タイトル:夕闇の咆哮マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/19 06:15

●オープニング本文


「クソッ」
 整備室の床にヘルメットが叩きつけられる。西暦二千十年七月の事だった。
「どこから情報が漏れてるんだ。また一人死んだぞ」
「漏れてるわけじゃないだろ。監視はされているだろうけどな」
 グリーンランド某所、そこには小さな町があった。人口は一万人ほど、名産品等は特に無いが町外れにあるラジオ塔が唯一の名所となっていた。だが現在は使われていない。バグアに襲撃され通信施設が破壊されたからである。
「こんな町を監視して何のメリットがあると言うんだ。食料があるわけでもない、地下資源も採れない。時間の無駄じゃないか」
「無駄かどうかは俺達の物差しじゃ計れない。バグアに聞いてみるんだな」
 通信施設が破壊されたのは半年以上前になる。町への連絡は全てラジオ塔を中継して人々には送られてきた。そのため町にはこの半年、機能する情報網が存在しなかった事になる。いつバグアに襲われるか、町の人々は常に緊張に晒されていた。そのせいか人々の中には末期思想が広がり、犯罪が多発。物取りを恐れ、商店の三割がシャッターを下ろす状態にまで陥っていた。
「俺達もさっさと上がるぞ。次いつ出動命令が下りるか分からないからな」
「‥‥」
「ミハイル、ここは軍じゃないが今は異常事態だ。休めるときに休んでおけ」
「‥‥」
「ミハイル。俺は君の子守じゃない。腐るのは構わないが、足は引っ張るなよ」
 事態を重く見た行政は町の建設会社にラジオ塔の再建を依頼。バグアの襲撃を考慮し、KV二機と民間企業出身の傭兵二名を配置した。それがミハイルとヨハンである。

 ラジオ塔の再建は順調だった。行政の後ろ盾もあってか町の人々も協力的、勤務時間を超過しても働きたいという希望者が殺到していた。だが慎重を規して、会社はあくまで予定通りに建設を実行。ミハイルとヨハンにとっても無理をせずに済むため有難かった。
 だが不安要素が全く無かったわけでもない。一つは二人に与えられた機体が中古だった
事、もう一つは十分な燃料が確保できない事だった。
 ミハイルとヨハンに与えられたのは型落ちしたA−1ロングボウだった。新型へとバージョンアップするために下取りに出された機体である。電気系には多少不良が出ていたが、以前の持ち主によって強化されており戦力としては十分に期待が出来る。行政、会社、整備員は全て太鼓判を押す。だが二人はこの機体がそれほど気に入ってはいなかった。操舵桿の反応が鈍かったからである。そしてその微細な差がミハイルを苦しめる結果となった。上空のヘルメットワームを狙ったレーザーガトリング砲がラジオ塔に命中、倒壊に巻き込まれた作業中の男性二名に直撃し、一人が即死。もう一人は病院に搬送されたものの、三時間後には死亡が確認される事になった。苛立ち紛れの夜を送るミハイル、眠気の訪れないまま自問の時間が過ぎる。そんな彼の元に届けられたのは、作業員達による集団ストライキである。

