タイトル:【共鳴】司令官の苦悩5マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/15 15:29

●オープニング本文


 西暦二千十一年三月某日、グリーンランド某所に住むニナ・ハンセンは出立の準備を進めていた。目的地はバグア軍基地、そこまで自分の稼いだお金を寄付するためである。彼女は親バグア派の人間だった。
 話は遡る事約二ヶ月前、彼女はチューレ基地の司令官であるイェスペリに解雇を言い渡された。理由は基地予算の見直しによるリストラである。同時期に辞めさせられた人間は十数名、バグア支配から解放されたと声高に叫ぶ人間もいれば未練を口にする人間もいる。そして彼女は後者だった。
 何故解雇されなければならないのか、最後まで問い詰めたがイェスペリは予算の見直し以上の言葉は言わなかった。予算繰りが難しくなっていたことは秘書を務めていた彼女も知っていた。だがそれはまだUPCの輸送機を襲うなどすれば補える金額でもある。ニナにはイェスペリが別の考えを抱えていたようにしか思えなかった。
 そして今、彼女はグリーンランド某所で男と暮らしている。サーレという同時期に解雇された親バグア派の人間である。心を許した訳ではない、未だに寝所は別にある。ただサーレにはコネがあった。親バグア派の社会復帰を考えているUPC特務大使マックス・ギルバートとのコネである。マックス経由でニナもサーレも日雇いながらも生きる糧を得る事ができていた。だが生活が安定し始めると不意に疑問が過ぎる。ここが自分の居場所なのか、このままでいいのかという不安だった。
 不安要因は三つあった。一つは特務大使に対するマックスへの依存である。マックスという人間が信頼できないというわけではない。だが彼の顔を見る度に、自分はバグア基地で働いていた人間という事実を突きつけられる。我侭な願いではあったが気持ちの良いものではなかった。
 二点目は同棲相手であるサーレの人柄だった。一緒に住むに当たり、サーレはマックスの仕事で得た金を元に探偵事務所を立ち上げると豪語していた。だが一ヶ月を過ぎた頃からアルコールに手を出し、今では家庭内外問わず暴力を奮い出している。その内刑務所送りされてもおかしくないというのがニナの見解だった。
 そして最後にグリーンランドでの大規模作戦実行だった。全てのメディアが取り上げているわけでは無いが、手に届く範囲の情報源では押し並べるように人類優勢を謳っている。確かにそう言わなければ新聞は売れず、ラジオも視聴者を逃すだろう。だがニナとしてはバグア基地を離れた今でもバグアの勝利を願っていた。
 イェスペリが予算案を見直したのも、この大規模作戦に備えてなのだろう。ニナはそう考えていた。バグアにとっても勝たなければならない勝負、その時自分は第三者を装っていいのかという葛藤がニナの心中を渦巻いていた。そしてサーレがいない隙に家を出たのだった。

 マックスがニナの不在を知ったのは二日後だった。懇意にしている土木業者の知人から給料日と同時に姿を見せなくなった泥棒がいるという通報を受けたからである。サーレに事実確認を迫ると、
「置手紙を残してどこかへ行った。新しい男でも作ったんだろう」
 冗談としても底辺の答えが返ってきた。
 そこでマックスはニナの奪還作戦を立案したのだった。

●参加者一覧

シリウス・ガーランド(ga5113
24歳・♂・HD
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
桂木 一馬(gc1844
22歳・♂・SN
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD
春夏秋冬 歌夜(gc4921
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

