タイトル:【永久氷壁】伝承人捜索マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/01/16 17:11

●オープニング本文


 西暦二千九年一月、グリーンランドUPC軍チューレ基地にてマックス・ギルバートの任命式が行われた。階級ではなく特務大使としての任命だったが、マックスは気にした様子は無かった。
「いいのか、特務大使」
「この方が動きやすいからな。階級なんてものが役に立つのは初対面の軍人に会う時と軍隊を動かす時と給料日くらいだ」
「無いよりは有る方がいいと思うけどな」
 息子であるトーマス=藤原と自室に戻ったマックスはすぐに支度を整える。焼いたせんべいを天日に干し、秘蔵の醤油だれに漬け込む。そんな趣味の領域を超えた作業を一通り終え、トーマスはやっと本題を切り出した。
「それで何を調べるつもりなんだ? 特務大使ってことはまた何かやるんだろ」
「まぁそんなところだな。この前捕まえた管制官の女性、覚えてるか?」
「俺達を事故死させようとした奴だな。もちろん覚えてるぜ」
 マックスとトーマスはチューレ基地に到着した当日、管制官であるユリアの手により滑走路を捜査され事故死を企てられた。運良く死亡は免れたものの負傷は避けられず、半月の入院を余儀なくされていた。
「それじゃ彼女が最後に『私達を殺さなければ子供が殺される』と言ったことは?」
「何となく覚えているな。そいつを助けに行くのか?」
「そうだ」
 マックスの返答に複雑な表情を浮かべるトーマス。確かに自分達のせいで子供がさらわれたと言われれば気になるのは事実だが、だからと言って軍を動かすほどのものではないと思ったからである。
「何か特務大使が動くほど気になるものでもあるのか?」
 率直な疑問をトーマスはぶつける。するとマックスはやっと真面目な表情を取り戻して答えた。
「彼女の旦那はグリーンランドの出身で、このあたりの伝承に詳しいらしい。どうやらそれに関係しているようだ。彼女が聞いたことある話をかいつまんで教えてもらったが、その中の一つに永久氷壁に眠る怪物というのがあってな。どうやらそれが私達と関係しているらしい」
「永久氷壁ねぇ‥‥そういえばマンモスが眠っているとか聞いたことはあるな」
「それと似たようなものだと私も考えている。だがバグアが怪物の容姿を真似るという話もあるからな、戦力増強は避けたい。それに子供の命がかかっていると言われれば寝覚めが悪いからな」
「まぁ、それはそうか。だがその永久氷壁はどこにあるのか手がかりはあるのか?」
「彼女の夫が調査に駆り出されているらしい。それを発見次第奪還するのが今回の任務だ」
「なるほどな」
 上唇を少し舐め、納得した様子を見せるトーマス。だがマックスの言葉を反芻している内に不可解な点に突き当たった。バグアが永久氷壁を狙っていると言うのは、マックスの推論だということである。
「だが特務大使、根本的な問題なんだがバグアが永久氷壁を狙ってなかったらどうするんだ?」
「その時の事も考えてある」
 おもむろに荷物を漁るマックス、そこで彼の取り出したものは星乃寒梅と書かれた日本酒だった。
「この前妻から届いてね、日本で有名なものらしい。これに永久氷壁の氷を使って宴会を開く予定だ」
 それはやっていいものなのか、こめかみに感じる痛みを抑えつつ、トーマスは依頼を出しにいくのだった。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ハルトマン(ga6603
14歳・♀・JG
M2(ga8024
20歳・♂・AA
神宮寺 真理亜(gb1962
17歳・♀・DG
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG

