タイトル:【永久氷壁】消える人々マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/09 07:32

●オープニング本文


「一緒に逃げましょう」
 カンパネラ学園の学生寮からくり屋敷の最上階の空室にて元ヌスムンジャー隊員緑川隆は震えていた。手にはジャンクフードの袋を抱え、ひたすら食べ漁っている。その傍らでは同じく元同隊員である桃城裕子が心配そうに彼を見つめている。
「このままじゃあなたも駄目になってしまう。もう随分外にも出ていないでしょう」
「出る必要なんてないだろう?」
 目だけを桃城の方へと向けるが、緑川はジャンクフードをむさぼる手を休めようとはしない。窓の外は夜、時折雷が鳴り響いていた。
「もう妹もいない。奴らが好き勝手弄んでやがった」
「でもここでくすぶっていても仕方ないでしょう」
 桃城は一枚の依頼書を取り出し、緑川の眼前に突きつける。一度視線を上げ桃城の表情を確認し、それに目を通した緑川。それはラストホープの周囲を哨戒するだけの比較的楽な任務だった。
「UPCも人不足なんだって、怪我とかKV大破で出られない人も大勢いるからね。今のあなたならこれぐらいの任務がお似合いでしょ」
「‥‥」
「何か言い返しなさいよ」
 雷の光が一瞬だけ二人を照らす。桃城の頬には涙が零れていた。そのまま無言で立ち去る桃城、しばらく考えたて緑川は腰を上げた。その手には依頼書が握られていた。

「それで私のところに依頼ですか?」
 西暦二千九年二月、グリーンランドチューレ基地のマックス・ギルバートのもとに一つの連絡が届く。かねてより探していた伝承人の心当たりが見つかったという朗報だった。だが同時に悲報も一つ届く。その伝承人もまた行方不明という報告だった。
「名前は緑川優衣、バグアの襲撃の際に避難が遅れ、建物の下敷きとなり下半身が不随。その結果親に捨てられ孤児院に入れられることとなる。孤児院出身の少女で義理の兄にカンパネラ学園聴講生の緑川隆がいる。毎度の事だがこの手の報告書は頭が痛くなるな」
 新作コーヒー煎餅の試食をしながら、マックスは苦虫を噛み潰したような表情を作っていた。隣では息子のトーマス=藤原が七輪と団扇の使い方の勉強をしている。
「ところで特別大使、室内で火を使っても大丈夫なのか?」
「だから特別大使ではなく父さんと呼ぶように何度も言っているだろう?」
「その台詞もう聞き飽きたし。それで火を使っても大丈夫なのか?」
「スプリンクラーならちょっと眠ってもらってる。気にするな」
「それって下手すれば軍法会議‥‥」
「お前が話さなければばれないさ」
 自分の父親のことでありながら、トーマスはまだ自分の父親のことを掴みかねていた。とはいえやるときはやる人だと信頼もしていた。
「それで今回はその緑川隆って奴に接触を図るのか?」
「残念だが彼はラスト・ホープの哨戒任務で撃墜されMIAだそうだ。彼の撃墜によりヘルメットワームが偵察に来るだろう。捜索したければ偵察兵を撃退してからにしてくれって意味だろうな」
「それってせこくない?」
「それが組織ってもんだ。‥‥それにしても煎餅とコーヒーの組み合わせは微妙だな」
 何となく釈然としないトーマスを他所に、マックスは熱い緑茶を飲みながら依頼書を準備するのだった。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
夕風 悠(ga3948
23歳・♀・JG
Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
M2(ga8024
20歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
エミル・アティット(gb3948
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

