タイトル:【共鳴】司令官の苦悩3マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/08 01:11

●オープニング本文


 西暦二千十年十二月、年の瀬の迫る某日の昼過ぎに三人の男女が銀行を襲撃した。男が二人女が一人、三人とも顔を隠すためのマスクとサングラス、そしてマシンガンを手にしていた。ジーザリオを銀行へと体当たりさせて突入口を作り、店員と客およそ二十名を人質にし現金を要求したのである。

「俺達はただでは死なない。少しでもイェスペリさんの役に立って見せる」
 事件の数日前、某所の探偵事務所では銀行強盗の算段が組まれていた。厳密には元事務所である。三人は探偵という仕事を廃業した。全てはグリーンランドのバグア基地であるチューレの司令官Y・グランフェルド(gz0238)のためであった。
「全ては俺の不徳の為す所だ。恨むなら俺を恨め」
 三人は彼の私設探偵だった。役割は資金調達路の確保とユニヴァースナイトの動向調査である。だが三人の調査は一週間前に停止を命じられる事になった。原因は本星からの援助が打ち切られる事になったからである。
「ここグリーンランドは現状まともな功績を挙げていない。北米大陸に対する睨みという地理上の利点も活かしきれていない。上がそう判断したんだ」
 イェスペリの言葉は九割真実だった。本星からの援助切り上げも資金繰りが難しくなった事も事実である。その背景にはどうやら元チューレ基地清掃員だったサーレという男がいた。彼が独自の調査によりイェスペリ等が使用していた取引現場を潰しにかかったからである。これが資金繰りの困難さに拍車をかける事となった。
 一方で残り一割は嘘だった。資金繰りが困難になり、ハーモニウムの面々が湯水のように開発費を使ってはいたが、まだ一つの探偵事務所を運営していくだけの維持するだけの資金は辛うじて捻出できたからである。だがイェスペリは探偵事務所の閉鎖を決心していた。探偵事務所だけではない。彼に近しい所にいた秘書、整備員、作業員は全て解雇の対象となった。解雇された人間には一つの共通点がある。全員親バグア派ではあるが、同時に強化人間でもなくバグアでもなく一般的な人間だったからである。チューレ基地が滅びる前に逮捕されないように、そして再就職できるようにと考えたイェスペリからの提案だった。
 そんな司令官の思惑の反面、全ての人間がイェスペリの考え通りに動いたわけでは無い。探偵事務所の面々もそうである。三人が解雇された先に見つけた道は、あくまでイェスペリのために資金を稼ぐ事だった。
「願わくば、また三人で相見えん事を」
 マシンガンを片手に三人はグラスを交わした。遅効性だが強力な毒の入ったワインである。そしてジーザリオに乗り込んだのだった。

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
アリス・レクシュア(gc3163
16歳・♀・FC
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG

