タイトル:消えた研究者二マスター:八神太陽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/19 09:49

●オープニング本文


 西暦二千九年四月、グリーンランドのとある町で聞き込みが行われた。行方不明となったコバルト=ブルー女史の捜索である。どうやらアルコールの類を購入に来ていたということまで判明、そこで助手であるボブとカインは町にある二軒の酒場へと訪問するが誰も見たことは無いという。代わりに手に入れた情報は密造酒を作っている連中がいるという情報だった。
「最近売れ行きが悪いんでちょっと調査してもらったんだ。そしたら勝手に酒を作って配ってるいるらしい。おかげでこっちは商売あがったりだよ」
 店番を任されたらしい若い男はつまらなそうに答える。
「あんたらも客じゃないんだろ? 未成年っぽいからな」
「大人になったら買いに来るからね」
 精一杯の愛想を振りまくカイン、そして二人は酒場を後にする。その後近くの食堂に入り、軽い昼食をとることにした。
「可能性があるのはやっぱりその密造酒?」
「だろうな」
 サラダにフォークを突き立て、ボブは食事の手を止めた。
「だが最近俺達の身の回りでおかしなことが起こりすぎている。前回の能力者にも言われたが、今回は密造? 俺達は誘われている気がするんだ」
「だったら止める? コバルト先生見捨てて」
「できないな‥‥それは」
 一度喫煙で指導を受けているボブは、現在コバルトの監視下という条件付で活動を許されている。それは同時にコバルトを救えない限り、ボブも停学、最悪退学となることを示していた。
「問題は年齢か」
「さっきも止められたもんね」
 それほど子供っぽくは見えないと思っていた二人であったが、どうやら本業の人間は騙せないらしい。その後場所だけは特定し、二人は能力者達に調査の依頼を出すのであった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG

