●オープニング本文
前回のリプレイを見る「以上の理由から第三鉱山は我々調査団の管轄に置かせてもらう」
バーグレ・ゴールドマンは調査団との会議に出席していた。議題に上がったのは先日起こったGM社第三鉱山の占拠事件。実際には未遂で終わったわけだが、二度と同様の事件が起こらないようにと第三鉱山は調査団達の管轄に置かれる事となった。勿論バーグレとしては不満である。そこで一つの疑問を口にした。
「貴方達は本当にUPCなのですか?」
「失礼な」
末席に座る女が叫ぶ。
「貴様はUPCをなんだと言うのです」
国際平和維持組織、それがバーグレの知るUPCである。だがその本当の意味を意味を知るのは数日後だった。
西暦二千九年十一月、グリーンランドGM社支部のフロアでバークレ・ゴールドマンはいつも通り仕事を片付けていた。今日の案件は先日狙われた第三鉱山の強化案と予算の見積もりである。どういう意図があるのか不明だが、最近調査団の来訪間隔が狭くなってきている。一時的に記憶を失ってはいるが、PCにはその間の業務日記が残っている。周囲が心配するほど差し障りは無かった。むしろ休養を得られて体調が良くなったとも言える。悩まされていた霞目も以前ほどではない。部下からは顔色も良くなったと言われている。それは入院した事によるメリットだろう。
だが記憶喪失に完全に問題が無いわけでもない。外部記憶に頼らない部分、人の顔や名前、その人と交わした会話の内容等である。部下の名前や性格はまだ覚えているが、前回の調査団の中にも知らない名前が多かった。特に調査団の末席に近いアニス・ワトソン、ドルティ・ボブソン、ニナ・ルービンという三名は見覚えが無い。
またPCのデスクトップ画面には覚えの無いアイコンが増えている。起動してみると落盤の確率を計算する物理演算ソフト、他者の役員等を調査するソフト等確かに必要なものではある。恐らく記憶喪失前に入れたものだろう。医者の話では徐々に思い出していくだろうという話である。だが身の回りが心配ならという事でリアにはエミタ移植を受けさせた。自分と会社の警備という余りに偏った理由のためである。リアの両親の許可は勿論取ってあるが、バークレとしては手放しで喜べるものではなかった。
そんなある日の夕方、いつも通り残業をやっているバーグレの元に一本の電話が入る。相手はレオノール、前回の鉱山で一緒に救助された鉱員である。
「生きてるか? 大将」
「記憶以外は好調ですよ、そちらはどうですか?」
「身体の方は何とも無いんだが、妙な事が多くてな。ちょっと確かめてくれないか?」
レオノールの言葉によると、最近別の会社の人間が視察に来るという。言葉を交わしただけであるため正確には分からないが、外見はキメラでもバグアでもなくスーツを着た人間ということだった。それでこの鉱山が売りに出される予定があるのか確認してほしい、それがレオノールからの電話だった。
「ちょっとあたしも考えたんだが、UPCって名前だけ一緒の会社って無いのかい? どうもあの国際平和維持組織じゃ無い気がするんだ」
「‥‥確認してみましょうか」
バーグレは他者の役員等を調査するソフトを起動する。記憶に無いものではあったが、こういう時を予見していたのだろうと自分を納得させた。そして検索の結果、二つの組織が該当。一つは国際平和維持組織、一般的に知られるUPCである。そしてもう一つはアンダープロジェクトカンパニー、GM社同様地下資源の採掘を行っている会社である。
「これは探りを入れるべきでしょうね」
とはいえバークレ自身は顔が割れている可能性が高い。そこで三度本物のUPCに連絡を入れるのであった。
●リプレイ本文
本格的な冬が間近に迫る十一月某日の深夜の事である。雪混じりの強い風が吹き荒れる中、グリーンランド某所にあるGM社支社オフィスでは一つの明かりが点灯していた。依頼人でもあるバーグレ・ゴールドマン(gz0291)のPCである。