「後ろから撃ってくる傭兵と共に仕事は出来ない」
 町の中央広場には人垣ができていた。数はおよそ五十。作業員を中心にその親族等が集まっている。手にはプラカード、肩からはたすきがかけられ、傭兵の交代が訴えられている。
「我々はバグアの前に傭兵と戦わなければならない」
「高い金を貰い人殺しをする傭兵は解雇されるべきだ」
「真の敵はバグアではなく傭兵だ」
 思い思いの言葉が書かれているが、要約すれば全て致命的ミスを犯した傭兵の処分を要求している事になる。中には遺影を掲げ、涙目で参加する者の姿もある。ミハイルとヨハンは会社からの指示を確認しながら、ブラインド越しにその様子を眺めていた。
「別に銃を使う必要はない。突っ立っているだけでいい。彼等は何かを投げつけるだろう。だが投げていれば気分は晴れる。しばらく彼らの的になってやってくれ」
「だがKVを使えば返って彼らを刺激することにならないか?」
「確かにその可能性はある。しかしKVはこれまでも、そしてこれからも人類が戦うための生命線だ。それをただ一度のミスでふいにしてしまうわけには行かない」
「成程、俺達に矢面に立てってわけだ」
「ミスを庇う事はできる。だがそれで従業員が納得するわけではない。これからの作業を円滑に行うためには、君達自身の言葉が必要になる」
「分かった」
 颯爽とKVへと向かうヨハン、そしてミハイルもそれに続く。遅くとも今日中には解決する、会社はそう睨んでいた。だが夕方、大きく事態が変化する。ミハイルが作業員目掛けて発砲したからである。一瞬にして広場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

「止めろ、止めるんだミハイル」
 ヨハンは通信機を掴み、有らん限りの音声で叫んだ。
「ここで発砲してどうなる。人を殺してストレス発散のつもりか。傭兵時代のお前はどこにいったんだ」
 思いつく限りの言葉を紡ぐヨハン。だが目の前のクロスボウは逃げ惑う人々を蜘蛛の子のように追い掛け、発砲し、下敷きにしていく。
「通信まで切ってるのか、確信犯かよ」
 ヨハンもクロスボウに火を入れる。止めなければならない、目の前の大惨事も暴走する同僚もこれ以上見ていられなかった。だがそれを阻止するかのように一本の通信が入る。会社からの連絡だった。
「現時刻よりクロスボウの使用を凍結します」
「何故だ。納得のいく説明が出来るんだろうな」
「ヨハン、君も正常な判断が出来ないからです。これより指揮権を軍へと譲渡します。君はそちらの指揮に従ってください」
「ふざけるな、俺はまともだ。一分一秒を争う事態に何を悠長な事を言ってるんだ」
「足元を見なさい。今動かせばいくつの救える命をあの世に送るか分かる筈です」
 モニターを足元に向ける。そこには遺影を握り締めた女性が一人横たわり、二人の子供が泣きついている。一歩でも動かしていれば、三人の昇天は免れなかっただろう。
「‥‥分かった、指示に従おう。だが優秀な指揮官を寄越せよ、それが条件だ」
 通信は答えない。ヨハンの苛立ちだけがその場に残されていた。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
クロスフィールド(ga7029
31歳・♂・SN
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
セグウェイ(gb6012
20歳・♂・EP
紫電(gb9545
19歳・♂・FT
ファリス・フレイシア(gc0517
18歳・♀・FC
諷(gc3235
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

