タイトル:【NE】腐海マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/17 04:10

●オープニング本文


 西暦二千九年六月、ようやく春が訪れつつあるグリーンランド南部沿岸にて一つの事件が起こった。沖合いの海で魚が大量に死滅し、岸に打ち上げられているというものである。魚の種類は大小問わず、また他にもエビやイカにも影響は及んでいた。流石に原因の分からないものを出荷するわけにも行かず、打ち上げられた魚介類は漁業関係者等の手により処分される。だが数日後、今回の被害総額が今年一年を左右しかねない額になる事が判明。そして同時に再び数日前と同様に大量の魚が岸に打ち上げられていることが漁に出ようとした人から通報で明らかになる。そこで漁業組合は処分を兼ねて、魚介類大量死の調査に取組む事にしたのだった。
 調査の結果、今までには見られない現象が起こっていることが判明した。魚の体内からは毒物が検出される事も無く、同時に大型の魚類やキメラに噛まれた様子も無い。骨格や臓器にも異常は見られなかった。ただ因果関係があるのかは不明だが、魚の大量死前日にはバグアの手により輸送機が奪われているらしい。
 そこで輸送機の積荷か何かが魚に影響を与える事を与えている可能性があると考え、ULTに調査依頼を出すことにしたのだった。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
M2(ga8024
20歳・♂・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP

●リプレイ本文

 依頼初日、能力者達は依頼人でもある漁業関係者に連れられ海へと出ていた。今日も被害が出ているということで、口で説明してもらうより実際に見てもらった方が早いという。そして初めて見た藤田あやこ(ga0204)の感想は感嘆だった。
「酷いものね」
「‥‥例の新兵器が原因かな?」
 船の出入りを行いやすいようコンクリートで固めた入り江からは水平線の彼方までとは行かないものの、本来澄んだ青をしている海が黒く変色している。それは死んだ魚の浮き上がっている姿であった。ある意味壮観な光景ではあるが、隠しようも無い鼻腔を刺激する臭いはお世辞にも褒められたものではない。実際、M2(ga8024)の影でリア・フローレンス(gb4312)は「この光景、食欲無くすなぁ‥‥」と呟きつつも、顔を歪めげんなりしている。
「新兵器?」
「低周波を使った装置だそうだ。正式名称までは知らないが、現在UPCの方では低周波砲で通っているらしい」
「低周波砲、低周波砲‥‥名前を聞く限りだと余り強くなさそうだけど、この様子だと結構範囲は広いのかもね」
「まだそれが原因だとは分かっていないがな」
 これまでのグリーンランドで起こった事件から、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は低周波砲が原因ではないかという可能性を示す。だがあくまで可能性であり、決め打ちをしているわけではない。慎重な態度をとっている。一方で須磨井 礼二(gb2034)は海の目の前に張り付いた笑顔を浮かべている。
「緊張してるのか?」
 グロウランス(gb6145)が淡々と声をかける。
「初依頼というわけでもないだろう。今更何に怯える?」
「別に怯えてはいませんが、ただ‥‥」
「ただ?」
「バグアが死ぬほど憎らしく思えることもあるのですよ」
「‥‥何か背負っているものがあるんだな」
 足元に落ちていた小石を拾い、グロウランスは水平線目掛けて投げ放つ。それは綺麗な弧を描くものの、死んだ魚の群れへと消えていった。
「人間誰しも無理なものはあるものさ。一人で何でもできれば、それ以上楽はことは無い。だがそれだけでは詰まらないだろう?」
 語りかけるグロウランスだが、須磨井は答えない。重い空気が二人を包む。そして須磨井の代わりにM2とリアが絡んできた。
「何々、遠投勝負でもしてるの? 俺も混ぜて欲しいな」
「僕もやりますよ。水中依頼は初めてでも、こういう事には少し自信ありますから」
 やっと臭いにも慣れてきたのか二人は鼻を塞ぐ事を止め、手には程よい小石を拾っている。だが唐突に変わった空気に須磨井も思わず自然な笑顔を浮かべた。
「何か俺、変なこと言った?」
 須磨井の様子にM2はグロウランスやリアに答えを求める。だがグロウランスは相変わらず海を見つめ、リアはM2同様自体を把握できずに当たりを見回すだけであった。

