ga2804
20歳・♂・SN
レイニー・フォリュオン(ga3124
15歳・♀・SN

●リプレイ本文

「いきなり言うのもなんだが、金銭的な余裕はあるのか?」
 サンライズ孤児院の理事長室にてレーヴァ・ストライフ(ga1925)は依頼人であり、サンライズ孤児院の理事長であるジェニファー=グリーンに問いただした。
 今この場には今回の当事者とも言えるジェニファーの娘、ジャスミンもいない。
 そこでレーヴァとしてははっきり確かめたかったのだ。
「俺が言うのもなんだが、依頼料は決して安くないだろう? それがここの経営を悪化させるのであれば、控えた方が良い」
 二度目の依頼ということもあってレーヴァはジェニファーに遠慮することなく尋ねた。
 するとジェニファーはどこか哀しそうな表情で答える。
「お金なんて使うべきときに使えるから価値があるのですよ」
 金なんて人が死ねば使い手を失い、国が滅べば価値を失い、世界が滅びれば紙くずとしての意味も失う。それが五十年もの人生を歩んできたジェニファーの答えだった。
「無いと困るものに違いありませんが、一番大事とは言えませんからね」

 それから能力者達は、ジェニファーに考えてきた作戦について説明した。
「私を寡婦として雇っていただきたいのです」
 新しい寡婦の歓迎会という名目で食事会を行い、ハンスを呼び出そうというのが能力者達の考えだった。そして一番重要だと思われる新入り寡婦の役を藤田あやこ(ga0204)が務めるらしい。
「恋人と喧嘩別れした挙句、空腹で行く当ても無くしたということでお願いします。炊事洗濯何でもするから暫く置いてと嘆願した哀れな女という設定の方がハンスさんも疑わないでしょうから」
「そこまでしなくとも‥‥」
 そういいながらもジェニファーは言葉を続けるのを躊躇った。ハンスがジャスミンではなくジャスミンの境遇に惚れている可能性もあったからである。
「分かりました。ジャスミンとハムサンドにも話をつけておきましょう」
 こうして能力者達の作戦は実行に移された。

 能力者達の考えてきた作戦は以下のようなものだった。
 全員で八名の能力者をハムサンドとの買い物、独自に情報収集、孤児院で待機の三つの班に分けてそれぞれ行動。何かあれば孤児院に連絡するというものだ。
 また、歓迎会用の食事は藤田の好きなものということでバグラヴァとチキン・ケパブを作ることになった。
「材料の中に入手困難なものはありますが、その方が聞き込みするいい口実になるでしょう」
 というのが提案者藤田の弁だ。

 買い物に向かったのはエクセレント秋那(ga0027)、白鐘剣一郎(ga0184)、レイニー・フォリュオン(ga3124)の三名。
 自分達が能力者であることを原則隠し、ハムサンドとの話題にも注意を払うというのが作戦だ。
 また白鐘の提案で武器なども極力隠すように心がけていた。
「武器を持っているだけでも能力者と疑ってくれと言っているようなものだからな」
 とはいえバグアやキメラの襲撃の可能性も否定できない。そこでレイニーはバッグの中にアサルトライフルを隠し、買い物に付き添っていた。
「妙にでかい荷物だね」
 トムがレイニーの荷物の大きさに疑問を持ったが、「ボランティアお手伝い用のエプロンが入っているです」と答えると納得してくれた。
「ところで三人は好き嫌いあるのか?」
 白鐘がハムサンドに問いかけると、三人は揃って首を横に振った。
「ないよ」
「あるわけない」
「無理やり食べさせられるしね」
 食事を残すとジェニファー、ジャスミン両方にかなり怒られるらしい。
 経済的にも、この地域の物資の流通から見ても食糧事情は豊かとは言えないので当然と言えば当然のことかもしれない。しかし当然のことだからと言って必ずしもできるとは限らないものである。
「好き嫌いが無いって言うのはいいことなんだぞ。あたしみたいに強くなるためには何でも食べないとね」
 軽く力瘤を見せる秋那。元女子プロレスラーということだけあって、中々立派な筋肉をしている。
「すげーよ、姉ちゃん。これ、俺がぶら下がってもいいかい?」
 聞いてくるサムソンに二つ返事で答えると、何故か三人一緒にぶら下がった。一瞬戸惑いを見せた秋那だったが、まだ五、六歳の子供三人程度なら苦ではないらしい。
「孤児院に戻ったらもっと凄いもの見せてやるよ」
 そう言うと、三人は歓声を上げる。
「強いんだね。俺も強くなりたいよ」 
 サムソンは言う。それは憧れとも後悔ともとれる言葉だった。
「何かあったのか?」
 白鐘が尋ねると、サムソンは答えにくそうにしている。そこで残りの二人、ハーリーとトムに話を促すと、二人は一度サムソンの方を見てから理由を話してくれた。
 どうやらサムソンは先天的に身体が弱いらしい。
「よく分かんないけど、病気らしいんだ。そのせいで親から捨てられたって聞いてるよ」
「いつかは先生達を守れるほど強くなりたいって言ってるけどね。やっぱり無理なの?」
 白鐘は即答できなかった。
「身体の強さだけが『強さ』ではありませんよ」
 レイニーが白鐘をフォローする。
「真に鍛えるべきは心の方です。世の中、お金だけは持っていると言う人もいますからね」
 さりげなくハンスの話題を提供するレイニー。するとハムサンドも気付いたのか、それぞれ自分達の知っていることを話し出した。

