タイトル:超音波の有効活用実験マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/02 22:19

●オープニング本文


 西暦二千九年一月、カンパネラ学園の研究者であるコバルト・ブルーはグリーンランドへと足を運んでいた。本来なら一人で来るには寂しい場所だが、助手と化したボブとその恋人であるカインは寮の引越し作業中。一方コバルトは今まで着手していた唐辛子パックの開発がひとまず終了、限定アイテムとして出してもらえないかと現在申請中である。そこで次に着手したのが超音波による索敵だった。
 前回スノーストームを始めとするシミュレーションを行った際、一つの可能性として出されたのがソナーによる索敵だった。音を発する道具としてはソニックフォンブラスターというものがあるらしい。流通量は少ないらしいが、使えるのなら使いたいというのが彼女の意見だった。だが同アイテムはスピーカーであって音を拾うことはできないため、ソナーをKVに付ける必要がどうしてもあった。しかしそうなるとアクセサリー枠を二つも消費することになる。それはKVとしてどうなのだろうというのも疑問だった。KVの特殊能力としてスピーカーとソナーの両方の機能を持たせることはできるかもしれないが、岩龍並のサポート専門機体になる可能性がある。そして何よりソニックフォンブラスターの超音波を受信し、場所を特定する精密なソナーが必要だった。
「やっぱり一人で来るのは無謀だったかしら」
 ソニックフォンブラスターを人づてで借受け、とりあえずソナーらしきものは作成したコバルト。そこで実験してみようとグリーンランドまで来て見たものの、バグアの出る地域では実験する気にはなれず、出てこない地域では調査対象がいない。しばらく悩んだ結果、コバルトは依頼を出すことにしたのだった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ユウキ・スカーレット(gb2803
23歳・♀・ST
ロレンタ(gb3412
20歳・♀・ST
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

 その日天気は良かった。雪は積もってはいるが降ってはいない。実験をやるにはちょうどよかった。民家を改修したような小さな小屋に能力者達は集められていた。
「途中で茶菓子を購入してきた。途中で買出しに行ければいいと思っていたが、よくよく考えればそんな店は無い可能性が高そうだったからな」
「AU−KVを使えば三時間で行けますよ?」
「滑走路はありましたけど、道らしきものはありませんでしたよ」
「昨日バイクで買い物に行ってきましたよ? 何度かスリップしましたけど」
「大丈夫なんですか?」
「機械には傷入ってないから大丈夫でしょ」
 保温庫の場所を確認し飲み物を入れにいくUNKNOWN(ga4276)、残るユウキ・スカーレット(gb2803)、ロレンタ(gb3412)、アーク・ウイング(gb4432)は実験のスケジュールを確認していた。
「まずは超音波でKVの形が認識できるかの確認を行う予定。分析にかかる時間と正確さがを確かめたい」
「正確さですか」
「機体の判別ぐらいできないと意味がないと思うの。MRの幻影を判別することが当初の目的ではあるけど、できればもう少し汎用性を持たせたいと思ってるわけ」
「FRの判別もできるといいですね」
「光学迷彩の機体だっけ?」
「ですね」
 ユウキの言葉にコバルトは遠い目をした。
「光学っていうのが科学的にどういうものなのかというのが難しいんだけど、ステルスと同じ原理だったら難しいわね」
「光と音も進み方は基本的に変わりませんからね」
 目を光らせながら話を聞くアーク、この手の話に興味があるのだろうとコバルトは一人で理解していた。
「問題はやっぱり集音性?」
「それも疑問だが、先ほど話しに上がった分析というのはどの程度時間がかかるのだろうか? それによって集音性にどれだけ時間をかけるかを考えられると思う」
「それには俺も同意だな」
 背中からあがる突然の声にロレンタが振り向くと、そこにはUNKNOWNがいた。
「実際今現在でどれくらいかかのだろうか?」
「難しい話ね」
 コバルトは一瞬顔を曇らせた。
「音を拾って分析するまではそれほど時間はかからないわね。問題は分析結果を人間が理解するのかどうかということ」
「具体的にはどういうことでしょう?」
「例えばヘルメットワームを見つけたとする。だが分析で分かるのはその形状までで、それをヘルメットワームだと判別するのは人間がやるのが一番正確なんだ」
「なるほど、確かにそうですね」
 ユウキは腕を組み、軽く頬杖をつくようなポーズをとる。
「つまり解析はKV、判断は操縦者がするということですね。となると操縦者の知識も問われてくるわけですか」
「その当たりはデータベースに照会出来るようにすれば何とかなるかと思うわ。まだそこまではいっていないんだけどね」
「できるようになるとアーちゃんも楽しみなのです」
「それはおいおいでいいだろう。とりあえず現状とこれからの事を確認したいのだがいいだろうか?」
 思い思い感想を言う中能力者達の中でも、ロレンタは妙に意気込んでいる。
「まず今どこまで出来るのか説明してもらえると有難い」
「それならこれを見てもらった方が話が早いな」
 そう言うと、コバルトが一枚の紙を取り出した。大きさはA4程、デッサン画のように濃淡のある絵が描かれている。
「これはバイク‥‥か?」
「そうみたい、ですね」
 眉間に皺を寄せながら考える能力者達、何となくバイクであることは分かるが、四人そろっていてもそれがバイクであるという自信は無かった。
「二輪車であることは分かるが、車種まで見分けるのは辛いな」
「多分平面的だからですね。濃淡で一応立体的に見えなくも無いですが、判別とまでは難しいかもです」
「これが現状なの」
 難しい顔をするコバルト、一瞬タバコを吸おうとするが、アークの顔を見て思いとどまる。
「明日はまずKVで実験を行う予定、それで特徴が見分けられるか確かめたい」
「それじゃ武器とか持たせたほうがいいですね」
「だな」
「こうして考えると武器の汎用性の高さも問題だな。判別ができん」
 そして翌日、本格的な実験が始まった。
 
