タイトル:ホワイトデーも殴り合いマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/17 19:12

●オープニング本文


 西暦二千九年三月、カンパネラ学園購買部のロッタ・シルフスのもとに一人の学生が相談に来ていた。名前はカルロ、先月のバレンタインで中止派として活動していた学生の一人である。当時賛成派のロッタとは敵対関係にあったわけだが、能力者達の催してくれた打ち上げをきっかけに話をするようになり、今では普通に購買に顔を出してくれている。そしてホワイトデーを前にロッタは一冊のノートを学生に贈った。来年のバレンタインデーこそは楽しく過ごしてもらえるように今年の抱負や愚痴なんかを書いてもらえればと思ってのものである。その学生はノートを「中止派ですノート」と名付けた。多少不気味な名前ではあるが、来年は書き込まないようにという意味も込められている。そして中止派の間でそれは回され、個々人が自分の名前と一緒にそれぞれ感想を書いていく。しばしの間であったとはいえ中止派としてともに活動していた一同の中には連帯感が芽生え、現在中止派ですノートは誰の手元にあるかもわからない状況になっている。だがカルロは来年まで戻ってこなければ幸せになれるとミサンガのような願掛けをかけている。ロッタもそうなることを応援していた。
 だが数日後、カルロは何者かによって襲われ病院送りとなった。ロッタが見舞いに行くと、中止派の中でも過激派と呼ばれる者達に闇討ちされたという。
「あいつら何としてもバレンタインデー止めたいらしくて、それでどこから入手したかわからない中止派ですノートに載ってる順番に闇討ちかけてるらしい」
「そんな卑怯なのです」
「元々卑怯上等って奴らでしたからね。あまり俺の言える立場じゃないけど」
 一度は行動を共にした仲間ということもあってか、寂しそうな声でカルロは言う。だが同時に彼らも公正してもらいたいという願いもあった。
「他人事のようで悪いが、一つ頼まれてもらえないだろうか?」
「なんですかっ?」
「彼らをもう一度叩きのめしてもらえないだろうか。できればあのプロレスリングがいい。彼らが中止派ですノートに従って闇討ちするのなら、こっちも彼らに接触できると思う。金は中止派の活動資金がまだ余っていたはずだ」
「そこまで言うのならわかったのです」
 ロッタとしてもプロレスリングを作ったものの二度と使わないというのはもったいないと思っていた。そこでロッタもカルロの話に乗るのであった。
 

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
織部 ジェット(gb3834
21歳・♂・GP
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
水無月 蒼依(gb4278
13歳・♀・PN
吾妻・コウ(gb4331
19歳・♂・FC
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

 試合前日、カンパネラ学園の購買部のバックヤードで能力者達は最後の衣装合わせを行っていた。だが急用が入ったということで山崎・恵太郎(gb1902)の姿が無い。心配する能力者達であったが、依頼人でもあるロッタ・シルフス(gz0014)によると昨日のうちに衣装を渡したという。
「みなさんを驚かせたいためだとおっしゃってましたよ」
「そういうことなら仕方ないな」
 須佐 武流(ga1461)が特注コスチュームの具合を確かめながら答える。まだ上手く馴染んでいないのか、腰を捻ったり拳を突き出したりしながら感触を確かめている。
「まぁ下準備も十分やった。相手がどういう手段に出るかはわからないが、それも楽しみのひとつとしようじゃないか」
「それもそうか」
 御影 柳樹(ga3326)の意見に水無月 蒼依(gb4278)も同意する。
「楽しませてもらいますよ」
「あたしも楽しみにしてるんだから、解説役としてね」
「そういえばロッタちゃんは何をするんですか?」
 今から解説の練習をする鹿島 綾(gb4549)、その横で佐渡川はロッタに疑問をぶつけていた。
「ロッタは写真係をするのですよっ。ちょっと先の話になりますけど、卒業アルバムとかに向けて写真を撮っておこうと思うのです〜」
「卒業アルバムですか」
 バレンタイン前の依頼でポケットに入っていた板チョコの事を尋ねようとした佐渡川だったが、ふと現実的な話に口ごもる。別に学園を追い出されるわけではないが、自分のいずれ卒業の日が来る。だがまだ佐渡川は何となくその日を想像できないでいた。
「写真撮るのならかっこよく頼むぞ」
「俺はリングインの花道をよろしくな」
 リクエストを出す織部 ジェット(gb3834)と吾妻・コウ(gb4331)、ロッタはそれをメモするためにバックヤードを後にするのであった。

