タイトル:逃亡者マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/26 12:00

●オープニング本文


「アタシはあなたをおびき出すために事故を演じたの。にも関わらず余計なことをしてくれたわね」
 西暦二千九年三月、深夜のカンパネラ学園に銃声が響いた。親族であるエカテリーナの遺体を引き取りに来た元UPC軍人アチアナの放った銃である。だが弾丸は入っていない、空砲である。
 続いて倒れる南条、だが当然実際に銃弾が撃ち込まれた訳ではない。アチアナに合わせた演技である。何が起こったのかわからなかったが、とりあえず倒れる振りをする。それに安心したのかアチアナは、先程空砲を鳴らした銃を置いてその場を足早に後にした。
 
 窓越しにアチアナの姿が見えなくなるのを確認して、南条はやっと身体を起こした。たま何やら面倒な事に巻き込まれたのだろう、付き合いが長さからそこまでは判断するものの事情も説明されなければ苦笑するしかない。気付くと外からは警備員が扉をノックする音が聞こえてきていた。
「南条先生! 何か凄い物音が聞こえたって報告受けたんですけど、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫だ。ちょっと昔の友達と派手に喧嘩をやらかしてしまってね」
「‥‥そうですか、先生がそうおっしゃるなら何もいいませんけど。ですが拳銃のような音もしたってことで一応警備レベル上げさせてもらいますね」
「了解、お疲れ様です」
 まだ何か言いたげな表情を浮かべる警備員を笑顔で送り出し、南条はアチアナの置いていた銃を調べた。彼女らしくないリボルバー式の拳銃、南条はほぼ間違いないという確信をもって弾倉を取り出す。そこには小さく丸められた紙にほとんど糸くずのような乱雑な字が書きなぐってあった。
「親バグア派に潜入操作していたら尻尾を掴まれた。しばらく身を隠すから情報操作を手伝って欲しい」
 最低限の情報しか書かれていないメモに苦笑を浮かべる南条。恐らく警備レベルを上げさせることでバグアを警戒させ、自分の代わりに追っ払って欲しいということなのだろう。
「KV乗れない俺に何をしろっていうんだよ‥‥」
 その後、アチアナの確保命令がUPCから出される。それに紛れ込みつつ、能力者達にはとりあえず追いかける振りをしてほしいと連絡する南条だった。

●参加者一覧

篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN
祠堂 晃弥(gb3631
19歳・♂・DG
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC

●リプレイ本文

「アル達もお手伝いするのです」
「足手まといだ」
「いや、そちらの機体は見たところ追跡には向いていないように見える。ここはあたし達にまかせてもらいたい」
 ラストホープにあるカンパネラ学園入り口にて翡焔・東雲(gb2615)、アルジェ(gb4812)は警備隊と話をつけていた。できれば出撃しないでほしいという期待を込めての頼みである。だが警備隊は二人をいぶかしむような目で見ては疑問を口にする。
「お前達、犯行幇助するつもりじゃないだろうな」
 いぶかしむ警備隊にアルジェは両手を大きく振って否定する。
「そんなつもりは無い。ただ顔見知りなだけど」
 最後に自分ではなく依神 隼瀬(gb2747)が、という意味であるがアルジェは語尾を潜めた。わざわざ言う必要はないからである。そして当の本人である依神は現在アルジェの作成したモールス信号の一覧表を他の能力者達に配っている。アチアナに即興で通じるかどうか不安は残るが、今回の依頼人であり友人でもある南条に意見をもらって彼女には通じやすくしてある。勝算は十分あった。問題があるとすれば作成したモールス信号が多少特殊であるため、能力者達の手に一覧表が回るまで時間を稼ぐ必要があるということだ。そこで警備隊が出撃を取りやめてくれるのではないかという希望も込められている。だが当然の事ながら警備隊は出撃を止めることはしなかった。
「聞いた話では彼女はロシアの出身、今回の大規模作戦に関わっている可能性がある。見逃すことは出来ん」
 アチアナを親バグア派か何かと考えているのだろう、彼女を捕まえることで手柄になると士気が高い。だが今回ばかりは能力者達にとって、それは迷惑でしかなかった。
「ならば協力ということでどうだろう。面識があるため説得できると考えるが」
 疑われない程度に相手の気を逸らす翡焔、そして楽に捕まえられるならということで手を組む事に成功したのだった。

