タイトル:【woi】平和の願いマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/01 07:35

●オープニング本文


●UPC本部、作戦説明テープ(ロス時間、7:00)
『最初に通達する。諸君はこの依頼を受けた者である。これより作戦説明をおこなうが、説明を受けた後の依頼放棄は認められない。依頼関係者以外は直ちに部屋から出るように‥‥
 (10秒ほどの間)
 作戦を説明する。今回のミッションは、先の大規模作戦によって、撃墜した敵新鋭機『ステアー』の重要パーツ回収である。ステアーの胴体の一部はUPC軍が回収したが、欠損が多数存在する状態である。敵はこれらを保持し、ロサンゼルス市街地に分散して潜伏している。入手した情報によると、敵は今より10時間後、幅3m高さ2mほどの装置から、重力制御によって衛星軌道上までパーツを打ち上げることが予想される。
 諸君はこれから10:00到着予定の便でロスに向かい、準備の後、20:00に作戦を決行するように。
 今回のミッションは『KV非推奨依頼』である。使用は許可するが、市街地に大きな影響を与えるような作戦は軍法会議の対象となる。臨機応変かつ、確実にミッションを遂行するように」

 多くの書き込みの残るカレンダーに今日も一つ×印を入れる。撮影が順調に進んだ印である。
 西暦二千九年九月、ロサンゼルス市街の墓地にて一組の男女が墓地へと赴いていた。手に持つのは花ではなくカメラ、現在撮影中のドキュメンタリー番組の下見をするためである。
 二人の所属するのはロサンゼルス・ローカルブロードキャスト通称LLBという小さなテレビ局である。スタッフは総勢二十名、撮影、照明、衣装、メイク、小道具など全て社員が兼用で行っている。そんな彼らが今手がけているのが先日起こった大規模作戦の被害を映像として残す「平和の願い」というタイトルの番組であった。
「この辺り、残しておきたいわね」
「ここですか? 映像としての面白みは無いですが」
「面白みなんて今更期待していないわよ。どうせ広告料なんて期待できないんだから」
 女性は諦めたように笑う。彼女の名はエリー・グレイス、LLBの社長である。
「人の手が入ればそこには意図が入るわ。場所選択もその一つ、人間が作る以上仕方の無いことだけどね。でも安易に金儲けに走る番組にはしたくないの」
「社長のことは分かってますよ。おかげで老後の心配は耐えませんけどね」
 男は白いものが目立ち始めた髪を撫で、帽子を被る。男の名はデビッド・ロウ、今回番組作成の監督である。今年勤続三十年を迎えたこともあり人望は厚いが、当人としてはそろそろ老後の事が心配になり始めていた。
「この戦争が終わった後、何が残っているか。それを考えてもらいたいのよ」
「そんな事考えられるほど余裕も無いですからね」
「だからよ。終わった後に足元を救われるような事にはしたくない。賢くならないといけないのよ」
 エリーが経営を務める上で念頭に置いていたのは、大企業の傘下に入らない事だった。今資金を持っているのは間違いなくドロームやメルスメスと言った軍需企業である。だがそれらから広告料を貰うとなると、どうしても意向に沿わなければならなくなる。それはエリーの望む未来ではなかった。
「んまぁ今更何とも言いません。結構何とかなるもんだと身に染みてますからね」
 映像とは不思議なもので、時にふとした事で取り沙汰される事もある。以前同社の経営危機を救ったのはカメラテスト中の撮影に映ったバグアの兵器だった。それがUPCに高値で取引されたおかげで乗り切ったという歴史がある。だがエリーとしては作品が評価された訳ではない事が今でも酒の席で語られる愚痴である。
「そういう事。さっさと下見を終えて、撮影に戻りましょう。予定押してるからね」
 二人が選んだのは郊外よりにある墓地である。主戦場にならなかった分被害は少ないが、墓標には爆風によって弾かれた土砂や金属片による傷で相当痛んでいる。よく言えば墓地としての面影を辛うじて残している場所であり、悪く言えば記憶を呼び起こしてしまう人々の足を自然と遠ざける場所であった。それでもエリーが墓地を選んだのは、平和の願いと言うからには、死者にも安らかな死を提供することが務めだと考えているからである。
 カメラ位置や光源位置を相談しつつ歩を進める二人、だが途中で足を止めた。墓標の影に何かしら装置を見つけたからである。大きさは不明、だが巨大という程ではない。そして周囲には気配がいくつかあった。
「帰りますよ、社長」
 デビットはすぐさま撤退を主張した。気配は近づいている、余裕は無かった。
「だな」
 二人は武器を携帯していない。使えそうなものはせいぜいデビットの持ってきたカメラ、そしてまだ未編集のテープぐらいである。だがそれを邪魔するように気配は近づいてくる。
デビットはテープを手榴弾のように見せかけ投げ、二人は逃亡を果たす。そしてテープを取り戻すためにUPCに依頼を出すのであった。

