タイトル:醤油を右にゼリーを左にマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/25 01:45

●オープニング本文


 西暦二千九年七月、ロッタは日本の四国某所に来ていた。醤油とゼリーの研究をするためである。事の発端はショップに醤油やゼリー、ジュースを並べ始めたからである。
「ロッタちゃんにはいつもお世話になってるけど、醤油やゼリーじゃ戦えないんだよ」
 醤油になじみのある東洋出身者には感謝されたロッタであったが、それ以外の者達からは不満の声が漏れた。理由は単純、北米で大規模作戦が開かれつつあるという時期に、装備品でもKV関係機器でもない醤油やゼリーの販売が始まったということである。
「そんな声はあったのかも知れませんが、もう少し優先順位や時期というものを考えていただかなければ困ります」
「醤油をKVの燃料タンクに突っ込めというかい? もしそう言うなら、アタシはロッタちゃんをミサイルの発射台に突っ込むよ」
「こんな所で、こんな素晴らしいものに出会えるとは思わなかったよ。これでUPCはあと十年は戦えるな」
 能力者達の反応は様々だった。だが多くの人が感じたのが「何故この時期に」という疑問である。一方ロッタとしては安定した供給源が見つかったからショップに並べたのだが、一言物申したい能力者達の気持ちも分からないではなかった。そこで蜜柑と醤油の修行のために、ロッタは四国まで来たのだった。
 とはいえロッタに何かしら当てがあるわけでもない。とりあえずみかんの調査に四国へと到着、何かしら手伝わせてもらえればいいかと思っていたところ遭遇したのは弱りきった蜜柑の木々だった。
「これはどうしたのです?」
「根っこが腐ってるのさ」
 途中で遭遇した人に話を聞くと地中にキメラが潜っており、それらがみかんの木を食い漁っているらしい。収穫はまだ先だが、期待薄だろうというのが農家の人々の予想だった。
「だったら今から、そのキメラを退治したらどうなのです?」
「そうしたいけどね。向こうも退治されたくないのか滅多に土の中から顔を出さない。こっちが穴を掘ろうとすると値を傷つける。踏んだり蹴ったりだよ」
「でもでも、このままじゃ駄目になるのですっ」
 このままではみかんの研究も出来ない、そう判断したロッタはUPCに連絡。そして依頼をお願いするのだった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
豹(gb7081
25歳・♀・SN

