タイトル:【CA】出張所と喫煙室マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/10 07:22

●オープニング本文


 西暦二千九年九月、ULTのショップ店員であるロッタ・シルフスはカンパネラ学園旧校舎地下で一匹のキメラと対峙していた。火吹き蛙、その名の通り炎を吐く蛙である。だがロッタは攻撃せずに観察続けていた。理由はそこが喫煙室だからである。
 事の起こりは三週間前、学園を改造して作った最強ロボカンパネラ君一号がKVによって袋叩きに会うという悲惨な夢を見た翌日の事である。ロッタの元に今度作られる闘技場の見取り図が届き、ショップの出張所を建設してくれという依頼が来たのである。利益倍増の可能性を秘めた申し出に今朝見た悪夢を忘れて取組むロッタであったが、一つ大きな問題があった。見取り図に出張所の場所が載っていなかったのである。
 三週間かけてロッタが確認したところ、手違いがあった事が発覚。お手洗いや選手控え室、KV搬入口など必須な施設を考えていった結果、ショップを置く場所が無くなったと言う。そこでロッタが目をつけたのが二十平方メートルはある喫煙所の存在だった。
 傭兵にどれくらい喫煙者がいるのか、具体的な数字をロッタも正確な数字を知っているわけではない。高級煙草の販売数から考えるとそれなりの人数いると思うが、それでも二十平方メートルは煙草自販機、試合観戦用テレビ、協議用のホワイトボードを置いても広過ぎるのではないかというのがロッタの考えである。そこでショップの必要性を訥々と訴えた結果、喫煙所の一部をショップの出張所として使っていいと許可を出してもらったわけである。だが無条件というわけではない、ショップと同様に喫煙所の整備と火元責任の任を押し付けられる事となったのである。そして早速場所を確認しに来た所、火吹き蛙が居座っていたのである。

「どいてもらえますか〜?」
 ロッタが話しかけるが、蛙は聞こえてないのか寝た振りを決め込み動かない。ロッタが戦いたくない理由は天井にスプリンクラーが設置されているため、火を噴かれると火元責任者としてロッタの責任が問われるからである。そこで匍匐前進で近寄るロッタ、だが近づくと部屋の隅に更に二匹寝た振りをしたいたのである。
 流石に一人で捕獲は無理と考えるロッタ。いっそのこと喫煙所を潰して全部ショップにすればいいのではないか、一瞬浮かんだ雑念を追い払う。そしてUPCに連絡、蛙捕獲を依頼するのだった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
咲坂 七海(gb4223
17歳・♂・DG
七市 一信(gb5015
26歳・♂・HD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
リティシア(gb8630
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

 ラスト・ホープ、カンパネラ学園旧校舎地下。本来ならば学園の関係者でも早々近寄る事のなくなった場所ではあるが、今は多くの人が行き来をしている。闘技場の開発のためである。正式名称は未だに決定されていないが、KVで戦闘ができるとあって多くの人から注目を集めていた。だがその中にはKVで戦っても十分な戦闘スペース、そして耐久性が確保できているのかという疑惑とも心配とも取れる声も含まれている。実際学園生の中にも心配している生徒もいた。そのためか旧校舎前には足の踏み場も無いほどの資材が運び込まれ、かつて無い賑わいを見せている。そしてそれは開発中である地下でも同じだった。人は勿論、多くの重機が担ぎ込まれ昼夜問わず騒がしい音を立てている。
