タイトル:ソナー試作機墜落マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/25 09:35

●オープニング本文


 西暦二千九年二月、グリーンランド某所にコバルト=ブルーと愉快な仲間達(約二名)は到着していた。ソナーによる索敵試作機、コードネーム「ブラックバット」の実験のためである。物騒な名前をつけられた機体ではあるが、実際は耐久に優れた汎用機S−01を研究所で改良し、それにコバルトお手製の超音波発生器と解析機、そしてソナーと送信機、パラシュートを取り付けた小型集音機放出装置をつけただけである。集音機を放出後に本体が超音波を発生、集音機が受け取った結果を本体に送信し、本体で解析するという仕組みである。水中用にするために集音機にはパラシュートの代わりにスクリューに換装できるように検討されている。そして今回の目標は集音機の飛距離増加であった。
 集音機の集音性能は約五百メートル先から発せられた音波を拾うことが可能であったが、発射装置の性能が足りず、二百メートル程しか飛ばせないからである。理由は
敵を正確に観測するためには三つの集音機を発射する必要があったからである。そこで今回は発射装置を改良し、実際に実験することとなったのであった。
「でもこんな所まで来る必要あったんです? 俺、わざわざ寮の引越しまでやったんですけど」
「学園じゃこんな広い場所ないでしょ」
「何当たり前の聞いているのかね、ボブっち」
「ボブっちはやめろ、ボブっちは」
 愉快な仲間達一号であるボブ(通称クラブエース)は今回テストパイロットとしてグリーンランドに動向、一方二号であるカインは楽しそうだからという理由でついてきている。
「それで問題のブラックバットは?」
「外においてあるわ。一通り整備確認して早速始めるわよ」
 実験場所としてコバルトはグリーンランドの中でもバグアの出ない地域にある小屋を買収、整備して滑走路もつけてある。だが代わりに周囲に民家はなく、交通の便は悪かった。周囲にあるのは雪と氷の世界、所々生える針葉樹の木々が目に安らぎを与えている。だが何も無いからこそ実験には向いているとも言えた。

 そして小一時間後、ボブはブラックバットに乗り空へと飛び立つ。今まで何度か飛んでいるためか離陸までは問題が無い。だが実験開始直後、急に機体がバランスを失う。
「どうした?」
「発射装置が‥‥開かない」
 通信越しにも乱暴にレバーを動かす音が聞こえる。だが一向に開いた様子は無い。
「まずは落ち着いて。発射装置の部分が凍結していた可能性もあるのだから」
「それはない、飛ぶ前に確認はした」
 言葉は落ち着いているが、声は少なからず苛立っている。目で見ても高度が落ちているのがはっきりとわかった。
「ボブ、まずは姿勢制御に集中して。発射装置の誤作動は後で調べればいいんだから」
「‥‥だな」
 発射装置の操作を諦め、KV操作に専念しようとするボブ。だがその時眼前に見えたのは、巨大な灰色のオオワシだった。
「危ない」
 ボブは不意に操舵悍を倒す。それに伴いKVは怪しい挙動を起こしながら、白い大地に吸い込まれていく。
「ボブー!!」
 走り出すカイン、だがコバルトはその前にULTに連絡を取り捜索依頼を出すのだった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
白岩 椛(gb3059
13歳・♀・EP
ロレンタ(gb3412
20歳・♀・ST
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

