タイトル:花火大会護衛任務マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/29 00:15

●オープニング本文


 西暦二千九年八月、グリーンランド在住の花火師斉藤孝也は念願の花火打ち上げの機会を手に入れた。グリーンランド中部に位置する河川敷である。川幅は十メートル程。雪解けの水も幾分収まり、川の流れも平静を取り戻しつつある。悪くはない場所であった。文化交流としてグリーンランドに派遣されて三年、念願の初舞台である。
 場所に関して満足している斉藤ではあるが、不満が全く無いわけでもない。ケチをつけるとすれば、周囲に小さな町しかなく見に来てくれる客が余り見込めないという事である。だが予定地である河川敷の責任者でもある町長としては、かなり大きな音のする花火大会を町の民家、特に病院の傍ではやらせたくはないという気持ちがあったからである。グリーンランドには花火という文化は無い。花火文化の浸透のためにも斉藤が文化交流という名目でグリーンランドに来ていたのだが、責任者が亡くなってしまい帰るに帰れないというのが現状ではあった。そこで一度はここグリーンランドで打ち上げ花火を成功させておきたいというのが彼の本音である。できれば多くの人に見てもらいたいという希望はあるが、確かに迷惑はかけたくない。そこで斉藤は河川敷での開催に同意することに妥協、だが開催前日になって斉藤の下に連絡の電話が入る。相手は町長、用件は花火大会の中止願いだった。
「あ、町長さん。明日はよろしくお願いしますね。雨も降らないらしいですし、後は明日の準備だけですよ」
 気分上々に語る斉藤、だが町長は何も答えない。嫌な予感が斉藤の脳裏に浮かんだ。自分の感情を押し殺し尋ねる斉藤、するとやっと町長は重い口を開いた。
「例の河川敷だが使えなくなった」
「‥‥理由を聞かせてもらえますか?」
「サンドワームが現れて荒らしていったんだ」
 町長が言うには、河川敷にサンドワームが現れ土壌を荒らしていったという。たまたま近くを偵察していたUPC軍により撃退したものの、彼らが退散した後にサンドワームが断末魔とともに地中で暴れ河川敷一帯を陥没させて死んだのだという。事前に引火の可能性のあるゴミや枯れ草を掃除を済ませていた二人だったが、全てが無駄になっていた。そして地面が河川敷は川の水が溢れ、打ち上げに使う筒が固定できない可能性が高いという。それが花火中止の最大の理由だった。
「他にもサンドワームの仕返しやら周辺住民の説得やらを考えると、中止せざるをえんのだよ」
「‥‥ですが」
 斉藤としても町長の言いたい意味は分かる。だがそれ以上に譲れないもの、今まで三年間作り溜めた火薬玉があった。
「ならば俺がUPCに連絡してKV出してもらいます」
「それは私も考えた。だがKVの巨大な手では花火は扱えない、誰か花火を筒に入れる人間がいる」
「それは勿論俺がやりますよ。ただもう一人助手が必要になりますが」
「私がやろう。他に押し付ける事もできない仕事だからな」
「そう言ってもらえると助かります」
 こうして死と隣り合わせの花火大会が実施される事になったのであった。

●参加者一覧

高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
月村新一(gb3595
21歳・♂・FT
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