●リプレイ本文

「宴会ができるって聞いたんだけどな」
「もちろんやるつもりだ、期待していいぞ。つまみに桜海老も準備しておいたからな」
「それってつまみになるんですか?」
「つまみなら俺が作ろう。そこそこ未満人並み以上の腕だと自負している」
「それって具体的にどれくらいの腕前なの?」
「冷凍みかんなら自信がある」
「それは美味しそうですね」
「それって料理なのか?」
「私は珈琲があれば構いませんが?」
 依頼初日、能力者達はチューレ基地に作られた対策本部に集まっていた。大仰な名前は付けられてはいるが、実際はマックス・ギルバード(gz0200)の部屋に過ぎない。それでも今まで部屋さえ与えられず息子のトーマスと相部屋していたのだから、進歩といえば進歩なのかもしれない。
「まずは伝承について教えてもらえるかしら? イメージを膨らませておきたいからね」
「私もお願いしますっ。教官には成長した姿を見てもらいたいですから」
 落ち着いた雰囲気を出すキョーコ・クルック(ga4770)の隣でクリア・サーレク(ga4864)は敬礼の姿勢をとっていた。この一年で成長した自分の姿を見せたかったのだろう、その姿にトーマスも喜んでいる。
「その様子を見ればわかる。努力したんだろ」
「まだまだ卵からヒヨコにクラスチェンジしたぐらいですよ」
「俺も一軍人から煎餅屋見習いに進化させられたけどな」
「させられたとは酷い言い草だな。俺は醤油の芳醇な香りをお前にも味合わせてやろうと思ってだな」
「おかげで身体中に醤油の匂いが染み付いたけどな。犬に吠えられそうだぜ」
「でもまぁいいマーキングになってるぜ」
「久しぶりに持ち上げられたと思ったらこれかよ」
 地堂球基(ga1094)の言葉に苦笑を漏らすトーマス、誤魔化す様に地図の配布を始める。全員に回ったところを確認してマックスが話し始める。
「それで話を戻すと、この辺りにはかつて怪物がいたそうだ」
「怪物?」
「詳しいことまでは聞いてないが、氷の下に潜む巨大な生き物らしい。漁で不当に魚を獲ろうとすると襲われると言われていたらしいぞ」
「どこかで聞いたことがあるような話です」
「クラーケンみたいだな」
「昔の伝承話には戒めみたいなものがあるからな」
 感想を漏らすハルトマン(ga6603)とアルヴァイム(ga5051)、それに対し神宮寺 真理亜(gb1962)が冷静に意見を述べる。
「事実よりも人の生き方や考え方を重要視する傾向がある」
「まぁそれも事実だな。伝承は古い時代からの言い伝え、多くの人に言われる中で事実は歪められる事もある」
「だけど事実が無いってわけでもないんでしょ? どこかでそんな話もあったような気がします」
「ですよ。それにバグアも動き出しているんでしょ? まずはやってみましょうよ」
「別にやらないって言ったわけじゃないでしょう」
 M2(ga8024)と澄野・絣(gb3855)の言葉に神宮寺は普段通りの冷静な姿勢をとったまま答える。
「何が出てくるかわからないから気をつけてってこと」
「それはありますね。幻影ありますし」
「確かに正直それが一番怖いんだけど、だからといって怯えていても仕方ないからね」
 最後に自分達の行動を再確認し合い、時計を確認して能力者達は本部から飛び出していった。

「こちら神宮寺。作戦開始より三時間が経過したが、キョーコ殿大丈夫だろうか」
「大丈夫よ。それよりそちらはどう?」
「残念だが雪と氷の世界だ。それらしきものは発見できない」
「だよね〜まぁ始めから分かっていた事だから取り立てて言うつもりはないんだけど」
「しかし寒い上に視界が悪い。これは精神力の勝負だな」
「あとは錬力ね。無理だけはしないように」
「了解だ」
 同日A地点、キョーコと神宮寺のKVがゆっくりと上空を旋回していた。時間はまだ夕方というべき時間であるが、既に日は西の空に沈んでいる。そのためか視界が良いとは言えない状況になりつつあった。
「寒い寒いとは聞いていたけど、覚悟さえしておけば何とかなるものね」
「その辺りはアルヴァイム殿に感謝するべきでしょうね」
「そうね。後でおいしい珈琲でも入れてあげましょう」
「その前に好みを確認した方が良いかと思う。一口に珈琲と言っても豆の種類だけでかなりの数になるらしいからな」
「それもそうね。折角準備するのなら好みに合わせてあげたいし」
 話しながらも周囲への注意を怠らず二人は進んでいく。だがまもなくB地点との折り返し地点が見えてくる。
「いなかったわね。まぁ初日から出てきてくれるほど楽な相手じゃないと思ってたけど」
「気分を一新してもう一往復いきましょう」
「そうね」
 錬力にはまだ余裕がある。二人で任務を行っているためか集中力にもまだ余裕はあった。ゆっくりと操縦桿を曲げ、二人は旋回していくのだった。

 同じ頃、地堂はリッジウェイの後部で観測を行っていた。操縦はサポートに入ってもらったLoland=Urga(ga4688)、地堂は彼の頭越しに双眼鏡で周囲の様子を眺めていた。
「何か見えるか?」
「いや、見渡すばかり銀世界だ。動いてないようにさえ見える」
「起伏すくねぇからな。色んなとこ見ては来たが、ここは風景まで死んだようだぜ」
「誰が上手いことを言えと言った」
「HAHAHA細かいことは気にするんじゃないってことだ」
「実際起伏は少ないけどな。おかげで見晴らしはいいはずなんだが、そうとも言えないのが曲者か」
 雪明りのため上空から観測するクレアよりは視界は開けてように二人は感じていた。沈む太陽光の乱反射のためか幻想的にさえ見える。だが今はそんなことに感傷に浸る余裕は無かった。
「戦車砲の準備はできているか?」
「問題ないぜ、いつだっていける。それより定時連絡の時間じゃないか?」
「だな。まずはクレアに連絡を入れるとしよう。その間周囲への注意も頼む」
「了解だ」
 早速連絡を入れる地堂、だがクレアも他の班もまだそれらしきものを見つけていないという。
「伝承みたいなものだから特定条件化じゃないと無理じゃないのかな? 封印とかされてるかもしれないし」
 クレアからは他に専門家がいるのではないかという意見が出ていたが、それに関してはマックスとトーマスが奔走しているらしい。その後二時間おきに交代をしつつ観測を続ける地堂とLolandだったが、その日のうちに見つけることはできなかった。