それは入り口を始めとし依頼人であるロッタ・シルフス(gz0014)の待つ喫煙所兼ショップの前でも同様だった。廊下に高く積まれた彼女の持ち込んだ資材が多少騒音を吸収してくれているものの、それでも十分に騒々しい部類に入る。多少離れているだけだも会話が聞き取れない位であった。だがそんな騒音の中でも今回標的となっている三匹の蛙は、まだ何も手の入っていない空洞の喫煙室予定地で白い腹を見せつつ寝そべっていた。
「気持ち良さそうに寝てるな」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)とUNKNOWN(ga4276)が窓から、山崎・恵太郎(gb1902)と月城 紗夜(gb6417)が中の様子を伺う。喫煙所というだけあって、換気扇と排気口は常備されている。だが壁はまだ無機質な灰色のコンクリートが剥き出しされており、叩けば硬質の高い音が響いている。そして二人が覗いている窓もコンクリートの枠があるだけでガラスははめられていない。扉も設置されていなかった。改良の余地があると言えば聞こえはいいが、実際はロッタに任されている部分が多いということに過ぎなかった。
「結構広いな、二三十人は余裕で入りそうだね」
「だが椅子などを設置すると場所が狭くなる。折り畳みの方がいいだろう」
「戦闘後に寄る者もいる事を考えると全員立たせるのは酷だな。いくつかマッサージチェアがほしい所だ」
「あとは観葉植物などはどうだろう。タバコの煙を吸い取るものがあったような気がする」
 それぞれ意見を出し合い喫煙所のあり方を考えるホアキン、山崎、月城の三名。その中でUNKNOWNはロッタの懐柔に入った。
「起こすのが可哀相になるな、ところでロッタ」
 UNKNOWNが喫煙室に背を向け、ロッタの方に向き直る。手には飴袋、その中から一つの包みを取り出しロッタの視線の高さまで上げる。
「君は相乗理論というものを知っているか? 例えば食事をしていると飲み物がほしくなる、といった現象だ」
「それはロッタも感じた事があるのですっ」
「よしよし、良く出来た。飴をやろう」
 褒美としてUNKNOWNは手にしていた飴を渡す。ロッタはそれを手にすると、包みを外して口の中に放り込む。ハッカの独特の味が口全体に広がっていった。
「古くは風が吹けば桶屋が儲かるという言葉もある。つまり昔から商人の間から語り継がれていた理論と言う事だ。今でもセット商品としてその名残を残している、君も今までに何度かそんな販売方法をやっていたな」
「なるほど、勉強になるのです」
「喫煙所もそういうものだ。抱き合わせで販売すれば売れ行きが上がる、私が保証しよう。喫煙スペースとショップ、両立だ」
「ご教授ありがとうございましたっでもでも、まずは蛙退治をお願いしますね〜ロッタは一度ショップの様子を見てくるのです。」
「もちろんだ」
 部屋の確認をする四人の傍らで、ロッタから借りた耐火性の籠の使い方を確認する七市 一信(gb5015)、咲坂 七海(gb4223)とリティシア(gb8630)はそれぞれ自分達の立ち位置の確認をし、AU−KVを装着している。そしてルノア・アラバスター(gb5133)は持ち物の最終確認を行っている。作戦の準備は万全だった。そして走り去るロッタを見送って、作戦を実行に移したのだった。

「それ、では‥‥行き、ます」
 ルノアが
袋を取り出す。蛙を捕獲するための袋である。中にはドライアイスが入っており、簡単には燃えないように仕込まれていた。同行するA班はUNKNOWNと月城、UNKNOWNは独自のルートで入手した釣竿と紐を用意し、餌と思われる肉を針先に垂らしている。そして月城が自ら指をクナイで切り、血を肉に垂らしていく。
「蛙釣りとは懐かしい―――幼少の頃は弟とよくやった」
 月城は一人自嘲気味に呟く呟く。そして失敗したときに備えて竜の翼と竜の瞳の発動に備えた。