●リプレイ本文

 グリーンランド某所の駐車場、まだ雲の残る昼下がりに沖田 護(gc0208)は拳銃「ヘイズ」にペイント弾を装填し、自前のAU−KVリンドブルムの最後の調整にかかっていた。
「竜に乗るのは、2か月ぶりか」
 AI調整はしていたものの、実際に乗るとなると話が変わる。喉は僅かながら乾いており、指の動きも悪い。心臓の鼓動も増えている。
 しかも今日の依頼はグリーンランドだ。先程まで行われたブリーフィングによると天気はこれから復調し、気温もしばらく下がらないと言われている。実際ブリーフィング中は重石のように頑なに動かなかった重々しい雲も流れ始め、合間から太陽が覗き見られるようになっている。
 だが天気が良いからと言って、路面状態が良いとは限らない。気温が高いといってもあくまでグリーンランドでの話であり、実際はそれでも氷点下を下回っている。路面が凍っているかもしれないという指摘はブリーフィングで今回の依頼の相談役であるマックス・ギルバード(gz0200)からもされていた。そこでチェーンを貸し出してもらったものの、使いこなせるかどうかはやってみないと分からない。
「今標的の位置はどの辺りですか?」
 タイヤにチェーンを装着させながら、沖田は警察との中間役を買って出た天野 天魔(gc4365)に現在状況の確認を取る。
「先行した部隊を撒きながら街中を滑走中。迂回は繰り返しているものの一路北東を目指している所を見ると、何かあるのだろうね」
「街中ですか、被害が大きくなりそうですね」
「俺は今回の一件実行犯と護送犯がいるとみている。既に輸送犯に受け渡しが終わり、実行犯の三人はこちらの誘導に行っているかもしれない」
「確かにありえない話じゃないですね」
 今回天野は中間役ということもあって防寒着の類は用意していない。ほとんどの会議は屋内で行われるため必要ないと判断したからである。だがこうして見送るために外に出ると、肌を刺すような寒さが素肌を露出させた顔中に広がっていた。
「了解、では僕はまだ実行犯の三人が盗んだ現金を持っている可能性も考慮して先回りしましょう。アジトがあるかもしれません。お金の受取役がいるはずです、周囲の調査を要請を」
「任せときな。でも既に渡し終えた可能性もある。深追いしないように」
「そうですね」
 チェーンの装着を終え、沖田は立ち上がる。そしてリンドヴルムに跨り二三度エンジンを噴かせた。どうやら整備していた甲斐もあり、調子は悪くないらしい。そのままチェーンの緩みを確認するために徐行で駐車場を一周する。
「連絡は逐次行う。常に無線が聞こえる状況を頼む」
「分かりました。では行って来ます」
 力強く頷いて、沖田は再びアクセルスロットを踏み込んだ。白煙を巻き上げながら、リンドブルムは徐々に速度を上げてゆく。そしてすぐに天野の視界から消えたのだった。
 
 同時刻、沖田の向かう北方向ではなく一路東へと走る一台のランドクラウンがあった。UNKNOWN(ga4276)の所有する乗用車である。
 だが持ち主であるUNKNOWNは今は重症を負い、助手席に甘んじている。ハンドルを握るユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は少しずつ広まる晴れ間を見つめながら、ブリーフィングでの話を反芻させていた。
「銀行強盗の逮捕に傭兵が呼ばれる時代、か」
 彼等が東へと向かっているのは別働隊の存在を警戒しての事だった。天野からの通信によると実働部隊は未だに街中を北上しているという。人混みでは襲ってこないと高を括っているのかもしれないと天野は付け加えていた。
「相手が強化人間なら仕方ないさ」
 倒した座席のスプリングを確かめるUNKNOWN。今回用意した獲物は拳銃「バラキエル」、事前に確認したサイレンサーとの相性は良好。あとは沖田から渡されたペイント弾を使うかどうかが問題だった。もっとも相手が強化人間ならば使う必要性は薄い。だがそれ以外の可能性がある事も理解している。
「ですが本当に強化人間なのだろうか」
 出発前のブリーフィングにてマックスは相手が人間である可能性を示唆していた。
「最近頻発しているとまでは言えないが、親バグア派の人間が関与している事件がいくつか見られる」
 漁場荒らし、輸送機の墜落、工場のキメラ騒動、有権者の子供の誘拐、マックスはいくつかの事例を挙げ、それらの事件に関する写真を何枚か見せてくれた。どれらも共通点としてキメラやヘルメットワーム等、バグアが関係している証拠が収められている。世界的規模で見れば一連のバグアによる騒動の一つで片付けられる事例である。
 だがユーリもマックスの言う親バグア派の人間の関与を信じていた。マックスの提示した写真の一枚、工場のキメラ騒動で移された工場長の顔は自分が以前関わった依頼だったからである。
「捕縛して事件の背景聞きたいところだな」
 久しぶりにすれ違う車に挨拶をしながらユーリは呟いた。相手は二十代後半ぐらいだろうか、灰色のニット帽を被った男性である。気さくな性格らしく、助手席の女性と揃って挨拶に答えてくれた。
「気になるのか」
「UNKNOWNは気にならないのか?」
「ならないと言えば嘘になる。だが事後処理はマックスに任せておけば何とかしてくれるだろう。伊達に特務大使を名乗っているわけじゃないからな」
「例の組織か」
 事件の説明を補足する形でマックスが説明したのが親バグア派の更正施設の設立だった。
「親バグア派だった人間の社会復帰を促す組織も作ろうというんだ。具体的な話はなかったが、私としてはあってもいいとおもう」
 ブリーフィングの最後、これまでの事件の受けてマックスは自分の考えを能力者達に伝えた。
「地上からバグアが掃討するというのは確かに一つの目標だ。だがその後、親バグア派だった人間を差別する訳にもいかない。気が早いかもしれないが、後々の事を考えれば必要になるだろうと思っている」
 既に予想される必要経費を産出し、予算案を上に提出しているらしい。認められるかどうかは分からないが、マックスは交渉を続けていくということだった。
「人間は歩み寄れるかな?」
「それもこれからの私達の努力次第じゃないだろうか」
 UNKNOWNが微笑を浮かべる。外ではいつしか緩やかな風が吹き始めていた。
「まだスピード上げて良いぞ」
「いいのですか?」
「身体は固定した。ちょっとやそっとじゃ動かないさ」
「了解。天野にも伝えておこう」
 天野によると実行犯達はこちらの動きに気付いたのか、駐車場でジーザリオからランドクラウンに乗り換えたらしい。だがその間に距離を詰めたため、袋小路に持ち込むという作戦で行くという事だった。
「俺達は後詰部隊」
 ユーリは少しアクセルを踏み込むことにした。