 基地から漏れる照明に灯りを頼りにセレスタ・レネンティア(gb1731)はSASウォッチを確認する。時計盤の刻む時刻は二十三時時五十五分、生憎反射しないため基地内の様子を窺い知る事はできなかったが、敵に察知される事も少ない。深夜という時間のためか聞こえてくる物音は無い。東から吹く風の音が積もった雪の表層を巻き上げ、待機班の身体を冷やしていくだけだった。
「時間は?」
「あと五分ですね」
 桂木 一馬(gc1844)の質問にセレスタは言葉少なに答えた。だがそれだけで桂木は理解したらしく、再び沈黙しアンチシペイターライフルの再点検を始める。慣れているのか雪明かりの下でも手付きに迷いは無い。ただ静かに時間が経つのを待っていた。
 グリーンランド某所バグア基地、玄関の門に出ている看板にはヒューリー精密機器工場と書かれている。だがセレスタと桂木が城門右手で待機を始めておよそ一時間、車一台通過していない。雪世界に不釣合いなほど黒い鉄の扉は一切開かれる事なく関係者の侵入を拒んでいる。この門が文字通り一つ目の壁だった。門左手では突撃用に守剣 京助(gc0920)が自前のバイクであるSE−445Rのハンドル部分にツーハンドソードを括りつけて作業を続けていた。だが寒さのせいか指先の感覚が鈍っているのか、まだ完成していなかった。
「‥‥寒い。フレア弾投下はまだか‥‥、雪の上での待機キツイ‥‥」
 フィンガーレスグローブを付けた手をさすりながら、守剣はバイクの改造を続ける。戦闘機の音を聞き取ったのは、最後の紐を結び終わった時だった。

「作戦開始‥‥先行します!」
 上空を通過するラファールM二機を確認し、セレスタは小さく呟いた。それは隣にいる桂木への合図でもあり、同時に冷え切った自分の身体に活力を巡らせる気合の言葉だった。
 基地の方もラフォールの接近に気付いたのか、けたたましい警告音が周囲に響き始める。遅れて照明灯二基にも火が点り、上空へと向けられる。そしてサーチライトの光がフレア弾の投下を確認する。
「フレアです、行きましょう!」
 時間を見計らったように能力者もジープに揺られて到着する。そして門の開放にかかる前に桂木はライフルを構えた。
「その前に先制攻撃だ」
 狙うは照明灯だった。既にラフォーレは通過しているが、基地はまだ再来してくるとみているのか光は上空に浮かぶ雲を映している。
「地上はまだ警戒していませんね」
 シクル・ハーツ(gc1986)が真っ先にジープを降りた。そして手荷物から雷上動と弾頭矢を手早く取り出す。周囲は先程と打って変わり蜂の巣を突いたように警報音が鳴り響いてはいるが、応援部隊が来る様子は今のところまだない。
「まずはあの照明灯ですね」
「当てる」
 決意と共に桂木は銃弾を撃ち出す。狙いは手前側の照明灯、だが一射目は照明の光が消える事は無い。スコープで確認すると、ガラスを破壊するだけに留まっている。
「次」
 破壊に失敗した照明はすぐに門の方へと向けられる。遅れて奥の照明も門の方へと照明を向けてきた。
「奥は私がやりましょう」
「頼む」
 桂木は慌てず手前側に二射目を発射、今度は正面を向いているため対象は広い。そして桂木に向けられている光を当てられていても直接殺傷力は無い、落ち着けば難しい事ではなかった。
「もう一つは頼む」
 シクルに託し、桂木は立ち上がる。そして門には守剣とジープと共に到着したシリウス・ガーランド(ga5113)が立ち向かっていた。
「はっはー! 邪魔する敵はナーゲルでぶっ刺す!」
 フレア弾の影響か門は既に高温になっている。だがバイクに細工した守剣とAU−KVをまとったシリウスには障害ではなかった。
「さて、始めるとしよう」
 何度かの衝突の末、扉は大きく変形し崩れ落ちる。そして基地がようやく姿を現した。フレア弾のお陰で建物は一部引火、おかげでまだ敵が門前で待ち構えている様子は無かった。
「ったく‥‥くだらねえ」
 基地内を一望し開口一番湊 獅子鷹(gc0233)は愚痴を漏らす。黒にペイントした顔に夜風が当たり、実際の気温以上に寒さを感じている。だがそれ以上に湊を奮い立たせているのはチューレ基地の情報、そしてグリーンランドで実行されている大規模作戦だった。だが火事となるとゆったりと調べる事もできない。
「照明、潰し終わりました。格納庫班、今の内に先行を」
「了解」
 照明が破壊されたのを確認し、格納庫班であるシリウス、セレスタ、守剣、八葉 白夜(gc3296)が半壊した扉を潜り抜け、格納庫のある左手に向かう。そして本部潜入班である湊、桂木、シクル、春夏秋冬 歌夜(gc4921)は更に奥にある本部を目指して走り始めた。