「それでは始めようか」
 開始の言葉と共にUNKNOWNは大きくくりぬかれた窓用の穴から肉を巻きつけた釣り糸を投げ入れた。
「喰い、つく‥‥でしょうか」
 しばらくはまだ腹を見せている蛙であったが、UNKNOWNが餌を蛙の傍へと誘導すると首を一捻り二捻り動かす。そして目を動かして様子を見始める。
「そんな危なっかしいキメラが何で此処に居座ってるのかなー!?」
 咲坂は当然の疑問を口にするが、誰も気にしていない。その答えを知っている者がいないということも一つではあるが、周囲が五月蝿く聞き取れないというのも理由である。そんな中で寝ている蛙も蛙ではあったが、今は少しずつ動きを見せ始めている。出番と判断し袋を構えるルノア、そして蛙は動き出す。姿勢を戻し何度か小火のような小さな火を吹きながら、肉の様子を観察。身体を上下に動かしながら飛びつくタイミングを見計らっている。それに合わせるようにUNKNOWNも釣り糸を上下させる。そして頃合を見計らってUNKNOWNが引く、獲物が逃げると判断したのか飛びつく蛙。UNKNOWNはそのまま蛙を吊り上げる。
「――大物だ」
 UNKNOWNは肉ごと蛙を吊り上げる。綺麗な弧を描きつつ、廊下へと飛び出してくる蛙。他の二匹はリティシア(gb8630)が確認する限り動きを見せていない。未だに白い腹を見せて寝そべっている。どうやら勘づかれていないらしい、そう安心したところのことだ。振り向くと先程まで肉に喰らいついていたいたはずの蛙の姿がそこには無くなっていた。
「蛙、消えました〜」
 リティシアが事前にホアキン達から提案されたハンドサインで状況を伝える。幸い廊下には可燃性のものは無い。あるのは万が一のために用意された水の張られたバケツ、そして捕獲用の籠である。
「れ、レンタル料はとらないよねん? 依頼遂行に使う道具なんだから‥‥上手くいかないとこまるでしょ?」
 そんな半強制的な言い回しで七市の借り受けた籠は蛙の侵入を今や遅しと口を開けられている。そしてハンドサインを受け山崎は盾を構え、咲坂、ルノア、七市、月城そしてサインを出したリティシア本人は竜の咆哮に備える。誰に攻撃が来るかは分からない、だからこそ誰に来てもいいようにという構えである。強いて問題を挙げるとすれば音、周囲の物音のせいで蛙の物音が掻き消されるという可能性である。言葉少なにハンドサインで居場所を探る能力者達、そんな中で一つの物音が意外なほどクリアーに全員の耳に届く。何かが重いものが落下した物音、しかも水の中に落ちた音である。
 全員の視線がバケツへと集中する。湯気を立てつつ放熱していた蛙が眠ったように沈んでいく姿だった。
「死んじゃった‥‥のです?」
「いや、こんな簡単に死んでたまるか〜!」
 バケツの水に指を入れて確かめようとするルノア、その一方で咲坂は不満を爆発させている。臨機応変に動けるようにと心がけてはいたが、こんなに簡単に捕まえるとなると返って拍子抜けしてしまう所があった。
「それじゃ、依頼失敗‥‥した方が、いい?」
「そんな事になってたまるか〜!」
 バケツを前に一人興奮する咲坂。蛙と一瞬目が会ったような気がしたが、蛙は再び水の中へとダイブしていく。こみ上げる思いのたけを晴らす場所はそこにはなかった。
 蛙はその後、二匹目三匹目と順調に回収された。外におびき出す手間と生体間でのテレパシーのようなものが面倒ではあったが、逆に言えば面倒なだけであり手間をかければ問題ではない。二匹目が多少騒ぎ、月城に竜の翼を使わせたというぐらいでしかない。スプリンクラーを作動させないという比較的面倒なミッションではあったが、蛙達が敵対行動を見せなかった事もありスムーズに終結させることに成功していた。