●参加者一覧

木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
ソリス(gb6908
15歳・♀・PN
流 星刃(gb7704
22歳・♂・SN
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA

●リプレイ本文

 秋も徐々に深まりつつある九月末のロサンゼルス、地中海性気候からステップ気候に分類される同地ではオリーブのような常緑広葉樹が生えている。それは今回の依頼の現場である墓場でも同様、入り口に立つ能力者達からでもいくつか木が確認できる。特に手入れをしているわけでもなく、密集している場所とそうではない場所があった。更にご丁寧に一つしかない入り口には高さ三メートル程の木や石で作られたバリケードが組まれている。依頼人であるエリーを通じ墓地側に確認を取ったところ、別の撮影会社が入っていると言う。中にはそれらしく照明が置かれている事がバリケードを越しでも分かるが、それらしき音はしない。何かしら別の用途に使われている事はほぼ間違いなかった。

「突入前に状況を確認しよか」
 バリケードを前に流 星刃(gb7704)はランタンをソリス(gb6908)に渡し、荷物の中から地図を取り出す。出発前、UPCから借り受けたものである。
「ビデオのある位置を特定するためにカメラマンのデビットさんから話を聞いてきたんや。多少曖昧な所があるんやけど、中央からやや南の広場が最大候補地や」
 流が地図を折り曲げ、候補地である南の広場を全員に見えるように示す。そこには周囲二メートル程の間に木も墓標もない空き地が広がっていた。
「昼食をとった後に墓地の視察に向かった、墓地にいたのはそれほど長い時間ではない、目晦ましになるように太陽に向かって投げた。それがデビットさんからの話だ」
 同じくデビットに話を聞いていた木場・純(ga3277)、フィルト=リンク(gb5706)が流の説明の補足に入る。
「太陽に向かって投げたと言う事は、木々には邪魔されていない場所にいたということになる」
「特に目印らしいものは無かったらしいけど、周囲から物音が聞こえたという表現もあったわ。近くには目ぼしいものが無かったけど、離れた所には身を隠す場所があったということだと思う」
 出来る限り正確に、かつ要点だけを木場とフィルトは説明していく。二人の発言を元に流が分かりやすいように地図に時間、太陽の位置、遮蔽物との位置関係をまとめていく。
「墓地は全体的に西向きに立てられていることから、考えられるのは入り口からやや右手三百メートル地点だと思われる。ただし地図では木の場所までは確認できん、最終的には俺達の目での現場の判断が必要になる」
「バグアの手によって動かされている可能性もありますからね。あくまで候補地と言う事でお願いします」
 三人の意見をまとめ、当時のエリーとデビットの位置とビデオの投擲範囲を絞っていく能力者達。そこで翡焔・東雲(gb2615)が一つの心配を口にした。
「墓石に当たって壊れてなきゃいいんだが」
 回収するに当たり、デビットからはサンプルとして同型のビデオを見せてもらっている。耐久実験をやったわけではないが、墓標にぶつかったとなると高度や角度次第では破損している可能性もあった。突入前から不穏な空気が流れそうになるが、不安な空気が流れるサンディ(gb4343)はそれを払拭する。
「【平和の願い】は早々壊れませんよ」
 それは力強い言葉だった。彼女の言葉にメビウス イグゼクス(gb3858)も拳を強く握り締めて答える。
「でも無茶しないで。敵の種類も数も不明、難易度は高いと見るわ。引く時には重要よ」
「そちらもな。時には野暮なおっさんより淑女の方が無茶をしかねないと聞くぞ」
 冗談めかして言う木場、それに対しサンディは静かに笑ってみせる。先程までの不安な空気と一変し、場には緊張感が戻ってくる。依頼の開始だった。
 
