タイトル:花火師の憂鬱マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/12 12:15

●オープニング本文


 西暦二千九年五月、カンパネラ学園の寮の一室にて爆発事故が起こる。原因は生徒数名による無断武器改造の失敗、そしてその結果参加者達の数名は視力の低下が判明した。自体を重く見たカンパネラ学園教師の南条・リックは事故の原因を調査に乗り出すことにした。
 始めはそれほど難しいと思われなかったが、捜査は難航することとなった。特に事故被害者である生徒達がなぜ無断武器開発という暴挙に出たのか、理由を話そうとしなかったからである。そこで部屋の持ち主である斉藤隆也という生徒を直接訪問、そこで事実を聞き出すことに成功する。ただし条件が一つ、父親には話さないで欲しいというものだった。
「親父には内緒なんですが、実は火薬を集めてもらっていたんです」
「火薬?」
「親父、花火師なんですよ」
 彼の話によると、花火に使う薬品や色を付ける金属が足りないらしい。なんでも民家でありながら特殊な火薬なおが置いてあるということでバグアに目を付けられていたらしい。また一方で火薬は軍事利用したほうが金になるということで、流通量が減って来たことことも一因だった。
「おかげで親父で昼間から酒を飲んでる。仕事無いから仕方ないけど、あんな姿見てられないんだよ」
「なるほどな」
 話を聞いて南条はひとまず納得した。他の参加者もこの子の父親に話が漏れるのを恐れて口を閉ざしていたのだろう、そう考えれば納得する。だが問題があるのはこの子とその親である。
 恐らくロッタに頼めば、新たな材料の入手先を手配できるだろう。だがそれは二人のためにはならないというのが南条の考えだった。特に火薬の製造は特定の方法に限定されているわけでもない、色を付ける金属もそれほど数がいるわけでもないので何とかなるのではないかと思われる。そして問題の生徒の父親がやる気を出せば万事解決するはずである。
「ちょっと後押ししてやるか」
 火薬の使われ方が戦争だけというのは確かに寂しいものがある。そういう意味でも花火は廃れてもらいたくない文化の一つであった。そこで南条は炎色反応の足しになるかもと手持ちの鉄くずの運搬も含め、UPCに連絡を入れるのだった。

●参加者一覧

鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
次埜 麻梨音(gb3945
21歳・♀・BM
Observer(gb5401
20歳・♂・ER
ヨーク(gb6300
30歳・♂・ST

●リプレイ本文

 グリーンランド某所、まだ寒さの残るこの地に能力者達は降り立つとまず花火師である斉藤へと挨拶をするために作業部屋へと向かった。途中には表彰状や交友を持った人々からの写真や手紙が飾られている。だが今はそれ以上にアルコールの臭いが能力者達の感覚を狂わせていた。やがて斉藤と思われる人物が姿を現す。股引に腹巻、ねじり鉢巻という日本らしいといえば日本らしい姿である。早速挨拶をし、状況の確認に取り掛かろうとする能力者達、だが斉藤の顔は急に険しくなった。
「お前等、倅の知り合いか何かか?」
 酒が入っているためか目が据わっている。顔もほんのりと赤みを帯びていた。
「俺は誰も頼んだんだが」
「そうだ。息子さんから依頼を受けた」
 UNKNOWN(ga4276)が答える。だがその言葉に斉藤は顎を引き、UNKNOWNそして他の能力者を順に見まわして言う。
「俺には必要ない」
「必要無くは無いでしょう? 火薬を盗まれたと聞きましたよ」
「火薬は花火の一番大事なものじゃないのですか?」
 鳥飼夕貴(ga4123)、次埜 麻梨音(gb3945)が次々と反論する。だがやはり斉藤は納得がいっていないのか、首を何度も横に振る。
「火薬が必要なのは事実だ。だが俺はもうやる気が無いんだよ」
「ですが花火とはいいものですな。祝いの時、祭りの時に皆様の心を沸き立たたせます。小生も昔はよく、火薬を作って学校の校庭からロケットを打ち上げようとして爆発させたものでございます」
 Observer(gb5401)は自分が学生時代に簡易ロケットを作ろうとした思い出を語る。夏休みに学校へと忍び込み、花火から抽出した火薬を使ってロケットを作り出そうとした若き日の過ちの話だった。
「それで退学しかけたこともあったんですよ」
 眼鏡を光らせながら語るObserver。それに多少興味引かれたのか、斉藤はObserverの正面へと移動した。
「どれぐらい被害を出した?」
「被害ですか?」
「そうだ、被害だ。火薬は遊びで使うものじゃない」
 斉藤は言う。
「人はよく花火に対し伝統文化や芸術なんていう言葉を使う。だがな伝統やら芸術なんかで飯は喰っていけない。それに要は爆薬の材料になる火薬を使っているのに軍人とは違い危険手当も出ない。理不尽だとは思わないか?」
 酒が入っているためか愚痴を零す斉藤、ヨーク(gb6300)もその姿に軽く頭痛を感じていた。だが意を決したように一言呟いた。
「‥‥確かに理不尽なのかもしれません。でも誰も傷つけない火薬の使い方の一つだとも思うんです」
「一度花火と向き合ってみるといい。俺達はこんな事態が再び起こらないように動かせてもらう」
「一応依頼人は息子さんの方だからね」
 UNKNOWNの言葉に鳥飼も同意し、作業部屋を後にする。何か言い残しそうと考えつつも次埜とヨークも作業部屋を後にし、Observerも最後に「失礼します」とだけ声をかけて外に出る。その姿を見ながら斉藤は再び不味そうに酒を煽るのだった。

