タイトル:【NE】消える輸送艦マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/01 01:28

●オープニング本文


 西暦二千九年五月、カンパネラ学園購買部ロッタ・シルフスの元に苦情ともとれる通信が届いた。迷惑電話の一種かと一瞬考えたロッタではあったが、相手がUPC北方軍グリーンランドチューレ基地司令官イザベル・プレシアードだと分かると、ロッタも思わず髪留めのゴムの緩みさえも確認してしまった。
「どうしました〜? イザベル准将」
 ロッタはこの准将が得意ではない。良く言えばバイタリティ溢れる、悪く言えば止まる気配のないマシンガントークを披露するおばちゃんだからである。今まで各地の基地を転々とする内に、口も立派な武器だと悟ったのだと以前聞かされた記憶がある。
「先日注文されたバンダナ千枚は既に発送済みですよっ? 旦那さんから受け取ったって言うお電話も受け取りました〜」
「その節はありがとね、既に二百枚くらい配っちゃったから残り八百も無いと思うけど、足りなくなったらまた頼むわ」
 カラカラとイザベルは声を上げて笑う。そして一頻り笑った後で本題を切り出した。
「それで今回連絡をしたのは別件、ロッタちゃんのところには輸送機の事故の情報何かも届くでしょう? それで調べてもらいたいことがあるわけだ」
 ロッタは仕事柄輸送路の状況も確認している。特に支給品など数が確保できないアイテムは傭兵からも注目度が高い、輸送路が使えるかどうか、その生死は重要な情報である。実際ロッタもバグアによって沈没させられた船の荷をサルベージしたこともある。
「最近アタシんところの輸送機が何機か姿をくらましてる。乗り手は優秀だったんだが、一般人ばかりだ。どこから情報が漏れているのか分からないけど、意図的に狙ってるとしか思えないのよ。実際犯行声明もアタシんところに実際に届いてきてる。それでロッタちゃんのところにも何か通知が来てないかなと思ってね」
「ちょっと待ってくださいねっ」
 ロッタはメモや本部からの通達、メールを確認する。だがそれらしきものは来ていなかった。
「その犯行声明って聞かせてもらえますか〜? 名前だけでも分かれば調べやすいんですけど」
「それじゃ掻い摘んだところだけね。相手の名前はイェスペリ・グランフェルド、海賊上がりの強化人間だと名乗っていたわ。他には自分はファームライドに乗るエリートとは違う雑魚兵だから手加減してくれとか下手に出てた、それくらいだね」
「う〜、それらしいものは見当たらないのです」
「そういえば最近起こされたとか何とか言ってたわね。どんな関係があるの知らないけど、さっさと地球から出て行ってもらいたいもんだよ」
「ロッタにとっては、その一般人のパイロットさんだけ狙われる方が不思議なのですっ。品物届けられなかったら信用問題になりますから〜」
「それじゃ、その件はロッタちゃんに任せるよ」
「了解なのです」
 そう言って通信を切るロッタ、何となくイザベルに乗せられた感はあったものの依頼にすることにしたのだった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
美空(gb1906
13歳・♀・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
美虎(gb4284
10歳・♀・ST