「呑気‥‥とは言えないか」
「二次遭難は話になりませんから」
 依頼初日の早朝、グリーンランドへと赴いた能力者達が初めて見たのは、小屋の雪下ろしをやっている依頼人コバルトと遭難者ボブの彼女であるカインの姿であった。そんなことをやっている暇があるのか、そんな思いを感じた者もいた。だが帰ってくる場所を確保しておくのも重要だと二人は自分に言い聞かせたということだった。
「昨日雪が降ってね。私も始めは新雪は柔らかいっていうイメージがあったんだけど、油断してると小屋潰れるっていう話でね」
 シャベルを雪に突き立てて答えるコバルト、額には汗が浮かんでいる。そこで依神 隼瀬(gb2747)が袖をまくり、一歩進み出る。
「男手必要だろ、手伝うぜ」
「自分も手伝うよ。道具とかまだ余ってる?」
 続いてアーク・ウイング(gb4432)が手伝いを申し出た。
「一応人数分ありますよ。今回の依頼にも使うかもと思ったので人数分揃えてあります」
「気遣い感謝する。どこに置いてある?」
「保温庫の隣、場所分かる?」
「それなら分かる」
 UNKNOWN(ga4276)はそう答えると、煙草を携帯灰皿に収めおもむろに小屋の中に入っていく。背後からアンジェラ・ディック(gb3967)が自前のスコップがあることを告げるとうUNKNOWNは軽く片手を上げた。そして数分後には参加者全員による雪下ろしが始まり、昼前には無事終了するのであった。
 
「それじゃ俺達は周囲探索で」
「では自分はフライトプランから落下予測地点を割り出しましょう」
 午前中に一作業を終えた能力者達は昼食を挟みつつ、今後の行動方針について話し合っていた。
「定時連絡は三時間おき、お互いの捜索場所をそのとき確認すること」
「了解です。今後の天気予報はどうします?」
「しばらくは安定するだろうが、局地的なものは不明。雪崩に注意という事だった」
「雪崩ね。起こるとちょっとやっかいですね」
 打ち合わせの結果、UNKNOWN、ロジャー・ハイマン(ga7073)、白岩 椛(gb3059)、アークの四名をA班といて周囲の探索、残るヨネモトタケシ(gb0843)、依神、ロレンタ(gb3412)、アンジェラの四名がB班として可能性の高い所を探し出してからの捜索に入ることになった。
「通信機が故障した場合のことも考えておいた方がいいかもしれませんね」
「確かにそうか、何か撒いておくか?」
「撒くとしても携帯食料くらいしかありませんが」
「それは最後の手段にした方がよくないかな? 二次災害の可能性が出てくるし」
「目印を何か考えておいた方がいいかもしれないな」
 念のため通ったところは手近な木の枝の先を折るということで話はまとまる。そしてソリやロープ、テントといった荷物を再度確認し、A班は一足先に小屋をあとにした。

「しくじりました」
 その日の夜、テントで夕食をとっているところでロジャーはフォークを止め、そんな言葉を口にした。
「何か臭いのするものでも預かってくれば良かったですね」
「ロジャーさん、犬なのですか?」
「いや、そこまでは鼻は利きませんよ」
 白岩の質問にロジャーは照れくさそうに頭をかきながら答える。
「別に俺が犬というわけじゃ無いですが、この雪の中では一つの目印にはなると思いますので
「確かに鼻にも頼りたいところではあるけどね」
 一日グリーンランドの雪原を歩き回った四名だが、長時間白の単色を見続けていたせいで軽い疲労を覚えていた。今は闇に覆われているため多少回復しているが、それでも目だけに頼るのに限界を覚えつつあった。
「でも無理なんじゃないかな?」
 寒冷地であるグリーンランドの気温のせいか、鼻水も凍り、臭いの嗅ぎ分けも難しいというのがアークの感想だった。そこで現在コバルトから渡された唐辛子をかじりながら能力者達は体温維持と感覚回復を努めていた。だがロジャーはそれ以外にも気になることがあった。。
「それもあるんですが、気になったのはハイエナみたいな動物がいたら困るなと思ったもので」
「死肉を喰らうというあれですか?」
「実際には見たことないですけどね。他にもカラスや狼もいますから」
 そう言葉を挟みながらも、ロジャーは顔をしかめていた。
「何か群がっているところは注意ということ?」
「そうなる前に探してあげたいですけどね」
「運がいいのか悪いのか一面は雪です。きっと見つけられるでしょう」
「‥‥」
 白岩は一つ別の考えにとらわれながらも、口には出さなかった。ロジャーの言うことは真実だろう、だが同時にそれは最悪の状況を考えているということだからである。確かに状況を冷静に考えればあまりいいという方ではないだろう。だが救助に向かう手前、無事でいて欲しいというのが本心だった。
「大丈夫です?」
 無口になったことを気にしたのか、アークが声をかける。
「飲むます? 雪解け水を溶かしただけのものだけど、温まりますよ」
「ありがとう」
 余計な心配をかけたくないのか、あるいは気を使わせてしまったことを後悔したのか白岩は出されたコップを受け取り少しずつ口に運ぶ。だがそれを遮るように定時連絡のため外に出ていたUNKNOWNが戻ってくる。ロジャーはお湯を差し出しつつ、連絡した結果を尋ねてみた。
「B班の状況はどうでした?」
「飛行経路だった西側を中心に捜索中らしい、だが現在進展無し。昨日の雪に埋もれた可能性も視野に入れて明日の朝捜索再開ということだ」
「雪の下ですか、道具は借りてきましたが捜索が難航しそうですね」
「だけど探さないわけにはいかないでしょう」
「ですね」
 とはいえ既に夜は更けかけている。見張りを立てつつA班の四名は眠りについたのだった。