「前方に敵機発けn‥‥すまん、雲の影だったかも」
「しっかりしてくれ。それほど視界は悪くないはずだ」
 翡焔の放ったスナイパーライフルは無常に雲を割り、隙間から青い空が垣間見える。UPCから派遣された警備兵からは少なからず怒気の混じった無線が届く。彼ら曰くアチアナはロシア出身、今回の大規模作戦について何かしら情報を持っているというのがそのあたりの事情らしい。その辺りの事情は能力者達も気になるところだが、今はアチアナの機体を見逃すことに集中していた。。
「ルーキーはあまり前に出すぎるな、こんな戦いで撃墜されるなんぞばからしい」
 味方機に対して言っているようにも聞こえるように援軍機を牽制する伊藤 毅(ga2610)、迎撃班の班長として今回は突出することはせず今は周囲の警戒に当たっている。そしてその後方では篠崎 公司(ga2413)がカウンタージャミングを、アルジェがロックオンキャンセラーで状況を静観している。
「自分達ははUPCの傭兵です。先行するS−01。速やかにLHへ引き返して下さい」
「実機練習が実戦になっただけ、大丈夫やり方は覚えた。キャンセラー起動…避ける」
 アチアナの方も疑われない程度に演技するつもりなのだろう、逃げつつもホーミングミサイルで反撃を仕掛けてくる。ただ当てるつもりはないのだろう、誰かを狙っているというわけではなく、ばら撒いているという感覚だった。
「引き返さねば攻撃する‥‥リックが悲しむぞ?」
「あちらへは行かせませんよ」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)、ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)が呼びかける、だがアチアナ機は反応を見せない。そこで長距離バルカンで牽制しつつ接近を試みる祠堂 晃弥(gb3631)、その一方で依神はモールス信号で合図を送りつつ、無線ではアチアナに罵声を浴びせていた。
「俺達を騙したんだね! ひどい!!」
 だがアチアナの方からは特に何も返答は無い。依神としても返答を期待しているわけではない。ただアチアナの機体がわずかに右へと旋回、それに合わせるように依神が左へとスナイパーライフルを放つ。
「話には聞いていましたが、なかなか厄介な仕事ですね」
 アチアナの動きを見て篠崎が言う。実際ある程度強化されているのであろうアチアナ機を追うのはそれなりに手に余る任務だった。現に警備隊のKVは少しずつ遅れてきている。元々防衛が主である彼らの機体は犯人を追い回すという目的には向いていないのかもしれない、アンジェ、依神機と平行移動しつつ、ホアキンはそう分析していた。
「これ以上追い回すと、敵を刺激しかねない。万一の時は掩護をお願いする」
「‥‥わかった。後をよろしく頼む」
 口惜しそうに後退を始めるUPC機、それを見て安堵する能力者達。だが直後プロトン砲が彼らの横を通り過ぎ、遅れて爆発音が耳に届く。振り向くとKVが一機直撃を受け落下していくところであった。

「敵機確認、これより排除する。第二編隊、ついてこい」
 現れたのはヘルメットワームは二体だった。哨戒中だったのか数は少ない、だが既にこちらに敵意を剥き出しているのは明らかだった。迎撃班である四名はすぐさま伊藤の指揮の下で祠堂、翡焔、ハインとともにヘルメットワームの迎撃に入る。だが問題はあった。能力者達とヘルメットワームのほぼ中間に後退を始めた警備隊の機体がある。アチアナ機の心配をする必要が軽減されたわけだが次はUPCの方の機体の面倒を見る必要が出てきたわけである。プラスマイナスで考えるとあまり変わりないと言えた。
「こちらが護衛に入ります。今の内に速やかに撤退を」
「助かる」
 撤退してもらったほうがありがたい、喉まででかかったその言葉を祠堂は飲み込んだ。引き付け役となるのならば構わないが、この状況では自ら攻勢に出る必要がある。当初の作戦とも違うためできれば早々に撤退してもらいたいというのが本音であった。だがそんな能力者達の考えとは裏腹にヘルメットワームはすぐさま攻撃を開始、フェザー砲を放ってくる。
「こっちはバグアの相手をする。そっちも頼むぞ」
「了解」
 返答すると同時に依神はアチアナに信号を送る。内容は「キリツカウ マギレテ ケムリダセルカ」、そのまま幻霧に紛れ込ませ逃走してもらうという予定である。その間もホアキンは「勘が鈍ったかな?」と呟きながらもわざとライフルを外していく。
 やがてアチアナ機からの返答が戻ってくる。内容は「了解、貴行達の協力に感謝する」だった。そこで篠崎は再度ジャミングの設定を変更、対象を味方UPC機体に変える。アンジェラも後方に迫るヘルメットワームからのロックオンに焦点を絞った。
「それじゃ行かせてもらいますよ」
 ミサイルの誤射に見せかけ依神は幻霧装置を作動、ホアキンも煙幕銃を使い補助する。そして後方の迎撃班もヘルメットワームの相手をしながら、UPC機が視認不可能の位置まで撤退していることを確認していた。
「ラジャ、ミッションオーバー、RTB」
 どういう意味での任務完了だったのかは警備隊の知る由も無かった。

 やがてヘルメットワームは撃退、アチアナ機も索敵県内からの脱出にする。中々に変則的だった任務を達成したことに安堵する能力者達であったが、そこに通信が入る。あまり聞き覚えの無い声だった。
「‥‥返答求む、聞こえるだろうか?」
「大丈夫だ、多少ノイズが混ざっているが十分聞き取れる」
 返答する伊藤、他の能力者達も何者からの連絡だろうかと緊張が走る。
「先程は済まなかった。出撃前の非礼を詫びたい、飯でも奢らせてくれ」
 そこまで聞いて翡焔とアンジェは思い出した。数時間前に学園前で話をした警備隊員の声である。どうやらヘルメットワームの撃退を知り、戻ってきたらしい。
「気にしてないよ」
 アルジェはそう言いつつも、内心ではモールス信号を作成してよかったと心底思っていた。光を出していたため何か合図をしていたことまではばれている可能性もあるが、無線で話していれば会話が筒抜けになっていたかもしれない。それを思えばまだマシだと言えた。
「言葉に甘えよう」
「そうだな。こちら八名だが大丈夫だろうか?」
「大丈夫だ。ただしこれから友人を連れてくるようなことは止めてくれよ」
 一方篠崎とホアキンはUPCがどこまで悟ったのか探りをいれたいという希望があった。だがどうやら何も気づいていないことに安心した二人であった。