 エリーとデビットが墓地を訪れて以来、同所はバリケードが組まれ関係者以外立入禁止となっていた。二人が確認を取ったところ、別の番組が撮影に使うらしい。ビデオの返却を求めたところ見つけ次第返すという事になってはいるが、その後の連絡は無い。本当に中で撮影が行われているかどうかも怪しいということだった。
 始めに突入するのは隠密班、木場、翡焔、ソリス、流の四人。突入に際し流がランタンの火を落とすと、周囲には一時的に闇が襲う。だが墓の中から漏れる光に目が慣れるまでにはそれほど時間は無かった。
「伝達手段は打ち合わせ道理ね、お互い検討を祈るわ」
 四人は言葉少なに挨拶を済ませ、バリケードの反対側へと消える。そこは外から見た通り撮影用とも思われる照明器具だった。だが静かであるべき墓場には似つかわしくない、そして侵入者発見用のライトというのが四人の共通見解だった。
「‥‥早くここの人たちが安らかに眠れる日がきますように‥‥」
 初めて訪れる場所ではあるが、墓地らしくない光景にソリスは祈りを捧げる。絶えず昼間のように照らされる黄土色の大地と白い墓標には、安らかという言葉は似合わなかった。これまでに亡くなった人々の遺骨の上をこうしてバグアが闊歩している事に、表面には出さないもののソリスは憤りを感じていた。
「‥‥本当は死んだ人って墓にはいないといいますけれど、死んだ人を思い返すのはやっぱりこういうところしかありませんしね」
 時間は既に二十時を回っている。気候のせいもあり、風が強く埃が立ち込めている。虫が所々で鳴いているが、それも木々と墓標に反響して奇妙な音を奏でる風の音にかき消されている。
「時間がないぞ、動くで」
 感慨深そうに眺めるソリスに流が声をかける。そしてビデオの存在だけを確認しつつ移動して行った。
 
