タイトル:【NE】スノーストームマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/25 21:48

●オープニング本文


 西暦二千九年六月、ようやく春の訪れを迎えつつあるグリーンランド南部にUPC北方軍の軍人達は集結していた。国内の中部から北部に向けてのバグア勢力下にある地域を開放するためである。そして同時に一つの狙いがあった、雪解けの始まるこの時期ならばグリーンランド内の最大敵戦力とみられるスノーストームの力も弱まるのではないかという多少楽観的とも見える見方もあった。
 だがそんな軍の思惑を嘲笑うかのように、スノーストームが登場する。標的となったのはグリーンランドにある民間の学校だった。とはいえ戦時下ということで今は使われていない。軍が宿舎代わりの仮住まいとしている場所である。そのため調理場には食料、体育倉庫には弾薬も持ち込まれていた。
 何故こんな所に来るのか、それは誰しもが思った。UPCの情報が漏れている可能性は皆無とまでは言わないまでも、今戦力が整っているUPC軍に単騎で向かってくることは一騎当千を狙うとしても無謀と考えるのが妥当だった。
 そこで何らかの狙いがあると考えたUPC軍はスノーストームに監視を付けることにしたのだった。

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
鮫島 流(gb1867
21歳・♂・HA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

 六月を迎えたグリーンランドであるが、そこは未だに雪を残していた。流石に雪が降り続くという日は減ったが、気温は五度を下回る。また日の出が四時前、日の入りが二十二時以降という高緯度特有の日照時間の長さが白銀の大地に見飽きた者達に多少の安らぎを与えるが、現状では余りそれも喜ばしい話ではない。それはバグアの活動時間の増加とも繋がるからである。

「まずは地図と相違を確認したい。何か気付いた者はいるか?」
「気付いたというほどのものではないが、おかしな点はなかったですね」
 依頼を受けた能力者達が作戦会議の場所として選んだのは調理場である。その名の通り鍋や包丁といった調理器具が置いてあり、敵からの死角を作るには悪くない場所であった。また一階ではあるが校舎の裏側だがそれほど広くは無い。既に多くの軍人達が息を潜ませている中で、それほどゆっくり出来る様な余裕は無い。ただ調理場というだけあって、隣には食堂が併設されている。そちらは
作戦会議におあつらえ向きのテーブルが相当数置かれていた。ただ窓が多く視界が開けていたため、半分ほどカーテンが引かれている。中途半端な状態になっていることに違和感を覚えないわけでもない須磨井 礼二(gb2034)ではあるが、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は気にせず話を進める。
「周囲に生えた木だけど、枝や足を引っ掛ける場所はほとんどないね。結構な高さがあるから身を隠しつつ相手の出方を見るにはちょうどいいと思ったけど、使えなさそうだ」
「そうか、となると屋上からの補足が妥当だろうか。だれか登はんに自信があるものはいるか?」
「スナイパーとしては登はん技能の一つや二つ身に付けるべきなのでしょうか」
 会議を進行させる篠崎 公司(ga2413)に申し訳なさそうに答えるのはベル(ga0924)、スナイパーである。高所より索敵することが今回の彼の役割である。外に出る可能性が高いことを覚悟し、防寒着代わりのトレンチコートと雪原用ブーツを装備している。だがそれらが相当の重量になることをまた事実であった。複雑な表情を見せるベル、そんな彼にUNKNOWN(ga4276)は言う。
「無いよりはあったほうがいいだろう。だが無いもの強請りをしても何も生まれない、まずはやれることからやれるべきだ」
「そうだな。欲出すと、今頃また何しに出てきたのか分からないスノーストームなるぞ」
 須佐 武流(ga1461)も言葉を加えた。
「やけど、ほんまにあの機体は何でこんな所に‥‥勉強しに来たって訳でもなさそうやけど‥‥」
「別に勉強するためだけに学校に来る必要もないよ。こちらの情報を掴んでいるとしたら、ここは今弾薬と食料の宝庫だからね」
「それもそうなんやけどな」
「何にせよ、コールサイン『Dame Angel』、静穏でもって索敵開始するよ」
 鮫島 流(gb1867)と疑問にアンジェラ・ディック(gb3967)は答えるが、鮫島はまだ不満げな顔を見せる。だが通信傍受などから情報が漏れている懸念があることから通信機の使用は極力控え、最悪の場合にミラーなどでのサインを確認するのだった。