 第一戦は織部ジェット、ルールはテーブルマッチである。ヘビーメタルの音楽に合わせて入場する織部、ガウンを一枚だけ羽織り、相手と客を威嚇しながらスポットライトとカメラのフラッシュで眩い東の花道を突き進む。
「この試合を見たい奴は、Hell yeahと叫べ!!」
 足元には滑車付きのテーブルが一脚、それをスケボーの要領で織部は乗りこなす。そして場外でテーブルを乗り捨てると解説席に座る鹿島からマイクを奪い叫んだ。
「Eu isto Derrubo! 直訳、スマックダウンだ!!」
 その後マイクを解説席に叩きつけるようにして戻し、織部はリングイン。ロープの感触をたしかめながら相手の登場を待つ。
「ふてぶてしいとも取れる織部選手の様子ですが、解説の鹿島さんはどうみますか?」
「彼はストリート出身ですからね、ああいったスラングが普通だと聞いてるよ」
「ということは自然体と見るべきなんでしょうか」
「そうだね」
 会場には実況役としてどこかから連れて来られたアナウンサー見習いジョン・ドゥーと鹿島の声が届けられる。だがそれをかき消さんばかりに観客は熱気と興奮に包まれている。
「続きまして西の花道から過激派ラチルド選手の登場です」
 実況の叫び声とともに会場に姿を出したのは、黒マントを羽織った男だった。リングインを果たしマントを剥ぐとそこには、顔を見られたくないのか般若の面を模したマスクがあった。
「両者リングの中央へ」
 レフェリーの合図に合わせて歩み寄る両者、そしてルールの確認が行われている。
「場外に置かれたテーブルの上でスリーカウント取れば勝利、あとは目と急所への攻撃は禁止だ」
「了解」
 コーナーに戻ろうとする織部、だがラチルドが抗議の声を上げる。そんなルールは聞いていないということだった。
「テーブルマッチっていうのはなんだ、俺は聞いてないぞ。大体お前達が準備したテーブルなんだろう? 何か仕込まれているんじゃないか」
「そんなことはない」
 否定する織部だがラチルドは抵抗する。
「白々しいんだよ、おまえら。大体今回のレフェリーはおまえらが準備したんだろ? 買収したって聞いたぞ」
「していない。それにお前達が買収しないように準備しただけだ」
「そんな事信じらっかよ」
 ラチルドはそう言い放つと同時に織部目掛けてラリアットを放つ。回避不能と見た織部は同じくラリアットで迎え撃った。その段階でレフェリーは試合開始を宣言、実況のジョン・ドゥーもゴングを鳴らす。
「いきなりの試合開始となりましたが、この立ち上がりどう見ますか?」
「悪くは無いよ、見た感じ両方ともルール無用の世界で分かり合ってきたんだろうね。こんな状況でも落ち着いて見える」
「なるほど、両者上々の立ち上がりのようです。おおっとリング上ではラリアットの打ち合いが始まりました」
 実況の言うようにリングの上では織部とラチルドがラリアット合戦を繰り広げている。そして十五分もの殴り合いの末、先に倒れたのはラチルドだった。織部は倒れたラチルドをジャイアントスイングでポストに叩きつけ、続いてロープの間に挟みドロップキックで場外に叩き落す。その後鉄階段で一発殴ってからテーブルの上に叩きつけ、コーナーポストに上る。
「これはフライングボディプレスでしょうか」
「いや違うね」
 鹿島が言うと同時に飛び立った織部、繰り出す技は首へのギロチンチョップだった。だが寸前まで意識を失っていたラチルドが覚醒、それを回避する。
「やるね」
 ヒビの入ったテーブルから足を抜く織部、そしてラチルドを頭を掴み実況席へとだがラチルドはもう逃げる気力も無いらしくなされるがままにゴングに頭を叩きつけられる。そこでスリーカウントが入った。