●リプレイ本文

 その日、天候は良かった。上空と言うこともあり外気温は氷点下にまで低下しているが、雲は微かにしか出ておらず視界は良好。上方も下方も障害物は無く、見通しは良かった。そして懸念されているパイロットと荷物整理役の一般人二人の様子もホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が見る限りまだ変化らしい変化は見受けられなかった。
「そんなに心配されなくても大丈夫だぞ。俺だってもう三千時間はコイツ動かしているんだから」
「それは実際にか? それともシミュレーターでか?」
「もちろん実際にだよ。シミュレーターなんて所詮感覚を掴む事しかできないからね」
「成程な」
 パイロットはオムスンと名乗った。操縦は我流と言っているが、機体の動きは安定している。確かに天候に恵まれていることもあるだろうが、気流の動きを事前に察知しつつ、安全な道を選んでいた。そして同時にまだパイロットが正常である事を確認する。美虎(gb4284)の意見では行方不明になったパイロットに性別や年齢、行きつけの店や政治思想にも何かしら関係があるのだろうかと考え事前に調査を行っていたものの結果は不明。男女国籍年齢を問わず、強いて言えばグリーンランドへと輸送機を飛ばしていた、能力者ではなく一般人であるという二つの共通点しか存在していない。そこで美空(gb1906)、ヨグ=ニグラス(gb1949)、須磨井 礼二(gb2034)そして美虎は副操縦室や積荷積載スペースなどを一つずつ虱潰しに当たっている。特に最近音波に関する依頼があることから超音波測定装置や低周波測定装置などを準備、更に積荷が落ちないようにとザイルが申請されている。
「ところで何で今回の限りこんなに人が多いんだ? 今まで何度かこの航路は飛んでいるが、前回飛んだときはこんなに物々しくは無かったぞ」
「前回か、いつ頃の話か覚えてるか?」
「半年ぐらい前か? なんだっけな、グリーンランドで入学式やるとかでその資材を運ばせてもらった時だ」
「その時は今のような事は無かったのか?」
「今、今ねえ。一応俺はフリーランスでやってるから情報収集は怠ってないんだが、聞いた記憶は無いな。状況によっては危険手当貰わないとやってられないからな」
「それもそうだな」
 受け答えをしつつ計器類を確認するホアキン、だが今のところ何も異常は見当たらない。そこで美空がコックピットに顔を出した。
「ホアキンさん、そろそろ交代の時間ですよ」
「そうか」
 コックピットを去ろうとするホアキン。最後に確認の意味を込めてパイロットを見ると、既にパイロットは美空の方に興味を示していた。
「荷物の点検は終わりました?」
「終わりましたよ。とりあえず欠けているものは無かったですね〜」
「まぁ出発前に確認したからな。欠品なんてあったらタダの恥さらしだぜ」
「でもリラックスし過ぎても良くないですよ。お茶でも飲みます?」
「そうだな。貰おうか」
 操縦をオートに切り替え、美空からお茶を貰うパイロット。そしてホアキンはまだ異変は無いことを再確認し、コックピットを出て行くのであった。

 一方その頃貨物室では、ヨグ、須磨井、美虎と一般人参加者であるアニーの四人は休憩を取りつつ今後についての話し合いを展開していた。
「他に何か怪しい所ってあったっけ?」
「輸送機に何か張り付いている可能性があると思うのであります」
「張り付いているってコバンザメみたいに?」
「そうなのであります」
 未だに参加人員の背後に行方不明の原因があると考えている美虎ではあったが、アニーがいる状況でそれを口にすることははばかられた。
「でもそれはどうやって確認する?」
「ザイルを申請しているので大丈夫なのであります」
「いや、それは何となく予想はしていてはいるんだけど」
「救命胴衣に脱出用パラシュートもあるから大丈夫ですよ」
「その言い方だと、ボクがやる事が決定しているみたいです」
 左右に迫る須磨井と美虎の顔を交互に眺めつつ、思わず後ろへと後ずさるヨグ。一方でアニーは珍しいものを見つけたかのようにヨグをしきりに観察している。
「使い方は分かるでありますか?」
「何となく」
「何となくということは使ったことは無いということですね。これも一度経験ですし、使ってみるといいかと思いますよ」
「そうなのであります」
「ちょっと待って、まず現在の飛んでいる場所を確認しないと。今が海の上だと遭難する可能性が」
「残念だが、今はちょうど海の真上だな。到着するまで陸地が見えることも無いだろうということだ」
 突如入り口から声がする。振り向くとそこにいたのはホアキンだった。
「美空さんから話は聞いた。欠品とかは特に無かったそうだな」
「姉上がキメラに呼びかけましたが、何も見つからなかったであります」
 敬礼を決めつつ美虎が答える。そして須磨井が補足する。
「そこで外にキメラが張り付いている可能性を考えて、ヨグが見に行くという話でまとまったところですね」
「まとまったの?」
 自分の立場が段々追い込まれていることに驚きを隠せないヨグ、だが一歩離れた所で見ているアニーを始め、他の人達は頑張れと視線で励ましていた。
「後でプリン奢りますよ」
「姉上に頼んで作ってもらうのであります。絶品と聞いているのであります」
「分かったよ」
 プリンに釣られるような形でヨグが折れる。そして救命胴衣にパラシュート、ザイルの装備を始めた。一緒に装備を手伝う須磨井と美虎、そしてホアキンは搬出口を開ける旨を伝えようとコックピットに向かおうとする。その時だった。先程まで笑っていたアニーが突如として眠りに落ちたように力が抜け、続いて不定期に揺れ始める。別に転倒しそうな程の揺れではない、軽く頭を回すような小刻みなものだ。だが何か異変があったのは誰の目から見ても間違いなかった。
「アニーさん? アニーさん?」
 声をかけて呼びかける須磨井、だがアニーは時折動きを止めて須磨井の方を向いては不気味に笑い、そして再び小刻みに震える。それは体を中心に回っている振り子のような動きだった。
「何かが起こったでありますね」
 美虎はまず視線を積荷の方へと向けた。何かしらキメラからの攻撃が来ていると考えたからである。だが積荷スペースに何かが動いている気配は無い。実際先程自分達の目で確認した事でもある。
「ホアキンさん、装置の方は?」
「反応ありだ」
 ホアキンは三人に低周波観測装置を見せる。そこには確かに何かしらの音波が観測されていた。
「ちょっと姉上の方を見てくるであります」
「頼みました」
「ついでに搬入口や計器の異常の確認もお願いします」
 流石に一人残されている姉が心配になったのか、放たれた矢の様に美虎はコックピットへと向かう。その背中に須磨井とヨグがそれぞれ声をかける。そして見送った後に再びアニーの方へと視線を戻した。
「確かに暴れるようなことはありませんけど、これはこれであまりよろしくありませんね」
「ちょっと耳栓でもしてみようか」
 ホアキンはエマージェンシーキットを取り出そうとする。だがその瞬間、大きく機体が揺れた。何メートルか落下したような衝撃である。積荷の一部が中を浮き、そしてけたたましい音を立て再び定位置に戻る。思わず耳を押さえたホアキン、ヨグ、須磨井の三人であったが、アニーは特に目立った動きを見せずに体を揺らしている。再びエマージェンシーキットを手に取り、脱脂綿から耳栓を作ってアニーの耳に入れる。だが目立った効果はなかった。
「やはりか」
「さっきの物音でも反応なかったですからね」
「ですね」
 ヨグと須磨井は積荷の方へと視線を向ける。先程の衝撃のせいだろう、積荷の一部が崩れている。確認の意味を込めホアキンが積荷の中に入っていくが、やはりおかしなところは無かった。
「低周波の方に異変はどうでしょう?」
「‥‥ないな。内部から出ているのでは無い可能性がある」
「それじゃ念のため観測をお願いします。僕はコックピットの応援に行きます」
「分かった」
 先程の大揺れから機体は微妙に不安定になっている。崩れる程とまではいかないが、いつ落ちてもおかしくない様な律動をしている。そこでヨグは先程の重装備を脱ぎ、コックピットへ向かいたいと提案する。
「何か起こった可能性があります。コックピット見てきますから、ホアキンさんは低周波を、須磨井さんはアニーさんの様子見をお願いします」
「分かった」
「いってらっしゃい」
 二人の言葉を受け、ヨグはコックピットに向かったのだった。