「順調だな」
 事件開始から三十分、紫電(gb9545)は諷(gc3235)の運転するジーザリオの後部座席から広場を一望していた。用意しておいたペイント弾は愛用するフォルトゥナ・マヨールーに装填したまま、いつ来るか分からない自分の出番を待っている。来なければいい、どこか頭の片隅でそんな言葉が過ぎり始めていた。
「紫電さん」
 諷の声だった。
「そろそろ日も暮れますので、隙を見て接近します。準備をお願いします」
「了解しました」
「ヨハンさんもそれでいいですか?」
「‥‥大丈夫だ」
 運転席とは反対の助手席側から擦れた男の声が聞こえる。ヨハンの声だった。事件開始から操縦者であるミハイルに対し説得を続けている。喉が潰れているのもそのためだった。当初は説得と言う方法に懐疑の声を上げたヨハンではあったが、今では一番声を張り上げているのもヨハンだった。
 姿勢を元に戻す。既に避難活動は済んでいるのだろう、先程までちらほらと見かけた軍人の姿が無くなっている。
「ノブレス・オブリージュ、か」
 再びフォルトゥナ・マヨールーを構えながら、紫電はそんな言葉を口にしていた。権力や地位の保有には責任が伴う、時代の流れと共に少しずつ解釈が変化している言葉だが、根本となる精神は今も生き続けている。だが自分の中にもあるのか、強大な力を持つ自分達能力者も同じではないか、思考を内に向けると疑問が浮かぶ。だがその思考はすぐに霧散する事になった。車体が大きく揺れたからである。
「どうしました?」
 思わず声が荒くなる。左手を車体の側面に当て体を支え、諷に問いただす。
「どうやら噴水が破壊されたようです。しばらく水しぶきが舞ってますので、運転が荒くなるかと思います」
 言い終わると同時に諷は再び大きくハンドルを切った。隣ではヨハンが無言で車体に手を当てている。
「何かにタイヤが絡まったようです」
「水ですか?」
「どうでしょうね。これからちょっと急ブレーキが増えると思うので、気をつけてください」
「了解」
 心に沸いた不安を飲み下すために、紫電は後方に向き直り銃の点検を開始する。弾丸を取り出し、ペイント弾である事を確認して再び装填する
「よし」
 気合を入れると共に、紫電は再び銃を構える。ロングボウは丁度眼前にいた。距離はおよそ百メートル、こちらの存在に気付いているのか迫ってきている。
 銃を打ち込む場所を探る。距離はあるが標的が大きいため外す気にはならないが、できるだけ効果的な場所に打ち込みたいという気持ちがあった。問題はディッツァー・ライ(gb2224)と白鐘剣一郎(ga0184)、そして二人を乗せたSE−445Rに誤射しないこと、それだけである。現在足元を通過中、攻撃を仕掛けているのだろう。
 紫電が狙いを定めたのはカメラアイだった。KVが直線で迫ってきているおかげで狙いを定めるのが比較的容易だったこともある。だが射程を見極めていると聞きなれない音が耳に届く。ロングボウが体勢を崩したのか左肩を落とし、右脚を前に出している。そしてバイクが姿を消していた。
「白鐘さん、ディッツァーさん」
 銃を置き、周囲を探す。ロングボウの足は浮いている。踏み潰されている可能性は低かった。周囲を見渡す。バイクがあったのは上空だった。
 