 続いてリングに上がったのは御影、水無月のペアだった。ルールは変則チェーントルネードデスマッチ、用意された二メートルの手錠を繋いでの戦いである。そして対戦相手として出てきたのは二メートル近い巨漢と百五十も無いかのような痩躯の男性ペアであった。
「今度は戦わせてもらえるようだな」
 満面の笑みを浮かべる御影、だが水無月は初めての素手の戦闘ということで少なからず緊張を覚えていた。
「‥‥無手での戦闘は初めてです」
「任せときな」
「柳樹様、今日はよろしくお願いします」
 レスラーパンツにレスラーシューズと前回同様のプロレス衣装に身を包んだ御影、一方で水無月は花道で着ていた萌黄色の振袖を脱ぎ捨て、今は同じく萌黄色のフリフリ付のレオタードに身を包んでいる。
「相手は恐らくこちらを同じ作戦だ、小さい方が本体だろう。標的は水無月さん、恐らく君のほうだ」
「大丈夫です。いざという時のために刀を隠しております。小柄だと思って甘く見ると、思わぬ痛手を負うことを思い知らせましょう」
「僕は基本防御に徹する。よろしく頼んだ」
 作戦会議を終え、中央へと集まる御影。そして巨漢の男ビッグも手錠をかけてもらうために中央へと進む。
「先程は荒れた展開となりましたが、今回はどうなるでしょう。解説の鹿島さん」
「今のところは順調だけど、このままじゃ面白くないわね。一波乱あるべきだと見るわ」
「とおっしゃっていますが、実際のところはどうなるのでしょ‥‥おっとビッグ選手、手錠に文句をつけているようです」
 どよめく会場とはうって変わってリングの上では静まり返っていた。ただビッグが手錠を調べ、痩躯の男スモールは醜悪な顔を更に歪ませながら水無月に睨みを利かせている。
「この手錠、おかしぐねぇか?」
「どこか?」
「こっちだけ緩く作られてっぞ」
「分かった。それじゃその緩い方を君がつければいい」
 実際覚醒すれば御影には外せるようになってはいるが、言いがかりを許すつもりはなかった。そして相手の弁を封じるつもりで先に手錠をはめる。するとビッグが笑った。
「馬鹿が」
 すぐさまビッグは鎖を使い目潰しにかかる。そしてスモールはロープの反動を活かして水無月へと跳躍する。
「女が出てくる場所じゃねぇんだよ」
 仕込んでいたのか、ファングを装着し攻撃を仕掛けるスモール。だが水無月はそれを鞘で受け止めた。
「鎖も、うまく使えば行動を封じるものになりますよ」
 鞘でスモールのファングを封じつつ、水無月は刀身をビッグへと投げつける。
「剣術家というのは、剣を持たなければ何もできないと言うものではありません。剣が一番得意なだけ、なのですよ。邪魔はさせません」
 刀は途中でビッグに叩き落されるものの、一瞬鎖を締め付けていた力が弱まったのを感じた御影は覚醒。そのまま鎖を引き剥がし、逆にビッグに目隠しを仕掛ける。そしてそのままジャーマンスープレックスの要領で叩き付けた。一方水無月は刀を取りに行こうとするところをスモールに髪を掴まれ妨害される。それに激昂した水無月は、刀を御影から渡されると円閃、スマッシュ、二連撃を叩き込んだ。
「フィニッシュ行かせてもらおうか」
 倒れている過激派二人をコーナーポストまで運ぶ御影と水無月、そしてまずは水無月がスモールをつれてコーナーポストに上がるとパイルドライバーを、続いて御影がスモール目掛けてビッグとともにフランケンシュタイナーで雪崩れ込んで終了となった。

「お前達の言う鉄の結束とやらはこの程度のものか」
「まさか」
「中止派の本当の力を見せてみろ」
 第二試合まで終わったところで小休止が設けられた。そして中止派は円陣を組み、作戦会議が行われた。
「俺が花道で奇襲をかける、そこに二の矢三の矢として仕掛けるんだ。五分も時間があれば観客席に身を潜ませることができる」
「了解」
「すべては、そう!世界中の日陰者たちの希望のため!」
 やがて時間が来る。中止派は謎の選手?の中心に息を確かめ合うのだった。