 ヨグがコックピットについた時、美空と美虎の二人はオムスンを引き剥がしにかかっていた。だがオムスンの手は操縦桿を握り締めており、頑なに話そうとはしない。更に悪い事にどこかで異常が発生したのか、燃料が急激に減少していた。
「これは一体?」
 思わず疑問を口にするヨグ、だが姉妹はその疑問に答えることなくヨグにオムスン引き剥がしを命じる。
「いいところに来てくれました。この人を操縦席から放してもらいたいのです。意識が無いようなのですが、機体だけは動かしていて非常に危険です」
「正直何が原因なのか分からないのであります。先程の衝撃もオムスンさんがやったことなのであります」
 口早に事情を説明する美空と美虎、そこでさっそくヨグもオムスンの手を剥がそうと力を入れるが石像のように全く動こうとはしなかった。
「何て固いんですか」
 思わず愚痴を零すヨグ、だが同時に一瞬解決法も思い浮かんだ。剥がせそうにないのであれば元から経てばいい、極めて即物的で短絡的な思考だった。だが他に解決法が思い浮かばなかったのも事実だった。
「一つ解決法が思い浮かんだよ」
 重々しく口を開くヨグ、どうやら美空も美虎もその解決法には一度行き着いたらしく何も言わない。ただ異常を知らせるブザーだけがけたたましい音を上げていた。
「オムスンさんの手を切ればいい」
 二人とも何も言わなかった。
「このままじゃ全員脱出も無理だし、敵機に見つかる可能性も高い。早急に何とかする必要がある」
「‥‥そうなりますね」
 それが現状最善手であることを美空は認めた。そして機械剣αを取り出す。
「神経を切らないようにお願いするであります」
「できるでしょうか?」
 機械剣でそこまでの威力が出せるか、美空は自信が持てなかった。そこでヨグがホアキンを呼びにいく。事情を察したホアキンは何も言わずイアリスを上段に構え、急所突きを発動させて振り下ろす。
 その後美空がパイロットに交代。能力者達は震えるアニーとオムスン、そしてオムスンの両手を抱え、グリーンランドへ急行したのだった。