 スノーストームが始めに姿を現したのは正門だった。閉められていた校門を破壊することなく、手で器用に開けて入ってくる。その様子を二階の窓からユーリが、一階から鮫島が見ていた。
「弾薬を浪費したくないのでしょうか? そもそも、あの機体に弾薬という概念があるのか疑問ですが」
「本当に勉強に来た学生のようだな」
 二人の感想は大きく異なっていた。思い思いの考えの下に、それぞれデジタル一眼レフと双眼鏡を取り出し観察を開始する二人。スノーストームに見つからないよう極力身体を物陰に隠していると、自然と吐く息さえ少なくなっていく。それが功を奏してか、スノーストームは二人に気付いた様子を見せない。正門に手を当て、錆びている箇所を探しているかのように丹念に眺めている。余りにも不用意に背後を見せているその姿に、狙撃できるのではないかとユーリは疑惑を感じる。実際殺気こそ出していないものの、両手で抱えた一眼レフの構えはスナイパーライフルに通じるものがある。だがやはりスノーストームは背を向けたまま門を眺めていた。
 一方鮫島は一階から眺めているため、スノーストームの手元が見えない。余りにも動かないことから爆弾の類を設置したのではないかと予想していた。既にここがUPCの詰め所となっているとばれている可能性が高い。大打撃を与えるためにトラップを仕掛けて帰るというのは十分ありえる可能性であった。
「噂に聞く低周波砲じゃなければいいんだけどな」
 実際低周波砲というものを鮫島はまだ目にしたことはない。ユーリはスノーストームに搭載してあるのではないかと予想しているが、背後から見る限りそれらしき武装は見当たらない。もちろん今設置中である可能性もある。そこで地図を取り出し、場所を書き込んでいく。
 やがてスノーストームはトラップ設置が完了したのか、校門前を離れる。ユーリと鮫島が地図で場所を確認すると、どうやら続いて向かう先は右手、校舎脇の木々の生えた場所らしい。ベルが担当している地域である。気付かれていないと判断したユーリはそのまま備考を継続、低周波砲を仕掛けられたと判断した鮫島は篠崎の控えている放送室へと向かうのだった。