「本当に花火大会なんてあるのかしらね?」
「そうね、でも元は火薬なんでしょう? バグアに盗まれたり悪用されたりしたら、どうするつもりなの」
「そうよね‥‥」
 噂をする観衆達、視線の先にあるのは今回の企画者である花火師の斉藤と助手を務める町長、そして二人が呼んだという能力者達である。下見中なのかKVから降りて生身の状態で斉藤や町長と挨拶を交わし、河川敷や川及びその周辺を視察している。
「何とかなるとは思うんだけど心配よね」
 噂をするのは二人の主婦であった。マスコミの報道でも受けているのか、元々花火大会によく思っていないのか懐疑的な反応を示している。そこに通りかかったのはハミル・ジャウザール(gb4773)、ノーマ・ビブリオ(gb4948)の二人だった。
「すみません、通していただきます。KVを乗り入れます」
「KV土嚢や盛土を運びますので、一時退避をお願いしますの」
 能力者の二人に諭され、観衆は間を空ける。話をしていた主婦も何度か目をあわせ場所を譲った。やがてエンジンの駆動音に遅れ、地響きが周囲に轟く。そしてハミルのS―01H、ノーマのアヌビスが姿を現す。
「もう少し離れてもらえますか」
「この後に五機、その後も土の運搬に何度か行き来する事になります。済みませんが、もう少しお願いします」
 コックピットから姿を出し、二人が呼びかける。すると一人の子供が手を上げた。
「俺、何か手伝える事無いかな」
 手を上げたのは十前後の少年だった。それに触発される様に近くの友人も手を上げる。
「ジャパニーズ “HaNaBi”っ☆ わたくしも初めてなので見たいのですの。それで先程町長さんとも話をしたのですが、この先に災害用の土嚢置き場があるらしいのです。案内してもらえますか?」
「どのう?」
「土を入れた袋ですの。大きさはこれくらい‥‥」
 ノーマは肩幅くらいに両手を広げると、子供達は「分かった」と言って走り出す。
「それではわたくしは子供達に付いて行きますの。他の方への連絡をお願いします」
「了解です。子供達を踏まないように」
「それは笑えない冗談ですの」
 ハミルの言葉に苦笑を浮かべつつ、ノーマはコックピットを閉じ歩き始める。それを見てハミルもその場を立ち去った。一部始終を眺めていた主婦二人は顔を見合わせる。
「‥‥私達も手伝いに行きましょうか」
 どちらが言い出すでもなく、二人はアヌビスの後を追い始める。そして他の観衆達も付き従うのだった。

 同時刻、依頼人である斉藤は川の水と土の混ざり沼と化した河川敷の中央で現在状況を確認している能力者達を観察していた。三年かけた品を守るに値する人物かを見極めるためである。まず目に付いたのが篠崎 美影(ga2512)、荒巻 美琴(ga4863)の姉妹だった。
「サイエンティストの篠崎美影です。妹と一緒に参加します」
「ボクはグラップラーの荒巻美琴。お姉ちゃんと参加だよ」
 男の性というものか、挨拶に来られるとまず女性には目が行くものだと自覚している。特に美人姉妹というものは、その響きだけで感動さえを覚える。だが篠崎は既婚者ということらしい、苗字を聞けば分かるものであるが残念と言うしかなかった。
「ご主人が羨ましい限りです」
 それが斉藤の本心である。だが声に出さないのも大人のマナー、三年かけてきたものを一言で不意にするような自体は避けたかった。
「早速だが地殻変化計測器の調子を確認したい」
 次に声をかけてきたのはホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)という男性だった。先程の二人と比べると落ち着いた雰囲気を持っている。彼の意見としてはサンドワームが出てくることが分かっているのなら罠を仕掛けた方がいいのではないか、というものらしい。言葉では強く言わないものの、隣にはソーニャ(gb5824)を帯同している。準備は既に整っているらしい。
「敵が来るタイミングが分かれば、それに応じて罠を発動できる。地殻変化計測器に関しては俺達の方でもいくつか用意した。併用すれば更に精度を上げられるはずだ」
「地形を見る限り、出てくる場所は限定できそうですからね。やって損は無いと思いますよ」
 ホアキン、ソーニャ両者の意見に斉藤としても反論は無かった。
「ごもっともですね。地盤も多少変わっているでしょうし、確認してもらえるとこちらも助かります」
「了解した。早速作業に入る」
 それほど時間の猶予が無いと判断したのか、ホアキンは踵を返す。その様子を見ていたのか、月村新一(gb3595)も動き出した。斉藤としては口数の少ない寡黙な青年という印象ではあるが、どうやらやる気が無いわけではないらしい。詳しい事はまだ判断できなかったが、町長のように信じられるタイプというのが印象だった。
「そういえば斉藤さん」
 ソーニャに話しかけられ、斉藤は意識を手元に戻す。先程まで聞こえなかった川の音が妙に大きく聞こえてくる。
「斉藤さんはどうして花火師になったんですか」
「俺か‥‥」
 この類の質問は比較的多い。そのため斉藤はいつも二つの答えを用意していた。
「少しでも多くの人に美の感覚を覚えてもらいたいからだな」
「いい答えですね」
 ソーニャは満足したのか、深々と礼をし笑顔でホアキンへと戻っていく。そんな純粋な表情を見るたびに斉藤は騙しているような錯覚にも襲われた。彼の持つもう一つの答えが「親が花火師だったから」である。
 
