タイトル:【VD】カカオ争奪戦マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/15 19:55

●オープニング本文


 西暦二千九年二月、カンパネラ学園購買部にてロッタ・シルフスは悩んでいた。二月といえばバレンタイン、チョコレートが一年で一番売れる時期である。当然ロッタとしても、それに合わせて商品をそろえるつもりだった。だがこの一年、依然として地球の大半はバグアの占領下に置かれている。特にチョコレートの原料であるカカオ、それらの主な生産地である熱帯地方はバグアの独占地帯となっている。カカオの確保はロッタの死活問題であった。
「難しいですね〜」
 去年のように中に何か入れてチョコの量を減らすという作戦も無いわけではない。だが同じ手法を使うことは何となく商売上良くない気がする。それにバレンタインぐらいはチョコレートを食べさせてあげたいという希望もあった。だが原料であるカカオあるいはそれを加工したものがなければどうしようもない。そんな悩んでいるロッタの前に二人の学生が通った。両方ともまだ十代後半から二十代前半くらいの男子学生だったが、一人は酷く落ち込み、もう一人が励ましている。何か嫌なことがあったのは傍から見ても明らかだった。
「そんなに気にすんなって。金なんて稼げばいいだろう?」
「でも俺の全財産なんだぜ? 絶対安全だって言われたのに」
「だから世の中に絶対なんて無いって何度も言ったじゃないか。先物取引なんて素人が手を出すものじゃないんだよ」
「でもこの時期にカカオの取引だぜ? 成功すれば億万長者も夢じゃないと思ったのに‥‥」
「夢は夢だから良いんだよ。個人的にはその輸送船だっけ? 沈んでよかったと思ってるけどな。いきなり大金持ちになるとろくな事にならないって聞くぜ」
 カカオという言葉に思わず聞き耳を立てるロッタ、詳しく話を聞いてみようとするが文房具を買いに来た別の学生に声をかけられる。購買部の責任者として、ロッタはそこを離れるわけには行かなかった。

 その日の放課後、ロッタは昼間聞いた話をネットを使って確認していた。船が難破するというのはそれほど珍しいことではないが、商品が積まれていれば商人にとっては死活問題となる。その結果判明したのが、グリーンランド沖で船が座礁したということだった。
「バグアの少なそうな場所を選んだの走っていたんでしょうね〜」
 一人納得するロッタであったが、頭の片隅では積荷であるカカオの方を心配していた。品質の確認もしたかったが、同時にサルベージできないかを考えていた。
 早速グリーンランドで知り合った友人に連絡してみると、サルベージを考えた人はいるらしい。だが分厚い氷とその下を流れる海流、そしてキメラが潜んでいたため諦めたと言うことだった。
「ということはロッタが拾っても問題ないんですねっ」
「一応断りはいいと思いますけどね」
 バグアもチョコレートが好きなのか、キメラも集まってきているという。前回サルベージを試みた人によると、シーサーペントを五体ほど確認してすぐに帰還したということだった。
「まぁでも無理はしないでくださいよ」
「了解なのです〜」
 とはいえ、各種に連絡いれる必要があるためロッタ自身は動くこと程の余裕はない。そこで依頼を出すことにするのだった。 

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD

●リプレイ本文

「それじゃまず一発でかいので穴をあけさせてもらうぜ」
「よろしくお願いしますね」
 グリーンランド沿岸の海上、依頼に参加した能力者達はそれぞれのKVに乗り込み最後の確認を行っていた。
「この時期だから氷を多少割ったところで崩れたりはしないだろうからね」
「その言葉信じるぜ」
 武藤 煉(gb1042)が水中用太刀「氷雨」の柄で氷を切り出す。戦闘前に使えないかと考え、もって行く事を決意したからである。そこでついでに海上の氷に穴を開け、そこから侵入する方針を固めていた。そこで藤田あやこ(ga0204)とドクター・ウェスト(ga0241)が問題の輸送船の沈没地点を予想、そこに海流の動き等を踏まえて現在地点を割り出し突入地点を割り出していた。実行者である武藤にとって唯一の心配点としてあるのは周囲の氷が一気に崩壊することだが、そのあたりは藤田がアドバイスを出している。
「一言で言うのは難しいけど、弱すぎず強すぎずという感じかしら。女性の扱いみたいなものよ」
「それって意味分かる人のほうが少なそうですね」
 苦笑とも微笑ともとれる顔で笑うのは周防 誠(ga7131)、特に今回の依頼の目的は海に沈んだカカオの引き上げである。海中に沈んだカカオが使い物になるのかという疑問はあったが、出発前の打ち合わせで今回の依頼人であるロッタ・シルフス(gz0014)に佐渡川 歩(gb4026)が確認したところ、カカオは水に浸して実を取り出すから大丈夫じゃないだろうかという答えをもらっている。
「といってもロッタが直接やったわけじゃないんで、海水でいいのかまでは確証がないんですけどねっ」
 他にも保存状態など気になることはあるらしいが、その当たりは引き上げていないと分からないという。佐渡川としてはロッタがチョコレートをくれるかどうかが一番の問題だったのだが、それもカカオの状態を見ないと分からないと保留されている。そのためか瓶底眼鏡の瞳の奥で静かに闘志を燃やしていた。
「何か怖いぞ、歩」
 同じくA班である火茄神・渉(ga8569)が冗談じみた子供らしい笑顔を浮かべつつ問いただす。
「ひょっとして自分にもチョコレート回ってくるとか考えてる?」
「‥‥まさか、そんなことは無いですよ」
 図星を突かれたためか一瞬焦る佐渡川だったが、咳払いを一つし眼鏡の位置を確認して冷静さを取り戻す。
「でもちょこれーとは無くなると大変ですよ?」
 助け舟を出したのは舞 冥華(gb4521)だった。
「でも、冥華‥‥おとしものは警察に届けないとダメだとおもう。ん? これはちがう?」
「今回の場合は違うわね。落とし主さんとロッタさんが話し合って、ボク達に拾ってきてほしいって言っているんだから。っと自己紹介遅れたね、ボクはグラップラーの荒巻美琴。宜しくね〜♪」
 荒巻 美琴(ga4863)が簡単に今回の事情を説明する。
「といってもカカオ回収は後回しだけどね。まずは海中にいるっていうシーサーペントを探さないといけないし」
「むずかしいのですか?」
「それはやってみないと分からないわね」
 腰に手を当てるようなポーズを見せる荒巻。そして全員に見守られるような形で武藤が足で氷の感触を確かめ、剣を突き立てた。