 その後、能力者達は関係者への聞き込みに移る。中心となるのは輸送機の撃墜地点、そして魚の大量死する地点の二つである。それに周囲の海流の動きを計算すると、ある程度範囲が絞られる。通信機片手に散開して情報収集に励む一同、そして半日後再び集合しそれぞれの結果を地図にまとめていく。目撃情報した人は多いのか、撃墜される場面を見た人は多かった。だが方角は分かったものの距離までははっきりしない。いくつかの目撃情報を照らし合わせた結果、浮かんできたのは大量死の西部約百キロの地点であった。
「流れたと見るべきね」
 地図の高低差を指でなぞりながら、藤田は言う。だがM2は懐疑的な意見を出した。
「百キロも流れるもの?」
「物によるとしか言えないな。コンテナの状態、とはいえコンテナで運んだとも限らないが、そのままでは遠くへは運べないだろう。だが海底まで落ちたんだ、コンテナも無事じゃ済むまい」
「そっか、それに元々俺達が怪しんでいるのは低周波。波に流されるどころか目にさえ見えないものだものね」
 ホアキンにまで説得され、M2も理解は示す。だが納得まではいっていない様子で、まだ微妙な表情を浮かべている。その反応にリアも呼応する。
「それじゃどこにあるかもわかりませんね」
「確かにな。だが目には見えないが観測機はある」
「それは頼もしいですね。でもですけど、水の中って何か音の伝わりが早いんじゃなかったですっけ?」
「‥‥そうですね」
 借りてきた観測機を見せるグロウランス。その手際のよさに一種の感動を覚えつつもリアは疑問を口にする。しばらく考えた様子を見せ、藤田はリアの質問に答えた。
「空気中と比較するなら水中の方が音の伝導は早いです。それが直接戦闘に関わってくるかどうか、まだ分かりませんけどね」
「とりあえず気に留めておいたほうがいいだろう。目標地点は判明した、まずは動くべきだろう」
「それもそっか。僕としてもそっちの方が性に合うし」
 いくつか気になる点が浮上してきたものの現時点では結論を出せない。能力者達は準備を整え、KVへと乗り込むのであった。

 翌朝、能力者達はKVに乗り込み海中に潜った。本来なら昨夜の内に調査に行きたいという逸る気持ちも合ったのだが、夜間の水中は夜間の空中とはまた違い、光を出すものが一切無い。特にそれは沖合いに出るほど顕著となり、捜索どころか逆に敵に見つかると漁業関係者に止められたからである。そしてまず向かったのは手前にあった墜落現場、水深二百メートル強の地点である。
「何か見つかったかしら?」
 水深五十メートル付近でデルタ陣形を組む藤田、リア、須磨井の三人が捜索を行っていたが、特に目新しい変化は無い。そこで海底深くまで潜ったホアキン、M2、グロウランスに呼びかけると、輸送機に積まれていたであろうコンテナを発見したということだった。
「コンテナだけ?」
「コンテナだけだな。施錠はしてあったようだが、杭のようなものでこじ開けられているな」
「ついでに言うとお魚さんの住処になってるよ。もうちょっと穴開けたいくらい」
「だからと言って、ガウスガンをこちらに向けるのは止めて欲しい」
 苦笑を浮かべつつも、グロウランスは観測機の計測に当たる。だがまだこの地点では機械は何も示さなかった。
「それで肝心の観測機だが、特に変化は見当たらない。たまに針が動くが、別の音を拾っている可能性が高いな」
「別の音?」
「大型生物のイビキとかだろう。海上にはアザラシがいたからな、その類だろう」
「なるほど」
 須磨井は思わず耳を澄ますと、確かにそれらしい音がしないでもない。海上には六月という季節にも関わらず幾分か氷が張っており、須磨井も何体か狩りの途中と思われるアザラシを見かけている。KVに向かって襲ってくる事はなかったためそれほど直視はしていなかったが、グロウランスの言葉に記憶を呼び覚ます。
「あれだけ大きいと、イビキも大きそうだからね」
 リアも思い出したのか、いつもより大きな声で答えている。今にも手を叩きそうな勢いだった。
「でも寝相の悪いアザラシなんているわけないですよね。自分の居場所を教えたらクマとかにねらわれそうだし」
「食物連鎖ね」
 リアの言葉に答えつつ、藤田もアザラシの事を考えていた。確かにリアの言うとおり身体は大きい、KV程とまでは言わないが人間くらいの大きさはある。見ている分には可愛らしいとは藤田自身も思ってはいるが、こうして捜索をしていると大きなアザラシの身体は視界と光を遮り邪魔になる。多少煩わしく感じて始めているのも事実だった。
「とりあえず手がかりらしいものは無いってことで大丈夫?」
「それは間違いない」
「なら次の場所に向かいましょう。そちらが本命ということだと思われますし」
「そうだな」
 藤田の問いに答えるホアキン、そして隊列を維持したままもう一つの目標地点へと向かったのだった。

