タイトル:見えざるものマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/03 00:49

●オープニング本文


 西暦二千九年四月、グリーンランドチューレ基地所属のマックス・ギルバート特務大使、トーマス=藤原の親子はとある病院へと詰めていた。軍病院ではなく、一般の病院である。理由は一つに現在調査対象である緑川の回復を見るためである。そしてもう一つは最近患者の中に妙な症状を訴える人がいるため調べて欲しいと病院から話が出てきていたからである。この話を受けたトーマスは当初乗り気ではなかったものの、マックスは喜んで話を受ける。何か嫌な予感を感じたトーマスはマックスに理由を問いただした。
「何か心配事でもあるのか、特務大使?」
「何かというと、何だ?」
「例えば治療費とか‥‥」
「そうだな。そんなところだ」
 トーマスは自分でも自覚のあることだが、お金に頓着がなかった。装備や必要道具一式は購入しているが、残高を確かめた事は無い。そのため実は今回の入院費が足りないのではないかと懸念したからである。それに対しマックスの考えは違った、もちろんその妙な症状というのも気がかりではあった。だがそれと同時にそろそろトーマスにいい女性を見つけてやろうという考えもあったからである。
 とはいえ嫁探しは一旦脇に置き、マックスはトーマスと本題である妙な症状に関して医師と看護師に話を聞きに行く。だが聞いていく内に二人は軽い混乱に陥る。聞く医師、聞く患者によって話が違うからである。
「一人目は神経から来るもの、二人目が食あたり、三人目が運動不足。妙な症状といわれるのも仕方ないですね」
 自分でとったメモを見ながら頭を抱えるトーマス、自分より知識のある人間がそれぞれ別の見解を出しているのに専門知識を持ち合わせていない自分が何かしら導き出せるとは考えづらかったからである。一応軍人としての知識はトーマスにもある。だがそれらの知識は骨折や打ち身、肉離れといった外傷に集約されていた。
 その一方でマックスの意識は医療関係者たちの意見の違いをそれほど重要視していなかった。医師といえど人間、数千数万とある選択肢の中から常に一つである正解を出せるとまでは考えていなかったからである。
「わざわざ俺達に依頼が来ているんだ。それは自分達では解決できないことなんだろう」
「それもそうだが‥‥つまりバグアと関係しているということか?」
「可能性はあると見るべきだろうな」
 二人の意見は何らかのバグアの特殊能力、あるいは新兵器ではないだろうかということでまとまる。だがまだ証拠の無いため、あくまで可能性の一つへと留めていた。
 そして調査を始めて数日後の夜、一人の看護師の女性が二人に面会を求めた。何人目かまでかは覚えていないが、以前に話を聞かせてもらった人物である。メモを確認するトーマス、するとそこには『目立った外傷は無く、疲労からきているものではないだろうか』という多少曖昧な意見が書かれていた。
「何か思い出したことでも?」
 切り出すトーマス、看護師はしばらく悩んだ様子を見せながらも話を切り出した。
「‥‥実は私、肩こりが酷いんです」
「それが何か?」
 唐突な切り出しに困惑するトーマスだったが、とりあえず先を促す。
「それが最近肩こりが治ったんです」
「‥‥はあ」
 やはり何が言いたいのか分からない。ひょっとしたらただ時間を潰したいのだけではないのかと懸念し始めるトーマス、だが一つの可能性を思いついた。
「つまり君は肩こりが治ったのが、今回の事件と何か関係があるというのだな」
 トーマスが思いついたのは特務大使が以前肩に灸を据えていた光景だった。灸でどうして肩こりが治るのかは今でもわからないが、何か程よく刺激を与えることで治るのではないかと予想していた。
「そうですそうです。磁気とか針とかそんなものが出ているとも思うんです」
「針は出てないと思うぞ」
 何となくいい雰囲気になってきていると感じたマックスは音を立てずに部屋を退室、そして自分なりに意見をまとめる。針はともかく磁気の可能性はあるだろう、バグアの新兵器にも使われる可能性も低くはない。だが最近グリーンランドで音波関係の研究をしていると噂も耳にしている。何か誤作動を起こしている可能性もあった。しばらく考えた挙句、マックスはトーマスと看護師の面倒を見るためにも他にも人手がいると判断。そしてUPCに依頼を出すことにしたのであった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
Observer(gb5401
20歳・♂・ER
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