「ソナーに反応は無し。A班からの連絡も無し。待ち伏せってけっこう忍耐力がいるんだよね〜」
「だったらアンパンと牛乳でもどうです?」
「いいね、話がわかるじゃない」
 今回の依頼に関して、能力者達はまずシーサーペントの討伐を優先させた。ソナーで周囲を探索しつつ目標を位置を特定し沈没船の位置から引き離すA班、誘導されたシーサーペントを討伐するのをB班とし二班に分断。武藤による海開きから海中に入るまでは行動を共にしていた八名であったが、今はA班が主行動となり、逆にB班は待機となっている。そのためB班は少なからず手持ち無沙汰になり、荒巻と周防はそんな会話を交わしていた。
「」
「まぁチョコレートは我輩としては比較的どうでもいいのだけどね」
 中立の立場をとるのはドクター、一方舞は武藤へ日頃の感謝の意味を込めてチョコレートを渡せないものかと検討しているところだった。
「そういうドクターはチョコレートもらう予定は無いんですか?」
「我輩はチョコレートよりもバグアの細胞を手に入れる方が楽しみなのだよ〜」
「けっきゅうねっしんさんなのですね」
「正面きって言われると何だか恥ずかしいものだね」
 そう答えるドクターであったが、その心の片隅ではまだA班からの連絡が来ないことに不安を抱いていた。
「連絡はまだだろうか?」
「ドクター、あせりすぎですよ」
「待つのも仕事のうち、牛乳でも飲みます?」
「本当に飲んでいるんですか?」
 冗談紛いに言う周防、呼応するかのように笑う荒巻とドクター。そこに連絡が入る、A班がまもなく到着するということだった。。

「うへぇ、何か、見るからに寒そうな海‥‥やっぱ中も寒そうだな、案の定」
「もうすぐ北極海だからね」
 時間を遡る事およそ二十分前、藤田と武藤はシーサーペントの発見に成功していた。当初は海の様子、もとい観念的なものから来る寒さを懸念していた武藤であったが、任務を進めていくうちに慣れを見せ始めていた。一方藤田の方はビーストソウルの本性能を確かめるためにも計器類に細かい監視の目を飛ばしている。そんな二人が発見したのはロッタからも報告を受けていた五体のシーサーペントの内の二体だった。
 深度はそれほど深くはない、水深三百メートル程のである。魚の隠れ家ともなっているであろう岩礁を這うように二匹のシーサーペントが徘徊していたのである。二人は残る火茄神と佐渡川に連絡、向こうが南西に一キロ程行った地点で残る三匹と思われる反応がソナーにあったことを確認する。状況を把握した藤田と武藤は早速おびき出すための威嚇行動を開始した。
「それで隠れたつもりかよ‥‥丸見えだぜッ!」
 まず始めに動いたのは武藤、あらかじめ切り出しておいた氷を海中下へと運んで付近の海底へと設置、続いて藤田が動く。
「本作戦はカカオ防衛。沈船を失えば反対派が勢いづくだろう。結果的に出会いの機会が減る。断固死守! 私には渡す相手がいるもの。行くわよ」
 一度大きく息を吐いて呼吸を整え、藤田は武藤と共に水中用ガウスガンを運んできた氷へと照射。氷は二人の予定通り破片となり、異変を感じたシーサーペントが様子を見るために動き始める。
「あとは付かず離れずの距離で誘導するだけだな」
「そうね。そのあたりはビーストソウルを頼りにさせてもらいましょう」
 二体はシーサーペントの射線上に入らないよう魚の群れなどを利用しつつ、合流地点へと向かっていた。
 
