タイトル:消えた能力者三マスター:八神太陽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/23 08:17

●オープニング本文


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 西暦二千九年五月、カンパネラ学園生であるカインは同じく学園生であるクラブ・エースことボブと一時別れグリーンランド最大の研究施設であるアンサマリク地下研究所へと向かっていた。前回入手したキメラの死骸を解析してもらい、そこから現在行方不明となっているコバルト・ブルー女史の手がかりを調べてもらうためである。当初門前払いされるだろうと考えていたカインであったが、以外にもすんなりと意見は通る。詳しい事情までは分からなかったが、どうやら特殊予算が組まれるなどチューレ基地の方でも何か動きがあったらしい。それがカインが飴と一緒に帰り際に会った女性の軍人から聞かせてもらった話だった。
 だが意気揚々と戻ったカインを待っていたのは、ボブが留置所へと叩き込まれたということだった。最近治まっていたカード癖が再発し、誰かからお金を巻き上げたのであろうかと一瞬いぶかしんだカインだが、調べてみると違うらしい。原因は現在カインとボブが探っている精肉工場への不法侵入及びUPCの名前を無断使用した偽証罪、そして逃走途中で警官に対する傷害罪と公務執行妨害によるものらしい。カインはすぐさま面会を求めた。

 面会申し出から三日後、やっとカインに面会の許可が下りる。どんな顔で会おうかという年相応の乙女心を働かせ、悩んだ結果として笑顔で迎えることにしたカインであったが、それに対しボブは不眠症の人間かのように青ざめていた。
「何か無茶したいことでもあった?」
 努めて自然に振舞うカインだが、ボブは神経質に周囲を確認する。カインも釣られるように見渡すが、辺りにいるのはカイン同様面会に来ていた二組の親子と係員が二名、それと監視カメラが一台付けられているだけである。
「‥‥手がかりを掴みたかっただけだ」
「それで武器振るった? 攻撃力だけ馬鹿みたいに鍛えた棍棒で警官殴っちゃったわけね」
「命中も疎かにしたつもりは無い。もうすぐ三桁に届く」
「そんな馬鹿自慢聞いてないから」
 逮捕当日、ボブは確かに精肉工場の敷地内に不法侵入していた。物的証拠となるキメラの凍結死体を確認するためである。厳密に言えば死体そのものを確認するためでは無い、一体盗まれた事が判明すれば工場側も動くはず。そう考えたボブは大型トラックに発信機を付け追跡するつもりだったのである。だが結果から言えば彼は待ち伏せされ、逃亡することも出来ずに捕まったということだった。
「だがおかしい、前回の潜入からはかなり時間が経っている。警察にしても明確な動きをしていないこちらを捕まえるには動機が不十分なはずなんだ」
「頭だけはまだ大丈夫なようね」
 ボブの体調を気にしていたカインであるが、どうもまだ狂ったわけではないらしい。少なからず安心するカインであるが、ボブは相変わらず何者かに怯えているのか小刻みに震えている。
「恐らくここの警察は親バグアと繋がってる。そして捕まえた相手を牢に入れて廃人にする」
「流石に考えすぎじゃない?」
「お前には聞こえないんだな。この鳴き声みたいな音が」
 その後ボブはまだ時間があったにも関わらず、面会室を後にした。何か理由があると考えたカインは自分で調査を進めた上で能力者達に連絡を入れるのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

 まだ雪の残るグリーンランド某所、早朝より警察はパトカーを出動させている。精肉工場内にキメラがいるという目撃情報があったからだ。市民を守るために出動している警官ではあるが数は一、乗っている人数も二人である。当然サイレンも鳴らしていない。理由の一つは目撃情報がいわゆるタレ込みであり信憑性が薄いこと、そしてもう一つの理由が警官全員が能力者というわけではなく実際にキメラがいても対応できない可能性が高いことである。加えて問題の精肉工場は上司からとりあえず話を聞いておけといわれた程度の場所である。そして通り過ぎる車を建物の物陰から見ながらドクター・ウェスト(ga0241)は呟いた。
「上手くいったのかね〜?」
「多少は警戒を強められたと思うぞ」
 煙草に火をつけ、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)もパトカーの後姿を眺めていた。
「だが思ったより腰が重いな。二人か」
「黙殺されるよりはマシですよ」
 皇 流叶(gb6275)はそう答える一方で、ハミル・ジャウザール(gb4773)は手元の角砂糖をいじっていた。
「ところで角砂糖の効果とはいつぐらいにでるのでしょう?」
「知らないでやったのか?」
 思わずホアキンが聞き返す。
「ホアキンさんが試させてくれなかったじゃないですか」
「壊れるのが分かっていて貸せるわけが無い。それに脱出用の足だぞ」
 苦笑を浮かべながら、ホアキンは大きく煙を吐いた。そして携帯用の灰皿に押しつぶした。
「行くのね。同業者相手だとそのあたりの説明が省けるからありがたいわ」
「だけどこれからのルートを分かっている犯意で確認させてもらうよ〜留置所へ繋がる下水道がさっきパトカーの通ったあの道の下、そして下水道への侵入経路はここだね〜問題は途中に分岐があることとキメラが潜んでいる可能性があることだね〜」
 ドクターが地図と実際の場所を照らし合わせながら、侵入経路を確認していく。それをホアキン、ハミル、皇はそれぞれ自分の目で確認する。
「最後に時計を調整か」
 全員が時計を取り出し秒針を合わせる。そして下水道へと侵入を開始するのであった。