「現在確認されているヘルメットワームは三、全て小型であることから偵察部隊だと思われる」
 作戦開始三時間前のブリーフィング、とはいえまだKVの準備が万全ではないためか依頼主であり指揮官であるマックス・ギルバート(gz0200)の口調も普段に比べてわずかに早くなっている。
「この三機の早期撃退が今回の目標だ。極力援軍を呼ばれないよう注意するのが本筋なんだが、物足りなければ戦ってもいいぞ」
「つまりボーナス期待していいってことなんだな?」
「そこは残業ってことでヨロシクな」
 空戦が久しぶりなせいか多少自信なさげに言うLoland=Urga(ga4688)だが、マックスの冗談とも本気ともとれない言葉に苦笑を浮かべる。
「この親父の顔を立てるためと思って頑張ってくれ」
「そこまでいわれちゃ仕方ないな」
 思わず納得するLoland、続いて他の人にも挨拶を交わす。
「まぁそういうわけで迷惑かけるかも知れんけどよろしく頼む」
「それ、私も似たようなものだからっ。大規模作戦以外では初めてだけど精一杯やらせてもらうね〜」
 そう答えるのは夕風悠(ga3948)、Lolandと同じく所属部隊以外での空戦は初めてとなる。その分チームワークを強化しておきたいのだろう、最初の挨拶ということで普段以上の張り切りを見せている。
「機体使用依頼は初めてですけど、五大湖の時から若葉隊の一員として飛んでいる、その意地とか底力とかを見せてやります! 誰にか知らないけどっ!!」
 ガッツポーズをしながら高々と宣言する夕風、それに対し一同は温かい拍手で迎える。
「大丈夫大丈夫、今回の相手はそれほど強くないし☆」
「それに敵三体なんだぜ? 何とかなりるって」
 M2(ga8024)、エミル・アティット(gb3948)の二人が率先して声をかける。その言葉に安心したのか、夕風も顔を綻ばせる。そこで鷹代 由稀(ga1601)と紅 アリカ(ga8708)が再び話を本題に戻す。
「敵は三体、援軍を呼ばせないよう早期解決っていうことはわかったけど、他に気をつけることあります?」
「‥‥どうも雲行きがあまりよくないようですが」
 話題が元に戻ったことで、先程まで交友を深めていたLoland、夕風、M2、エミルも再びマックスに向き直った。
「作戦開始予定の本日一五○○だが、作戦予定海域上空に局所的ながら雷が落ちる可能性があるらしい」
「雷ですか。亀さん三匹が仲良く飛んでくるだけだと思ってましたけど、それも大変そうです」
「作戦を早めに開始する事とかできないのですか?」
 一人悩むアセット・アナスタシア(gb0694)の隣で、ヨグ=ニグラス(gb1949)が作戦開始時間の変更を求める。だがマックスは眉間に皺を寄せ小さく首を振った。
「整備が間に合わないんだそうだ。流石に不良整備のまま戦闘なんて事は指揮官としてはできんのだよ」
「そんな言い方すると独断で出て行って言い様に聞こえるぜ、親父」
 Lolandが言うと、マックスは笑うだけで何も答えない。代わりにブリーフィングの終了を宣言する。 
「作戦開始は本日一五○○、それまで各自KVの整備をしていてくれ」
「了解」
 三々五々に退室する能力者達、そしてマックスも自分の機体の元へと向かっていった。

「ヘルメットワーム確認。数は三、予定通りだね」
作戦開始予定時間一五○○、能力者達は予定通りに作戦予定空域目指して飛び立った。マックスとトーマスの親子はすでにW−01で要救護者である緑川の捜索に出ているらしい。そしてセンサーは既早くも前方から来るバグアの襲撃を告げていた。
「ちょっと雷が心配だったけどまだ大丈夫そうだし、予定通り行きましょう」
「それじゃ班分けも予定通りにいきます。空での戦いは経験浅めだけど‥‥確実に自分の役割を果たしたいから‥‥」
 鷹代の連絡を応えるようアセットが返答する。懸念していた空の様子も思ったほどではなく、所々出た厚手の雲が太陽の光を遮断していたが、むしろ身を隠す場所が出来たという意味では好都合であった。風が多少強いせいでKVの挙動がおかしくなっているが、操縦に影響があるほどではない。身を隠すように雲の中に突入した八機のKVは、それぞれ二機、三機、三機と隊列を変え進路を変えていく。
「各員の健闘を祈る、ってこの台詞言ってみたかったんだよね〜」
「自分で死亡フラグ立てないように」
「そんなつもりはないんだけどねっ」
 久方ぶりのKVに夕風とLolandは興奮した様子を見せる、だが大規模作戦の折には乗っていたためかそれほど他機と遜色があるという事も無い。どちらかといえば操縦の感覚を取り戻しつつ、のびのびと乗っている様子だった。
「まぁ何はともあれ、さっさとやっちゃいましょ。控えめにね☆」
「了解、がんがんやっちゃうよ〜」
 先程のブリーフィングでもムードメーカーであったM2、エミルの二名が全体が釘を刺しつつ全員の士気を高める。撃墜目標である三機のヘルメットワームも肉眼で確認できる位置まで来ている。そこへ八機のKVはそれぞれ陣を展開しつつ突撃していった。