 その後は順調だった。ノーマが盛土と土嚢を運び、篠崎と荒巻の姉妹が地盤を固める。ハミルが斉藤と町長を囲い、ホアキンとソーニャが罠の準備に取り掛かり、月村は土木作業に楽しみを見出していた。
「KVはこういう使い方もできるって事か‥‥」
 月村はドーザーブレードを使い、土嚢と盛土をまぜて埋め、KVで踏み固めている。時折独り言のように何か呟いているが、自分の集中力を高めるための行為なのだろう。実際に川沿いの整備は月村一人で十分手が足りている。
「KVで土木作業もできるんですね。平和利用の一貫として広まればいいですが」
 打ち上げ用の筒を固定させる一方で、斉藤は町長にエミルに話かける。
「僕も出来れば平和利用の道を模索したいですね」
 盛土を均すためにKVハンマーを打ち下ろし、ハミルは答える。
「この戦いが終わった後、僕達は基本無職になりますからね。今回のようにKVで土木作業を行う事も経験になりますよ」
「そう言ってくれると、こちらも呼んだ甲斐があるというものだよ」
 篠崎、荒巻が全体的に整地してくれたお陰で、河川敷はかなり平らになっている。特に荒巻としては、出番が無くて埃を被っていたメトロニウムシャベルを活かす事が出来た事もあり土木作業を楽しんでいた。むしろこの後ほぼ間違いなくサンドワーム戦に向けて準備運動をしているように斉藤には見えていた。
「これから地殻変化計測器の取り付けを行うから、間違って掘り返さないようにね」
「お姉ちゃん、ボクを信じてよ。これでも花火見学楽しみにしているんだから」
 シャベルを振り回し抗議する荒巻、姉妹仲の良さが斉藤の目には頼もしく見えていた。
「地殻変化計測器設置完了、稼動確認に入る」
「稼動開始。一秒、二秒、問題なさそうですよ」
 ホアキンの声に合わせて、ソーニャが地殻変化計測器を稼動。そして実験の成功を伝える。
「それでは筒の設置もとりかかるですの〜!」
「ですね」
 引火しないように隅に片付けられていた打ち上げ道具一式を斉藤は町長とともに河川敷の中央へと運ぶ。
「手伝ってもらえますか?」
「勿論です」
 斉藤の言葉にハミルとノーマが応じる。だが一歩踏み出したところで篠崎が叫んだ。
「反応あり、三時の方向で数一。距離三千」
「手数かけて申し訳ないが、花火道具は元の位置に頼む。そして他は各自持ち場に」
 ホアキンの言葉に、ハミルは受け取りかけた花火道具と斉藤、町長両名を河川敷の隅へと避難させる。ノーマもハミルを手伝い、見学に来ていた子供達観衆にも避難勧告を出す。
「間もなく戦闘になります。皆さんはできるだけ遠くにお願いするの」
 特徴的な話し方と今回専用とも言える作業服が観衆にも馴染まれたのか、観衆達も更に距離を取って避難していく。
「大丈夫だろうか」
「大丈夫ですよ。本来KVは戦闘用なのですから」
 先ほどまでメトロニウムシャベルを抱えていた荒巻も、武器をビームコーティングアクスに持ち帰る。同様に月村も土木作業用のドーザーブレードを仕舞いユニコーンズホーンに持ち変える。
「距離千五百」
「出現場所は推定できますか?」
「まだ難しいわね、元々場所を調べるものじゃないから。でもちょっと挑戦させてもらおうかしら」
「頼みます」
 ホアキンとソーニャは仕掛けたワイアートラップの場所へと移動する。希望としては電気を流しスタンガンの役割を果たすものを作りたかったが、生憎河川敷に電気を発するものは無く依頼人である斉藤からも引火の可能性から使用を控えて欲しいと言われている。そこで登場する、あるいは逃げ出すサンドワームを足止めするためである。
「折角の地上だ。地面の下からは見えない夏の夜の風物詩、じっくりと堪能していけ!」
