タイトル:消えた研究者 一マスター:八神太陽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/23 18:50

●オープニング本文


 西暦二千九年三月、グリーンランド某所の小屋でコバルト=ブルーは自作KV”ブラックバット”の改良に勤しんでいた。前回の実験でブラックバットは事故に合い大破、操縦者であったボブも重症を負う事になった。幸い後遺症などは無く、もうすぐ一時退院できるだろうという話も出ている。コバルトとしてはそれまでにブラックバットの改良しておきたいと考えていた。だが大きな壁にぶつかる。それは資金という壁だった。
「‥‥無理」
 事故の原因は操作の複雑さによるものだと判明している。元々S−01の機体を改造して超音波発生装置やら受信装置をつけたのだから、それだけ操作が難しいものになっているというのは当然といえば当然といえた。ここで資金に余裕のあるメガ軍事コーポレーションなら一から作り出すという方法に出ることも出来るのだろうが、生憎カンパネラ学園の一教師に過ぎないコバルトにそんな資金があるわけもなく、完成の見通しの無い図面を引くしかできないというのが実情だった。だがそこに転機が訪れる。レヴァンという軍人の訪問だった。
「先日の事故でこのあたりもバグアの襲撃を受ける可能性がありますので、UPCでもこのあたりを定期巡回しようという話になりました」
 この申し出はコバルトにとって正直嬉しかった。事故とその後の処理で比較的派手なことになっているのはコバルト自身自覚があり、最悪バグアに目を付けられる可能性があったからである。そうなればブラックバットは完成どころか途中で放棄しなければならなくなる。
「助かります」
 素直に例を言うコバルト、レヴァンは軍帽を深く被り表情を隠した。
「それでは本官はこれで」
「よろしくお願いします」
 そう言ってレヴァンは小屋を去る。コバルトにとってそれは、いい気分転換であった。

 それから数日、小屋には毎日レヴァンの顔があった。時間は昼過ぎ、軍規でもあるのか毎日正確な時間に訪問してくる彼は、コバルトと雑談に興じ小一時間ほどで帰っていく。それがささやかな楽しみとなっていた。そしてある日、コバルトはブラックバットについての話を切り出す。何かいいアイディアが無いだろうか、そんな藁にも掴むような気持ちでの相談だった。するとレヴァンはしばらく考えて切り出す。超音波そのものに疑問を感じるものだった。
「超音波にこだわる必要はあるのでしょうか?」
「どういう意味?」
「素人考えだけど、超音波だから受信する必要があるのだと。普通の音ならわざわざ受信する必要も無いし、もっと簡略化できるんじゃないかと思う」
「それはそうだけど、何か案があるの?」
「楽器なんてどうでしょうか?」
 だがその後何か名案が浮かぶわけでもなく、レヴァンは小屋を後にする。そして翌日、彼はコバルトを近くの町まで連れ出した。民族音楽を聞かせるためである。
「それもいいかもね」
 最近日の光も見てなかった事に気づいたコバルトはレヴァンの誘いに乗った。だが彼女が戻ってくることは無かった。

 数日後、ボブはカインに連れられ小屋を訪れる。だがそこにいたのはハヌマーンと呼ばれるキメラが五体、授業で見たものとは一回り大きいものである。加えて小屋にいるはずのコバルトの姿も無い。状況のまったく理解できない二人であったが、まずは小屋をキメラから開放するために、UPCに依頼を出すのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
祠堂 晃弥(gb3631
19歳・♂・DG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG

●リプレイ本文

「最近多いですね、こういう依頼」 
 現場であるコバルト=ブルーの小屋へと向かう道中、ボブ達が準備したテントで能力者達は暖を取りつつブリーフィングを行っていた。外は多少天気がいいのかうっすらと太陽が見えている。そんな中ロジャー・ハイマン(ga7073)がそんな言葉を漏らした。
「俺がこういう依頼を専門に受けているから、そんな気がするだけなのかもしれませんが」
「何かあるのでしょうか」
「あるのかもしれないね〜」
 尋ねるように見る依頼人の一人カインに、私設研究グループのウェスト(異種生物対策)研究所所長であるドクター・ウェスト(ga0241)が答える。
「気になることもあるからね」
「気になること?」
「個人的な事だよ」
 ドクターはカンパネラやグリーンランドを快く思ってはいなかった。何を考えているのかわからない部分があるためである。だがそのことを口にすることは無かった。
「ちなみにコバルト君と最後に会ったのはいつだね?」
「三日前‥‥ですね。寝不足なのか病院で見舞いに来てくれたのに欠伸ばかりしてましたよ」
「寝不足ね」
「寝不足ってことは例のソナー型の実験機のせいか? 俺はあっちも気にしてるがな」
 マクシミリアン(ga2943)が思い出したように言う。
「完成したら見せてもらいたいものだが、今のところどこまで進んでいるんだ?」
「流石に僕にもそれは分からないです。正直無事だといいというのが本音ですが、今はまだ先生の方が心配ですから」
「まずは手がかりの確保だ」
 祠堂 晃弥(gb3631)が淡々と語る。
「囮となる予定だが、問題はハヌマーンか? バナナをやろうと準備してきたがどうだろう」
「猿型ということは可能性はあるのかもしれませんが、まずキメラが食事を取るのです?」
 アンジェラ・ディック(gb3967)が言う。ハミル・ジャウザール(gb4773)も気になっていたのかボブの方を見るが、流石に知らなかったのかボブも苦笑で誤魔化している。
「我輩の研究によると、キメラにも個体差があると言われているからね。可能性はゼロじゃないと思うよ」
 代わりにドクターが答えた。続いてカインが説明に入る。
「小屋には四体のハヌマーンがいました。目的はまだ良く分かりませんが、暴れている様子はないので防衛なんだと思ってます」
「防衛?」
軽く身体を動かしながら水理 和奏(ga1500)が疑問を口にした。
「キメラが何か言うことを聞いてるって事なのかな?」
「一応知能というものはあるみたいだから、簡単な命令ならこなせると思うわ」
 女の子相手だからなのか、カインは砕けた調子で答える。
「だったら外におびき出すのがよさそうだね。お猿さんってことは外の方が動き早そうだけど、そうしないとこっちも戦えないしね」
 作戦は祠堂が囮役としてキメラをおびき出し、バナナは念のため試すということで決定。天気の回復を待って決行ということになった。

 そして数時間後、天候が回復する見込みは無いと判断した能力者達は作戦を決行することにした。当初の予定通り祠堂が一人先に進み、五メートル程距離をおいて他の七名も歩を勧める。やがて荷物の中からバナナを取り出す祠堂、だがここで一つ予定外の事が起こる。バナナが凍ってしまっていたのだ。釘さえ打てる状態になっている。
「これでも使えればマシか」
 思索しながらも前に進む祠堂であったが、やがてキメラと目が合い歩を止める。それを察してのか他の七名も足を止め、それぞれ武器の具合を確認する。だがキメラも出てくる様子は無い、カインの言うように防衛が目的なのかもしれない。
「面倒だな」
 長期戦になる様相を感じ、マクシミリアンは煙草に火をつけた。
「知性がどの程度あるのか知らないが、出てこないように命令されているように見える」
「時間稼ぎの可能性は?」
「どうでしょう。何が目的で時間稼ぎをしているのかわかりませんが」
「時間を稼ぐようなものがある?」
「コバルトさんを遠くまで連れ去るため?」
「どうだろうねぇ」
 マクシミリアンの一言からアルヴァイム、ロジャー、アンジェラは意見をそれぞれ交換するが明確な答えは出てこない。一方一人前線に立つ祠堂は相手の出方が分からないため進む事も引く事もできなかった。
「来るのか、来ないのか‥‥」
 戦闘開始を控えAU−KVの展開を待っている祠堂なのだが、敵は一向に出てくる気配は無い。錬力温存のためにもまだ身にまとうわけには行かなかった。そして時間は過ぎ日が落ちていった。

「どうですか?」
 無線から安否の気にするカインの声が届いたのは、もう夕刻を回った後であった。天気は変わらずわずかに曇っている。崩れないことは幸いであったが、視界が聞かなくなる事は能力者達にとって不都合でしかなかった。
「ドクター‥‥」
「何だね?」
「キメラって夜目利くかな?」
「利くものもいれば利かないものもいるね」
 水理の問いに答えるドクター、質問の意図は何となく分かっていたがそれについては答えない。そこで水理に代わりアルヴァイムが言及した。
「日を改めたほうがいいかということですね」
「ちょっと試してみたいことがあるんだ。ハヌマーンが防衛してるってカインさん言ってたけど、ひょっとしたら音に反応しているのかとも思うんだよ」
「試す価値はあるかと思いますよ」
「ならば使うか?」
 賛同するアンジェラとハミル、そしてハミルはポケットにしまってあった呼笛を取り出し、水理に見せた。
「流石にそれはどうかと思いますよ。直接口をつけるものですし」
 苦笑を浮かべているロジャー、そして自分の呼笛を取り出す。
「自分がやりましょう」
 祠堂にも確認を取り、ロジャーは呼笛に口をつけた。周囲に甲高い笛の音が響く。身構える能力者達、そして祠堂はAU−KVを展開し身にまとう。二秒‥‥三秒‥‥しばらく続いた笛の音だが、やがて鳴り止み反響も途絶える。だが小屋に異変はない。もう一度息を吸い込もうとするロジャー、その時だった、玄関の扉が引き裂かれハヌマーン達が群れを成して祠堂に襲い掛かってきたのだ。