「さて、飛ばしますからしっかり捕まってくださいね」
 街外れの直線道路で如月・由梨(ga1805)はランドクラウンを徐々に加速させていった。周囲には疎らに家が見えるが、通行人の姿は無い。既に法廷速度の倍以上の速度を出しているが、今日に限っては追いかけてくる警察はいない。対向車もいない。天野と警察が手配通り動いてくれている事に如月は心の中で感謝した。
 この先いるのは正面を走る実行犯達の乗るランドクラウンと途中の合流予定のミリハナク(gc4008)、アリス・レクシュア(gc3163)が乗るジーザリオだけ。そして近くに緩やかながらも長いカーブが一箇所あるということが判明している。
「そろそろ追いつきます。準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
 如月は屋根の上に声をかけた。そこではアルテミス(gc6467)が武器である雷上動の準備を進めていた。雷上動は和弓、両手を使う上に窓から身を乗り出して攻撃するにも都合が悪い。防寒具であるジャケットは羽織っているが、時速百キロを超える屋根の上を通過する風は骨身に染みた。
「こちらが攻撃すれば向こうも攻撃します。二射目以降は難しくなるでしょう」
「つまり一射目で仕留めろと」
「それができれば最良、しかし常に最良の事態ばかりが起こるとは限りません」
「確かに」
 アルテミスは雷上動を構える。姿勢は当然十分とはいえない、立ち上がる事ができないからである。
「追加でもう一つ、間もなく大きなカーブに差し掛かります。カーブ出口辺りで実行犯のランドクラウンを確認できるかもしれません」
「どちらに曲がります?」
「右です、向こうからも攻撃されるかもしれませんから大きく曲がりますよ。そしてカーブを抜けた所の合流地点でミリハナク様の車が」
 アルテミスが正面を確認すると、右手には雪の積もった小山が見え始めている。そして小山に添う形で道が曲がっていた。
「ドリフト行きます、捕まって」
 弓を右手と屋根の間に挟み、アルテミスはカーブに備える。急速に襲ってくる横Gと風に耐えるアルテミス、そして運転手である如月は風に加えてアルテミスによる横Gが入っている。路面状態も良いとは言えない。一度溶け再び固まった雪が路面にも散っている。そして目の前にはマシンガン装備が判明している実行犯がいる。
「こちらアリスです、犯人達と交戦中」 
 突如銃声、そして無線が鳴り響く。アリスからの通信だった。遅れて右手の小山の影から二台の車が姿を現す。ジーザリオとランドクラウン、事前に受けた連絡通りの二台だった。
「こちら如月、確認しました。攻撃しても大丈夫ですか?」
「問題ないわ、四枚盾を貼ってるからね。運転手は運転がお仕事♪ こういうの一度やってみたかったんですのよね」
 アリスの通信からミリハナクの陽気な声が聞こえてくる。ハンドルを捌きながら如月は状況を確認に努める。そしてフロントガラスの上からはミリハナクの放つ矢がランドクラウン目指して飛び立っている。
「お姉様と私はこのまま車体をを押し付けて停止させようかと思います」
「車体が傷つきますよ?」
「マックスさんにおねだりして、新車買ってもらう約束をつけましたから」
 ミリハナクが車を押し付ける音が大きくなる。同時に銃撃の音もはっきりと聞こえるようになった。
「天野さんから連絡がありました。正面からは沖田さんが警官部隊と共に待機しているそうです。後方からはユーリ様達が後詰に入ってくれます」
「ランドクラウンでしたね」
「です。助手席にはおじさまが乗っているはずですよ」
 実行犯達のランドクラウンが明らかに減速している。反撃されないよう如月も蛇行を繰り返しながら、速度を調整していく。だが実行犯は諦めていないらしく、銃撃音は未だに終わらない。代わりにガラスの割れる音が聞こえなくなっていた。
「犯人の方々は未だに戦闘の意志があるのね」
 やがて後方からエンジン音が届き、前方には警察の検問と沖田の見えてくる。ペイント弾でフロントガラスを汚していく沖田、後方からは沖田に同調する形でUNKNOWNがリアガラスを狙っていく。
 急速に速度を落とす実行犯ランドクラウン、そこで遂にタイヤがパンクを起こした。後輪左側、ミリハナクによって与え続けられた疲労とアルテミスの矢によるものだった。
 