●リプレイ本文

 能力者の現場到着初日、その日の夜は雨が降っていた。決して強いものではない、気をつければ窓越しに微かに聞こえる、その程度のものである。だがかなり長い時間降り続いているのは間違いなかった。降り出したのは二十時前、能力者達が一度集まり食事を兼ねて初日の情報交換を行っていた頃からである。現在時間は二十二時過ぎ、逆算すると雨は既に二時間以上降り続いていることになった。
「‥‥明日も降るのでしょうか」
 心配そうに尋ねるハミル・ジャウザール(gb4773)、二階にとった宿の部屋の窓を開け外の様子を眺めている。グリーンランドらしい寒い風が湿気を伴い、部屋の中へと流れ込んできていた。さすがに寒気を感じたのか、ドクター・ウェスト(ga0241)がハミルに声をかける。
「ちょっと閉めてもらえないかね? UNKNOWN君が購入してくれたお酒を開けるところなんだ」
「そうですね」
 ドクターの言葉を受け、ハミルは窓を閉めてカーテンを引いた。さすがに防音効果があがったのか、部屋に雨音は聞こえてこない。だがハミルの顔にはまだ冴えない色が残っている。
「警備班は大丈夫でしょうか?」
「ロジャー君か。確かに一人だから心配じゃないと言えば嘘になるけど、通信機は渡してあるからね。連絡が無いのだから問題ないと思うよ〜」
「一応パンの差し入れもしておいた。多少大丈夫だろう」
 UNKNOWN(ga4276)がドクターの言葉に続ける。三人の心配事項は今回の調査対象である精肉工場を見張っているロジャー・ハイマン(ga7073)、アンジェラ・ディック(gb3967)の二人の事である。先程まではアンジェラが見張りを担当していたのだが食事を機に夜行性のロジャーと交代、そしてアンジェラは現在隣の部屋で早めの睡眠をとっているところである。
「君達も明日は工場見学に行くんだろう? 自分達の心配もした方がいい」
 UNKNOWNが思い出したようにハミルとドクターに言う。二人は今日問題の精肉工場に訪れたのだが、責任者と名乗る男性に強く反対され明日改めて見学することになっていた。
「それもそうですね」
 自分に言い聞かせるように納得するハミル、一度大きく背伸びをすると部屋の中央に陣取るドクターとUNKNOWNの方へと視線を向けた。だが二人は彼の視線に気付かないのか、古新聞に包まれたボトルへと神経を集中させていた。
「お酒って、それが例の?」
「そうらしい。最も俺も初めて見るから保証はできないがな」
 口の端に笑いを浮かべ、UNKNOWNは答える。その隣ではドクターも別のボトルの新聞を剥がすことに手伝っている。
「二本?」
「保存状態で味が壊れていることもあるからな」
「それに密造酒というからねーどうやって作っているのか分からないけど、一本一本味が違う可能性も結構高いと思うのだよ」
 答えながらも新聞を剥ぐ二人であるが、雨のせいなのか、あるいは露点のせいかのか濡れている古新聞はボトルにくっついており中々外れない。口の部分を出すだけでも五分以上の時間を要していた。
 やがて半分ほど新聞を剥いだUNKNOWNとドクター、そこでUNKNOWNがボトルを床に置いて席を立った。
「ここまで剥がせれば十分か。ちょっとフロントにグラスを借りてこよう」
「お願いします。その間にゴミをまとめておきますね」
「助かる」
 そう言葉を残し、部屋を後にするUNKNOWN。そして先程まで彼のいた場所に座り、ハミルは新聞の切れ端を集め始める。だがドクターはそんなハミルを気にする様子もなく、ボトルを上から下からと様々な角度から観察を始めていた。
「どうしました、ドクター?」
 先程とは逆にハミルがドクターに言葉をかける。だがドクターはしばらくそれを無視するかのように観察を続けている。ドクターが気がついたのは、三回目のハミルの呼びかけだった。
「ちょっと気になることがあるのだよ」
 ドクターは自分が新聞紙を剥がしたボトルをハミルの目線まで持ち上げた。
「まず見てもらいたいのがラベルとボトルの色なんだよ。このボトルにはアルコールの顔というべきラベルがない。そっちのボトルもそうみたいだね〜」
 言われて始めてハミルは手元にあるボトルを見直した。確かにドクターの言うとおりこちらのボトルにもラベルがない。それどころかボトルの色さえも微妙に違っていた。
「ラベルもですが、そのボトルここのボトル、色も違いますね」
「いい所に気がついたね」
 満足そうに笑みを浮かべ、ドクターは説明に入る。
「ラベルが無いのもボトルが違うのも恐らくは密造酒だからだろうね。しかもボトルを揃えきれない事情があるらしい。コストを抑えたいのか、密造だとばれないようにするためなのか、その辺りは不明だけどね」
「ですね」
 他におかしな点はないかと新聞を剥がしつつ観察するハミル、だが気付いたのはボトルの底にワインの澱のような沈殿物が溜まっていることだけであった。

 数分後、UNKNOWNはグラス三つを抱えて戻ってくる。ウェイトレスを経験したことがあるのか指を上手く使いグラスを三つとも片手で持って器用にドアを開けていた。そしてドクターとハミルの注目を受けつつ密造酒をグラスへと注ぐUNKNOWN、だが数秒後三人は思わず鼻を押さえるのだった。
「ふむ、不味い」
「独特の味ですね」
「それは不味いをオブラートにつつんだだけの言い方だよ」
「どこで買ってきたんです?」
「ガード下の屋台だ」
「それは保存状態が悪いだろうね」
 ハミルはUNKNOWNが買ってきた密造酒を一口含み、そして一気に飲み込む。喉越しは悪くないが香りが死んでいる、それが彼の感想だった。
「次のも開けてみるか?」
 UNKNOWNがドクターに伺いを立てる。だがドクターは首を横に振った。
「今すぐ二本あけても飲みきれないと思うよ〜」
「‥‥それもそうか」
 UNKNOWNは先程あけたボトルを見つめた。黒に近い重々しいボトルを揺らすと、まだ全体の三分の二ほど残っているラインで中の液体がゆれている。だが三人ともそれ以上飲もうとは思えなかった。
「始めて飲む味でした。何と言う種類なのでしょう」
「ちょっと検討がつかないな。どうやら保存状態が悪いようだ。野晒しに近い状態だったんだろう」
「ということはあまり味も?」
「辛うじて酒だと分かる程度ですね」
 元々期待はしていなかったものの予想通りに不味かった密造酒の味を一同は水で洗い流し、三人も眠りにつくのであった。

