タイトル:Code;BLUEマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/29 10:27

●オープニング本文


 西暦二千九年四月、グリーンランドの小さな町の酒場に一人の客が訪れた。襟を立てたダッフルコートにシルクハット、黒檀の杖をついた老人である。英語訛りのグリーンランド語でバーボンを頼むと、コート、ハットをカウンターにかけ、老人も椅子に腰を下ろす。白髭を顎に大量に蓄えた優しそうな紳士だった。
「何かあったのかね、この町は。妙な程静かな気がします」
 バーボンを栓を抜きながら、女将であるニナは老人の言葉に耳を傾けた。聞き覚えは無い、だが長い人生を経験した深みのある声だった。
「もうすぐみんな出て行くのさ。町人全員で夜逃げだよ」
 六分目まで入れた琥珀の液体に球状の氷を一つ入れ、ニナはグラスをカウンターに差し出す。老人はそれをしばらく眺め、やがて手に取り、しばらく氷を回しながら音を楽しんで、ゆっくりと喉へと流し込む。
「夜逃げとは、物騒ですね」
「世の中全体が物騒なのよ」
 ニナも老人と同じものを自分のグラスに注ぐと、氷も入れずに半分ほど流し込む。そして自虐的にぽつぽつと話し始めた。
「ちょっと前にね、この町はバグアの、正確にはキメラの襲撃を受けたの。別に人質をとろうとか領土を拡大しようとかそういうわけじゃないみたいでね、むしろ何かを試したいって感じだったかな。でもね、それのせいで町の人は恐れちゃって逃げ出そうという方向で決まっちゃったの」
「そうですか、それは大変ですね」
「あたしとしては本当はここを去りたくはないんだけどね。客商売だから、一人ここで残っていても仕方ないんだ」
「お気の毒に」
「だからお客さんがここの最後のお客さん。何も無いところだけど、ゆっくりしていってね」
「そうさせてもらうよ。とりあえずもう一杯もらえますか」
 空になったグラスに、ニナは先程と同じものを注いだ。トクトクと小気味いい音が部屋に響く。老人はその様子をずっと見つめていた。
「この土地、どうなるのでしょうか?」
 一口バーボンに口をつけ、老人はそんな言葉を漏らす。
「元々何も無い土地だから、本当に何も無くなるだろうね。石油がとれるとか噂は聞いたことあるけど、今はそんな事を言っていられる状況じゃないからね」
「結構信じられていたのですか?」
「何を? 石油?」
「そうですよ。私はこの辺りの調査に来たのです」
「結果とか聞いていい?」
「空振りですね。超音波で地中を調べていたんですが、途中で何かを妨害されているらしくて良く分からないのですよ」
「だろうね」
 ニナも二杯目となるバーボンを煽る。
「さっきも話したけど、この下にはモグラ型のキメラがいるみたい。それが邪魔しているんだろ思うよ。最近じゃ体調不良を訴える人もいるくらいだからね」
「それはお気の毒です」
「私達じゃどうすることもできないことよ」
 苦笑しながらも、ニナの顔は晴れやかだった。既に諦めの境地に達しているのだろう、老人はそんな事を考えながらバーボンを楽しむ。そしてそのまま夜は更けていくのであった。