 その頃、残るA班の二人である火茄神と佐渡川も誘導任務へと取り掛かっていた。だがこちらには藤田、武藤組とは違いシーサーペントが一体多い。加えて海底には一部海溝のようなものが存在していた。さほど広くはないものの、船一隻程度なら十分入り込む余地があり、ソナーも何か存在していることを示していた。
「向こうの二人も移動を開始したみたい。こっちもそろそろ行こうか」
「だね」
 海を荒らすキメラを退治する、そんな大目的のために一人無邪気に意気込む火茄神であったが、一方で佐渡川は神妙な顔をしている。原因は彼の乗っている機体がW−01テンタクルスは水中専用KVではあるが、他三人の乗るビーストソウルと比較すると見劣りする部分があるためである。そのため今回佐渡川は孤立せぬよう周りに注意する必要があるためである。
「それじゃ始めるよ。目覚めろ! その魂! ビーストソウル出るぜ!」
 船の位置がまだ確定していないため、ガウスガンで狙いを定める火茄神。佐渡川も合わせるようにガウスガンを構える。
「チョコレートの流通量を増やす。そうすればきっと僕にも流通してくる筈‥‥!!」
 佐渡川の強い思いが通じてか、二人の放った攻撃は見事シーサーペントの頭部に当たる。そして睨み付けるよう振り向くシーサーペント、釣られるように残りの三体も火茄神と佐渡川の方へと首を動かした。
「こんなもんか」
「ですね」
 二人はその後、藤田と武藤に合流。懸念材料であった佐渡川の孤立も他の三人がフォローする形で補い合い、B班との合流に成功した。

「もうすぐ来ると思うわ。私達はこのまま左右に展開するから、正面からの迎撃をお願い」
「了解ですよ。対潜ミサイルを使います、衝撃に気をつけてください!」
「さて、初めての水中戦だ。どんなものかね?」
 雑談を交えつつ緊張を解していたB班も少しずつ武器を構えたり急加減速しつつKVを動かしつつ感触を確かめていく。そしてA班殿を努めた佐渡川が左へと大きく展開したことを確認し、周防が対潜ミサイルを発射。ドクターと舞が援護射撃をする中で、今まで逃げ回る役に徹していたA班の面々も攻勢に転じる。
「愛で貫け獣魂、例え火の中氷の中」
「へっ、嫉妬は見苦しいぜ、海蛇サンよ!」
「大蛇で大蛇狩りだ!いっけー!」
 遅れまいと水中用ディフェンダーを手に飛び込む荒巻、ぎりぎりまでひきつけるために辛抱していたためか、鬱憤を晴らすように飛び出していく。そして全員の総攻撃によりシーサーペントをしとめるのであった。

 シーサーペントを無事倒した能力者達は火茄神と佐渡川に連れられるように海溝へと向かい、沈没船を発見。念のため周囲を見回りバグアが潜んでいない事を確認した後で、積荷であるカカオの回収に入る。
「ところでカカオの先物取引って儲かるんでしょうか?」
 カカオを海上へと運びつつ、周防は誰とも無く素朴な疑問をぶつける。
「やる人がいるっていうことはそれなりに儲かるってことじゃないかしら? 専門外だから詳しいことまでは言えないけど」
「我輩としては眉唾ものだと思ったけどね。それにチョコレートより水中でのフォースフィールドの方に我輩は興味があるね」
 ドクターの乗機である雷電にはカカオ以外にシーサーペントの切り身が積まれている。水中でも空気中同様効果を発揮し、かつ水の出入りを妨げないフォースフィールドは十分ドクターの好奇心をくすぐるものであった。
「相変わらずね、ドクターは」
 意味深な言葉を残し、藤田は先に海上へと上がる。それを追うように舞も海上へと上がると、機体から降り二人して自分の荷物を漁り始める。
「ああ、ドクター。恋は盲目猪突猛進」
「煉、日頃おせわになっているから、感謝のいみをこめてうけとってもらいたいのです」
 全員が海上へと上がるのを確認し、藤田はドクターへとチョコレートを、舞は武藤へとショコラタルトを差し出した。
「それじゃ遠慮なくいただくぜ」
 目の前の提示された餌に飛びつく武藤、だが舞を護るべき小さな女の子としか見ていないためか照れ笑いを浮かべている。一方ドクターの方も非能力者の事を考えると素直に喜べないところがあるが、かといって藤田を傷つけるのも本位ではなかった。
「よかったじゃない、二人とも」
 どこかぎこちない顔をする二人の背中を後押しするように荒巻が拍手しつつ声をかける。その傍らで佐渡川は今回の依頼参加者で最後の女性である荒巻がチョコレートをくれるのではとほのかな希望を抱くが、希望は所詮希望に過ぎなかったのであった。