 そして翌日、先に活動を開始したのはB班だった。コバルトから借りてきた地図を広げ、今日の捜索範囲の再確認を行っている。
「今日の目標はこの先に崖、そこまでを範囲として捜索に入りましょう」
「了解。だが崖を越えていない確証は無かったと思うが」
「それはそうですが、探し漏れをしていてはかえって致命的になりかねません」
「そうだな。一通りスタッドレスにタイヤを変えたAUKVで回ってきたが、見落としがないと言い切れないからな」
 B班の面々が思い出していたのは今朝の雪下ろしの事だった。昨日降ったという雪、
途中からの参加であったためはっきりとしたことはわからないが、それほど深く積もったという様子は無い。少なくともKVがそのまま埋もれるほどの雪ではないと判断していた。
「A班からの連絡は?」
「あちらも進展なしということらしいです。一応雪の事も伝えておきましたので、何か気になるものがあれば掘り起こしてくれるでしょう」
「せめて足跡でもあればいいのにな」
 一昨日のの雪以降天気は安定している。誰かが歩いていれば足跡は残るはずだった。実際今までにトナカイや鳥、昆虫類の跡はいくつか発見している。だが人の足跡はまだ発見することはできなかった。
「まだ私達の捜査していない場所にいる。そう信じよう」
 依頼期限までにはまだ時間はある。探し漏れが無いように注意しながらもB班も活動を再開した。

 始めに異変を感じたのはB班だった。雪面に明らかに人間の靴跡と思われるを発見したのである。ただ同時に問題は一つ、発見した足跡の大きさが一つではないということである。
「行き来している足跡があるのはいいとして、この足跡は何でしょう?」
「コバルトさんとカインさんのものか?」
 依神が答える。実際能力者達がグリーンランドに到着するまでの間二人も捜索に出ているという話は聞いている。だがその考えをロレンタは否定した。
「雪が降ったのは一昨日の朝、それ以前の足跡が残っている可能性はおそらく無い。かつ昨日二人がここを捜索したという話も聞いてはいない」
「ということはA班の面々でしょうか。何か聞いていますか、ヨネモト殿」
「いや聞いてませんね。付近に先の折れた木の枝も見つかりませんし、遭難したという話も聞いていません。念のため連絡を取ってみましょう」
「お願いする」
 すぐに通信機を取り出すヨネモト。他の面々も緊張した面持ちで彼の反応を見ていたが、
淡々とした受け答えからA班の答えは推測できていた。
 やがて通信を切るヨネモト。誰も返答を促したりはしなかったが、ヨネモトは念のため答えた。
「こちらの場所を正確に伝える目印のようなものがないため判断が難しいですが、おそらく通っていないようです」
 A班の面々はここより北側を中心に捜索しているということだった。そこに何らかの黒い群れを発見、周囲を警戒しつつそちらに向かっているらしい。
「‥‥とりあえずこの足跡、追ってみます?」
 重い沈黙に耐え切れなくなったように、誰とも無くアンジェラは思い浮かんだことを口にする。
「だな。放っておくわけにもいいかないだろう」
「ですね」
 アンジェラの言葉に背中を押されたのか、A班の面々は二種類の足跡を追跡し始めることにした。
  