 翌朝、ニナは酒場で目を覚ました。カウンターの内側で椅子に腰掛け、そのまま眠ってしまったらしい。しばらくは何故こんな所で寝たのか分からなかったニナであったが、見回している内に昨夜の事を思い出す。だがどこにも老人の姿はどこにも無かった。
「酔い潰されたのね」
 自分がもう若くないことは実感しているニナではあったが、潰れるほど飲むのはここ数年無かった。軽い嫌悪と後悔、そして人の良さそうだった老人に飲み逃げされたことに屈辱とも諦めとも言える感情に襲われる。
「まぁ仕方ないわね」
 顔を洗おうと立ち上がるニナ、だがそこで何かが落ちる音が自分の後ろで響いた。振り返ってみると、そこには昨夜一緒に飲んだ老人のダッフルコートが落ちている。内ポケットからは一枚の便箋と財布、そして茶色の封筒が覗いている。ニナは多少困惑しつつも手紙を読むと、「ご馳走様」と一文だけ書かれていた。財布を開くと結構な額が入っている。どうやら飲み逃げではないらしいが、貰い過ぎるのも困り者というのがニナの本音であった。
 続いて茶封筒を取り出そうとするニナ、だが途中でその手を止める。内ポケットの割に大きなA4サイズの茶封筒が折り畳まれて入っており、封の口は今時珍しく蝋で封がされている。そして表にはCode;BLUEと銘打たれていた。
「これ、貰っていいものなの‥‥」
 軽く振ってみると、紙だけではなく小型の何かが入っている。触ってみるとボイスレコーダーかメモリースティックのような感じがする。しばらく預かるということも出来なくはないが、間もなく閉店する以上、長くは預かれない。そこでニナは有効に使ってもらえる人に渡そうとUPCに連絡を取るのであった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
森居 夏葉(gb3755
25歳・♀・EP
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
上杉 怜央(gb5468
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

 依頼初日の朝、グリーンランドに到達した能力者達は依頼人であるニナの酒場に向かう前に車の整備に着手した。ヒューイ・焔(ga8434)とノーマ・ビブリオ(gb4948)のジーザリオである。もう春が迫っている時期ではあるが、名残雪がコンクリートで整備された道の端々に残っている。全く準備も無しに突入するのは無謀というのがヒューイの考えであった。
だがその間、他の能力者達は多少手持ち無沙汰となる。町の様子を眺めながらドクター・ウェスト(ga0241)は感慨にふけっていた。
「静かになったものだね〜」
「静か、ですか?」
「以前来た時も人の姿は無かったけどね、今は生活臭がしないからね〜」
 尋ねるノーマに対し、一軒の家を指差した。コンクリート製の家で白に塗装されているのだろうが、年季がかかっているせいかクリーム色に見えている。玄関の脇には窓があったがカーテンは外されており、半分壁紙の剥がれた部屋がそこには映っていた。
「本当に人はいないんですね」
 寂しそうに呟く上杉 怜央(gb5468)、アーク・ウイング(gb4432)も上杉に共感を示しているが、その一方でリア・フローレンス(gb4312)は別のもの、キメラがいないかを確認していた。
「本当に捨てられた村っていうことか。話には聞いていたが、今の世の中じゃそれほど珍しくも無いか」
「‥‥ですね」
 一瞬反論しようかと悩んだ上杉であったが、喉元まで出かかった言葉を飲み込むことにした。確かに現在こうして無人となった町は少なくない。こうしてまだ形が残っているだけいい方なのかもしれない。
「キメラが潜んでいるかもしれないと心配していたんだが、どうやらこの辺は安全みたいだな」
「そうね」
 リアの意見に森居 夏葉(gb3755)も同意する。彼女の場合は探索の目を使っての結果である。今回の依頼では助手席に座り、周囲の警戒役を任されていた。
「ならば先に進もうか、時間が押しているわけではないが気にはなる。車の準備が出来次第行きたいと思うがどうだろう?」
「車の準備も出来たぜ」
 UNKNOWN(ga4276)の提案に対し、ヒューイはさも当然といった感じで答える。思わずジーザリオの方を見直すUNKNOWNであったが、そこには確かにスタッドレスタイヤを履き不凍液を窓に塗られたジーザリオがいた。
「流石持ち主だな」
「自分の車の整備くらいできないとな、それにグリーンランドは初めてじゃない。というわけでドクター、早速だが案内を頼めるか?」
「了解だね〜」
 ヒューイの言葉を受け、それぞれ車に乗り込む能力者達。そしてニナのいる酒場へと向かうのだった。