 同時刻、残ったマクシミリアン(ga2943)、ロジャー・ハイマン(ga7073)、アンジェラ・ディック(gb3967)、ノーマ・ビブリオ(gb4948)は警察署の正面玄関入り口そばにいた。地下下水班と同じく時計を合わせ、タイミングを見計らう。時間は早朝五時、人が少ないのかホアキンの行ったタレ込みの効果はパトカー一台に留まっている。だが同時にそれだけしか中に人はいないのだと判断していた。むしろ気になるのはボブの言っていた音である。
「モスキート音でしょうか?」
「モスキート音ってあれですよね、若い人にしか聞こえないとかいう」
「ですね」
 ロジャーとノーマが息を合わせたようにマクシミリアンとアンジェラの様子を伺った。
「聞こえないな」
「同じく。これで満足?」
 アンジェラが笑っているようにも怒っているようにも見える不敵な笑みを浮かべた。背中に冷たい物を感じたノーラが慌てて言い直す。
「そんなつもりじゃないですよ。それに私にも今は聞こえませんし」
「何だ、そうなのか」
 誤魔化すようにマクシミリアンも笑う。
「だが囚人全体の体調が悪いんだろ? 全員と言っても何人か効いていない奴もいる可能性も否定できないけどな」
「その考えもありますね」
「その当たりも踏まえて突入するか」
 既にパトカーは通り過ぎて十五分程経過している。後続がいるかと期待していたがどうやら気配が無いと悟ると、アンジェラはマスクを被り、ノーマはゴーグルとマフラーで顔を隠した。そしてマクシミリアン、ロジャーとともに正面から警察に向かうのであった。

「どんな御用ですか?」
 早朝の警察は静かだった。受付にも人はいない。それどころか全体を見回しても二三人しかいなかった。逆に言えばそれは目立つという意味であり、現に入ると同時に全員の視線が能力者達に方へ集まり、一番年下らしい曲がったネクタイの男が小走りで走ってきて尋ねる。
「悪いな。ちょっと眠っていてくれ」
 マクシミリアンは口元を一瞬歪ませると、一気に接近し鳩尾付近にスパークマシンαを当てる。殺傷しない程度の弱さで、であった。男の方も油断していたのであろう、何も言葉を発せずに崩れ落ちる。それと同時にロジャーとアンジェラも散開、部屋に残っていた関係者を昏倒させる。
「ごめんなさい」
「コールサイン『Dame Angel』、作戦遂行開始」
 全く違う言葉を吐きながら任務を遂行するロジャーとアンジェラ、その間にノーマは上へと続く階段を見つける。そしてマクシミリアンが懸念事項であった音についてノーマに確認する。
「超音波測定装置の反応は?」
「‥‥微かに感知しますが、超音波では無いのかも知れません。例の低周波の可能性がありますね」
「微かに感知か。超音波測定と言っても低周波も測定できるんだな」
 マクシミリアンは素朴な疑問を口にするが、すぐに考えるのをやめた。今するべきことはボブの確保、そして親バグア派が潜んでいるという証拠の確保である。前者は依頼の目的であるため当然ではあるが、後者は自分達の身の潔白を証明するために必要となる。特に顔を隠していないマクシミリアン、ロジャーにとっては急務であった。そして四人を急かさせるように警報機が鳴り響く。周囲を見回すロジャー、すると正面玄関上と階段傍に一つずつ発見する。ロジャーの視線を追ったアンジェラとノーマが、それぞれ一つ破壊。だが警報は鳴り止まず、閑静な早朝の空気の中を騒がせている。
「このままじゃ埒が明かないな。管理室へと向かうか」
「ですね」
 マクシミリアンの提案に従うように、ロジャー、アンジェラ、ノーマも続く。そして管理室のあると思われる二階へと向かうのであった。