 程なくしてロッタが再び喫煙所予定地に顔を出す。初めは依頼の邪魔にならないかと恐る恐る顔を覗きこんでいたが、山崎が手招きすると笑顔を見せて能力者達の前に姿を現した。ちょうど時間は三匹目、つまり最後の一匹の捕獲が完了した所である。
「火を吹く蛙も、吹ける場所が欲しいのかもな」 
 合金軍手で三匹目となる蛙を籠へと入れつつ、ホアキンは呟いた。
「ごめんよ、蛙君 これも戦った後の一服のためなのよ」
 檻の蓋を下ろして七市が鍵をかける。鍵といっても金属製ではない、ホアキンの使っている合金手袋と同様の繊維で作られた紐である。それを外れないように強く固結びして鍵代わりにしてある。そしてその檻を依頼人であるロッタへと渡す。
「お疲れ様なのですっ」
「そちらもお疲れ様です」
 リティシアがロッタに労いの言葉をかける。
「檻に入っていても熱くなるかもしれないから〜気おつけて」
「了解したのです。それと皆さんに質問があるのですがいいですかっ?」
「?」
 工事の時間が近づいたのか、重機の音が幾分収まりを見せ始めていた。傍らではUNKNOWNが咲坂と今回のキメラの存在意義に関して意見を交わしている。
「キメラといえど、全てが万能とはいかないのだろうな。特殊な環境下でのみ強いというキメラも存在する、コイツは本来もっと涼しいところの生き物だったのかもしれんな」
「つまり腹に火種を仕込んでいるから、腹周りの温度を下げていたー! と」
「予想に過ぎないけどな」
 だが結論の出ない討論は無難な結論で終着、そして不穏な空気を感じた参加者は顔を見合わせていた。
「とりあえず内容次第と答えておこう」
 代表するかのように、ホアキンが尋ねる。
「今ちょうど一戦終わった後と似たような状況だと思うのですっ、闘技場での話ですね〜だからこんな時に欲しいものがあったら、今後も役に立つと思うのですよ」
「なるほどな」
 合点がいったのか、UNKNOWNがわざとらしく大きく頷いて見せた。そして懐から高級煙草を取り出してみせる。勿論火はついていない、取り出して示すだけである。
「やはりこの一本だな」
「ただでさえここ最近、俺たち喫煙者は肩身が狭いからな」
 ホアキンが同情するかのように自嘲気味に答える。
「ただ吸えればどこでもいいというわけでもない。寛いでだべりたい場所、それが理想だな。壁の色やインテリアの調和、統一があると尚いいな」
「それに関しては一応図面を引いてきた。想像で書いた部分もあるから多少扉や窓の構造が違うが、参考にはなるだろう」
 UNKNOWNが図面を広げて説明に入る。ショップと倉庫、喫煙室をそれぞれエアウォールで仕切るという大胆な構造だ。その中には始まる前にホアキンや山崎、月城の意見にあったマッサージチェアや観葉植物、採光と開放感を考えたガラス張りなども取り入れられている。
「予算や本部との調整もあるだろうが、一つの意見として参考にしてほしい。コンセプトはショットバー、そしてショップとの同居だ。こうすれば自販機を置くスペースが多少節約できるだろう」
 説明を終え、UNKNOWNは図面をまるめる。だが解説が終わった所で二名が手を挙げて発言を求めた、山崎とルノアである。
「非喫煙者としての意見だが、煙草は当然煙もだが臭いが気になるという人も多いように思う。ニコチンの独特な臭いに不快感を示す人もいるだろう。だから消臭スプレーのようなものがあるといいのではないだろうか」
「私は、酸素、とか、どう、でしょう‥‥? 動いた、後って、美味しい、空気、欲しい、ですし、地下だと、特に、空気が、淀み、易い、ですから」
 喫煙者に気を使ったのか、喫煙所の空気が悪いとはルノアは明言しなかった。だが言いたい事は伝わったのだろう、ロッタは元気良く頷いてみせる。
「それじゃ図面を参考に考えてみるのです。酸素バーも実績上げれば拡張できるかもしれませんからねっまた何かあったらよろしくお願いするのです」
 こうして