 格納庫前は火の海だった。フレア弾により引火した炎が格納庫の屋根を焼き、舞った火の粉が地面に降り積もった雪を少しずつ抉っては灰となっていた。お陰で敵の放つ機銃の弾と灰が雪の中に埋もれ、フレスコ画のようになっていた。
「火の海の中でバグア兵はまだ機銃を握るか」
 シリウスは出発前に確認した地図と音源から機銃の位置を推測する。敵の姿は直接見る事は出来ないが、上から攻撃を仕掛けられている事に間違いなかった。
「夜闇に花火も風情がありますが、まずは侵入を優先しましょうか」
 暗視スコープを装着した八葉が迅雷を使い先行する。格納庫の入り口は火が照明代わりとなっているため判別は容易だった。だが格納庫の奥が返って暗く見えている。念のため着物の裾から小太刀を抜き投擲、進路を確保する。
「どうやら格納庫内にはいないようです」
 八葉の後ろにセレスタ、シリウス、守剣の順に続く。その間に八葉は投擲した小太刀を回収、手早く内部構造を確認する。外からの光があるため慣れれば照明無しでも十分だった。
「どうやらゴーレムはまだ奥のようです」
「脱出の足である車は?」
「右手です。壊されてはいないようですね」
 後続に簡単に状況を説明し、八葉は更に奥へと向かう。敵も守剣の格納庫侵入と同時に機銃を止め中二階へと退却を始めていた。手には銃を持っているらしく、遠距離からも攻撃してくる。
「私が敵の足を止めます。その隙にゴーレムに向かってください」
 敵の初弾を柱の影に身を隠して避わし、セレスタが先を促す。
「退却の足を失う訳にはいきません。それに敵はまだ中二階、ここからは距離があります。薄暗がりの中では早々当たりません」
「任せたぜ」
 聖剣「ワルキューレ」を抜き、殿を守ってきた守剣も奥へと向かっていった。

 同時刻、潜入班は地下へと向かって階段を降りていた。格納庫と同様に屋根の上から機銃で攻撃されていたが、基地本部は入り口傍に階段があったため本部突入直後に戦闘が発生。狭い階段の足場を逆に利用し湊が単騎突入、他三人が支援する形で敵三体を仕留めている。
「楽だねえ人型相手ってのは、急所丸わかりで」
 敵を倒した事により上機嫌となった湊は鼻歌交じりで進んでいる。
「だけど、まだ、敵、いるかもしれない」
「後は退路の確保だな。火事の状況が不明だ」
 地下に降りているため外の状況が分かりにくいというのが桂木の不安だった。
「基地というぐらいだからな。引火物の類も保管してあるだろう」
「‥‥途中で捨てたライフルが気になるか」
「退路確保の目印ですよ」
 シクルの問いに答えつつ、桂木は周囲を確認する。予備灯程度の照明しかついていないため状況把握が難しいが、いくつもの鉄格子の部屋とそれらが見渡せる位置に隔離された部屋を発見する。
「どうやら牢屋のようだな」
 鉄格子の一つを掴んでみると、金属らしい冷やかな感触が帰って来る。
「空、みたい、ですね」
「だな」
 湊が蹴りを入れてみるが、鈍い音が広がるだけで牢屋の中で動くものは存在しない。シクルもナイトビジョンで見渡すが、牢屋の奥にある手枷足枷があるだけで生物の姿はなかった。ただ枷には血痕がついているらしく一部薄汚れている。
「‥‥キメラでも飼っていたのだろう。獣の毛が落ちている」
「実験用か?」
「だろうな。この基地は中継地点と聞いている。そんな荷物の保管をやっていても不思議じゃない」
 桂木は鉄格子から手を放した。その桂木に春夏秋冬が声をかける。
「あれが、看守、部屋?」
 彼女が指差したのは隅にある隔離された部屋だった。
「だろうな。お宝の匂いがしやがる」
 言うや否や湊はすぐに隔離された部屋へと動き出す。それに春夏秋冬が続いた。
「牢屋の、鍵とか、必要だと、思うから」
「‥‥分かった、こちらはニナの捜索を行う。バグアに気をつけてくれ」
「後ろ」
 春夏秋冬が思わず大声を上げた。別れを告げたシクルの背後に赤く光る物体を発見したからである。とっさに矢を番える春夏秋冬であったが、シクルは制した。
「‥‥気付いている。足跡があった」
 迅雷で敵の初撃を避けると同時に、シクルは氷刀「雪月花」を取り出し二連撃を入れる。
「悪いが止めも刺させてもらう」
 最後に桂木が拳銃「黒猫」の引き金を引いた。
「それじゃ鍵を頼む。できれば放送室の鍵もあれば助かる」
「分かりました」
 再度別れの挨拶を告げ、本部潜入班は二手に分かれてニナ捜索を開始したのだった。