「コイツは興奮してやがるな。ゴリラというよりはニホンザル系か」
 四体のハヌマーンは一番近くにいた祠堂目掛けて一直線に襲ってくる。そこでドクターがエネルギーガン、マクシミリアンがスパークマシンで牽制をかける。
「さっさと死にたまえ」
「サルらしく反省してろっ!」
 続いてアンジェラがライフルで援護しているのを受け、水理とハミルそしてアルヴァイムが前衛へと飛び出し、呼笛を締まったロジャーが続いてナイフを取り出し、囮役となった祠堂の救援へと向かう。
「東南アジアの猿神を模したのとは最近はつくづく神話系に縁が有るみたいね。でもやるべき事は一つ。コールサイン『Dame Angel』、目標殲滅よ」
「僕達も負けないんだから! 行くよ、中佐あっぱーっ!!」
 ハヌマーンの動きは単調だった。目に見える一番近いものに全力攻撃を仕掛けるだけである。知性があると少なからず警戒していたドクターであったが、マクシミリアンの言うように興奮しているのか、あるいはこれも個体差によるものなのか興味深げに観察していた。
 やがてハヌマーン達は、水理やハミルとアルヴァイムの下と上からのスキルを乗せた攻撃や遠距離からの威嚇射撃により殲滅する。他にも中に潜んでいないかと周囲を警戒しつつ水理が屋外、ハミルが室内捜索を決行。その間にロジャーが祠堂の快方に当たる。
「血が随分流れているけど大丈夫だろうね」
 ドクターとマクシミリアンが練成治療で応急手当を施すと、やがて祠堂も意識がしっかりしたのであろう、自分が想像していた通り器用に立ち回れなかった事を後悔していた。
「俺、足引っ張りましたか?」
「そんなことはないよ」
 ロジャーは声をかける。
「誰かが壁役やらないと今回の作戦は成功しなかったからね」
 ちゃんと話すことができることに安心したのか、ドクターはキメラの細胞回収に、そしてマクシミリアンは周囲の捜索へと加わっていく。だが夜が近いということか光が足りないため、アンジェラは閃光手榴弾で一網打尽を狙っていた。

 一時間弱の探索の結果、能力者達はキメラの殲滅を確認。続いて屋内を中心に捜索に入る。先程まで休んでいた祠堂とロジャー、そして依頼人であるボブとカインも交えての捜索である。その結果、一つのメモと置き忘れられた携帯電話を発見、代わりに開発途中であったブラックバットの中枢部が紛失していることを確認する。そしてメモには『酒が足りなくなったから買ってくる』と線のような文字が書き殴ってあった。
「これはコバルト君の文字で間違いないかね?」
 確認を促すドクター、ボブはそれを見ると小さく頷き、カインは荷物の中からコバルト直筆の献立表を取り出しドクターに渡す。受け取ったドクターはマクシミリアンとともに筆跡を確認、確かにコバルトのものであることを証明する。
「間違いなさそうだな、やるじゃねえかワトソン君。座布団一枚だぜ!」
「先生の献立は隠しておかないと未知の生命体を作り出しかねないだけだから」
「まぁそれも不幸中の幸いって奴だな」 
「ところでコバルトさんはお酒は嗜まれるのですか?」
 ふと思い出したかのように疑問をぶつけるハミル、これに対しボブは多少困惑しつつ答えた。
「何か物事に詰まった時は飲んでたみたいです。俺達の前で飲んだことはありませんけど、ウォッカの瓶が研究室に転がっていたは何度か見たことはありますから」
「このあたりで一番近い酒場はどこになります?」
「ここからバイクで三時間ぐらい離れた町になります。だよな?」
 最後はカインに確認を求めるように尋ねるボブ、カインはしばらく首を捻りながら考えて頷く。
「ということはとりあえずその町に探りを入れてみるべきってことですね」
「あとはこの携帯電話となくなった部品が気になるところだね」
 まだ腑に落ちないところはあったものの、一旦解決ということで能力者達は小屋を後にしたのだった。