タイトル:消えた研究者 その後マスター:八神太陽

シナリオ形態: イベント
難易度: 不明
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/12 12:57

●オープニング本文


 西暦二千九年七月、長らくバグアに監禁されていたコバルト・ブルーがラスト・ホープにあるカンパネラ学園に戻ってきた。直接的、間接的なものを含め何かしらバグアに細工された可能性があるため病院で検査を受けてきたが結果は陰性。そして無事体力も回復し、カンパネラに戻ってきたということになる。
「何だかこの研究室も久しぶりね」
「半年ぐらい明けてたか?」
 自分の研究室に戻り、コバルトは感慨深げに溜息をついた。カーテンの引かれた部屋に愛用のパソコンを始めとする研究器具、昔取り寄せたアクティブソナーなどが机に上に置かれている。カレンダーさえ半年前のまま残されていた。違いがあるとすれば、部屋に溜まった埃だけである。
「とりあえず掃除するわ。箒と雑巾持ってきて」
「そう言われると思って、借りてきましたよ」
 二人が振り返ると、そこには箒と雑巾そして水を汲んだバケツを持っていたカインが立っていた。
「結構埃も溜まっていると思いましたから先回りしておきました」
「相変わらず手際いいわね、何か裏がある?」
「ついでに部屋の模様替えでもしたらと思ったんです」
 カインが言いたかったのは低周波砲の事だった。直接は言わないもののコバルトは敵の兵器開発に加担したことになる。だが拉致等精神的トラウマとなっている可能性もあるため直接は言えない、そこで気分転換をしてもらおうかというのがカインの考えだった。
「それもいいな、不要になったものも多い。人手も集めてみよう」
 早速ボブも掲示板へと向かう。ついでにパーティーでも開けないかと考えているのであった。

●参加者一覧

/ 藤田あやこ(ga0204) / ドクター・ウェスト(ga0241) / クラリス・ミルズ(ga7278) / ハミル・ジャウザール(gb4773

●リプレイ本文

「コバルト君にとってはつらいことかもしれないが、早めに確認しておきたい」
 コバルト・ブルーの研究所に到着した能力者藤田あやこ(ga0204)改めミルズ・アヤコ、ドクター・ウェスト(ga0241)、クラリス・ミルズ(ga7278)、ハミル・ジャウザール(gb4773)の四人は早速各々の思う所から手を付け始めた。アヤコは研究所に飾る絵を描き、ハミルはロッカーなど備品にかける布などを選定、そしてクライスはカレーの依頼人であるボブとカインから近くのスーパーマーケットへと案内してもらい買出しへ向かう。そして
ドクターはハミルとともにテーブルクロスにも使えそうな布を探すコバルトに呼びかけ、二三話をつけていた。話題は今後問題になるであるだろう低周波砲の事である。
「我輩からすれば、今の君は『地球の裏切り者』だ。だが、アノ【研究】のすべてをUPCに提示するなら、君は『協力者』だ。君はどちらとなる?」
「どちらも断りますね」
 模様替えを進めているアヤコとハミルにも聞こえるように、はっきりとコバルトは答える。当然アヤコとハミルにもコバルトの言葉は聞こえたのだが、二人はそのまま作業を続けた。むしろ絵の具の換気のために開けてある窓から、他の誰かに聞かれているのではないかという心配があった。
「低周波砲は最早私一人の問題ではない。ボブやカイン、それに依頼に参加してくださった能力者全員の問題です。あなたも関係者の一人でしょう、ドクター・ウェスト? あなたも前回の依頼で姿を見た覚えがある」
「考えていたより意識ははっきりしているようで有り難いね」
「あなたの白衣は目立ちますから。あとはハミルさんもいたよね」
 皮肉交じりにコバルトは答える。
「無事助け出せて何よりです」
 作業する手を一旦止め、ハミルは小さく頷く。ドクターも自分の衣装を褒められた事に少し照れくさそうに笑った。
「話を戻すが、我輩ならUPCに研究成果を提供する事を希望する。どのような形になるかは分からないが、アレをバグアが使ってくることはほぼ間違いないと思うからね〜」
「そのアレっていうのは聞いちゃいけない事かしら?」
 今まで沈黙を守っていたアヤコが顔を上げて話しかける。
「五月蝿かったですか?」
「それも無いじゃないけど、それ以上にアノとかアレとか指示語ばかりで話されると気になるじゃない」
 ハミルの質問に小さく首を横に振りつつ、アヤコは絵筆をパレットの上に置いた。絵筆はしばらく転がりながらも絵の具と水を運んできたバケツにぶつかり、小さく音を立てて動きを止めた。
「それと私は当事者ではありませんから詳しい事は言えないけど、一科学者の立場として言わせてもらえば科学は諸刃の剣で悪用する奴が悪いのよ」
「私はてっきりボブとカインからある程度事情を聞いてると思ってたけど?」
「ある程度は聞いているわ、でも気分転換が目的なんだと思ってる。そこまで突っ込んだ話はコバルトさん自身が決める事じゃないかしら」
 そこまで言うと、アヤコは再び絵筆をとり絵画作成作業に入る。ちょっと肩を竦めて苦笑しハミルも再び布を選び始めた。そして薄い水色の生地を見つけて大きく掲げ心持ち大きな声で「こんな色なんてどうですか?」とコバルトに話しかける。雰囲気が変わった事を悟ったドクターは食堂から借りてきた鍋などを洗い、買出しに行ったクラリス達三人の帰りを待つのだった。