「こちら桂木、基地本部制圧に成功した」
 桂木が放送室から連絡を入れる。
「ニナも無事だ。今から合流する」
 その時、格納庫班は脱出方法である車の起動に手間取っていた。 
「燃料か?」
「凍結はしていない」
 守剣がボンネットを開けて確かめる。
「鍵は?」
「見当たらない。どこかあるか?」
「ゴーレムの下だな。それらしきボックスがあった」
 問題のゴーレムは起動前に守剣が足を切断したことにより転倒、自壊した。だが転倒と同時に複数のロッカーを破壊。おかげで弾薬類が散乱するという状況を作り出していた。
「叩いたら起動しませんか?」
 セレスタの意見を確かめるために守剣は手当たり次第叩いてみるが反応は無い。代わりに格納庫奥が派手な音を上げ始めていた。
「では私が苦無でやってみましょう」
 八葉が苦無を取り出し、キーの位置に滑り込ませる。そして刹那で力を込めると車体が一度大きく揺れる。
「型が古かったか、何はともあれこれで脱出できるな」
 シリウスはAU−KVを脱ぎ、バイク形態に変化させる。
「先回りして潜入班に連絡してこよう」
「頼みます」
 崩壊していく格納庫からバイクと車が駆け抜けていく。バイクの姿を確認し、桂木も放送室を後にした。だが入り口まで戻って立ち止まる。
「‥‥あれ? 俺のライフルは何処だ?」
「ついでに拾っておいたぜ」
「すまない」
「女の看病よりは楽だしな」
 湊からライフルを受け取り、桂木も本部を出る。火の手が回っており、外にも薬品の混ざったような臭いが漏れ出している。
「‥‥ニナ殿、大丈夫か?」
 シクルが気遣うが、ニナは何かに耐えるように何も答えない。そして車に乗せられ病院に担ぎ込まれるまでニナは終始無言を貫いていた。

 依頼後、マックス・ギルバートはもう一度暗号解読に務めていた。今回の一件で親バグア派の人間が一部解法されていた事が確認できた。だがそうするメリットがバグアにとってあったのかという疑問がマックスの頭の片隅を常に占領している。
 そしてもう一つの謎があった。暗号の最後に執筆者の名前が記されていたのである。
「司令官がわざわざ暗号残すものだろうか」
 これまでの解法を下に執筆者の名前を再度解読する。だが何度挑戦しても結果は変わらず、そこにはイェスペリ・グランフェルドの名前が残されていた。
「バグアが人間を気遣った、そんな御伽話も信じてはみたいのだがね」
 マックスは執筆者の名前を胸に仕舞い、ニナの見舞いに向かったのだった。