タイトル:【VD】拳で愛を語れマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/23 07:37

●オープニング本文


「またお世話になります」
「今度は気をつけてな」
 西暦二千九年二月、カンパネラ学園学生寮の一つ、通称からくり屋敷の寮監督室に二人の男子学生が訪れていた。前寮監督の人体実験の実験体にされそうになったエドワース兄弟である。先日まで入院を余儀なくされていたが、ようやく退院。そして現寮監督である南条・リックに退院報告と挨拶にきているところであった。
「そういえばハーディン先生はまだ?」
「まだ捕まっていない、だが逃げたという話も無い。地下で生活中らしい」
 正直親バグア派と思われる人間が地下に潜む中で、枕を高くして眠れるほど兄弟の度胸は据わっていない。だが今はそれと同じレベルの懸念事項が二人にはあった。
「‥‥ところでロッタちゃんは?」
「ちょっとそれで問題が起こってな」
 南条は先程まで眺めていた紙を二人に渡した。そこにはロッタから寄せられた苦情が書かれている。
「聖那が十四日を休校、課題としてバレンタインに関わる事をあげたせいでな。勘違いした奴が出てきたらしい」
 渡された用紙を確認する兄弟、そこには購買の前にバリケード作成やチョコレート購入者に毒が入っているなど噂し風評被害が出ているという。
「これはひどい」
「ロッタちゃん可愛そう」
「だな」
 南条も実際バレンタインというものに縁は無い。三十路へのカウントダウンは始まっているが妻も子も恋人もいない。だが姑息な方法を使ってまで中止にする気にはなれなかった。
「でもどうするんですか、これ」
「殴り合いしてもらおうかと思う。それが一番手っ取り早いしな」
 こうして拳で愛を語る殴り合いが開催されることになった。

●参加者一覧

御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
Dr.Q(ga4475
100歳・♂・ER
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
エミル・アティット(gb3948
21歳・♀・PN
吾妻・コウ(gb4331
19歳・♂・FC
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC

●リプレイ本文

 メインイベントとなる殴り合いの数日前、カンパネラ学園購買部バックヤードには今回依頼を受けた能力者達は集まっていた。作戦会議もさることながら、会場や備品、スケジュール等の確認を行うためである。
「マイクの準備はできているだろうか?」
「わしはマスクの出来上がりが気になるところじゃ」
「金網デスマッチ用の金網は大丈夫ですか?」
 今回の依頼、参加者達の総意により戦いはプロレス方式となった。対戦相手である中止派にも了承をもらい、今はリングを始め会場設営などの本格的な準備に入っていた。
「マイクは準備できてますよ〜、金網はもうちょっと待ってくださいねっ。あとマスクの出来は確認をお願いするのです」
 今回の依頼がプロレス形式になることは、依頼人であるロッタ・シルフス(gz0014)にも予想外のことだった。そのため当初は学園の演習場を借りて済ませようと考えていたロッタはリング設営やらコスチューム準備等で多忙を極めている。当然その分だけ出費がかさむ訳だが、その分はどこかスポンサーをつけることで賄うつもりでいた。
「どれどれ」
 マスクの出来を確認するのはDr.Q(ga4475)。歌舞伎模様という彼の注文に対し商品は白地に赤の隈取り、頭部には日本人らしい漆黒の髪のカツラがつけられている。
「作ってもらった人の話だと、ある程度頬とかに脂肪がないと全体的な形が整わないのだそうですっ。マスクの内側に魚の浮き袋みたいな感じで袋入っていますから、使うときは調整してくださいということでした〜」
「了解じゃ」
「それとリングの設営はロッタも専門外なので業者の人にお願いすることにしましたっ。音響関係もお願いしているんで、マイクとかも大丈夫だと思いますよ〜」
「期待してるぜ。マイクパフォーマンスもすでに考えてきてるからな」
「私も今から血が騒いでいます」
 早速装着しようとするDr.Q、その一方で御影 柳樹(ga3326)、辰巳 空(ga4698)の二人がロッタの言葉に淡々と答えていた。表面上は落ち着いているものの表情には自信を見せている。むしろ楽しんでいるようにさえ見えていた。
「一応会場貸し切っての非公開練習の時間も設けたいと思っているので、そこで試しちゃってくださいねっ」
「了解だ」
「それじゃ下見もできるわけね」 
 非公開練習という言葉に敏感な反応を見せたのは樋口 舞奈(gb4568)だった。彼女の両隣には火絵 楓(gb0095)、大槻 大慈(gb2013)が控えている。三人は今回三対三のチームタッグマッチに参戦予定、現在はどのように戦うかの作戦会議を行っているところだった。
「ついてに対戦相手とかも教えて。あたしは女の子と戦うから、二人は他を宜しく」
「俺は別にそれでも構わないけど、相手に女の子いるのか?」
「そう言われるといない気がするね」
「始める前から絶望するようなこと言わないでよ‥‥で、どうなのロッタちゃん」
「こっちから作戦形式を提案したんで、それに合わせて今から布陣を決めるということですよ〜」
「何か卑怯な感じがしますけど、あまり言えませんね」
 口を尖らせて不満を漏らす樋口、だが一方で火絵はかすかに希望の色を見せている。
「ということはまだ女の子がいる可能性あるわけよね」
「そんなに女の子と戦いたい?」
「そりゃもちろん。チョコもらいたくて悪評流すような男よりは女の子と戦いたいじゃない?」
「だよね。だいたいチョコレートに罪はないよね! 悪評を流したことをチョコに謝ってもらいたいよ!」
「チョコレートに謝っても仕方ないと思うけど」
「真顔で答えられると舞奈の方が困るでしょ。でもちょっと探ろうとは思っているけどね」
 意気投合する火絵と樋口であったが、大槻は冷めたような冷静な目で二人を見ていた。特に大槻が気にしていたのは中止派がまだ参加者を発表していないことである。だが今考えても何か対策が浮かぶわけではない。更には二対二で組む予定となっているエミル・アティット(gb3948)、吾妻・コウ(gb4331)の二人は既に戦闘後の話までも始めていた。
「敗者にはやっぱり罰ゲームだよな」
「それは大いに同意ですね。無作法ものには退場してもらいませんと風紀が乱れます」
「それでちょっと考えがあるんだ。苦いビターチョコを喰わせるってどうだ? チョコに笑うものチョコに鳴くってやつだぜ」
「それはなかなか良いアイディア、早速準備にかかりませんと。僕の方にも一つ考えがありますし」
「面白い考えなのか?」
「面白いというものじゃありませんが、最後に晩餐をやろうと思っているのです。昨日の友は今日の敵と言いますからね」
「拳で語り合うってわけだな、そのあたりもロッタちゃんに準備頼んどくか」
 会場の下見ができるのかという話を火絵、大槻、樋口としているロッタにエミルは話しかける。
「かくかくしかじかという理由でイベントの後に向こうとも打ち上げをやれないかと思うんだが、頼めるか?」
「えっと、まずそのかくかくしかじかっていうのを説明して欲しいのです〜」
「難しいことは吾妻に任せた」
「ここで僕に振りますか? まぁいいですけど」
 薄く苦笑を浮かべながらも説明する吾妻、加えて手持ちのポタージュとチョコブラウニーを提供していいことを伝える。
「向こうの気持ちが全く分からなくもないからね。相手もバグアじゃないのだから話せば分かると思うんだ」
「それはいい考えじゃ」
 納得したのはDr.Qだった。
「昔から同じ釜の飯を食った人間とは友情が芽生えるという話があってだな。一つ屋根の下でお互い苦労しつつも何かしらを成し遂げ時間を供給する者達の間には、簡単には崩れない強い結びつきを得られるというものだ。わしが若い頃は実にそうだった。戦後はろくに食料も無かったからのぅ、握り飯一つさえも分け合っていたものじゃ‥‥」
 Dr.Qの長話が続く。途中に掛かってきた電話でロッタは退室、その後彼女が戻ってきて購買が閉められるまでDr.Qの昔話が行われるのであった。