「数が少ないからって楽観は出来ないわね‥‥時間かけると嫌な予感するし、速攻で仕留めるわよ」
「了解、お空の星にだけはなりたくないね‥‥」
「‥‥戦闘前に悲観的な考えを持つのは厳禁よ、アセットさん」
 A班を努める鷹代、アセットの二人はタッグを組みつつ右側へと旋回、雲の中へと身を隠しながらヘルメットワームの死角をに回り込む。ほぼ同時にB班のLoland、M2、ヨグが正面から仕掛け、C班の夕風、紅、エミルが左側へと旋回していった。
 戦闘開始となる初弾はヘルメットワームからのプロトン砲だった。天気があまりよくないために見間違いかどうか試しに撃ったのだろう、誰かを狙っている様子では無かった。それほど大きな行動をとらずに回避するB班の一向、だが相手の行動に驚いたは雲の中を飛行中であったA班の鷹代、アティスだった。側面に回りこんだところで初撃のタイミングを見計らう。
「アセットちゃん、あたしが初撃ぶち込む間は照準方法の関係で単純機動しか出来なくなるから‥‥その間だけサポートお願い」
「フォックス2、了解。逃げる隙は与えない‥‥!」
 フォックス1である鷹代の出方を伺いつつアセットはレーザーガトリング砲を構える。そしてB班であるM2のスナイパーライフル、続いてLolandの長距離ショルダーキャノンが発射されたのを確認し、右翼につけていた一機にレーザーガン「デルタレイ」を放つ。
「速攻でケリをつける‥‥アルヒア、目標を狙い撃つわっ!」
「攻撃は最大の防御‥‥ガトリング発射するよ!」
 試作狙撃用ライフル型コントローラーの効果も上乗せされたこともあり、PRMを乗せた鷹代のデルタレイはヘルメットワームに命中する。だが当たり所が悪かったのか、あるいは雲のせいでダメージが拡散したのか、撃墜までには至らない。続いて放たれるアセットのガトリング砲から居所にあたりをつけ、一機が雲の中へと突入する。
「この一機は引き受けるわ。残りをお願い」
 そう言い残し、鷹代とアセットは更に雲の深部へと突き進んでゆく。それを確認したのか、残る二体は正面に残るB班へと特攻をかけてきた。弾切れになるまでショルダーキャノンで威嚇しつつ距離を測るLoland、合わせるようにM2がスナイパーライフルを合わせる。そしてヨグが飛び出すタイミングを見計らっていた。
「わるいがさっさとやらせてもらう」
「援軍をよばせるわけにはいかないのよね☆」
 気合を入れるためにも言葉を出すLoland、M2の二人であったが、一方でヨグは残る二体のどちらに飛び込むべきかを悩んでいた。ヨグの主兵装であるソードウィングは移動と攻撃を兼ねた便利な武器であるが、同時に突撃をかけるという捨て身の武器でもある。二体相手に使うのは無謀でしかなかった
 躊躇するヨグ、だがそこで一機が進路を向かって左へと変更する。そこにいたのはホーミングミサイルを放つC班の紅の乗機シュテルンとガトリングでバルカンで牽制する夕風の乗機R−01改、そしてマシンガンで援護するエミルのバイパーだった。
「さぁ、とっとと墜ちてもらうよっ、ラスホプのすぐそばでHWなんかにでかい顔させてたまるもんですか!」
「射撃は苦手だけど、牽制目的だから当たらなくてもまぁ、いいかだぜ!」
 夕風とエミルの援護をもらいつつ、紅もソードウィングにPRMシステムの使用するタイミングを見計らっていた。先程のA班のヘルメットワームと同様間合いを詰めて来ると考えたからである。だが相手は動こうとしない、プロトン砲でも放つのかと観察をしてみるものの目立った動きは無い。
「これ、増援呼んでるんじゃないか?」
 残弾を確認しつつ、エミルが疑問を口にする。
「ちょっと、それ拙いじゃない。私も行くよ、こいつの攻撃力はダテじゃないんだからっ! いけっ、A・ファング!!」
「――――穿ち、断つ。これで仕留めてみせる!」
 エミルの言葉を受け、夕風も渾身の一撃を放ち、紅も続く。その間も相手は逃げようとしない。嫌な予感を感じつつも切り裂く紅、そしてそこからわずかに離れたところでは逃走を開始していた最後の一機をA班が回り込んで押さえ、ヨグが「騎兵らしくガンホー!!」と叫びつつ、同様に切り裂いているところだった。


「これで全機退場してもらえたかしら? 天気も何とか持ってくれたし、上々?」
「それほど派手な攻撃もしてませんし、大丈夫よね」
 雨はぱらぱらと降り始めているが、まだ雷は落ちていない。忘れた頃に光っているものの、落雷を示す音までは聞こえてこなかった。
「空に気をつけて帰りましょ」
 雲の変化に伴い、海の方も時化り始めている。夕風はマックスの様子もの様子も機にかけていた。だがもう一つ気になっていたのは、やはり増援の有無である。特に自分達の戦ったヘルメットワームが起こした不思議な動きが増援要請じゃないかと感じていたからである。
「来ると思いか?」
「来た時は来た時、今度は派手に行くぜ」
 警戒する一同ではあったが、増援はヘルメットワーム一体に留まった。たった一体では八機のKVに抵抗できることもなく、撃墜。その後本格的に天候が崩れる前に能力者達はその場を後にする。

 全てを片付けた後、海中探索を行っていたマックス親子から報告が入る。緑川と思しき人物を見つけたということだった。心臓は辛うじて動いているものの意識不明、しばらく様子をみるしかないということだった。