●リプレイ本文
早朝のカンパネラ学園、まだ登校してくる生徒もまばらな時間帯ではあったが依頼を受けた能力者達は集まっていた。まだ朝早いせいか、地下に設置されているシュミレーター室の空気は肌寒さがある。今回の参加者の一人であるヨグ=ニグラス(
gb1949)は何度か授業で経験したことのある空気だったが、まだ慣れてはいなかった。
「緊張しているのか?」
「そうでもないんですけどね」
ヨグが振り返ると、そこには山崎・恵太郎(
gb1902)が立っていた。今回のシミュレーター訓練ではソード(
ga6675)と組み、MRと対戦する予定になっている。まだ手持ち無沙汰なのか、片手をシミュレーターにおいて体重をかけている。
「今回のシミュレーションは今後に向けても一つの山だからな」
「山ですか?」
「そうだ。MRの分裂は俺も気になった。分裂後五分以内に撃墜できるか、それをためしてみたくなった」
「できるんですか?」
「できるかどうかわからないから試してみたいんだろ?」
「それもそうですね」
口ではそう答えるものの、ヨグとしては分かったような分からないような、そんな気分だった。それをごまかすようにどこからともなくプリンを取り出し食べ始めるヨグ、それを山崎は笑顔で見つめていた。そこに話を聞きつけソードも歩いてくる。
「俺も胞子を焼いてどうなるのか試してみたかったんだ」
「できなかったらできなかったで別の方法を考えるだけだけどな。サイドカーなんかのオプションも考えて欲しいと思っているところだしな」
「確かにな。個人的にはシュテルンの垂直離着陸も試してみたい項目の一つだ」
これから行われるシミュレーションに期待を寄せ、ソードは楽しげに言う。だが二人の考えはその後行われた説明で多少変更を求められることになった。
「今回のシミュレーションは、私達が収集したデータでどれだけ正確な動きが再現できたかを評価してもらうことにあります。実物より強い可能性もありますが、弱い可能性もあります」
「つまり、ここで出来たものが実際にはできない可能性もあるって事か」
「端的に言えばそういうことだ」
「仕方ないんじゃない?」
いつも通りの陽気な笑顔を見せつつクリア・サーレク(
ga4864)は言う。
「入学式はこっちも相手も新型の見本市みたいなものだったし、正直私自身も戸惑いが多かったからね」
「そういうことで納得してもらいたい。今後バグアがどんな攻勢に出てくるか分からんが、こちらとしても早急な手を打つしかなかったんだ」
「まぁまぁその辺でいいんじゃない?」
火絵 楓(
gb0095)も同意しつつ答える。
「こっちとしては一戦やらせてもらえるだけでもありがたいし、何か違和感みたいなの感じたことがあれば言えばいいんでしょ?」
「そういうことです」
コバルトが頷く。
「その代わりというわけではないですが、ショップで扱われている商品の情報は入力してあります。安心して下さい」
「了解した」
ソードも納得する。ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)もソード同様シュテルンでの参加を予定していたため、密かに溜飲を下ろしていた。
「照明弾もありますか?」
「大丈夫ですよ」
その言葉にパディ(
ga9639)も安心する。だが問題だったのはロレンタ(
gb3412)だった。
「アクティブソナーは使えるだろうか?」
「アクティブソナー?」
「潜水艦などで使われる音を出すあれか?」
「そうです」
自信を持って言うパティ、だがコバルトと南条は難しい顔をする。
「何か問題でも?」
「単純な問題だが、ソナーのデータを入れていないのだ」
「でも何かしら手がかりになるかもしれないわね。ちょっと調整してみましょう」
「お願いします」
「ついでにサイドカーもできたらお願いします」
早速作業に取り掛かろうとするコバルトに山崎は言って見るも、コバルトは考えておくと答えるのみだった。
まず行われたのがMI対策のヨグ=ニグラス、クリア・サーレク、パディの三人だった。
「それじゃよろしくお願いします」
「よろしくー」
「こちらこそ」
簡単に挨拶を交わし席に座る三人、彼らの後ろには南条が見守る。本来はコバルトも観察役として入るはずであったが、今はアクティブソナーのデータ作成に取り掛かっているため、南条が一人で立ち会っている。
「それじゃ始めるぞ。死なないようにな」
まもなく三人の前に雪原が現れる。遅れて現れるMI、行動に移る前に南条が注意を飛ばす。
「さっきも注意したが、これは本物のMIじゃない。俺とコバルト女史が手に入れたデータをもとに作ったもんだ。実物は幻覚が出るらしいが、実際どのような影響が出るかわからない。今は視界を狭くすることで幻覚を表現していると思ってくれ」