 その後数日、両班とも捜査は難航した。原因は晴天が続いたため、雪が脆くなってきたからである。崖の手前を捜索していたB班は特に雪崩に巻き込まれないよう注意をする必要があった。だがそれを邪魔するように北の方から銃の轟音が響く、そして呼応するかのように雪が徐々に滑り始めた。
「拙い」
 依神はバイクのエンジンを一気に噴かせ崖から離れる。だが繋いでおいたソリがAUKVの重荷となっていた。
「仕方ない」
 アンジェラはアサルトライフルを構える。目標はAUKVとソリを繋いでいるロープだった。
「動くなよ。保障できないからな」
「無茶言うなよ」
 そうは言うものの、依神としては両手をバイクの制御に使っている以上抵抗は出来ない。そしてもう一方のロープの方にはヨネモトが走りこんでいた。
「‥‥当たるさ」
 自分に言い聞かされるように呟き、アンジェラは銃を放った。そして遅れるように瓦解する地面、依神はそれを後輪の浮いたAUKVに冷や汗を流していた。
「何とかなったか?」
「何とか、だな」
 苦笑する四名、そして溜飲を下げるように崖の下を眺める。すると雪の中に埋もれるようにボブらしき人も見つけるのであった。

 雪崩の起こる少し前、A班の面々は頭を痛めていた。北部に黒い塊を発見し向かっていた一行だったが、そこでKVを発見。だがそれを守るようにオオワシがKVの上に乗っていた。
「何のつもりなのかな」
「‥‥恐らくだが子供か何かだと思っているんでしょうね」
 ロジャーはワシの足元に視線を向けて言う。そこにはワシが運んできたのであろう餌が積もっていた。
「そういえばボブさんはオオワシとの激突を避けようとして墜落したんでしたね」
「これがそのオオワシということか?」
 自嘲気味に笑うUNKNOWN、そして空に向かって一発空砲を鳴らす。
「これで逃げればただの気まぐれかとも思ったが、どうやら違うようだな」
「ですね」
 空砲が響いても、ワシは頑として動かなかった。戦闘機形態をしたS−01の翼の上に仁王立ちしているかのように、微動だにしない。それをA班の面々はどこか嬉しくも思いつつ、そしてどうしようかと思索をあぐねていた。
「とりあえずB班にも連絡を取ってみます?」
「ちょうど定時連絡の時間か、そうしよう」
 通信を飛ばしてみると、B班の面々がボブを発見。現在小屋へと戻るところだという。そこでサイエンティストであるロレンタに来てもらえるように要請したのだった。

 その日の夜、能力者達は小屋で最後の夜を過ごした。ボブは看病を希望したとともにカインと近くの病院へと搬送され、現在安静中。そしてコバルトは受け取った部品を眺めながら、先程A班が体験した話に耳を傾けていた。
「KVが鳥に好かれるとは意外だったわね」
「信じられませんか?」
「始めはね。でも色々調べたら細部に糞や餌が詰まってた。信じないわけにはいかないでしょ」
「実際俺も自分の目を疑いましたからね」
 ブラックバットは細かい損傷はあったものの短時間なら飛行可能、それがアークとロレンタの見解だった。ただしオオワシがいる以上それほど詳しい調査ができるわけでもない。やってみなければ分からないというのが本音であった。そこでUNKNOWNがオオワシをギリギリのところで銃を撃ち威嚇、襲ってくるのと同時に白岩がブラックバットに乗り込み強行出発したということだった。
「威嚇とはいえ、オオワシに銃を向けるのは怖かったよ」
「あれが母親というものなのかもしれませんね。いつもの盾じゃなかった分不安でしたが、無事双方無傷で良かったですよ」
 冗談紛いに言うUNKNOWNとロジャー。そして小屋はその夜、しばらく遠ざかっていた笑いの声に包まれたのであった。