 十数分後、一行はニナの酒場に到着する。まだ昼間ではあったが、ここだけは明かりがついていた。本来なら落ち着かせる光であるが、今日に限っては妙に違和感さえ感じさせる。わずかな躊躇を押し出すように中に入ると、カウンター越しにはどこか疲れた表情をした女性が座っていた。
「やあニナ君、怪我は大丈夫だったかね〜」
「その顔は見覚えあるね。ドクターであってる?」
「覚えておいてくれて嬉しいよ。早速だが、問題の封筒を見せてもらえるかな?」
「本当はもっと盛大に歓迎したいところなんだけどね、これだよ」
 封筒を受け取るドクター、そして能力者達は挨拶も含め注文を済ませる。そして苦笑するニナをよそに検証作業が始まった。
「見た目には確かに異変は無いな」
 各自席に座り、ドクターの手にある封筒を眺める。
「触った感じはどうだ?」
「特におかしなところはないね〜多少重いくらいかな」
 ヒューイの言葉に、ドクターは封筒を親指と人差し指で挟む。すると右端の部分だけが傾いて下を向いた。
「そこに例の端末があるのですね」
「だろうね。早速あけてみるとしよう」
「ちょっと待って」
 森居がドクターを止める。
「念のため盗聴器とかが無いか調べたい。ニナさんもいい?」
「いいよ。どうせもうすぐ手放すわけだからね」
「そんな寂しいこというもんじゃないよ」
 ニナを気遣いつつも森居は席を立ち、周囲を探索を開始する。息を潜めて待つ能力者達であったが、特に仕掛けらしきものは見つからなかった。
「大事なものだと思ったけど、ただの無用心なのかしら?」
「コートを忘れるような人ですから、ただの人ではなさそうですけどね」
「それもそうか」
 納得したように笑うヒューイ、そしてしばらく間をおいてドクターが封筒の封を切った。何らかの罠を警戒し身構えた能力者達であるが、封はビリビリといういたって紙らしい普通の音を立てて破れていく。そして中から出てきたのは十数枚にわたるレポートとチップであった。
 レポートを一読するドクターであったが、フォースフィールド関連ではないことを知るとノーマに手渡す。そして受け取ったノーマの手元をアークが覗き込んだ。
「なんて書いてある?」
「ちょっと待ってね」
 ノーマは眼鏡の位置を正し、もう一度レポートを見直す。だがしばらく考えた上でUNKNOWNへ手渡した。
「あまり見かけない言葉だな」
「あーくんも‥‥見たこと無いのです」
「だが文法は基本ラテン語に近いな。その辺りから推測してみるか」
「とりあえずバックアップとります?」
「そうだな」
 上杉の提案を受け、UNKNOWNはカメラでレポートの撮影を開始。その間ドクターもチップの内容をPDAに落とし、コピーを上杉に渡す。そして改めて内容を確認するドクター、どうやら波長に関するレポートということが判明した。
「意味がよく判らないね」
 聞き耳を立てていた森居はつまらなそうにいうが、ノーマは頭を抱えている。心配したのかアークが声をかけようとするが、よく見るとドクターとUNKNOWNも似たように表情が笑ってない。
「どうしたんです?」
「最近、音を研究している学者が一人行方不明になっているんだよ〜」
「あとは音波による被害が出てるな。もっとも原因がバグアなのかは不明だが」
「何も関係ない、というのは楽観的すぎますね」
 だがここで考えても仕方なく、能力者達はニナに挨拶して店を去るのだった。