 事態が動いたのは四日目、雪の日だった。風はそこまで強くないが視界は悪い。雪に身を隠せるというメリットはあるが、それは敵にとっても同じことだった。B地点の観察を努めていたアルヴァイムと澄野は普段以上に周囲に気を配っていた。
「レーダーの方は何か反応ありますか?」
「ありませんね。もちろん澄野様を除いてですが」
「私の反応が無くなったらよろしくお願いしますよ」
「怖い事をおっしゃらないでください。最悪の事態を想定するのは傭兵でもビジネスマンでも同じですが、口にすると現実に招き入れますよ」
「本当なのですか?」
「私の経験則ですけどね」
 現在澄野はアルヴァイムの前を飛んでいる。少しでも情報収集に集中してもらいたいという彼女なりの配慮だった。だがまだそれらしき反応は無い、標的を見つけるために二人はB地点とC地点の境界付近を飛行していた。
「今更言うことではありませんが余り視界がよくない。先行のしすぎには気をつけてください」
「了解しました。何かありましたら連絡下さい」
「了か‥‥」
 アルヴァイムの語尾が途切れる。回線の不調を疑う澄野だったが、機器はオールグリーンを示していた。続いて天候によるものと判断し呼びかけを続ける。
「アルヴァイム様、聞こえますか? 聞こえましたら連絡を、アルヴァイム様」
「‥‥えます。一時的な不調に陥っただけでしょう。レーダーにも何も‥‥」
「レーダーにも何ですか?」
「‥‥に反応、数は二。繰り返します、前方に反応、数は二」
「二? M2様とハルトマン様ではないでしょうか」
「呼びかけてみましょう。お二人なら反応があるはずです」
「ですがもし敵なら相手にこちらの所在が割れますよ」
「最悪の事態は想定しても口にしないこと、それにハルトマン様なら雪上用に冬季迷彩をしているはずです」
「そうでしたね」
 アルヴァイムの言葉に落ち着きを取り戻す澄野、だがアルヴァイムとしては最悪の事態を口にしていなかった。それは二人がMIに侵されている可能性だった。
「M2様、ハルトマン様、聞こえましたら連絡をお願いします。M2様、ハルトマン様」
 呼びかける澄野、だが反応は無い。アルヴァイムはレーダーに注意を払いつつも祈るような気持ちで通信に耳を傾けていた。
「こちら澄野、M2様、ハルトマン様、聞こえていましたら連絡を」
「‥‥げて」
「何でしょう? よく聞き取れません」
「逃げて! 敵の所在がわかったから」
 それはM2の声だった。わずかに安心を覚える澄野だったが、同時に一瞬の混乱に陥る。ハルトマンが代わって説明に入る。
「煙幕で敵の目を欺いてきました。場所はここより少し東の地点です」
「幻影じゃないのですね」
「確認のため一体は倒しました。間違いありません」
 M2とハルトマンの話を受け、選択範囲を広げるアルヴァイム。確かに二人の話通りいくつかの存在が確認できた。
「敵の種類はMIとMRを中心としたキメラ部隊、ヘルメットワームの姿は確認できませんでした」
「予想ですが、バグアも隠密行動の途中だったのでしょう。ですがユリアさんの旦那さんを人質にしているのであれば知能のある敵がいると思います」
「わかりました。まずは全力で逃げましょう」
「他の部隊への連絡は私が入れよう。まずは呼吸を整えるといい」
 澄野とアルヴァイムに守られるようにして帰還する。拍手で迎え入れられ、やっと自分達が任務を達成した事に安堵する。
「敵の部隊が少ないのなら好都合か」
 報告を受け、マックスは自体を整理する。
「他に伝承に詳しい人がいないかはこちらでも調査をすすめよう。だがユリアさんの旦那さんを放置しておくのも気がかりだ。奪還できないか計画を進めておく。その時は君達の力をまた借りるかもしれない」
「何水臭い事言っているんの?」
 キョーコとクレアが笑う。
「またおいしいお酒準備しておいてね」
「ボクも早く教官に追いつきたいですからね」
「頼もしい返事だ」
 星乃寒梅を取り出すマックス、そして希望者に振舞うのだった。