 それから数分後、頃合を見計らって陽動班であるメビウス、サンディ、フィルト、館山 西土朗(gb8573)ががバリケードを破壊。墓地への侵入を果たす。陽動らしく錬力を抑えつつも出来るだけ派手な攻撃をした結果か、キメラが四人を待ち受けていた。ネズミの形をしたキメラである。だが形状はネズミであっても大きさは二メートル弱と人間と大差ない。いわばネズミ男キメラだった。鋭い牙と爪が遠目からも確認できたが、それ以外は一見して分からない。
「出てきたな!」
 キメラの登場に、館山は声を張り上げメイスを構える。すぐさま探査の眼とGoodLuckを発動させて、相手の出方を観察する準備に入る。だがそれに合わせて敵も四散、墓標や木の陰に姿を消したしまっていた。
「こちらを待ち受けるつもりですね。積極的に行かせて貰いましょう」
 敵が待ちの構えを見せたため、フィルトは武器であるバッドを両手に構えて突撃の体勢をとる。眼を凝らして敵の場所を策敵、そして目に入った一匹向かって走りこんでいった。標的にしたのは入り口やや右、一番候補地となっている場所のやや手前である。問題は逆光になっていることだった。キメラはフィルトの攻撃を墓標へと身を隠して回避、そのままバッドは墓石を粉砕する。墓地に破壊音が響き、それに乗じキメラも移動。標的となったのは、館山だった。
「こんな所でやられはせんぞ」
 不意打ちとなった一撃を館山は幸運にも回避、シールドを構えて防御に構える。だがキメラは再び光の当たらない場所へと移動し、身を隠した。
「どうやら無理をせずに反撃に集中するつもりのようですね」
「時間稼ぎが目的か」
「多分ですけどね」
 相手の出方を見て反撃重視と判断するメビウスとサンディ、討伐を優先するのであれば無理をする必要はなかったのだが今回は状況が違う。隠密班が仕事しやすいように引き付けるのが目的だった。 
「魑魅魍魎跋扈するこの地獄変‥‥メビウス イグゼクスがここに居る。‥‥ウラノス爆現!」
 意を決したようにメビウスは大音声と共にソニックブームを放つ。狙いにしたのは左手、木の陰から様子を伺っている一匹だった。衝撃波により再び身を隠すキメラ、それに追い討ちをかけるようにサンディがハミングバードを抜き迅雷、そして疾風を発動させる。
「メビウス。いくよ!」
「了解、少々派手に行きますよ‥‥!」
 言葉と共にメビウスは再び天剣「ウラノス」を横薙ぎの形に構える。そして気を溜めた後に衝撃波、ソニックブームを放出。それに合わせてサンディもハミングバードに付与したエネルギーを放出させる。
「グランドクルス!」
 身の危険を感じたのか、ネズミ男キメラは木を盾にして身を屈める。だが十字砲火で一点に集中した二つのエネルギーは、キメラの隠れていた木もろとも粉砕する。
「バグアよ‥‥その命、神に返しなさい」
 ソニックブームを放ったメビウス、だがそれを好機と見たのか墓石に隠れていた別のキメラが爪を飛ばして攻撃してくる。それは体を捻りきっているメビウスの体へと突き刺さった。
 痛みはあるものの、メビウスは爪を抜き去り捨てる。そして爪の飛んできた方向からキメラのいる位置に辺りをつけて三度目となるソニックブームを放つ。
「そこね」
 それは外れはしたものの、他のものにキメラの位置を教えるには十分だった。すぐさま迅でサンディが駆けつけ、一体目のネズミ男を駆除したフィルトも間合いに入る。だがネズミ男は防御として盾を構えた。だが普通の盾ではない、盾にしては小さく黒いそれは依頼品でもあるビデオだった。

 一方、陽動班が暴れている間に隠密班は北部を迂回し東部を目指していた。依頼人達は今問題となっている転送装置らしきものの存在を確認しており、二人はそれほど長時間墓地にいなかったと発言している。つまりビデオを投げたと思われる第一候補地とそれほど離れていないということになる。しかし具体的な場所は判明していない、それぞれが隠密しつつ捜索を開始した。だが彼らの行く手を遮るものがいる、ライトであった。
 始めに見つかったのは翡焔、ライト自体は流し斬りと急所斬りを組み合わせて破壊したもののキメラにより補足される。犠牲を無駄にしないようにと流は隠密潜行の効果を切らさないように努めながら北部へと回り込むも運悪くキメラと鉢合わせすることとなる。すぐさま二連撃を入れるも撃退するまでにはいかなかった。状況を見ていたサンディはビデオを取り戻したことで呼笛を二回、そして照明銃を打ち上げる。状況不利と知ったソリスは戦力的撤退として退路の確保に入る。だが一人、木場は諦めていなかった。転送装置を視界の中に収めていたからである。護衛についていたのはネズミ男一匹、持ち帰るには無理があったが破壊だけなら十分可能性があった。脳裏に最後の作戦会議の自分の言葉が蘇る。淑女の方が無理をすると言いつつも、この状況で引くわけにもいかなかった。
 【OR】クラッシャーの握りを確認し、木場は装置へと接近する。急所突きで一撃、手ごたえ不足と判断し更に二撃目を入れる。正直感触があったとは言えなかった、だがキメラが応援を呼ぶ。長居をしていられる状況ではない。勢いのままにそのままバリケードを破壊した入り口から墓地を後にする。
 転送がどうなったのか心配する能力者達であったが、遅れて装置の破壊する音が周囲に響いた。その後能力者達はビデオを無事依頼人達の元へと届ける。そしてエリー達の紡ぐ平和の願いが完成するのを夢見ながら、ラスト・ホープへの岐路に着くのだった。