PCの電源が入り、OSが起動。パスワードが入力され、バーグレの妻と子供の写真が加工されたディスプレイが表示される。だがPCの前にバーグレの姿は無い。それどころかオフィスは警備員の見回りも既に終了し、誰一人残ってはいない。ただ窓を叩きつける風の音が忘れた時に響くだけであった。
「データバンク起動、GM社の過去の情報を整理します」
起動して数分、ディスプレイにはそんなメッセージボードが表示される。下にはYES、NOのパネルも付いてきてはいるが、マウスカーソルはためらう事無くYESへと移動。そしてそのままクリックする。
進行度を示す青いバーが徐々に増えていく。だがそれを見守る人間はいなかった。すでに入り口は施錠されており、窓も締められている。外では雪混じりの寒風が吹き荒れていた。
やがてタイマー音とともにメッセージバーにCOMPLETEの文字が表示される。続いて転送が開始、転送先はアンダープロジェクトカンパニーだった。
「私はデューク・ウェストと申します」
ポマードで固めた金髪の髪を時折撫でながら、ドクター・ウェスト(
ga0241)は名刺を差し出した。偽UPC社を訪問するということで下準備ということでバーグレの準備してくれた品である。丁寧にウェスト・ロード・アンド・ボーリング・オーガニゼーション経営者と名義も書かれていた。
「デュークさんですか、これはわざわざどうも。秘書から先日電話があったと聞いていますが、この度はここグリーンランドでの業務拡大が目的ですか?」
「まだまだそこまでには及びませんよ」
デュークもといドクター、そして部下役として同行した風代 律子(
ga7966)、鷹谷 隼人(
gb6184)の三人が通されたのは六畳程の広さの部屋だった。折り畳み式の机が四脚と椅子が一つの机に三脚ずつ置かれている。応接室というより会議室
、あるいは多目的室という様子である。実際三人が部屋に案内される前にも一人女性の社員がノート型のPCを無線らしいデバイスを使って操作していた。三人に気付いた女性社員は一礼はするもるものの出て行く様子は無い。潜入がばれたのかと思わず胸に手を当てる鷹谷ではあるが、同行する風代はいつもの落ち着いた表情を浮かべつつ間取りと監視カメラの位置を確認していく。一方でドクターは演技を兼ねて溜息を吐きながら髪の生え際を気にしていた。
待つ事二分、三人の前に現れたのは髭を蓄えた男だった。役職は課長らしいが現場上がりらしく、レスラーの体系をしている。スーツを着ているものの、胸板の厚さが特に顕著だった。
「先日地質調査を依頼されたのですが少々不穏な地域と聞きまして、その辺りの事前調査が今回の目的です」
後ろに控えていた風代がグリーンランドの地図を取り出す。そこには現在のバグアの進行度が描かれていた。北部はまだバグアに占領されているものの、南部ではUPCによりほぼ平定されている。だが南部でゲリラ的にバグアの攻撃が散発しており、それらが×印で記されていた。
「私共は依頼者に、今後のためにもより良いデータを提出したいと思いまして、より深い地層の調査の出来る貴社にバックアップのお願いに参りました」
「なるほど、そういうことでしたか」
納得しているのか、課長は名刺を机に置き地図を覗き込む。だがその表情は真贋を見極めるのではなく、記憶をなぞっているようにも鷹谷には見えた。
「よく調べていらっしゃる。中には人的被害が無かったものや未遂に終わったものもありますね」
「先日もゴールドマテリアル社が被害に合ったと聞いています。人的被害は無かったそうですが」
ドクターが揺さぶりをかけると、課長は驚いた表情を見せた。