「動けない人は運びます。救急ブースは向こうにありますよ!」
 広場から一本道を挟んだ裏通り、臨時で展開された救急ブースが展開されていた。ブルーシートにより仕切られ、ストレッチャーの上では五名程の住民が横になっている。それに対し医療班は一名、そしてクロスフィールド(ga7029)に任されていた。十分に手が足りているとは言えない。だが患者の数は増え続けていた。
「慌てないで。ブースは逃げません。皆さんは私達が守ります」
 ファリス・フレイシア(gc0517)の声だった。両手剣であるセベクを右手に取り、左手では住民の誘導を行っている。軍の予定通りおよそ三十分の間に八割強の住民の避難は完了、フェイス(gb2501)の提案でもあった学校や行政施設、ホテル等に集まってもらっている。おかげで軍は第二段階である道路封鎖へと移行しているが、医療部隊の数はまだ十分ではない。フェイス、ファリス両名の声はブースにまで届いていた。だが肝心の広場の救助は大幅な進展を見せていない。原因は大きく四つ、散乱したプラカードやたすきの山、既に息を引き取った死体、妨害するかのごとく疾走するロングボウ、そして住人達の能力者に対する拒絶だった。
「あんた達もあのKVの仲間なんじゃろ。わしは悪魔に手を借りるほど老いぼれちゃおらん。手を離しておくれ」
 手足を負傷している男性、腰を抜けしている老婆、泣き叫ぶ子供、様々な人が群れている。
 行政地区高所からはセグウェイ(gb6012)が探査の眼で監視。両手にスナイパーライフルを構え、軍から貸与された通信機を顔と肩に挟み、逐一に情報を伝えていく。
「KVは現在工場地区へと向かっている。役所の方に運ぶなら今だ」
 セグウェイの言葉をファリスはフェイスに伝える。腰を抜かした老婆に肩を貸すフェイス、だが老婆は彼の手を払う。
「あんた達もあのKVの仲間なんじゃろ。わしは悪魔に手を借りるほど老いぼれちゃおらん。手を離しておくれ」
「ですが置いていくわけには行きませんよ」
 老婆の攻撃に耐えながら、フェイスは答える。
「能力者も人間、人間はミスをするものです。一度のミスで悪魔呼ばわりするのは言い過ぎだとは思いませんか?」
「お前さんはあの操縦者の知り合いかね?」
「残念ながら。話したことも顔を見たこともありません」
「それじゃ何故肩を持つ。アイツは犯罪者じゃ、百人殺せば英雄などという馬鹿げた戦争の理論は通用せん。普通に考えれば生きて二度と日の目は見られんはずだぞ」
「確かにそうですね」
 しばしフェイスは考えた。そして選びながら言葉を紡ぐ。
「戦争なんて確かにおばあさんの言う通り馬鹿なことです。でも自分を信じるために、守るために人は時に武器を手にする。それだけです。彼は今自分自身と戦っているんですよ」
「さっきから聞いてりゃよ…確かにあいつはあんたらから色んなもん奪っていったんだろうよ、だけどな、それ以上にあいつが戦ってたのは何の為か考えたことあんのか? あいつが背負ってる重みを考えた事あんのかよ! 俺達は全知全能でも必ず勝利する御伽話の英雄でもない、一人の人間だ、それだけは考えてあげて欲しいんだ‥‥」
 通信機越しにセグウェイも語る。
「随分馬鹿げた話だね」
 老婆は小さく息を吐いた。
「連れて行っておくれ。子供のわがままで死ぬ気にはなれん」
「わかりました」
「ロングボウ向きを変えた。今度は行政区、学校の方が安全だ」
「学校の収容状況はどうでしょう?」
「現在八割、まだ大丈夫だ」
「了解、そちらに何名か向かいますので、準備をお願いします」
 ファリスが大手を振るう。夕闇の中、照明はあるがロングボウのマズルフラッシュが視界を妨げる。視界確保と合図を兼ねて照明銃を使用するフェイス、そしてファリスの影で動き出す。
「足元に気をつけて」
「了解」
 ファリスの言う足元は水だけではない。既に事切れた死体も含まれていた。女性の方が多かったが、男性のものもある。誰も口にはしない。死んだものは助からない。通行の邪魔になるという言葉を必死に飲み込んでいた。
「そちらも気をつけて」
 それだけが精一杯の言葉だった。