 一方その頃下水道班は暗視センサーを装着したホアキンを先頭に、留置所内部への侵入に成功していた。だが顔は笑っていない、ドクターの手にある超音波計測装置を使わずともホアキン、ハミル、皇の耳にも届いている。そしてそれ以上に四人の緊張感を高めていたのは、道中に捨てられていたキメラの死骸であった。当初単純に待ち伏せを予想していたハミルと皇にとっては肩透かしを喰らった形ではあるが、周囲を襲う腐臭に戦闘意欲さえ失っている。ガスの充満している可能性も踏まえ、ハミルもランタンの火を消していた。だが一方でドクターとホアキンは恐怖に近い違和感を感じていた。ドクターの脳裏には前回精肉工場で見た光景が思い出されていた。脳天は剣により割られ顎は拳によって割られている猿のキメラの姿である。今までキメラの死体は何度も見ているが、後日改めて同じ死体を別の形で見る機会は少ない。今回もその一つかと思い気配を頼りに近づいてみたが、感触が違うために出しかけた手を戻す。そして一人実物を見ていたホアキンは動かないのだから気にしない方がいいとだけ告げる。当然ハミルと皇は疑問に感じていたのだが、ホアキンが見たものは引きちぎられた腕や足の破片である。いくつかには歯型がついており、歯一本の大きさが十センチ近くある。全長を考えると十メートルは覚悟した方がいいと考えている。そこでドクターだけはサンプルとして一部を収集、その後ハミル、皇と供に大型のキメラが潜んでいる可能性だけを伝えて先を急いだのだった。
「ですけど、それほど大きなキメラがいるのでしょうか?」
 ハミルが言う。
「存在しない、という意味ではありませんよ。僕だってゴーレムやサンドワームみたいなバグアを知ってますからね。でもこの地下内に存在できる場所があるかというと、正直疑問です」
 ハミルがそんなことを言うのにも理由がある。警報のおかげで手薄となった地下を歩き回り地図を作成した結果、依頼の第一目的であるボブは発見したものの、ホアキンが言う程のキメラが入る場所が見つからなかったからである。
「だけどそれでは先程の歯型の説明がつかない。ホアキンの考えは要するに、キメラ餌として食べていたということだと思ったのだが違うか?」
「いや、違わない。先程見たのは食べカスだというのが俺の予想だ」
「それにドクターの観測装置もまだ反応しているわけよね?」
「だね〜この警報のものかもしれないけどね」
 皇の推理を補うようにホアキンとドクターも現状をまとめる。そして思い至る考えをハミルが口にした。
「つまり何か隠された場所がある、ということですか」
「それが一番納得いく可能性だと思う」
 皇はそう結論付けるが、ホアキンは冷静に諌める。
「俺達の目的はボブの確保と親バグア派の発見、だが既にボブは確保した。隠し部屋というのは確かに親バグア派に関する情報があるかも知れないが、地上班がどれだけ時間を稼いでくれるかによるのではないか」
「確かに我々だけ脱出わけにはいかないからね〜」
 四人の意見がまとまったところで、ホアキンが地上班へと連絡を入れる。ほぼ同時に警報が鳴り止んだことで吉報を期待すると、そこで分かったことは地下の隠し部屋にコバルト博士が閉じ込められている可能性が高いということだった。

「今ノーマとロジャーに確認してもらっているところだが、この警察の中に親バグア派がいるのは間違いない。どうやら能力者がキメラを集め始めているのを知り、キメラの後処理を請け負っていたようだ。こういう時は警察のような権力があると楽だと言うことだろう」
 マクシミリアンが通信機を手に答える。外ではアンジェラが警察関係者を抑えていた。
「それと実験用に巨大なキメラを飼っていたらしい。それの飼育係として一人の女性が送られてきたようだ。それが身体的特徴からコバルト=ブルーである可能性が高い」
「成程、それは調査してみる可能性があるな。だがそれほど時間も取れないだろう、何か場所の候補があるか?」
「流石にそこまでは分からない。だが発見後すぐに脱出できるようにボブと合流しておいてくれ」
「分かりました」
 通信を妨げるようにロジャーが叫ぶ。
「階段脇に更に下に続く階段への扉があって、それがコンクリートで塗り固められているようです。破壊してみてください。脱出路はこちらで確保しておきます」
「それと超音波観測装置が不明な音を拾っていますので気をつけて」
 後半はノーマの言葉だった。それを受けて地下下水道班の四人は正面突入班を信じ、階段脇の壁を破壊し始めたのだった。