「こんな荒っぽい犯罪が成功するわけが無い事は子供にも解るだろうに。なのに何故だ?」
 作戦司令部で一人天野は叫んでいた。今回の依頼をUNKNOWNは詰め将棋と称した。実際ここまで能力者達の意のままに動いている。通信によると犯人達は車を捨て、肉弾戦に挑んだらしい。しかし扉を開けた傍にいたアリスに迅雷と刹那で
叩き伏せ、駆けつけたユーリや沖田達によって捕縛された。だがそれが天野には気に食わなかった。
 今回の一件、結局犯人達は別働隊の準備をしていたわけでも受取人を準備したわけでもなかった。言ってしまえば成功するはずの無い犯罪だった。にも関わらず犯人達は決起し実行し、そして今捕まろうとしている。どこまでが犯人達の予定した事なのか分からなかった。
 湧き上がる疑問を解消すべく現場へと向かおうとする天野、だがマックスが彼を呼び止める。捕まえた三人が救急隊へと移送中に倒れたという事だった。

「生き返りなさい。こんな死に方、私は認めませんから」
 ミリハナクは男にキュアを再度試みる。隣ではユーリがキュアを、アリスはマウル特製ホットドリンクを飲ませていた。
「事情も聞かずに他界は許さない」
「マウルさんの特製ドリンクなんです。毒ぐらい治してくれる筈ですよ」
 捕まった三人はほぼ同時に吐血した。始めは演技かと思ったユーリだったが、明らかに顔色が悪い。駆けつけた救急隊によると毒物によるものだという。
 救急隊はすぐさま搬送を開始。重要事件の参考人ということもあり、延命処置のためにキュアを所持していたユーリとミリハナク、そして特製ドリンクを持って来ていたアリスが救急車に犯人一人につき一名という形で乗せられた。
「お願いします。怖いから飲まないなんてもう言いませんから」
 口々に祈りの言葉を捧げる三人。一方事件現場に残された四人は警官隊とともに事後処理を手伝った。盗まれた現金は後部座席の下から発見され、マシンガンも回収された。やがて日は傾き、西の空へと姿を消す。その間に届いたのは、三人が病院に届けられたものの意識不明というものだった。

 事件発生から数日後、能力者がグリーンランドを去って数日経った頃に一人目が死亡。そして後を追うように二人目も死亡した。残る一人は今も意識不明のまま
病院のベットで精密機器に囲まれている。見舞いは禁止されていないが、やってくるのは唯一組、マックス・ギルバートとその息子トーマス=藤原だけだった。
「これも一つの運命か」
 部屋には心電図の音だけが響いていた。患者は寝返りも打たず、点滴から送られる栄養で生きながらえている。部屋にはマックスが買ってきた果物もあったが、未だに封も切られずに飾られている。
「そんなに感傷的になるなよ、特務大使。初めての経験でもないだろ」
「軍の仲間と一般人じゃ同じ命でも意味合いが違うさ」
 しばらくは病院で回復を期待するマックスだが、最悪の事態も計算に入れなければならない。看護士の一部からは不安な声が挙げられている。患者の入院以来、何度か虹色のヘルメットワームを見かけたということだった。