 外に出て能力者達はそれぞれ思い思いの場所へと散る。鳥飼は斉藤が使っていた穴の調査、何か利用できないかを確認するためである。火薬を奪った逃走犯が足を引っ掛けるような罠である。一方ヨークも鳥飼同様外に出ている。誰も傷つけないように罠を作るためである。だが赤外線のようなものは存在せず、高価なため貸し出しもしてもらえない。代わりにピアノ線を張り、サイレンを鳴らす仕組みを考案。さっそく取り付けに入っている。加えて動物が誤作動起こさないよう簡易の超音波発生装置も設置してある。
「‥‥‥‥ここから、あそこまでは、通ると音が鳴る」
「終わったらこっちの手伝いもよろしく」
「‥‥‥‥了解」
 鳥飼に呼ばれ、ヨークは一仕事終えた感慨から現実へと戻される。
「基本的なところはきみの考えた罠と同じだ、斉藤さんが怪我したら罠の意味もないからね。そんなにドジな人だとも思わないが」
「‥‥‥‥どうなんでしょう。あそこまでお酒飲む人だと、何を言ってもわからないような気もします」
「たまには酒に逃げたくなることもあるもんさ。要は元に戻れるかどうか、少なくとも息子の方は戻ってきて欲しいと思っているようだし、俺達の依頼人も息子だ。今は手伝うだけだろうよ」
「‥‥‥‥そうですね」
「それじゃ始めるよ。まずは雪を集めてもらえるか? それを網を張った落とし穴の上に被せて隠すんだ」
 わずかな希望に全てを託すような気持ちで、鳥飼とヨークは作業の手を進めるのであった。

 その頃、UNKNOWNは次埜とともに作業場と保管所の壁の改良をしていた。流石に鉄骨を使うわけにも行かず、針金を何本かをまとめることで鉄骨の代用にしていた。
「そういう仕事なら私でもやれますからね」
 次埜は喜びながら答える。
「なるべく硬く頼む。緩むと耐久性が落ちるからな」
「力には自身ありますから」
 次埜の答えに満足したのか、UNKNOWNは針金を蜂の巣状に仕掛け二重にまとめる。そして外側もトタンではなく耐火性能を高めるために隙間を作りつつ細い木で囲い、内側は漆喰で塗り固める。そして空気の入れ替えもできるように換気扇と大きめ窓を設置、窓の外には鉄格子を準備する。そして仕上げに扉用に鉄製の鍵を三つ準備する。
「確かに力はあるようだな。助かった」
 仕事を片付けUNNKNOWNは煙草を取り出し、次埜の了解をとって火をつける。
「後は少しずつ経験を詰むといい。自然と金も手に入り、自分の能力も向上する。危険は高いけどな」
 皮肉っぽい笑顔を浮かべつつUNKNOWNが微笑みかけると、次埜は照れた様に笑った。
「これだけが取柄ですから」
「一つだけでも自信の持てるものがあることはいいものだ」
 UNKNOWNは作業場へと目を移した。何が言いたかったのか始めは分からない次埜だったが、数時間前の斉藤の態度を思い出す。
「これで何か思い立ってくれたらいいですけどね」
 だが作業場の中から返事が返ってくることはなかった。
 
 そしてObserverは保存庫に整理を行っていた。その中から使えるものを選別するためである。花火に色を付ける炎色反応に金属が必要になる。だがそれほど大量に必要というわけでもない。何かしら使えるのではないかという思いがあったからである。いくつか自分も手持ちの鉄くずを持ってきてはいるが、何が抽出できるかはわからない。まずは残っているものを確認しようという考えだった。
「きひゃひゃ。こういう作業は楽しいもんだね」
 科学者としての血が騒ぐのか、不敵な笑みを浮かべるObserver。そして分類わけした金属を瓶に入れて保存、壊れかけていた保存庫を修理しその中に仕舞うのであった。

 作業が全て終わった後、依頼完了の挨拶に向かおうとする能力者達ではあったが足は進まなかった。理由は依頼前の斉藤の態度である。やる気を見せない人間になんと声をかけるべきか思い浮かばなかった。だが意を決したように向かうと、外から能力者達を呼ぶ声が聞こえる。斉藤からの声だった。
「ちょっと来てくれないか?」
 一度顔を見合わせ、能力者達は外へと向かう。まさかとは思うが、鳥飼の用意した罠に斉藤がかかってしまったという考えがあったからである。だがそこにいたのは、線香花火をしている斉藤の姿だった。
「ちょっと湿っていた火薬を見つけたんでな。分類された金属を混ぜてレインボーを作ってみたよ」
「まだ七色には見えないけどね」
 鳥飼が苦笑しながら答える。実際彼の目には三色、贔屓目に見ても四色にしか見えてない。
「‥‥‥‥でも、やる気を出してもらえてよかったです」
「本当ね」
 しばらく線香花火に興じつつ、能力者達は思い出を語り合うのだった。