「皆さん、錬力の残量に気をつけてください」
 須磨井がそう呼びかけたのは、目標地点のやや手前での事だった。
「僕達は二点を連続で調査するという結構な強行軍を行っています。その分錬力を消費しているはずですので、気をつけてください」
「帰りもあるからな」
「こんな海底じゃ、遭難したら見つけにくそうだものね」
 少なからず緊張しているのか、能力者達の口数は少ない。だがその沈黙を注意喚起の成功と判断した須磨井は、再び自分の錬力残量計に目を向ける。何となく違う、そんな違和感が須磨井を襲った。微妙に減少していることに気が付いた。
「グロウランスさん」
「今確認している」
 全てを言い終わる前に、グロウランスは須磨井の台詞を奪った。そして言葉を続ける。
「反応有りだ」
 言葉と同時に全員が周囲を見回す。特に深層を捜索していたホアキン、M2、グロウランスの三人の前には岩と海草に阻まれ、視界の見通しが悪い。だが浅層を捜索している藤田、リア、須磨井にも妨げるものがいる。数体のアザラシだった。
「何これ、どうなってるのよ」
 思わずガウスガンを取り出す藤田、考えたのはこの群れを操作しているリーダー核がいるという仮説だった。だが群れを誘導しているらしきものはいない、かといって動きを逸脱したものの姿も無かった。
「これ、キメラ?」
「何ともいえないな。それらしき様子は無い」
「‥‥攻撃すれば分かる」
「でも」
「せめて深層部からの連絡を待った方が」
「その間に錬力が減るのは分かってる?」
 藤田と須磨井の意見が錯綜する。その間にリアは深層部へと連絡、だが同様の話し合いが深層部でも起こっていた。違いは深層部にいたのは巨大な牙を持つセイウチであるということである。
「錬力の残りはどうだ?」
「それほど余裕はありません」
「こっちも無いんだけどね」
「牙の大きさと耐久深度から、こちら側はキメラと見ている。だが何か証拠があるわけではないがな」
「とりあえずこちらは荷物漁りの主犯をこのセイウチと見て、今後様子見をするつもりだ。とりあえず目隠しを兼ねて周囲を攻撃しつつ撤退する」
「了解、こちらはキメラじゃないと見ていましたから楽になります」
 撤退という方向で話をまとめた能力者達は、ガウスガンを周囲に打ち放ちつつ後退。そして周波の乱れが無くなった事を確認して撤退する。多少疑問の残る依頼ではあったが、その後農業から再発の連絡は無かった。