 中止派から試合相手や中止派から出された試合前日であった。順番は三対三、二対二、一対三、特に最後の金網デスマッチは最後にした方が盛り上がるだろうということらしい。他に中止派にも非公開練習の時間を設けることなどの要望も添えられていた。
「これは何かあるか?」
「まぁあることは前から分かってますし」
「‥‥それもそうか」
「これだけは渡しておきますよ」
 何かしら策略があるのだろうと懸念する能力者達だったが、実際に試合をする辰巳は気にした様子が無い。そこで大槻が荷物から何やら白いものを取り出す。覗き込むように能力者達が見ると、それはセーフカップだった。野球部から借りてきたものらしい。
「多少汗臭いかもしれませんが、有ると無いとでは大違いかと思いますから」
「ありがとう」
「他の人の分もありますので、良かったら使ってください」
「備えあれば憂い無しって奴だな」
 それぞれセーフカップを手に散り散りになる男性陣、意味深な笑みを浮かべつつ見送る女性陣。その中で思い出したように火絵が樋口に尋ねた。
「そういえば中止派にスパイするって言ってたけど、どうなった?」
「一人取り付くことはできたんだけど、彼女持ちと認識されたみたいで中止派追い出されちゃったみたい。ある意味鉄の結束ってやつかな」
「それだけの団結、他に活かせばいいのに」
「だよね」
 そんな会話をしていると、準備に行った男性陣が戻ってくる。そして能力者達は各自打ち合わせや練習に励むことにした。

「レディースあんどジェントルマン〜今日はバレンタインイベントのためにこんなに集まってくれるとはロッタも思っていませんでしたっ。でもでもみんな一生懸命戦うと思うのです。戦闘の参考にしたい人も純粋に楽しみたい人もゆっくりしていってくださいねっ」
 何故か解説役を押し付けられたロッタが開会を宣言、続いて初戦である三対三の出場者である火絵、大槻、樋口が鳥の着ぐるみで登場する。そしてリングに上がるや否や火絵はマイクを借り叫んだ。
「うが====なんで女の子がいないのさ〜〜〜!!!」
 マイクパフォーマンスに炙り出されるように、対戦相手である中止派が会場に姿を現す。一人は改造軍服、二人目は大銀杏にまわし、最後の三人目は股引に腹巻をつけての登場だった。火絵の期待を裏切るように、全員男である。
「俺の改造マスケットが火を噴くぜ」
「おなご、おなごでごわす」
「てやんでぇ。ちょこれえとなんぞ、ただの黒い塊でねぇか」
 口々に文句を叩く中止派であったが、外見上何かを隠している様子は無い。それがせめてもの救いであったが、火絵の怒りは収まりそうに無い。
「あたしは‥‥あたしはかぁイイ子と戦いたかったぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!!」
「知らんがな」
 まだ開始の合図が鳴らされる前であるが、軍服男は改造マスケットを火絵の脳天に命中させる。下卑た笑いをする中止派三人、そして撃たれた火絵は一気に覚醒し三人の背後に回る。
「なんで購買前にバリケードを作ったっ! ぽてちが買えないじゃないかっ!!」
「バレンタインが怖くて甘党が務まるかー!」
 遅れじと戦闘に参加する大槻と樋口。自然と場外戦闘の流れとなるのをレフリーが止めに入るが、卍固めを極めた火絵は放さない。大槻が止めに入ろうとするが、中止派が二人乱入。三対五になったところで火絵が門松ブラスターを一斉発射、泥沼と化した戦闘を終結へと導いた。
 続く第二回戦、編み上げブーツにレスラーパンツの御影と歌舞伎マスクのDr.Qがリングに上がり、公演会を開いていた。
「あ〜〜‥‥中止派の人〜今すぐ無益な事はやめるさ〜僕も氏子のおばちゃんからしか貰ったことないから、そっちの気持ちもわかるけど、でも、こんなことしても意味はない。むしろ変な噂が立ってますます‥‥」
「そうじゃ、わしもちょこれえとなぞほとんど食べたことはないんじゃぞ」
「それに、バレンタインは、いろんな美味しい限定チョコとか出てるし、なくなるとそういうのも食べれなくなるから困るさぁ! まぁ、凄く美味しそうなのが女性限定予約とか言うのは
納得いかないけど、日和見派として君達の暴挙を許すわけには行かないさぁ」
 延々とマイクパフォーマンスを続けるのには理由がある。二人の対戦相手は前の三対三で乱入した二人であるからだ。しかしその二人は反則かつ負傷、そこで御影、Dr.Q組の不戦勝となったわけだが、収まりが付かず公演会へと移行していた。
「大体男は待っているだけじゃだめぢゃ。わしの若い頃は十五文キックなんかじゃ目でもない三十分キックで兵どもをなぎ払ってじゃな‥‥」
 二人のバレンタイン談義が行われる一方で第三回戦の準備は進められる。第一回戦の反省を活かし、入念な身体検査を受けるエミルと吾妻。つけていたマフラーと仮面がとられそうになるものの死守、そして対戦相手はコスチュームと思われる黒マントと仮面の検査を受けている。
「後はどんな戦い方をしてくるかだが‥‥」
 対戦者二人を外見から巨漢タイプだとエミルと吾妻は判断していた。二人ともマントを羽織っているため身体のラインまでは判断できないが、少なくともエミルが横に二人並ぶよりも大きな横幅をしていた。
「‥‥オーケーだ」
 意味深な間をおいてリングに上がるレフリー、続いて中止派の二人もリングに上がろうとする。そしてロープをくぐろうとした時だった。横幅が大きすぎて一人が挟まり、身動きが取れなくなってしまったのだ。
「大丈夫か?」
 親切心で手を貸そうとする吾妻、だがそれに対し中止派は目潰し攻撃を仕掛ける。
「やってくれるね」
 マントを引き剥がしにかかる吾妻。エミルも手伝って引き剥がしにかかると、そこには大量の武器が隠されていた。
「これ、違反じゃないの?」
「一応違反じゃない。刃は潰されているし、武器を複数持っていてはいけないというルールは無い」
「それ、ちょっと卑怯じゃないか」
 審判に楯突こうとするエミルだったが、吾妻が制止。そして自分達のコーナーへと戻る。
「いいのかよ?」
「いいんですよ」
 不審げだったエミルだが、すぐに理由が分かる。重荷となるまで武器をしまいこんだ中止派二人はロープに挟まり身動きがとれなくなっているからである。
 何度か警告した後にレフリーは試合開始を宣言。エミルと吾妻は背後を取りつつ中止派二人を撃退した。