 ホアキンも武器を機槌「明けの明星」に切り替え、気を潜めた。ソーニャも障害物や射線を注意しながら高分子レーザー砲の使える位置まで移動する。前線を務めるのは荒巻と月村、そして中衛にホアキン、後衛にノーマとソーニャ。篠崎が計測器から情報収集、ハミルは斉藤と町長、そして火薬の護衛役に務めている。
「距離三百‥‥二百‥‥百‥‥来るわ、登場は川からね!!」
「了解したよ」
 篠崎の言葉に荒巻が跳躍した。川の流れを読みつつ、浮上してくるサンドワームの動きを待つ。やがて川の水量が減少、けたたましいほどの音を立てながら渦を巻きながら飲み込まれていく。
「氷山の崩落する音のようだな」
 町長は呟いた。身に覚えがある音なのだろう、悲惨な響きがある。ハミルは背を向けながら、何と答えるべきか考えていた。
「戦いはどうかね?」
「順調ですよ。今荒巻さんと月村さんが応戦してます。穴から引きずりだせれば僕達の勝ちです」
「逃げられる可能性は?」
「ホアキンさんとソーニャさんが罠仕掛けましたから、そう簡単に逃がしません」
「‥‥」
 斉藤はハミルのKVの影で、一人目を閉じ耳を済ませていた。
「これでもくらえー!!!」
「いくら図体がでかくても、攻め様はある‥‥。」
「バグアは近づかせないから」
 聞き覚えのある声が聞こえる、苦痛ではなく気合を入れる声だった。不利ではないのだろう、銃声とサンドワームの咆哮が聞こえる。実際UPC軍もサンドワームを追い詰める所までは行った、能力者達もそこまでは行ける筈と町長と共に信じている。
「サンドワームを引き釣り出しましたよ」
 順調に進んでいる事をハミルが伝える。状況が見えていたいため疑い深くなっているが、ハミルの声のトーンから嘘か本当かを判断していた。
「‥‥問題はこれからか」
 町長の言葉が重々しい。これから起こる事を予感しているのだろう。無意識的にか身を低くし、地盤沈下に備えている。
「手に乗りますか?」
 ハミルが提案する。だが町長は首を横に振った。
「町長とて高みの見物は許されんよ、どんな醜態を晒してもな。花火大会を期待している観衆も多いようだから尚更だ」
「その心意気、敬服しますよ」
 サンドワームは荒巻と月村から逃げるように周囲を荒らしながら地を張っている。地面にはサンドワームの通過とノーマ、ソーニャの弾丸の織り成す不可解な模様が広がっている。
「そろそろ逃げ出しそうよ。トラップの場所まで誘導お願い。それとトドメの準備もね」
 篠崎の言葉にホアキンとソーニャは試作剣「雪村」を抜いた。そしてブーストを使用し接近する。
「最後の奥の手! マックスブーストオン。いっけー、エルシアン!! みんなに夢を」
 ソーニャが
「終わりましたよ」
 サンドワームの断末魔の後でハミルが斉藤、町長に話しかける。
「後はお二人の出番、三年間‥‥頑張ったんですから‥‥是非とも成功させましょう‥‥」
「任せてくれ、ただ‥‥地面だけはもう一度均してもらえると助かるよ」
「そうですね」
 能力者達は最後に地面を均し、花火の筒を固定する。ちょうど空では太陽が傾き始めていた。

「これがエイリークの島の夜空を史上初めて彩る花火か」
 戦闘後、能力者達はKVの肩に乗り空を見上げていた。とはいえまだサンドワームが襲ってくる可能性もある、打ち上げ地点のほぼ真下での鑑賞である。実際まだサンドワームの空けた穴を埋める作業が残っていた。
「‥‥綺麗だな」
「これはこれで一興。でもできれば、今度はゆっくり眺めたいね」
 能力者達の目の前では斉藤と町長が鉢巻とヘルメットを巻き、汗を抑えながら筒に花火玉と火種を入れていく。二人の姿が見えるのは一瞬、花火の打ち上がる瞬間だけだった。だが三年間の思いを込めた花火が減っていく事に一人斉藤だけは一抹の寂しさも抱えているのだった。