タイトル:遺体引渡しマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/02 00:34

●オープニング本文


「唯一の肉親なんだろう? 俺の顔を立てると思って一つ頼む」
「肉親だから嫌なのよ。まぁ分かったわ、久しぶりにあなたには会いたいからね」
 西暦二千九年二月、カンパネラ学園で遺体引渡しの話がまとまった。渡される遺体はエカテリーナ女史、恋愛が成就するという伝説の樹の調査のために招かれた樹医だった。だが調査を半ばにして生徒の手により殺害、犯人は捕まったものの背後には何らかの組織の影があり、事件は完全に解決とは言えない状態ではある。だが遺体を保存にするにも限界があるということで親族であり、カンパネラ学園教師である南条・リックの元同僚アチアナという女性に引き渡すこととなった。
 問題はこのアチアナが軍人であり、自分の家族だけ丁重に扱われる事を嫌った点だった。野晒し状態で放置されている死体があるにもかかわらず、自分の親類だけ葬儀を行うことに軍人として抵抗があったということだった。だが事件関係者である美景、深郷田の立っての願いということもあり南条が間に立ち交渉、その結果アチアナが折れることとなった。
「でもKVの腕には自信ないわよ。私サイエンティストだし」
「別に問題ないだろう。戦闘するわけじゃないんだからな」
 だが数日後、引渡し前日にアチアナから緊急の通信が入る。途中でヘルメットワームと遭遇しエンジン付近に被弾、敵を撒けないという連絡だった。至急南条は援軍を手配、救援に向かうことにした。

●参加者一覧

クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
ニア・ブロッサム(gb3555
20歳・♀・SN
水無月 神楽(gb4304
22歳・♀・FC
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

 その日は朝から天気が良かった。雲ひとつ無いとまではいわないものの太陽の光を遮るものは無く、眩しいばかりに輝いている。風が多少吹いているものの強いというほどではなく、髪がなびく程度だった。日が傾き夕方になった今でも晴天が続き、ラスト・ホープにあるカンパネラ学園でも授業を終えた生徒達が夕焼けを満喫するように部活に精を出している。
 だがその一方で、同学園教師であり今回の依頼人でもある南条は沈んでいる。依頼を受けた能力者達の前ということで笑顔を見せているが、目を下にある隈は隠しようも無かった。
「作戦は基本的に君達に任せる。KVに関しては君達の方が詳しいと思うからな」
 南条は能力者達を寮の自室である監督室へと呼んでいた。作戦会議などをするためでは無い、現に作戦を話し合うために必要な地図やホワイトボードの類は一切無い。代わりに置かれていたのは灰皿三杯分に渡る煙草の吸殻の山だった。そんな人を集めるべき場所ではない所にわざわざ南条が能力者達を集めた理由は、一つ断りを入れるためである。
「俺がこうして前もって言うのも何だが、アチアナの言動は大目に見てやって欲しい」
「どういう意味です?」
 カルマ・シュタット(ga6302)が尋ねる。今回南条とは初対面であるためか、釘を刺す彼の言葉が表面上以外にも何かあるように聞こえていた。
「彼女、元軍人でプライドが高くてね。多分今自分の不甲斐無さに怒っているんだと思うわけだ」
「成る程な」
「つまりアチアナ殿に余計な刺激を与えないで欲しいという解釈でいいでしょうか?」
「それで構わない」
 クラーク・エアハルト(ga4961)が確認すると、南条は申し訳なさそうに小さく頷いた。
「俺はあいにく能力者じゃない。戦闘の仕方や陣の組み方、心構えなんかは教えられるが、効率の良い最新武器の使い方やKVの扱い方には疎い。任務が成功してくれれば方法は問わない」
「安心してください、南条さん」
 水無月 神楽(gb4304)が男性らしく落ち着いた様子で声をかける。
「僕達がタチアナさんをここまで案内しますから」
「アーちゃん一人でやれって言われれば無理だけど、みんながいるから大丈夫だよ。大船に乗ったつもりでいてね」
 アーク・ウイング(gb4432)も水無月に合わせて力強く答える。
「ひとまず南条さんもお休みください。そのご様子ではろくに睡眠もとっていないのでしょう」
「それと何か食べた方がいいですよ」
 部屋を出ながらそれぞれ挨拶をしていく能力者達、最後になった乾 幸香(ga8460)が南条に小さく手を振って扉を閉めたのだった。