 白鐘が意識を取り戻したのは、空中での事だった。胸が痛みを感じている。呼吸が上手くできず、。肺にダメージが入ったのだろう。肋骨が折れたという妙な確信があった。しかし耳元にKVの駆動音が聞こえてくる。立たなければならない、使命感が全身を巡った。顔を右に向けると、レーザーガトリング砲の銃口を向けるロングボウの姿があった。
「天都神影流、虚空閃・徹っ」
 体を捻りながらに気合を入れる。言葉を発する度に胸に痛みが走った。口の中にも血の味が広がる。無理な体勢のためか肩と手首からも軋むような音が聞こえる。だがここで動かないわけには行かなかった。止まっていれば撃たれる、それは同時に死を意味した。
 突如視界が眩しくなった。視界が奪われる中、追い討ちするかのように銃の音も聞こえてくる。状況に理解が追いつかないまま白鐘は地面に叩きつけられる事になった。
「大丈夫か」
 やがて視界が復活する。白鐘の傍には額から血を流しているディッツァー、そして疾風迅雷で駆けつけたファリスの姿があった。
「大丈夫だ、まだ動ける」
「フェイスさんの照明銃が効いている間にセグウェイさんがメインモニターを狙撃してくれたようです」
「バイクは拾っておいたよ。おかげでおいらのジーザリオはサスペンション逝っちゃったけど」
 紫電と諷がSE−445Rを押しながら駆けつける。
「まだ動くみたいですよ」
「本当か」
 エンジンをかければ確かに手ごたえはある。たまに変な音が入ったが、それでもメーターは動いてくれている。
「‥‥参ったな、KVってのはこんなにも危険な代物だったのかよッ!」
「今更だな。それとも居座り続けて、結果、被害を広げる事になっても良いと?」
「断固反対する。ここまで来て逃げられないぜ」
 ロングボウはまだ動きを見せていない。メインモニターの復旧を試みているのか、それでも能力者達にはありがたい猶予時間だった。
「悠長に相談している暇は無いぞ。やる事は始めから決まってる、諷達はもう一度囮頼めるか」
「動かす事ぐらいはできるでしょう」
「私も隙があれば動力パイプ切断を狙いましょう」
「俺もまだ動ける。バイク頼めるか」
 月詠を杖代わりにしていた白鐘も両の足で立ち上がる。
「かなりスリルのあるツーリングだな、ソイツは。出来れば二度は御免だが」
「二度目は無い。ここで決める」
「そうだな。さて、帰ったら洗車してやるからもう少し付き合ってくれよ相棒ッ!」
 ディッツァーが再びSE−445Rに跨り、白鐘がその後ろに付く。諷と紫電はジーザリオへと戻り、ファリスは再び疾風迅雷で間合いを外した。
「準備はいいか?」
「大丈夫だ。そちらこそ血は大丈夫か?」
「こんなものは唾付けとけば治る」
「頼もしい限りだ」
 いつの間にかロングボウは立ち上がっている。モニターを諦めたのか有らぬ方向を向いているが、手にはレーザーガトリング砲が握られている。
 SE−445Rが再び走り出す。ロングボウが倒れたのはその三分後、天都神影流『奥義』断空牙が放たれた直後の事だった。

「やはり、ある程度の被害は致し方ありませんか」
 セグウェイと紫電がコックピット乗り込む傍らでファリスは広場を一望していた。レーザーガトリング砲とロングボウ自体の自重でアスファルトの大半にはヒビが入っている。中央にあった噴水も見る影も無い。現在判明しているだけで死者は八名、負傷者は五十余名に上る。ファリスは「このくらいで済むなら」と喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。 死者は戻らない。それを理解しているのか、諷は動けないディッツアーに代わり学校と行政区の救急ブースへと向かった。ヨハンと同じ能力者の一人として責任を果たすと共に、遺族と手を取って泣いてくるらしい。それに対し付いて行くとも言えなかった。弱いという言葉しか出てこなかった。そんなファリスを気にかけたのか、フェイスが話しかけてくる。
「何とか、なりましたね‥‥どうにも市街戦はやりきれません」
「何とかなったんでしょうか」
「やる気なら、被害はもっと‥‥何てね。甘いですが」
「確かにそうかもしれませんね」
 懸念事項にしていたヨハンの逃亡だったが、結局彼は一切逃げる素振りは見せなかった。それが能力者にとっても軍にとっても幸運な計算違いだったと言える。同時に救いでもあった。
 やがてセグウェイと紫電が見知らぬ男性に肩を貸し姿を現す。年齢は三十後半ぐらいだろうか、頬がこけ骨が浮いて見える程の痩せた男だった。気を失っているのか、観念しているのか抵抗する様子は無い。
「自害させないように白鐘に頼まれたんだが、これなら大丈夫だろ。ちょっとマックスのおやっさんに身柄引き渡してくる。今後の処分、気になるしな」
「後はジーザリオとSE−445Rの修理を頼んできます。特に445Rは半壊してますからね」
「その辺りは必要経費にしてもらいましょう」
 数日後、フェイスの言葉通りジーザリオとSE−445Rは元の姿のままラストホープへと届けられる。そして依頼していたロングボウの鑑定結果も一緒に添えられていた。それによると元々異常の見られた操縦系の回路に未知のリミッターらしき装置が設置されていたということだった。