「やはり武器を持たせると判別は難しいか」
「一応全長や輪郭でわかるが、瞬間的に判断するには少なからず訓練が必要だな」
 ユウキがR−01、アークがS−01とそれぞれの持ち機体に搭乗、それに対しコバルトはソニックフォンブラスターを照射し実験を開始する。やがて表示される結果を眺め、UNKNOWNとロレンタは難しい顔をしている。
「正面だからまだ判断できるが、背後や側面からでは即時に反応するのは難しいぞ」
「そうよね」
 言われて納得したのか、背後や正面という言葉にコバルトは溜息混じりに答える。
「せめて立体的に分析できないだろうか? このままでは間違える可能性が高い」
「立体的か‥‥」
 ロレンタとコバルトが保温庫に入れられていた飲み物で暖をとる一方、UNKNOWNは煙草を楽しんでいる。だがうまく考えがまとまらないのか、誰も口を開こうとはしなかった。
「もしもしー先生、聞こえてますか? そろそろ次の指示をお願いしたいのですけど。今日のためにアクセサリー類も外して来たのですが」
「そうだね、ちょっと降りてきてもらえる? 二人の意見も聞きたいから」
「了解なのでーす」
 元気に飛び出すアーク、それに続くようにユウキもKVから降りてくる。何となくすっきりしない状態を暗示しているのか、ぱらぱらと雪が降り始めていた。
「どんな感じですー?」
「予想通りと言うべきか、何より見てもらった方が早いな」
 ロレンタに促されるようにモニターを確認する二人、そしてコバルトと同様首を捻り、難しい表情を浮かべた。
「立体的に観測できないかと思っているんだが、何かいい方法がないものかと考えている」
「確かにこれだと難しいかも」
「三体で確認するというのはどうです?」
「それはいい考えだけど、他のKVに迷惑かけたくないというのが本音なところね」
「そーだね」
 悩む一向、そんな中ユウキが一つの提案を出す。とりあえずどれくらいの距離まで測定が可能なのかを調べたいというものだった。
「立体的にするにしても、どれくらいの距離までが適当なのか調べてみないと」
「そうだな、雪もぱらついて来た。早めに取り掛かろう」
 名残惜しそうにUNKNOWNが煙草を携帯灰皿に押し付ける。ロレンタもまだ残っているペットボトルを蓋をし、保温庫に戻した。
「解析機は予備含めて三つあるわ。残り二つを預けるから三箇所から別々に解析してみましょう」

「それじゃ飛びますね」
「了解、気をつけて」
 補助シートにアークを乗せてユウキのR−01が滑走路に立っていた。本来ならば飛び立つためのものだが、今は
それに合わせてコバルトはUNKNOWNとロレンタに連絡を入れた。
「操作は分かる?」
「大丈夫ですよー心配しないでください」
「了解、アーク君がソニックフォンブラスターとかの操作するから、ユウキさんは操縦に集中してね」
「了解ですよ」
 気軽に答えるユウキ、声がいつもより弾んでいる。実際バグアと戦うわけではないので、その分気が楽なのだろう。
「それじゃ百メートル毎に連絡を出します」
「お願いね。UNKNOWNさん、ロレンタさんもいい?」
「大丈夫だ」
「いつでも」
 二人に確認した後、コバルトはR−01に乗り込んだユウキとアークに手を振ってサインを送った。それに従い動き出すR−01、百メートル、二百メートルと離れていき五百メートルを越えたあたりでコバルトにロレンタから通信が入る。解析が不可能になったということだった。それを聞いてコバルトが
「そのあたりが限界みたい」
「結構狭いんですね」
「その当たりはまだ改良の余地があると思うわ。とりあえず三つの解析の結果をまとめてみるから一度戻ってきてもらえる?」
「了解」
 その後能力者達は解析機を抱え、小屋へと戻る。三枚の結果を見比べながら一つのの結果に行き着く。だがそれが新たな一つの問題の始まりとなった。

「解析機が三つ必要なことがわかった。問題はどのように配置するのかって事か」
「やっぱり友軍機に手伝ってもらうってことがいいんじゃない?」
「戦闘機形態で戦うことを考えれば誰かに手伝ってもらうしかないわけですが、手伝ってもらったと仮定して、三つの画像から操縦者が判断するのですか? それこそ訓練が必要になるかと思うのですけど」
「画像の統合は機械の方でできるんじゃないかなー? 立体的な画像ならある程度誰が見ても判断できると思うんだけど」
「統合が可能だと仮定してもだ、解析機から通信が来ないと解析もできないだろう」
「それじゃ集音、解析する機械と自動で解析結果を送ってくれる機械の二つをつくるのですか?」
「できれば一緒にまとめたいね。錬力とか使っていいから」
 会議は早朝まで行われた。行き着くところは小型化と高性能化、そして他者との連携の必要性の有無、そして錬力の使用量だった。数々の意見が出た中、まとまったのは多少多めに錬力を消費しても一人で操作できるものだった。
「集音と通信だけを出来る小型機を雪のように偽装させてつつ展開し、統合と解析をするという形が一つの理想ということになった」
「小型機は最悪消耗品でも構わない。できるか?」
「乗りかかった船だからね。やるわよ」
 遠慮しつつも自信を見せるコバルトに、納得しながら能力者達は後にしたのだった。