「助かるのか、あれ」
「助かるかどうかじゃない、助けるんだ」
 寮監督室を退室して数時間後、能力者達はすでにそれぞれのKVに乗り空を飛んでいた。既に今回の救助対象であるアチアナの機体は発見、護衛班であるロゼア・ヴァラナウト(gb1055)、ニア・ブロッサム(gb3555)の二人が左右を固めて敵が近づかないように警戒している。だがそれ以上に問題だったのはアチアナの方だった。彼女の機体が煙を上げているからである。
「大丈夫ですか、アチアナさん」
「‥‥誰?」
「ロゼア・ヴァラナウトといいます。カンパネラ学園の南条さんからの依頼で護衛に来ました」
「同じくニア・ブロッサム、受けた依頼はきっちりこなさせてもらうわ」
 ロゼア、ニアの二人はアチアナの元まで駆け寄り、通信で現状を確認に努める。既に彼女の機体は姿勢制御を失い、直進をしていないからである。最悪アチアナが気を失っていることも考えたロゼアとニアであったが、幸い通信に応答があったことに一安心する。だが前もって南条から予想されていた通り、虫の居所はあまりよくない様子だった。
「助かったわ、よろしく」
「‥‥はい」
「バグアからは私達が守りますから、機体制御をよろしくお願いします」
「オッケー、信じるわよ」
 被弾するような腕前の持ち主を信じていいのか、一瞬そう考えたロゼアとニアの両名。だが元軍人というのは確からしく、多少左右に揺れながらも一応ラスト・ホープに向かっている。
「ちょっと挙動おかしいから接触だけは大目に見てね」
「分かりました。こちらも気をつけます」
「アチアナさんも操縦お願いしますね」
「任せなさい」
 何となくアチアナとの付き合い方を見出したのだろう、多少余裕をもってロゼアとニアは答える。そこに狙い済ましたようにヘルメットワームが攻撃を仕掛けてくるが、三機とも華麗に回避。それぞれAAMとホーミングミサイルで反撃を試みる。
「多少の攻撃は庇えますけど、主砲だけは回避をお願いします」
「さすがにあれは私達も直撃受けるわけにはいきませんから」
「私は喰らったけどね」
「‥‥すみません」
 一瞬怒られるかと身構えたロゼアだったが、アチアナは何も言わない。代わりに宜しくと言われるだけだった。

「弱い者苛めをする人は嫌いです!」
「ウシンディ、PRMシステム起動。中てるぞ」
「タリホー‥‥。回りこんで援護します」
 足止めに回るのはカルマ、乾、水無月の三名。そして三人を援護する形でクラーク、依神 隼瀬(gb2747)、アークの三人が回る。
「左右にキューブワームが各三、A班はこちらの撃破を優先する」
「了解」
 周辺空域を確認するクラーク、一番の懸念材料はファームライドであったが、それらしき姿は無い。実際自分の中でも最悪の状況だと位置づけていた分だけあった。
「実際ファームライドは出てこないでしょう。乗り手いないし」
「それにラスト・ホープの場所が仮に分かったとしても、単騎で突撃は考え辛い」
「まぁ最悪の場合って奴ですよ」
 自嘲気味に笑うクラーク、実際笑う余裕があった。自体が思ったほど状況が深刻ではないことが理由の一つだった。ファームライドが出ると予想していたのに出てきたのが少数のキューブワームとヘルメットワームが数機、一機で相手にするにはともかく六人でなら十分対応できる範囲だった。
「それにしても」
 アークが言う。
「軍人さんと聞いてた割には、KVに慣れてないのですね」
「さっきの南条さんみたいな人もいるからね」
 アチアナの機体を見る能力者達、確かに煙を上げておりどこか損傷しているのであろうが、それにしてもあまり動きではない。
「着陸が心配だな」
「その時はサポートすればいいじゃないですか」
「それはそうなんですけどね」
 クラークが気になっていたのは、先程のアチアナの機体が先程ヘルメットワームの攻撃を避けたことである。確かに普通なら十分避けられる攻撃だっただろう、現にロゼアもニアも避けている。だが煙を上げているKVにあそこまで機敏な動きができるのかという疑問がクラークにはあった。
「何か気になることあるみたいだけど、まずは目の前の敵を何とかするべきじゃないかな?」
「そうですね、すみません」
 依神の指摘するようにB班のカルマ、乾、水無月はヘルメットワームと対峙している。そしてキューブワームもまだ残っていた。
「増援が来る前に終わらせましょう」
 A班が動き出したのを確認して乾が声をかける。
「あまりアチアナさんの余裕ないみたいですし。試作型対バグアロックオンキャンセラーにも限界がありますから」
「こちらとしてもそうしてもらえると助かります」
 苦笑交じりに水無月も言う。
「了解だよーアチアナさんも宜しくね」
 R−P1マシンガンへと兵装を持ち帰るアーク、そして手早くキューブワームを倒しヘルメットワームとアチアナ機の間に入り込む依神。虚を突かれたのか怯むヘルメットワーム、そこにPRMを発動させたカルマのシュテルン「ウシンディ」の高分子レーザーを当てる。続くように飛び込む乾とアーク、そして水無月は残るもう一機のヘルメットワームの撹乱に入る。
「今のうちに脱出を図ります」
「それがいいみたいね」
「先に行くから、後続を頼むわね」
 最後の手土産とばかりにロケット弾ランチャーを撒き散らすニア、そしてロゼアはアチアナとともに空域からの脱出を図る。それに続くように残る六人はそれを確認して退却を開始、追いかけてこないか、増援が来ていないかとレーダーを確認しつつの移動だったが敵影は無い。やっと能力者達が一息つけたのは、既に夜半過ぎのラスト・ホープに到着した後だった。
  