「第三鉱山の件もご存知ですか、これは恐れ入った。地層調査会社と聞いていたが、別方面も深く調査されているのですな」
「深く調査し、素早く終えること、それがわが社の命題です」
素とも演技とも取れる時代がかった言い回しをする課長ではあったが、それ以降GM社や第三鉱山を話題に上げる事はなかった。ドクター達三人も本題はこの課長との会合がメインではないため、話をそこそこに切り上げ挨拶をした後に偽UPC社を後にする。その間、部屋にいた女性社員は一歩も外を出る事は無かった。
その日の夕方、下の空き部屋を確認に行ったマリオン・コーダンテ(
ga8411)、
ハミル・ジャウザール(
gb4773)も無事帰還。バーグレも交え、GM社の会議室にて作戦会議へと移る。焦点となったのは委任書の在り処と関連するデータを収めたPCの位置である。
「下の階を見てきた限り、電源を引っ張ってきそうな場所はこれくらいだね」
マリオンが作成した地図に円を書き込む。中心となったのは入り口正面の中央フロア、右手の八畳程の中型フロアの二つである。
「一番使い勝手が良さそうなのは中央フロアね。広いっていうことも勿論あるけど、電源も多いからPCの台数も多いと見たわ」
「逆に‥‥書類に関しては‥‥右のフロアですね。外への非常階段も‥‥近いですし、支部長クラスの人が使ってる‥‥そんな気がする」
自分達の見解を説明するマリオンとハミル。二人が話し終わったのを待って聞き手に回っていた終夜・無月(
ga3084)が地図上の一点を指差した。
「この‥‥左側のフロアは‥‥なんだろう?」
終夜の指差した場所はマリオンもハミルもスルーした左フロアだった。
「管理人さんの話だと、物置用のスペースらしいわよ」
「窓も無かったですし‥‥使い道は‥‥多くない気がします。保管されている可能性もあるので‥‥最後には確認するべきでしょうけど」
「そうね」
風代も自分の記憶を呼び起こす。ドクター達三人が案内されたのが左側のフロアだったからだ。
「私達が案内されたのがその左側のフロアだったわ。残念だけど倉庫ではなく、会議室になっていたわね」
「そういえば‥‥ノート型PCを持ち込んでた人‥‥いましたね」
「いたね」
ドクターも思い返したように答える。
「女性社員だね。我輩はてっきり発言を録音されているのだと思っていたが」
「私もそれは考えたわ。無線らしきものを使ってたけど窓は無かったしね」
風代がはっきりと答える。
「部屋には監視カメラらしきものはあったけど、フェイクの可能性は捨てきれない。電源はどこからか引いてきたのでしょう」
「ですがノート型PCは‥‥どこから電源をとってきたんでしょうね」
「ある程度は充電できるはずだよ〜物にもよるが二三時間くらいは大丈夫じゃないかね〜」
髪の色を元に戻してもまだ違和感が残っているのか、ドクターは頭を気にしている。口調にもしばらく普段とは違うものが強要されていたせいか、まだ完全には戻っていない。
「となると‥‥PCの持ち運びが可能‥‥なのですね」
何かを考え込む終夜ではあるが、そこでバーグレが仕事に呼び出され会議は終了となる。そして作戦開始である深夜まで、それぞれ準備を整えるのだった。
そしてその日の深夜、能力者達は偽UPC社へと殴り込みをかける。既に明かりハア落ちているらしく、窓から見る限り人の姿は無い。だが対面するビルの屋上から鷹谷がスコープを覗く結果、ブラインドが下ろされていることが判明する。
「ブラインドが‥‥下ろされ、中の様子は‥‥確認できません」
「全部の窓?」
「こっちから見える窓は‥‥全部ですね」
マリオンの疑問に鷹谷が通信で答える。
「明かりは‥‥ついていません。人の気配は‥‥あるような気がします」
「誰かいるのね」
メシア・ローザリア(