「一応さっきの話、聞かせてもらえるか?」
 走り出したジーザリオの車中で、ヒューイは車を運転しながら尋ねる。だが誰と指定したわけではない、誰かが教えてくれればいいという程度の質問であった。だが返事は誰からも返ってこない、耐えかねたように上杉が答える。
「ボクも気になるな‥‥」
「アーくんも気になるのです」
 三人の言葉でやっと気付いたのか、思案にふけっていたドクターがやっと呼びかけられていたことに気付く。そして多少言葉を選びながら答えた。
「先程も少し話したが、音波について研究しているカンパネラの教師がここグリーンランドで行方不明になっているのだよ。名前はコバルト・ブルー、封筒に書いてあった文字がCode;BLUE、これで関係しないと見る事は流石に出来ないのだよ」
「でも仮にそうだとして、これから何があるんだ?」
「‥‥何だろうな」
 ドクターの解説を聞き終えた上で、森居は本題を切り出す。だがドクターは答えることはできず思案に入り、UNKNOWNも言葉を濁す。
「今、私が聞いている話では地中で何かが起こっているらしいということです。正直何をすればいいというのは分かりませんが、これをUPCに渡せば何か動きがあるはずだと思います」
「そう言われると、これって結構重要な任務なのね」
「だな」
 改めて周囲を確認する森居であるが、まだキメラらしきものの気配は無い。
「その割には敵の気配はないですねー」
「バグアもまだこちらの動きを把握していないのかも知れませんね」
「それもコートを忘れていったおじいちゃんのおかげかもね」
 名案が思い浮かんだかのように満面の笑顔で喜ぶアークではあるが、ドクターとUNKNOWNは諸手を挙げて喜ぶことは出来なかった。
 
 そして走り始めて数日後、ドクター、UNKNOWN、ノーマの三人は車を止めそれぞれの意見をまとめた。三人とも一つの確信がある、それを確かめるためであった。
「やはり音波による研究結果だね」
「音波による人体への影響か」
「そこに低周波が絡んでいるみたいですね」
 三人の結論は音と不快指数、そしてそこから錬力の低下を促せないかというものである。レポートには仮説や実験法、そしてチップの方には実験結果がまとめられている。だがレポートが未完なのか、それとも途中で転写をやめたのか、その結果から導き出される結論までは書かれていなかった。
「どう見るべきだと思うかね」
「単純に考えれば、その研究者の考えていた装置が敵に渡り悪用されているということだろうか」
「となると、その研究者さんの身柄は?」
「‥‥」
 嫌な予感が一同を襲う。そして車に乗り込もうとするところで森居がバグアの動きを察知した。
「後方距離約百の地面に異変、急ぐよ」
 彼女の声に後押しされるように一同は車へと急いだ。ヒューイの車に森居、アーク、上杉、ヒューイの四名、そしてノーマの方にドクター、UNKNOWN、リアが乗り込む。急いでエンジンを吹かそうとするヒューイとノーマ、だがその音を妨害するかのように後方から轟音が響いた。
「大きいのです」
 上杉が声を上ずらせながら言う。そこに現れたのは、コンクリートの道を割って出てくるサンドワームだった。大きく口を開き、雪を撒き散らしながらジーザリオに狙いを定めて襲ってきている。
「このままでは拙いか、流石にサンドワーム相手に生身じゃはむかえないしな。あーくんは二手に分かれるようノーマさんに連絡を、森居さんは周囲の警戒をこのままよろしく」
「了解」
「とりあえず他にキメラの姿無いよ」
「どこかに身を潜める場所があればいいが」
「閃光手榴弾ならあるよ」
「最悪頼む。後ろは大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ドクターさん、UNKNOWNさん、リアさんが頑張って応戦してる」
「そうか」
 ハンドルを小刻みに動かしながら、アクセル全開のままジーザリオを操る。だがノーマとの距離はわずかずつではあるものの距離が開いていった。
「手榴弾頼む」
「了解だよ」
 ヒューイの言葉を受けて、アークは手榴弾を取り出し車の窓を開ける。
「今から閃光手榴弾行くそうです」
 上杉がノーマに連絡、そしてドクター、UNKNOWN、リアが車に身を隠したのを確認してアークは手榴弾を投げつける。周囲は光に包まれたのであった。
 
 それから数日後、能力者達は無事マックスのいるという病院へとたどり着いた。諦めたのはサンドワームの姿はその後見えない。リアと森居もバグアの姿を感知することはなかった。
「これをよろしくお願いします」
 能力者からの要望ということでマックスは喜んで訪問を受諾、レポートとチップ、そしてドクター、UNKNOWN、ノーマの三人で作った簡易要約を受け取る。
「俺は上から嫌われてはいるが、掛け合ってみよう」
 有効利用してくれるよう約束を取り付け、能力者達は病院を後にするのだった。