 スノーストームが現れた時、ベルはトレンチコートの襟を立て木々の影で息を潜ませていた。多少暖かくなってきたとはいえ、それはあくまでグリーンランドでの事。吐く息は未だに白く、気温の低さを物語っていた。身体を動かせば多少は楽になれると分かっていたが、隠密潜行を使用している以上動いては意味が無い。スノーストームが現れたのはベルがそんな事を考えている時であった。
 隠密潜行のおかげなのか索敵を怠っているのか、スノーストームはベルに気付いた様子は無い。遅れてユーリがスノーストームの見える二階の廊下に到着、途中で合流した須佐とともに観察を開始する。そして二人が見たものは木の枝を一つ摘んでいるスノーストームであった。
「何やってるんだ、あれ?」
「正直俺も判断に困っています」
 二人とも、スノーストームのそばにベルが控えている事は先程の作戦会議で知っていた。さすがに一撃を貰うことを回避するために多少間合いを取っている可能性はあるが、恐らく付近で観察を続けているだろう。だがスノーストームは気にしていないのか、枝を摘み葉を一枚ずつむしっている。
「あの葉、何かあるのか?」
「何かというと?」
「そうだな‥‥あれだ、薬草になるとか」
「その辺詳しそうなのは博学のUNKNOWNか学生の須磨井、元軍人の篠崎、アンジェラあたりでしょうか。ですがあの木の葉に効果があるとは思えません」
「俺もそう思うな」
 スノーストームの手に握られた葉までは分からないものの、周りの木々がつけた葉はどれも針のように細く鋭い。煎じるにも塗るにも量が少ないというのが二人の共通見解だった。
「なら何をしてるとみる? あの葉が武器になるのか」
「吹雪を武器にしているスノーストームだから否定はしませんが‥‥」
「わざわざここで回収する必要も無いな」
 須佐は自分の問いを出しながらも、自分で答えを導き出す。ユーリも同じ答えに行き着いたのか、それ以上何も言わなかった。
 その頃ベルは須佐とユーリの予想通り、スノーストームからわずかに離れた所から様子を伺っていた。注目していたのはスノーストームの手元、校舎側からは死角となっている部分である。そしてそこで見たものは葉を一つ一つ折る戦場では見られないスノーストームの姿だった。
「何をしている?」
 声には出さないものの、疑問はベルの頭を渦巻く。だがその結論をベルが出すことはできなかった。

 その後、スノーストームはゆっくり校舎を一周し去っていった。終始怪しげな様子を見せていたが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。だが鮫島の予想でもあったトラップの可能性を考慮し、能力者達はすぐに集合し調査に向かう。
 放送室で控えていた篠崎、そして調査に回っていた須磨井と後半合流したUNKNOWNとアンジェラに状況を説明する。
「とりあえず何か聞こえますか?」
「いや、何も聞こえないな」
 低周波砲が仕掛けてある可能性も考慮し、須磨井は低周波も聞こえるという篠崎に尋ねる。早速耳を澄ませる篠崎であるが、何も聞こえない。低周波だけではなく、時限爆弾などの可能性も薄いと篠崎は答える。
「位置的には校門のどの当たりだろうか?」
「入って左側だね」
 篠崎のお墨付きを貰い、UNKNOWNとアンジェラが校門へと近づく。地雷があるのではと心配するベルと須佐だが、見ていたユーリと鮫島は地面に工作をしたという様子が無いことを説明する。そして自信ががあったのか堂々と進んでいくUNKNOWNとアンジェラは何かを発見し、他の六名を呼ぶ。そこで見つかったのは、何度か失敗した片方しか名前の書かれていない相々傘だった。
「これを描いていたのか?」
 信じられないという心境からか、須佐は思わず声が大きくなる。だがUNKNOWNは冷静に答えた。
「学校なら浮いた話が一つや二つあってもおかしくあるまい?」
「それはそうだが‥‥何か理由があるのか?」
「理由というほどではありませんよ」
 続いてアンジェラが言葉を添えた。
「私も後半スノーストームを観察していましたが、どこか女の子らしいなと思ったんだ。木の葉を千切っていたんだろう?」
「ですね」
 ベルが答えると、アンジェラは小さく頷いた。
「あれも花占いだと思ったの。使っていたのが花じゃないのは近くに咲いてないせい、というところじゃないかしら」
「アンジェラさんにしては随分大胆な予想だな」
 篠崎は言うが、心底否定してはいない。
「だがバグアが絆に目をつけてきたとすると、多少問題だな」
「どういう意味ですか?」
「時に絆や恋愛という感情は実力以上のものを出す。学園だとそれを感じる機会も多いだろう?」
「そうですね」
 そう答えつつも、バグアが軍事的な連携以上の絆や恋愛というものを持つようになるのか須磨井の疑問は残る。だがスノーストームが残している筆跡から、縦書き文化のある地域からの出身であることが判明する。そこから須磨井が出身者を洗うが、該当者は見つからなかった。ただ在留していた軍人に話を聞くと、生徒会に力を入れている学校だということだった。