●リプレイ本文

「みったんかわいいよみったん‥‥」
 一人佐渡川 歩(gb4026)だけが催眠学習の中、ブリーフィングが行われていた。参加者が一つの机を取り囲み、そこには作戦予定地の地図が広げられている。ただ佐渡川は鼻血で周囲を汚す可能性もあるため椅子を並べて横に寝かされていた。たまに紅月・焔(gb1386)が同情するかのようにティッシュで作られた鼻栓を交換してくれている。
「とりあえず貰った板と滑車で使えそうなものを工作させてもらったよ」
 そう言って自慢の完成品を披露するのは鹿島 綾(gb4549)、特に今回滑車はともかく板は失敗すれば買取を依頼人であるロッタ・シルフス(gz0014)から言い渡されているためか気合が入っている。
「山の下腹部っていうことだったから勾配もそこそこあると思うんだけど、どうかな?」
「使えそうじゃないですか〜」
 それはキメラの出てくる場所を限定するための板であった。今回の依頼ではロッタがソニックフォンブラスターを使用し、土中のキメラをおびき出す。そこを叩くというのが主な戦闘方針だ。だがこの作戦には問題があり、おびき出したキメラが能力者達の死角を通って逃げる可能性もある。そこで鹿島が考えたのがキメラの出てくる位置を限定するための蓋代わりの板であった。
「ソニックフォンブラスターじゃどこに出てくるかわからないからね。逃してまた後で再戦とかしたくないし」
「そうね。今回の目標は殲滅、美味しいみかんの研究のためにも頑張らないとね」
 笑顔で微笑むつつ言うのは智久 百合歌(ga4980)、今回の依頼がモグラ叩きに似た印象があるため苦笑を隠せないが、ロッタの研究というものに興味があり参加している。同様にロッタに同情しているのはホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)である。
「醤油とゼリー、俺は喜んで買ったけどな」
 そう発言しつつもショップを切り盛りする事の大変さを痛感していた。
「それと頼んでいたものは手に入っただろうか?」
「はい〜準備してきたのですっ」
 ロッタが取り出したのは拡声器とトリモチだった。拡声器は連絡用、トリモチは舗装道路から畑へと逃げ込むキメラの足止め用である。
「でもでも注意点があります〜トリモチは粘着力強めのものを持ってきたので、仕掛けた後に踏まないでくださいねっ」
「‥‥」
 ロッタは紅月と佐渡川の方を向いて言う。
「俺達がわざと引っかかるような真似をすると思うか?」
「僕も依頼中に足を引っ張るような事はしませんよ」
 憤慨して抗議する二人、それでもまだ心中納まらないのかロッタの手にある拡声器を奪い、ロッタに向けて叫んだ。
「参加女性陣が半数以上だと、俺はやる気に修正がかかるんですよ。紅月 焔、みかん畑に降り立った‥‥紅月 焔‥‥‥‥愛と煩悩のダークスナイパー‥‥紅月 焔! 参上!」
「同じく瓶底眼鏡とむっつり助平で彼女イナイ暦=年齢のラヴサイエンティスト、佐渡川 歩! 見参! これでUPCはあと10年は戦えます!」
 双方片手を出し拡声器を支えながらポーズを決める紅月と佐渡川、そんな二人に拍手を向けるのはヨグ=ニグラス(gb1949)だけであった。
「モグラ叩きっぽいのでそれに適した武器を持ってきましたっ」
 ヨグが手に持っているのは黄金に輝くアルティメットフライパンである。伝説の料理人が使っていたというフライパンのレプリカではあるが、今でも愛用する人が多い。現に今回フライパン持参者はヨグだけではなく、鹿島も再び使う日が来たと磨きこんだフライパンを持ってきている。
「ブラスターを使う方向とタイミングさえ教えてもらえば、僕がこれでぽんぽんぽーんと倒して見せるよ」
「僕もアサルトライフルでキメラの頭を撃ち抜かせて貰うよ。敵の動きも早いと思われるし、ヘッドショットで一撃必中を狙わないとね」
 豹(gb7081)が地図上の車線、他の参加者から離れた所に自分のマーカーを置いた。トリモチ配置予定地から僅かに離れた位置である。
「ここから車線上に逃れてきた敵を狙うよ。道路が舗装されているなら敵も土中に逃げる事もできないはず。日本の文化を守るためにも一射一殺でいくよ」
 本心にはお金を稼ぎたいという気持ちはあるが、今は口に出したりしない。眉一つ動かさない狙撃を狙うスナイパーのように厳しい表情を作っている。
「それではわたくしはここですね」
 水無月 魔諭邏(ga4928)は自分のマーカーをロッタから多少離れた場所に置いた。みかんの木の多い、視界の悪い場所である。逃げ込まれれば見つけにくい上に、木を傷つけないという条件のせいで攻撃しにくいという問題もある。誰か配置をしておくべき場所だった。
「了解した、とはいえ状況は刻々と変わる。何かあれば声を出してくれ、拡声器を使って構わない」
 最後にホアキンがそう絞めると、能力者達は早速作戦準備に取り掛かるのだった。