gb6467)の腕が鳴る。今回はUPC軍服と暗視スコープを装備してきている。先程まで警察へと協力要請を掛け合ってきていた所である。粘り腰の交渉の末、何か動きがあれば協力と事後処理を手伝うという言質を得てきていた。メシアとしては明らかにUPCの名前を騙っている事を訴えたかったが、アンダープロジェクトカンパニーで登録しており、現地ではUPCという略称にはならないという。事後処理協力というのが警察側としても最大限の譲歩だった。釈然としないものを感じてはいるメシアではあるが、今は気持ちを切り替えスコーピオンと小銃「S−01」を構えている。警察を動かすためにも証拠品を抑えておきたいという気持ちは強い。それは装備している軍服にも現れていた。
やがて目的のビルへと到着。非常階段が施錠されていることを確認し、一同はエレベーターへと乗り込む。その時、鷹谷の耳に聞きなれない音が聞こえてきた。音源は上空、聞こえるのはプロペラ音だった。思わず見上げると、そこにはヘリコプターの姿があった。それにあわせるように三階フロアから二人の人間が出てくる。会議に出ていた課長と控えていた女性社員である。二人とも手に何かを抱えている。すぐさま通信機で連絡を取る鷹谷、しかしすぐには連絡がとれない。数秒後の間に何度も通信機を操作するが、反応は無い。その時間が鷹谷には妙に長く感じられていた。
「ヘリ狙えるかね〜?」
やがて通信機からドクターが声をかける。背後では他のメンバーの飛び出す音が聞こえていた。
「瞬天速で私が間合いを詰めるわ。隙があれば私ごと撃ってかまわない」
風代が飛び出し非常階段の通じていると言う右のフロアへと向かう。その後を下見を済ませたマリオン、ハミル、そして終夜が追う。ハミルと終夜は弾丸を麻酔弾
へと手早く交換、一方メシアは実弾のままヘリを狙えるポイントを探る。
「了解‥‥」
無理はしないように、そう付け加えようとしてハミルは止めた。
「右のフロア、右側の壁沿いに階段はあるわ。何かで隠されてるかもしれないから気をつけて」
マリオンは記憶を頼りに部屋の構造を伝える。その言葉が聞こえるか聞こえない内に風代は二度目の瞬天速で姿を消していた。走りながらも音で空の様子を伺う終夜、確実に音は近くなっている。それほど余裕は無かった。何故この日のこの時間にヘリを呼んだのか疑問はあったが、今考える事ではないと払拭。すぐに風代の後を追う。そして棚で隠された非常扉を発見、ハンドガンで打ち抜いた所で合流を果たした。だが扉は開かない、ドアノブが回らなかったからだ。
「どうしたの?」
「扉の向こうで誰かが抑えてる。狙って」
追いついたマリオンとハミルが問うと、風代は首で扉の向こうを指した。ハミルと終夜が麻酔弾を打ち込むが、扉のためか威力が削がれている。その間にどうやらヘリが到着したらしく、着地の振動が伝わってくる。
「流石にヘリの打ち落としは厳しいかな」
マリオンの危惧するように、ヘリの音は止まない。窓から鷹谷の様子を見るが、まだ諦めている様子は無かった。そして下の階からも銃撃が聞こえてくる。メシアのものだった。
「落とせるかね〜?」
ドクターも右のフロアへと移動を果たしつつ、全体の状況把握に努めていた。鷹谷からの報告によるとヘリは防弾ガラスを搭載している模様。操縦者を狙えば動きは止められそうだが、距離と風もあり狙撃眼を使っても難しいらしい。そして扉が開け放たれると同時にヘリが上空へと飛び立つ。最後に終夜がジャッジメントによる長距離射撃を狙うが、弾丸は夜空に吸い込まれる事になった。
最後に捕縛することになったアンダープロジェクトカンパニーの課長はドクターの治療とボディチェックの後、病院に搬送された。委任状とバーグレから転送されたと思われる資料を無事発見。警察を動かせる証拠を手に入れたことは大きかったが、まだ偽UPC社の抵抗はあるだろうというのがバーグレの予想だった。