 その頃、ハムサンド達とは別に皇 千糸(ga0843)、龍我・蓮(ga2804)の両名はナッツ類やマンゴーの調達を行っていた。
 二人も武器などを隠し、能力者であることを判断できないようにしての行動をとる。
 今回初任務である龍我は元々寡黙ということもあり聞き込みには向いていないように見えた。だが次第に慣れてきたのか、二三軒回った頃には世間話を交えながら聞き込みができるようになっていた。
「首尾はどう?」
 皇が尋ねると、「悪くない」と龍我は答えた。
「どうやらこの辺りで一番大きな店というのがファルマー商会という所らしいですね。何でも揃うとまでは言えませんが、日用品や食料なども置いているようです」
「大体似たような感じね」
 そう前置きして皇も自分の調査結果を話し始めた。
「あと私の方で分かっていることは、ハンスがそのファルマー商会の社長の息子であることとハンスが人見知りする人ってことかしら」
 ハンスとジャスミンの共通点は分からなかったものの、どうやらハンスは一途らしい。町の人もようやくハンスが人付き合いを覚えたのかと好意的に受け止めているようだ。
「中には玉の輿を狙っていた人もいるという噂だけど、そこまでは分からなかったわ」
「ふむ、仕方ないでしょう」
 人の感情というのは移ろい行くもの。ハンスほど直球であるならともかく、心の中に秘めているだけの思いを証明するのは難しいものである。
「そういえば先ほど微妙な噂を聞きました。ファルマー商会の社長がドローム社とコンタクトをとろうとしているようです」
 ドローム社といえば北米を拠点とするメガ軍事コーポレーションである。しかしドローム社が手がける分野は広く、ゲームソフトやお菓子、消しゴムに至るまで生産している。ファルマー商会がコンタクトをとろうとしてもおかしな話ではない。
「とりあえず、ファルマー商会に行って見ましょう。マンゴーとか買わないといけませんし」
 二人はファルマー商会へと歩き始めた。

 ほぼ同時刻、孤児院の方でも動きがあった。ハンスが姿を現したのだった。
 前回の手痛い失敗があったためか、今回は至ってラフな格好での登場だった。加えて正面からの登場ではなく、裏口から中の様子を伺っているようだった。
 妙な視線に気付いた柴村千鳥(ga0701)はレーヴァと協力して挟み込むようにハンスを追い詰めた。
「どのような‥‥用件ですか?」
 ゆっくりと柴村が尋ねると、ハンスは一度大きく喉を鳴らして答えた。
「きょ、今日歓迎会か何かあるんだろ? だったらジャスミンさんもいるんだろうとおもって、その、様子を見に来たんだ」
「貴方も呼ばれているのですか?」
 レーヴァがハンスの出方を伺うように尋ねる。すると、相手が一度話しをしたことがあるレーヴァであることにハンスも気付いた。
「あ、あなたは、先日の‥‥」
「レーヴァ・ストライフと申します」
「良かった。貴方なら信じられる」
 ハンスはそう言うと、ポケットから掌サイズの小箱を取り出した。
「これをジャスミンさんに渡してもらえますか?」
 いかにも高級そうな紺色の箱だった。
 柴村がレーヴァに視線を向けると、レーヴァも思案しているようだった。
 やがてレーヴァは口を開く。
「それは御自分の手で渡すべきでしょう」
 ハンスの顔に絶望の色が浮かんだ。非難するような目でレーヴァを見つめている。しかし、次のレーヴァの言葉ですぐに歓喜の表情へと変わった。
「食事会には貴方も参加できるように取り計らっておきます」

 そして夜、ハンスはスーツにネクタイという姿で孤児院に現れた。
 柴村とレーヴァでファッションチェックを行ったのだが、その辺りの知識の無いハンスにとっては理解できないものらしい。タキシードよりは多少ラフだが、それなりの覚悟を見せるということでスーツに落ち着いていた。
 また授業料と言う名目でハンスは能力者全員分の依頼料も支払っている。金払いの良さだけは男らしいと言えるだろう。
 食事会は和やかな雰囲気で進んだ。ハムサンドの三人もハンスの事は嫌いではないらしい。ただジャスミンがいなくなるんじゃないかという心配を子供ながら抱えているようだ。
 その後、子供達は歯を磨くために離席したのを見計らってハンスがジャスミンを外へと連れ出した。ジェニファーが能力者達の顔色を伺うが誰一人止めようとしない様をみて空気を読んだのだろう、ゆっくりと食後の紅茶を楽しんでいる。
 戻ってきたジャスミンの手には指輪の入った箱が握られていた。