 作戦決行当日、四国の空は晴天に恵まれた。雨自体は戦闘にそれほど影響しない、視界が悪くなり足場も乱れるが、今回の戦闘では対極を揺るがすほどの要員ではない。ただ超音波の伝導率には影響が出る可能性があり、出来れば晴れた方がありがたかった。
「これも全て‥‥ダークスナイパーたる俺の‥‥日頃の行いの成せる技!」
「ロッタさんへの愛の深さの‥‥成せる業!」
 トリモチをセットしながら口ずさむ紅月と佐渡川。その二人に対し豹はライフルを磨きつつ標的を二人の頭に合わせていた。もちろん安全装置も解除されていなければ、弾も入っていない。豹としてもほとんど無意識の行動だった。現に視点は二人の先、板の設置をしている鹿島とその手伝いをする智久とヨグ、そして地面の状況を確認しているホアキンと水無月に向けられている。だが流石に銃口を向けられたまま呑気にやっていられないのか、紅月も佐渡川も早々にトリモチのセットを終らせて配置に着く。それを確認して、ロッタはソニックフォンブラスターを起動の準備に入った。
「それじゃ行きますね〜まずはここから北方向にやるのです」
「了解」
 ロッタの言葉を元に全員が配置を確認する。そして板の位置を鹿島が確認し、トリモチの位置を豹が確認。二人がゴーサインを出した所で、ロッタはソニックフォンブラスターを起動させた。
 始めは目立った動きは無かった。ソニックフォンブラスターの出す超音波が聞き取れないためか、ほとんど動きと言う動きが無いためである。だが一二分も経過すると、そこかしこで地面が動き始める。キメラの登場であった。
「フライパンの威力を味わうのですっ」
 目の前に湧き上がった瘤にヨグは片膝をつき、黄金のアルティメットフライパンを力を込めて振り下ろす。土から顔を現したのはモグラ、だがそのモグラは太陽の姿を拝むと同時にフライパンで昇天した。
「やはりモグラか」
 ヨグの倒したキメラを確認して、ホアキンは呟く。
「土竜か、野鼠のキメラと踏んでいたがな」
 木に近づかせないよう剣先を道路方面へと向け、トリモチと豹の待つ道路方面へと誘導する。元々目が弱いのか、モグラキメラは誘導されるように、そして超音波から遠ざかるようにと逃げていった。そして鹿島の敷く板を上り、顔がはっきりと出たところを豹が狙撃する。
「いい調子じゃない」
 鹿島もアルティメットフライパンを片膝をついて構える。そしてタイミングを見計らって振り下ろした瞬間気付いた事があった。瘤の伸び方が直立ではなく、斜めに向いている事である。そして予想通りモグラは斜めに顔を出してきた。位置はフライパンの根元の部分である。
「それじゃこうしようか」
 鹿島は打ち下ろす形から手首を返し、そのまますくい上げるようにモグラを空に打ち上げた。意識を失ったのか、モグラは身動きをしない。だが問題があった。軌道上にみかんの木がある事である。このままでは枝を折る可能性がある。だが結局、モグラは木に到達する前に打ち落とされる。自称ダークスナイパー紅月の射撃によるものだった。
「これで女性のハートも狙い撃ちだな」
 銃口から立ち上る硝煙を息を吹きかけ飛ばす紅月、またいつものように冷たい目で見られるか罵声を浴びせられるかと予想していたが帰ってきた答えは鹿島からの感謝の言葉だった。
「ありがとう」
「‥‥どういたしまして」
 素の言葉に戸惑う紅月、だが戦闘中という事ですぐに気を取り戻す。一方で佐渡川は軽く
嫉妬を起こしていた。女性に感謝されたからである。
「僕もこのバトルハタキでみかん畑を救ってみせます」
 視界に入ったのは水無月だった。先程のブリーフィング通り、みかんの木の多いところに盾を構えている。だが同時にキメラの潜んでいた数も多いらしく、一人では裁き切れない状況になっていた。
「今助けに行きます」
 ロッタも太陽の照る中、KVに乗り込みソニックフォンブラスターを鳴らしている。佐渡川としても見せ場を作りたいところだった。
「ありがとうございます」
 元来のおっとりとした性格からか水無月も素直に感謝した。
「でも足元に注意してくださいね」
 地面は既にモグラキメラのせいで凹凸が多く、かなり歩き辛い状況になっている。だがモグラはまだ数を徐々に減らしつつも土中より顔飛び出していた。
「大丈夫です。僕のバトルハタキで地面も整地してみせますよ」
 瘤を一つ一つ叩いて直しながら進んでいく佐渡川、だが突如足元が浮き上がる。モグラの登場だった。
「そんな所からとは卑怯です」
 佐渡川は叫ぶものの、キメラは引こうとはしない。水無月も状況は把握できていたが、助けを出せるほど余裕は無かった。代わりに声を上げると、智久の急所突きを込めたエネルギーガンが佐渡川の膝下を貫いていく。
「はいはい、頑張って倒していくよ」
 智久はすぐさま武器を夏落へと持ち換え、キメラを弾いていく。一通り終ったところで板を移動し、ロッタがソニックフォンブラスターを起動。一連の作業が終ったのは日が山に落ちかけているところだった。

「無事に終って助かったのです〜」
 駆除したキメラの山をKVの手に乗せ終え、ロッタは能力者達に労いの言葉をかけた。
「これでロッタも安心して修行ができるのですっ」
「ですね、僕も研究を手伝いますよ。みかんゼリーがあるのならみかんプリンがあってもおかしくはないですよねっ」
 遂に本題の修行の話が出たと言う事で俄然やる気を見せるヨグ、多少怪我をしたものの佐渡川から練成治療を受け、無事完治していた。
「いいですねっみかんプリン、ロッタも食べたいのです〜」
「完成したら私も食べさせてくださいね」
 ロッタの言葉に水無月が答える。それに満足したのか、ロッタは更に笑顔で付け加えた。
「今度は醤油も研究予定なので、また何かあったらよろしくお願いしますね〜」
「了解、依頼金の方もよろしくね」
 無事依頼を達成させ、能力者達はラストホープへと帰っていくのだった。