 翌朝、ドクターとハミルは予定通り精肉工場へと訪ねていた。調査名目は親バグア派の潜伏調査、それを納得させるために銃も携帯している。そこまでは昨日と同じである。昨日はこの後に責任者はそんな話は聞いていないと反論、UPCに確認すると言い出す。そこで双方折れて、翌日の調査となったのであった。
「逃げられてないかしら?」
 心配するハミルであるが、ドクターはそれほど心配していない。理由は前日からアンジェラ、ロジャーと見張っているからである。
 工場の外は塀で囲まれており、門は一つしかない。出入り口は正門しか考えられなかった。そしてその正門から五メートル程離れた位置にアンジェラはジーザリオを止めている。昨夜から続いている雨のせいで視界は良好とは言いにくいが、人の姿を見逃すほどではない。それに人通りはそれほど多くなかった。問題があるとすればまだ雪が残っているせいか、じっとしていると寒いということである。
「後で一度確認に行きましょう。アンジェラさんの労もねぎらいたいですし」
 現在外ではロジャーとアンジェラの二人が控えている。何かあれば中に応援に来てくれることになっている。先程訪れた時には昨夜は異変なしということだった。
となれば当然何かあれば、どこかに隠した可能性が高い。二人は丹念に責任者の発現と周囲の様子に注意を向けつつ進んでいくのであった。

 その日の夜、五人はアンジェラのジーザリオに乗っていた。昼間に感じた違和感を確かめるためである。
「それで何がおかしかったのですか?」
 起きたばかりのロジャーが訪ねる。隣には逆に疲れた様子を見せているアンジェラ、そして後部の荷台にはしがみつくようにUNKNOWNが乗っている。身体の半分は昨夜から降ったり止んだりを続けている雨に打たれていた。
「案内された建物とは別に離れがあってだね、そこに案内してはもらえなかったのだよ。どうも正攻法では行かせてもらえないようだから、ちょっとそこに忍び込もうかと思ってだね」
「一応責任者の人の話では、冷凍庫ということでした」
 遠めで見た限りではあるが、温度を調整するらしきパネルと自家発電機らしきを二人は確認している。だが三人は釈然としない、実際に見ていないこともあるのだが、精肉工場に保存用の冷凍庫があってもおかしいとは思えなかったからである。
「肉を凍らせて保存するためには必要だと思いますよ」
「確かにそうなんだよね」
 ドクターも違和感の正体までは気付いていなかった。だが何かが違う、そんな
印象があった。そこでUNKNOWNが一つ質問をぶつける。それはドクター、ハミルも昨日気付いていた澱のことだった。
「今日一日、この澱の正体を密造酒を買ったこと場所等で聞き込みを行ってみた。すると他にも気になった人がいたらしく、調べてみたんだそうだ」
「結果は?」
 急かすように先を促すロジャー、アンジェラも首を傾げてUNKNOWNを見つめる。だがUNKNOWNは首を縦にも横にも振らずに顎を撫でている。
「答えから言えば分からないそうだ。澱と言えばワインだが、葡萄ではない。また麦でもトウモロコシでも米でもないらしい。今はじゃがいもという線で調べているらしいが、可能性は低いだろうということだった」
「なるほど」
 納得するロジャーではあるが、同時に一つの疑問が湧き上がる。
「それが精肉工場と関係あるのです?」
「ですね」
「そう、俺も気になったのはそこだ」
 UNKNOWNが答える。
「可能性として高いのは単純に肉を酒に入れたということなのだが、脂身の多い肉では酒と合うとは考えにくい」
「そこで冷凍肉というわけですね」
「こちらも確証があるわけではないがな」
 自信なさげに言うUNKNOWNであるが、アンジェラは思いついたように言う。
「世の中にはマムシやハブをつけたお酒もあると聞きます。UNKNOWN殿の推理はそれほど間違ってないと思いますよ」
「‥‥マムシやハブね」
 アンジェラの言葉にドクターとハミルは午前中に見た光景を思い出していた。当初の目的であるコバルト・ブルー女史の発見を第一としていたため自信こそ無いが、蛇らしきものの姿を見た覚えは無い。
「それを含めて確認してこよう」
「ですね。ここ二三日人通りが一切無いことにも違和感を感じます」
 やはりまだ不確定なところがある。能力者達は再度装備を確認し、怪しいと思われる冷凍庫へと突入するのだった。