 グリーンランド某所の病院の一室で能力者達は今回の依頼人であるマックス・ギルバート、トーマス=藤原の二人と面会を果たしていた。幸か不幸かこれまでにバグアやキメラの姿はない。だが外来客用の待合ロビーは頭痛や腹痛を訴える人が自分の順番が来るのを
今や遅しと待っていた。すでに用意されているベンチでは数が足らず、立ち待ちの患者まで出ている。能力者達は想像以上に事態が悪化していることをまざまざと見せ付けられた。
「触れえざる者、ではなく見えざるものか」
 先程見た様子が目に焼きついているのか、UNKNOWN(ga4276)はどこか浮かない
「見えないなら、見える様にしてみるか」
「そうしてもらえると助かるね」
 マックスは病室のカーテンを引きながら答える。
「ここの所、病院側の自作自演を疑う輩もいて困っていたんだよ」
「自作自演?」
「患者が増えれば病院が儲かる、そう短絡的に考える人も多いということだよ。それにこういう邪推の方が人の好奇心をくすぐるのも事実でね」
「確かにそうですね」
 否定したいという思いがどこかにありながらもできない、苦虫を噛み締めたような表情のままファブニール(gb4785)は答えた。
「見えるようにできれば、その変な噂も解消できるはず」
「それが一つの目標だと思ってくれ」
「了解したよ」
 鹿島 綾(gb4549)はそう答えるが、はまだ納得できないのか不満そうな顔を浮かべている。
「だけど闇雲に調査しても埒が明かないね。一体何が原因なのか、何か思い当たることはある?」
「話を聞いた限りじゃその低周波が一番可能性が高そうですが」
「俺達も低周波を疑っている」
 ノーマ・ビブリオ(gb4948)の言葉にトーマスが頷いて答える。だが同時に疑問点があることを説明する。
「だが普通の低周波は生活の中で結構出ている。病院内ではかなり配慮されているだろうが、入院患者にも出ているとなると、何らかの仕組みや装置があるものだと考えるべきだろう」
「ですね」
 Observer(gb5401)は相槌を打ちつつ、願いを付け加えた。
「では私は備品の確認をしてきましょう。気付かれないよう細工されているかもしれません。病院の備品リストのコピーをお願いします」
「そう言ってもらえると助かる。実は既に準備しておいた、そこのベッドの上だ」
 トーマスはベッドを指差した。そこには今回必要そうな備品のコピー一覧と病院用PHS、病院の見取り図、それと身分を示すスタッフカードが置かれていた。
「カードの身分だが、とりあえず内部調査員ということになってる。患者に不振がられる事があるかもしれないが、逆に興味を引く可能性もある。その時の対応は各自に任せる」
「了解」
「私も一部もらっていくよ」
 それぞれ一部ずつ能力者達はコピーとPHS、スタッフカードを手にして部屋を後にする。だがUNKNOWNは途中で立ち止まり、病室に残るマックスとトーマスに声をかけた。
「ところで例の件は何か分かったのか?」
 例の件、その言葉に思わずノーマは振り返り先程後にした病室に再び顔を出す。だが何のことか分からない鹿島、ファブニール、Observer、フィルト=リンク(gb5706)の四名は足を止めるだけに留まる。
「上の方に通達しておいた。何やら今取り込み中だったからな、言質をとって早々に予算申請させてもらったよ」
「流石悪だな」
「俺にはどこからあんなものを手に入れたのかの方が不思議だよ」
 病室内からUNKNOWNとマックスの会話が聞こえてくる。その様子にフィルトは思わず呟く。
「確かにUNKNOWNさんが一番の不審者ですね‥‥」
 その言葉に鹿島、ファブニール、Observerは苦笑するのだった。
 