 数分後、壁の中から扉が発見される。その階段を下りるとそこには小さな格子窓のついた鉄製の扉があった。鍵がかかっているのだろう、押しても引いても動かない。仕方なく窓から中の様子を伺うと、そこには体長十メートルはあると思われる巨大な猫のような生物と全長二三メートルあるだろうと思われる機械、そして一人の女性がいた。猫はおとなしいのか今はいびきのようなものをあげて眠っている。女性の方も機械に寄りかかっているようにして眠っていた。ドクターは超音波観測装置が拾っている音はあの猫によるものだと推測した。
「恐らく見間違いではないだろうが、コバルト先生で間違いないか?」
「間違いありません。コバルト博士です」
 ホアキンが尋ねると、ボブは大きく頷く。そして皇は剣を手にした。
「だったら破壊するまでよ」
 蛍火を手に、皇は円閃、スマッシュを連続使用する。周囲に大きな金属音は響いたが、扉が開くことは無かった。だが音は中にも響いたのだろう、コバルトが目を覚まし扉に駆け寄ってくる。
「よくここまで来てくれたわ」
「コバルト先生ですね。早く脱出を」
 ハミルが促す。だがコバルトは首を横に振った。
「無理。この扉の鍵を私は持ってないし、何よりあの猫を放置できない」
 コバルトは簡単に事情を説明してくれた。
「ここまで来てくれたということは低周波についてある程度知っているわよね」
「不快な気分にさせる事と機械にも影響を与えるみたいだね〜最もキメラも人間のように不快さを感じるみたいだけど〜」
「流石ですね」
 ドクターが答えると、満足そうにコバルトは答える。
「そこでバグアは研究を更に進めた。不快さの追求と機械への明確な影響、そしてキメラへの防護策ね。どうも始めの二つはバグアが独自のルートで研究を進めて結果が得られたみたい。そして私がまわされたのはキメラへの防護策、そこで出されたのがあの猫を飼い慣らせってことなの」
 コバルトは部屋の奥を指差した。
「つまり、あの猫を何とかしないとあなたは逃げられないと」
「簡単に言うとそういうこと」
 皇の問いにコバルトは完結に答えた。
「あの猫は低周波がお気に入りらしく、低周波を出し続けていれば問題ない。けど代わりに伝えて欲しいことがある」
 コバルトは一拍間を置いて、押し殺したように言う。
「さっき言った低周波の三研究だけど、どれも完成していると思う。私の知っている限りだけど、不快さの追求は一般人をバグアの意のままに支配すること、機械への影響はKVやAU−KVに負荷をかけて錬力を減らすことで進んでる。何とか対策を立てないといけない」
「だね〜」
 ドクターは早口で語られるコバルトの言葉を脳内で反芻する。能力者の割合は人間の千分の一、一般人だけ支配できると言っても大半の人類を支配できることになる。それに錬力低下もやっかいだ、試作剣「雪村」や帯電粒子加速砲などKVの武装の中には錬力消耗を伴うものがある。錬力低下は一部能力者の火力を奪うことになりかねない。
「多分バグアはそろそろ何か手を打ってくるはず。まずはそれを誰かに知らせて」
 コバルトはそう言って、再び部屋の奥へと戻る。階段の上からは剣戟と銃弾、そしてノーマの呼びかける声が響いている。脱出路が確保できたという意味だろう。最後にホアキンは扉に向かって語りかける。
「今は去ろう、だが必ず助けに来る。それが対策を立てる一番の近道のはずだ」
 四人は階段を駆け上がると、ノーマが心配そうに見つめてくる。
「大丈夫、コバルトさんにも会えた。でも今は脱出を優先しよう」
「‥‥分かりました」
 ハミルの言葉にノーマも頷き、階上へと戻る。そして一階階段前で足止めしていたマクシミリアン、ロジャー、アンジェラらと合流すると、そのまま外へと強行突破を開始する。一方地下の方もボブの逃亡とともに拘留されていた囚人達が暴動を開始していたが、皇が殿を務め、ホアキンが先頭、ハミルとドクターがボブの護衛を行いながら無事脱出を果たすのであった。