 休憩後、中止派から一つの申し出が出される。東と西の花道を変えて欲しいというものだった。理由は花道に何か仕掛けたから連敗しているというものだった。だがしばらく協議の結果、花道を検査することで入れ替えまではしない、ただし入場順番を西、東にするということでまとまった。
「何かあるのか?」
「そうですね、山崎さんの姿が見当たらないことも気がかりです」
 当初吾妻、佐渡川のペアにはセコンドとして山崎がつくことになっていた。だが山崎の姿が無い以上、セコンド無しで行くしかなかった。リング上には既に中止派の選手二人とセコンドが黒と赤を基調とする仮面を被り仁王立ちしている。
「山崎さんは足りないみたいですが‥‥遅れているのかもしれませんね」
「そう信じましょうか」
 そうこう話しているうちに実況から呼び出しがかかる。
「たとえ、男性からチョコを貰って凹んでも、もいつか本当に女性から貰える日が来るまで僕はバレンタインを推進します!」
 気持ちを入れなおし花道を歩き始める吾妻と佐渡川、やがてリングが見えてくる。先に進む吾妻が勢い良く鉄階段を上るロープを潜る。続いて佐渡川も上ろうとする時だった、一陣の黒い疾風が観客席から飛び出すや否や佐渡川の後頭部目掛け低空ドロップキックを放つ。
「モロに決まってるねぇ。佐渡川選手、足にキてるよ」
「ですがまだリングにも上がってませんよ」
「あの技を入れられるとキツイんだよねぇ。こうなるともう、相手のペースかな」
「しかし乱入者からの攻撃となると判定はどうなるのでしょう?」
 実況の話を聞いているのかいないのか、鹿島はそういうと衣装を脱ぎ赤字に黒のレオタード姿となる。その間にも黒い疾風は頭を鉄階段に叩きつけられ昏倒した佐渡川に足四の字固めをかけ、膝の破壊を狙っている。
「だったら俺が成敗してやるよ」
 ちょっと待ったぁー!! と叫びつつリング傍の黒い影目掛けて延髄蹴りを狙う鹿島、間一髪で避ける疾風であったが、頭を覆っていたマントが外れる。そこに出てきた顔は先程まで遅刻が心配されていた山崎だった。
「俺のリーチとパワーを恐れぬのなら、かかってきな‥‥!」
 叫ぶ鹿島、だが山崎は佐渡川を離さない。そこにワイアーアクションで登場する一匹の鳥が舞い降りる、
袖の下に羽を模したフリルをつけた須佐である。ワイアーの勢いをそのままにコーナートップより高い位置からのミサイルキックを山崎に放った。
「最後の相手はこの俺‥‥ジェットコンドルだ! 決着を付けたければ‥‥俺に勝つことだ!」
 乱入に次ぐ乱入で観客のボルテージは一気に高まる。そこで山崎は一度リングインし、マイクを借り宣言した。
「俺たちこそ真の中止派だ!」
 膝を痛め場外に倒れる佐渡川目掛け、山崎はコーナーに隠しておいた袋を使い毒霧を噴出。そこで視界を奪われた佐渡川は治療に専念するためにセコンドに回り、代わりに鹿島と須佐、そして吾妻がリングに上がることになった。
「俺のリーチとパワーを恐れぬのなら、かかってきな‥‥!」
 ゴングと同時に飛び出したのは鹿島、先程同様延髄蹴りを過激派一番手山崎に放つ。
「隙が大きいな」
 最小限の動きで回避する山崎、だが不発から立ち上がった鹿島はそのまま連続でコーナーに控えていた過激派二人目掛けてドロップキックをぶつける。その間に須佐と吾妻もロープを潜り山崎の両手を捕まえる。
「悲愴の仮面(マスク・オブ・パセティック)再び貴方達に正義の裁きをくだします」
 須佐と吾妻は山崎を捕まえたまま鹿島へと突撃、そして鹿島は顔面目掛けてタイミングを見計らいつつ拳を繰り出す。
「もらった」
「まだ甘い」
 山崎は鹿島の拳を回避、勢いをロープにぶつけ背後からスワン型ドロップキックで鹿島を狙う。だが須佐がギロチンチョップ気味のレッグラリアットでそれを阻止する。
「決まったな」
 そのまま須佐がフォールに入ろうとするが、さきほど場外に飛ばされていた過激派二名が無事復帰しそれを阻止。すぐさま吾妻が過激派二名を再び場外へと叩き出し、鹿島はその間にトップロープに上り場外の過激派二名へとムーンサルトプレスで昏倒させる。そして須佐はフォール崩れの山崎を背後から抱え、スパーダージャーマンからバックブリーカーへの移項でスリーカウントをもぎ取った。

「仲間が悪かった」
 試合後山崎は罰の悪そうな顔で言う。だが慰める様に御影は山崎にチョコレートを渡した。
「漢からの友情チョコだ。これなら受け取ってもらえるな」
 しばらく考えた上で山崎はそれを貰う。
「過激派の控え室にも贈り物してあると聞きましたが届いたでしょうか」
 贈り物の中身を知らないのか笑顔で言う水無月、だが彼女がその時過激派の控え室に送られたのは治療役の佐渡川と再発できないようスプレーでup yours You Suck(ヘナチョコ野郎)と落書きに行った織部だったことを知ることは無かった。