 研究室に静けさが戻って来てからおよそ二時間、研究室内の模様替えおある程度終ったところに両手一杯に買い物袋を抱えたクラリス達三人が研究室へと帰還した。手にはカレーの材料となる肉と野菜、そして米などが入った買い物袋を下げている。
「随分買ってきたのね」
「これでも一応予算の範囲内だ。別にヘソクリなんかは使ってないぞ?」
 クラリスが念を押すようにボブとカインに視線を送ると、二人は声を押し殺して笑う。その不気味とも言える反応にアヤコは眉を寄せた。
「ちょっとレシート見せて」
「レシート? 俺が今までそんなものを受け取ったことがあったか?」
「あなたが受け取ったことが無くても、今日はボブさんとカインさんのお金で買ったんでしょ。それなら領収書切らせるぐらいしてもおかしく無いと思わない?」
「おもわんなぁ。それに俺ならお釣りは寄付にまわすし、足りないなら値切る。今世界は貧困に溢れかえっているからな」
「話を逸らさない!」
 このままでは埒が明かないと判断したアヤコは袋から商品を取り出し並べ始める。値札から使ったお金を逆算するためである。だがアヤコが取り出した商品を、ハミルは次々と洗い場にいるドクターの下へと運んでいった。
「テキパキやらないと鮮度落ちてしまいますからね。こちらはある程度終りましたので手伝いますよ」
「それは助かる。ちなみに料理の経験は?」
「自炊はしてますからそれなりに。ただ家族は多いんで、細かい分量とかは分かりませんよ」
「それでも十分だ。分からんところは所はあやこに聞いてくれ」
「‥‥」
 その言葉を受けて、ハミルはまだ絵を描き続けているアヤコの方へと視線を向けた。先程科学関係の話を振ったためか、それほど筆が進んでいない。本人曰く最終段階という事だったが、ハミルにはまだ二三時間かかるのではないかと予想していた。
「どうした?」
 心配そうにクラリスが尋ねると、ハミルは眉を潜ませる。それは言っていいのかどうか悩んでいるようにクラリスには見えた。
「言いにくいことか? 実はカレーが嫌いとか」
「そういう事じゃないんですけどね、ただ僕の家族は姉は多いんですけど誰も料理をしなくて。それで女性で料理が出来る人っていうのが良く分からないんですよ」
「つまりあやこが実は料理が下手だと?」
「そこまでは言いませんよ。ただ‥‥」
 慌てて手を振り否定するハミル、だがトーンを落とし言葉を付け足す。
「世の中には鍋に穴を開ける程の料理の腕前の人がいると聞いたことがあるので」
「はっはっは。確かにな、そんな天然記念物みたいな存在もいる。ちなみに悪い意味じゃないぞ、天然の腕前で記念すべき人物という意味だ」
 大声で笑うクラリス、だがアヤコに視線で制されると肩を竦める。そして拍手を一つ叩いて料理の指示を飛ばす。
「それじゃ早速作業に入ろう。メインはカレーだ、コバルトさん肉は大丈夫か?」
「ええ大丈夫。ウェルダンが好みね」
「カレーにウェルダンか、難しい注文をするもんだ。だがバーナーもあることだし出来なくはないか。ドクター、使えそうか?」
「問題ないね〜だが我輩が改良すれば機械剣αぐらいの火力は出せるが、このままでいいのかね?」
 火力に不満なのか、ドクターはバーナーのガスと空気の量を調整しつつも、まだ何かできないかとエネルギーガンを散りだしている。それをどう使うのか疑問に思いながらハミルが声をかけた。
「そんなことしたら、本当に鍋に穴が開きますよ」
「それはそうだ。我輩の機械剣が鍋ごときに止められては、バグアを一刀両断することなんて夢のまた夢だからね〜できればギガ・ワームを一刀両断するぐらいの火力を出したいものだよ〜」
「そんな事したら学園が火事になるぐらいじゃすまないぞ。火力はそのままで十分だ」
 このままKVの兵器でも作りそうになる雰囲気にクラリスが釘を刺す。
「それじゃまず芋の皮向きから入るか、ハミル君できるな?」
「任せてください」
「次にドクターは米を研いで鍋にかけてくれ。火加減は俺が見よう。ちなみに研ぐといっても米の先を尖らせて鋭利な刃物にすることじゃないからな?」
「‥‥我輩がそんな事をするはずがないだろう〜」
 ぎこちない笑顔を浮かべつつ、ドクターはボブから米袋を受け取りつつ水場へと向かう。
「あとあやこは‥‥適当にやってくれればいいか」
「ちょっと待って。私が監視してなかったら誰がクラリスの暴走を止めるのよ」
「暴走とは聞き捨てなら無いな、俺はいつだって真面目だぜ?」
「‥‥どうかしら?」
 言葉の上ではいがみ合っているものの、クラリスとアヤコは二人とも怒ってはいない。むしろ相手の出方を楽しんでいた。実際クラリスが戻って来てからアヤコのピッチは上がっていることにハミルもドクターも気付いていながら、何も言わなかったのだった。