「コールサイン『Dame Angel』、作業を始めるわね」
 いつしか先程まで降っていた雨は止んでいるが、気温は低い。だが濡れないだけでも十分だった。唯一濡れる羽目となったUNKNOWNだけは上着を脱いでいる。戦闘を行くのはアンジェラ、懐中電灯を片手に進んでいく。続いてハミル、UNKNOWN、ドクター、ロジャーと続いた。扉は閉め忘れたのか元々なのかそれほど厳重なものではなく、ロジャーが開錠。そして寒さに震えながら進む能力者達が発見したのは、猿の死骸であった。しかしただの猿ではない、ドクターには見覚えがあった。ハヌマーンである。しかもただのハヌマーンではない、死んでいる。顎が割れ、頭部に剣によるものと思われる陥没ができていた。
「これは‥‥」
 手を伸ばすドクター、そして確認に近い自信をもってハヌマーンを確認する。
「やはりね」
「何かあったの?」
「我輩が採取した細胞の跡があるのだよ」
「それじゃ‥‥」
 ハミルが声をかけようとしたときだった。アンジェラとは違う方向から光が照らされる。そして響く声、工場の責任者の声だった。
「キメラ酒っていうのは悪くないがね、珍しいからと買って行く奴もいるし。だが正体がよく判らんから仮死状態にでもしないと迂闊に手も出せんよ」
「それもこれも手緩いUPCが悪いって事です。メガ軍事コーポレーションの懐にはお金がたんまり入っていくでしょうけどね。ウチのような中小企業が生き残る道は限られている」
 どうやら声を聞く限り一人ではないらしい。少なくとも二人以上は確実だった。
「捕まえてみましょう、あの二人は何か知っているはずです」
 立とうとするアンジェラ、だがUNKNOWNとロジャーはそれを止める。
「今は動かないほうがいい」
「アンジェラさん、落ち着いた方がいいです。気付きにくいでしょうが、今俺達の動きは鈍っています」
 冷凍庫の温度は摂氏零度を確実に下回っている。そこに大した防寒具も準備できなかった状態で飛び込んでいる今、自分達がどれだけ動けるかは疑問が残るというのがロジャーの意見だった。
「今は彼らに言い逃れできない決定的な証拠を捕まえましょう」
「だな」
「‥‥わかったわ」
 ドクターとハミルもアンジェラを止める、そしてアンジェラも折れた。能力者達は決定的な証拠としてハヌマーンの死体を確保、責任者らが撤退したのを確認して冷蔵庫を後にする。そしてハヌマーンの死体をボブとカインに預け、ラストホープへと戻る。だが心境は進展したという達成感と不十分という後悔の半分半分であった。