 そして最終戦、リングには金網が設置される。中には能力者側から辰巳、そして中止派側は三人である。三回戦の中止派二人と同様黒マントを羽織っているが横幅があるわけではなく、今回の三人は上背があった。三人とも二メートルに近く、丘のようにも見えていた。
「身長だけが勝敗を決めるわけではない事を見せよう」
「大した自信だな」
 開始前に身体検査を始めようとするレフリー、だが中止派は既に金網から脱出できないことを理由に拒否する。それでもレフリーが検査を実行しようと、中止派はレフリーを張り倒した。
「これから公開リンチだな」
 三人はマントを外すと、そこには二人羽織をした三組の男達がいた。実質六名である。
「一対三なんか舐めた挑戦してくるからこうなるんだ」
「ちょっと戦闘経験あるからって調子乗ってんじゃねぇぞ」
 肩車から降り、六人の男達が辰巳を囲む。流石に卑怯すぎると判断したのか御影とDr.Qが手助けを申し出ようとするが、金網がそれを邪魔する。その間、中止派はメリケンサックを装備し、辰巳との間合いを狭めていた。
「Dr、こんな時こそさっきの話の三十文キックの出番じゃないか?」
「御影君、それはいい思い付きぢゃ」
 金網やらリングやら所構わず蹴りを繰り出すDr.Q、御影もそれに倣う様に攻撃を繰り出していた。流石に異変を感じたのか、観客も騒ぎ始めている。やがて二人の攻撃でリングが歪み、中止派は叩き出され担架が呼ばれた。

 イベント後、吾妻の要望もあった中止派を交えた打ち上げが行われた。最終戦の事もあり中止派の参加を危ぶむ声も上がったが、スパイをした樋口を通じて事情が伝えられた。何でも中止派の中でも最終戦に参加した六名が特に過激派と呼ばれていたらしい。実際最終戦で使われた二人羽織の他、非公開練習の際にリングの中のスプリングを外れやすくしたり武器を隠したりと細工をしていたということだった。
「やり過ぎだとは思っていたんですが、あの人達を止められなくて」
「‥‥まぁ事情はわかったよ」
 その後、打ち上げ中に辰巳も問題は無いという診査結果が入る。一安心した所で、女性陣はロッタの用意してくれたチョコを配り、大団円を迎えたのだった。