 調理が完成したのは、夕方に近い時間だった。メインであるカレー完成時にはアヤコも夏らしい海と太陽と向日葵をモチーフにした絵画を完成、肉より魚を好むボブのために仕入れてきたスズキを捌くのを手伝っていた。そしてハミルもカレーを終え、続いてムール貝の蒸し焼きに取り掛かっている。予算の関係上あまりいい物のの手に入らなかったソース類を香りで補うために白ワインのフランペを実行、火災報知機が鳴らないかコバルトを心配させていた。そしてドクターは炊き上がったご飯をそれぞれ装い、ハミルの焼いてきた胡桃パンをコバルト達に配りつつ、調理の完成を待っていた。やがて調理が完成、雰囲気を出すために電気ではなく蝋燭に灯りが点され、料理長となったクラリス自らが料理をつぎ分けた。
「腕によりをかけて作らせて貰った。俺の愛情が込められているから味わって食べてくれよ」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと分けなさい。料理は鮮度、いつもあなたが言ってる言葉でしょう」
「こういう晩餐会の前では、シェフ自らが挨拶するのが礼儀だと教えただろ?」
「挨拶の割りに、あなたの視線はいやらしいのよ」
 最早何度目かも分からない夫婦漫才に一同は慌てる事無く笑っている。だがそこで研究室の内線電話が鳴った。学園からの連絡である。
「‥‥はい、はい‥‥そうですか」
 始めは落ち着いた口調で答えていたコバルトであったが、次第に語気が薄れている事は誰の目からも明らかだった。そして電話が終ると同時にボブが尋ねる。
「誰からですか?」
「グリーンランドから」
 そう答えると同時にコバルトはテーブルに両肘を突き、頭を抱える。だが今客人がいることを思い出し、すぐに姿勢を正した。
「答えてもらえるかね〜」
 ドクターは敢えて「何を」とは言わなかった。グリーンランドという言葉、そしてコバルトにかかってきたという事実から推測ができたからである。それでもなお尋ねたのは、コバルトの心が動いてくれる事を期待してのことである。
「私の拉致を計画したと思われるヘルマンが病院を脱走しました。恐らくバグアと接触を狙っているのでしょう」
「余り良くない事態ですね」
「そうね」
 ハミルの言葉にコバルトは頷く。
「でも良かったわ。私一人だったらしばらく塞ぎこんでいたから」
「そう言ってもらえれば料理を作った甲斐があるな。余ったご飯を酢飯にしてサラダ巻きも作っておいたから、そっちもご賞味あれだ」
「ありがとう。それとドクター」
「何かね?」
 突然の指名に少なからず驚きながら、ドクターはコバルトの方を向く。そこには今朝討論していた頃のコバルトの顔があった。
「私を拉致した首謀者が警察と聞いて、私は誰を信じていいのか分かりませんでした。これが私の本音です。UPCに協力する、それは確かに正しい道でしょう。ですが警察にも裏切られた私がUPCを妄信できるできないのです」
「‥‥コバルトさん」
 ふとハミルの脳裏にヘルマンの姿が思い出される。最後は諦めたように素直になった事さえ、今となっては腹立たしかった。
「ですがあなた達が望むのなら、私は例の研究を続けましょう。それが私の最大の譲歩です」
「仕方ないところだね〜」
 正直納得は出来ないのだろう、ドクターの顔も晴れない。だがその辺りが妥協点と考えたのか、それ以上の言葉は口にしない。
「それではひとまず話がまとまったみたいですので、食事に入りましょう。私が言うのも何だけど、夫の料理の味は保障するわ」
「それじゃ荷が重いかもしれないが、コバルトさん挨拶を頼む」
「そうね」
 ワイングラスを片手に、コバルトは席を立った。そして軽く深呼吸し全体を見回して話しかける。
「何が正しくて何が悪なのか、それも分からない時代になってきたような気もします。ですがこうして食事を共にできる、このような仲間は私は正しい仲間だと信じたい。それではまた未来に邁進する事を誓いまして、乾杯」
「乾杯」
 蝋燭のほのかな灯りしかない研究室に、グラスの重なる音が広がるのだった。