「へぇ女性だったとはね」
「僕は女性ですよ。間違われるのにはもう慣れてしまっていますから気にしないで下さい」
「傭兵には女も多いって聞いてたけど、こうして会ってみると不思議なものね」
「軍は違うのです?」
「一応女もいるけど、女らしくしてると舐められるからね。どこか男勝りなのが多いわよ」
 カンパネラ学園まで向かう道中、能力者達はアチアナとコーヒーの美味しい入れ方や依神と水無月の性別の話を楽しんでいた。やがて南条の待つ寮の灯りが見えてくる。それは同時に別れの時だった。
「次回は美味しい珈琲を入れさせてもらいますよ」
「戦場以外で会う事があればお願いするわ」
 クラークには依頼の他に一つ、調べてみたいことがあった。アチアナの乗って来た機体についてである。煙を出していたにも関わらず時折見せる反応速度の速さ、そしてスムーズは着陸はただ操縦が上手いというだけでは何となく説明できないものがあったからである。
「南条先生は多分寝てると思うけど、起きてたら寝るように言っておいて下さいね」
「あと煙草を吸いすぎないようにと。それに掃除もした方がいいかと思いました」
「その様子だと、リックは相変わらずなのね。了解、伝えとく」
 口々に挨拶を済ませ、能力者達はアチアナを見送る。そしてクラークが今回の一件がアチアナの自演であることを知ったのはこの数時間後だった。

「久しぶりだな、アチアナ。元気だったか」
「元気だったかじゃないでしょ、こんな所まで呼び出して」
「そういうな。こんな時にしか会えないんだから」
 その後、アチアナは能力者達に案内されたように寮監督室へと向かう。電気がついていたのでノックしてみると、予想通りというべきか南条は眠らずに起きて煙草を吸っていた。
「あまり再会を喜んでいるようには見えないけど?」
「そうだな、半信半疑だった」
 南条は答える。
「お前は自分の信念をまず第一に考える。ジーンが死んだ時もお前だけは涙を流さなかったからな」
「戦っているんだもの。向こうに死者が出てるのなら、こちらにも死者はでる。違いは量だけよ」
「だが今日は助かった、違うか?」
「違うわね」
 アチアナは懐から黒光りをする物を取り出す。それを銃だと理解するまで、南条はしらばくの時間を要した。
「アタシはあなたをおびき出すために事故を演じたの。にも関わらず余計なことをしてくれたわね」
 部屋に銃声が響く。南条は声一つあげずに倒れる。アチアナは足早に学園を後にしたのだった。