 能力者達はその後PHSの番号を交換し、連絡を取りつつ各々の思うところへと向かっていく。症状の酷い患者の位置の確認、症状のリストアップ、聞き込み等、それぞれが得意とする分野へと向かっていった。一人フィルトだけは存外頭を使う任務であることに愕然とすることとなる。
 そしてその日の夜、能力者達は空き病室を借りて集まり情報交換が行った。それぞれ自分の調査したメモをつき合わせながら話をまとめていく。するとどうやら外部から何らかの影響を受けていることが明らかになった。
「どうやら同じ部屋でも多少症状の大きさが違うらしい」
「それは俺の結果でもそうだね。窓側だと頭痛、腹痛、嘔吐と複数症状でてるけど、通路側は一つか多くて二つってところだった。でも部屋単位で見ても違いがあるから、他にもなにか関係しそうだけどね」
「だが私が窓側に置いていた煤が内側へと移動していた。外部から何らかの影響があったことは間違いないだろう」
 UNKNOWNと鹿島が調査結果をまとめる。だがそれにノーラとObserverが口を挟んだ。
「ちょっと地図貸してもらえますか?」
「どうぞ」
「何か気付いたことでもあるのか?」
「実はですね」
 そういってノーマとObserverは自分の地図も取り出した。そこには備品リストに書かれていた中でも、MRIやレントゲンなど精密機械の配置場所が書かれていた。
「まだはっきりしていないのですが、精密機器の駆動からも低周波らしきものが観測されました。どうやらその辺りが関係しているらしいのです」
 四人は地図を照らし合わせる。するとノーマとObserverの推理を証明するように、精密機器の置かれている部屋に近いところから強い症状が出ていることが判明した。「確かに患者さんより関係者の人の方が症状は酷いようです。もっとも元々の体力が違いますし、気力の問題もありますから一概には言えませんが」
 これまでの推理を裏付けるようにファブニールも聞き込みの結果を発表する。
「ですが同時にそれがやっかいな原因の一つのようです。全てというわけでは言えませんが、スタッフカードを見せると結構すんなりと話を聞かせてもらいました。それで私が話を聞いた感じですが、実際の症状と感覚には違うようです」
 それからファブニールはメモを取り出す。そこには今まで話を聞いた三十名を超える人の話がメモされている。
「例えば足の骨折でこの病院に来た青年の話ですが、近くを通った時に頭が重くなるような感覚に囚われたそうです。当然ですが、この病院に来るまで頭痛とかは無かったそうです。そこでこの近くで何かあってるのでは、と感じたみたいです」
「確かにそれは顕著な例ですね」
 ノーマが合いの手を入れる。それに対しファブニールも満足そうに小さく頷く。
「ですが元々症状を感じていた人には、症状が重くなることに関しては気付きにくいようです。やはりこの病院が狙われていると考えているべきだと思います」
「だな」
 全員の意見が病院外部からの犯行、そして病院内の精密機器を一部利用しているのではないかという方向で話がまとまりつつある中でフィルトだけは否定的な意見を出す。理由は単純、この周囲でバグアやキメラの姿を見た事がないからである。
「輪を乱すようで悪いんだけど、私は朝のミーティングから敵の姿を一匹も見つけていません。別に外部から影響されていることを否定するつもりじゃないんですが、犯人がバグアではなかったら誰なんだろうと思うんです。お見舞いの花が新種のMIだった!‥‥なんてわけないですしね」
 フィルトは自分でもはっきりしない疑問をそのまま口にした。もちろんフィルトがたまたま見つけきれなかった可能性もある。だが彼女は極力AU−KVを装着しての移動、敵が出現したのに駆けつけられなかったという可能性は無くはないもののそれほど高くは無いはずだった。
「地下に潜んでいるという可能性は?」
「それは否定しないけど、土の中からでもその低周波っていうのは響くの? 最も決め打ちはできないけど」
「可能性は高いです」
 鹿島の疑問にノーマが答える。
「音の種類にもよりますが、内側まで響く可能性は十分にあります。ただ緩和されると思いますので、それほど効果はないと思いますが」
「‥‥それほどってどのくらい?」
 ファブニールが尋ねるとノーマは眉をひそめた。病院内で起こっている頭痛などの症状を低周波のものによるものと仮定し、それが病院の壁や地面によって緩和されていると考えると直接放射された場合の影響は今まで以上と考えるべきだろうという結論に辿り着いたからである。
 思わず口ごもるノーマ、だがそんな状況時にマックスから連絡が入る。キメラが出たということだった。モグラ型のキメラで数は三体、それほど強くはないだろうとマックスは電話越しに説明する。だが能力者達にとっては、正直あまり来て欲しくはないタイミングであった。
「俺達は患者の誘導を行う。お前達は退治を優先してくれ」
「でも‥‥」
 意見がまとまっていないのか口ごもるノーマ、そんな彼女にUNKNOWNは肩を叩いてゆっくり話しかけた。
「大丈夫、だ。私がついている。自信をもって、自分が思った事をすればいい」
「私は外にいた時間の方が長いからかもしれないけど、病院内にいたからノーマさんにも影響が出ているのかもしれませんね」
 フィルトの言葉にノーマは我に返った。確かに自分もすでに低周波の影響下にあるかもしれないと思ったからである。
「もう大丈夫です、行きましょう」
「だな。さてさて、何が出てくるやら‥‥」
 ノーマとは正反対に鹿島はとぼけてみせる。
「俺の肩こりもついでに治して欲しいもんだわ」
 その言葉に能力者達は落ち着きを取り戻す。そして装備を整え、キメラ退治に向かうのだった。

 一時間もかからぬ内にキメラは退治されていた。それは拍子抜けするほど弱く、低周波で普段の力を出せないのではないかと心配していた能力者達は、自分の力が弱くなったことを確認する事さえできなかった。
「ひょっとしたらまだ未完成なのかもしれないな」
 戦闘を終えた後、UNKNOWNはそんな言葉を口にする。
「どういう意味?」
「今回の低周波、まだ低周波と決まったわけではないが便宜的に低周波と呼ばせてもらおう、それはキメラにも影響が出ているのではないかとふと思ってな」
「そういう考えもあるわね。俺はてっきり偵察だけしにきて油断してたと思ってたんだが」
「それもあるかもしれませんよ」
 二人の意見を取り持つようにObserverはまとめる。だがどうやら地中から来ていること、そして未完成である可能性もあることをマックスへと報告する。
「何となく釈然としませんね」
 暴れ足り無いのかフィルトは多少不満げな表情をしているが、相変わらずノーマは神妙な顔をしている。
「でもバグアも本格的に手を出してこないところを見ると、何か企んでいるのでしょうね。あるいは時期を見ているのかもしれません」
「ですね」
 キメラを叩き伏せたグラジオラスを仕舞いながらファブニールは答える。
「その時までに僕達も実力をつけておけということなのかもしれませんね」
 その言葉を胸に刻み、能力者達は病院を後にするのだった。