「‥‥了解」
パティは多少落胆したように答える。彼にとって今回の参加目的の一つが幻覚にどのようにすれば耐えられるかだったからだ。そんなパティの様子が気になったのか、クリアが南条に質問する。
「一応確認なんですけど、幻覚の正体とかってまだわかってないのです?」
「残念ながらな。それが分かっていれば対処の仕方もあるんだが、手がかりらしきものが無い。それで受けた症状から幻覚の症状を特定しようというのも、このシミュレーションの目的の一つだと思って欲しい」
「それもそうですね」
残念そうに答えるのはヨグだった。
「解決策見つかっていれば、対策入っているはずですし」
「そういうことだ。だがコイツ自身も攻撃力がそれなりにあると聞いている。小型ながらもプロトン砲ということでシミュレートさせてもらった」
「それは当たりたくないですね」
「当たらなければいいって」
「その息だ。それじゃ始めさせてもらうぞ」
シミュレーション上のMIが移動を開始する。序盤は緩慢な動きを見せているもののKVを発見するや胞子のようなものを発射した。
「あれが幻覚の元か」
「みたいね。ソニックフォンブラスターを使うわ、って効果あります?」
「多少紛らわせる事は出来ると思うぞ」
「了解」
とは言え、目に見える程の効果は得られない。やがて幻覚が発動、視界が狭くなる。ヨグが照明銃を使用するが、狭い視界の中では影の確認さえ難しかった。
「これ、効果は重複するの?」
「一応重複しない設定にしている。最も上書きするだけなら楽だがな」
「どうでもいい」
覚醒するパディ、だが擬似幻覚状態ではやはり充分な動きはできない。敵が一匹ということで回避に専念すれば避けられない事も無かったが、攻撃に転じるには辛い状況だった。
「いやぁ‥‥これはまいりましたね」
「時間制限あったけど、あれは何か理由があるんです?」
「胞子の活動にも時間があるらしい。証拠として戦場跡に胞子が残っていなかったということだ」
「見つけ切れなかっただけとかいうことは無いでしょうか?」
「今度グリーンランドに行く用事がある。その時に確認してこよう」
「よろしくおねがいします」
不満を残しつつ席を立つ三人、続いてMR戦を予定している山崎とソードが準備に入る。
「先ほどの戦闘見ていた感想としては、勝負は幻覚が出るまでと見たがどうだろう?」
「それも一つの作戦だろう。だが数が出た場合、打つ手が無いぞ」
「その時は総出でやればいい。まずは何かしら攻略する手がかりを見つけることだからな」
「頼もしい言葉だな。だがMRはMIと勝手が違うから気をつけてくれ」
「その程度は了解してますよ」
煽てられて上機嫌になっているのか、気軽に答える山崎。だが実践では苦戦を強いられることとなった。
「南条さん、数が多すぎやしないか? こっち二人なんだが」
「それが問題なんだ。MIは一体でも充分に練習になるが、MRは親ワームを探し出し撃墜することが目標となるからな」
「その方が練習する甲斐がある。いくぞ、ソードウィング」
MRの群れに飛び込んでいくソード、山崎が高分子レーザー砲で援護に入る。
「火属性ならどうだ?」
「衝撃がくるぞ。空気を吐け」
「本当か?」
「悪いが現在はダメージ全般を跳ね返す設定にしてあるんだ」
南条の言葉とともに衝撃が襲い掛かる。そしてMRが壁を形成、ソードは急降下して脱出路の確保に入る。
「ソードさんもダメージ来てるのか?」
「来てるね。ここから本当は錬剣で親ワームまで突撃をかけたいところだが壁が厚いな。反動でくたばるかも知れない」
「おいおい、大丈夫かよ」
「山崎さんが穴を開けてくれれば楽だが、出来るか?」
「期待されちゃやるしかないでしょう。練習だしな」
「そうだな」
意気込む二人、だが南条が口を挟む。
「垂直離着陸能力の事を言っているみたいだが、あれは必要以上高度をあげられないぞ。高度維持として使うこともできないはずだ」
「無理か、ならばせめて本体以外を一掃するか」
ソードは一度地面へと着陸し再度離陸、その後ろに山崎が続く。そしてソードはPRMシステムを発動させK−01を発射、撃ち漏らしを山崎が狙っていく。MRの群れの中から親ワームの影が見えてくるときだった。突然シミュレーターの電源が落ちる。南条が強制終了したからである。
「練習だから試したいという気持ちも分かるが、無謀すぎる。それなりに実力もあるのだから反動がどのくらい来るか計算できるだろう?」
「だが練習しなければ‥‥」
「始めにも言ったが、これは幻覚の出来を評価する試験だ。だからこちらも金を払う。それに無理をさせてはコバルトに怒られるからな」
「消化不良ですね」
「性能が不十分な敵相手に練習してもつまらんだろ。変な癖をつけさせる訳にもいかないからな」
そこまで言われれば反論する余地も無く、ソードと山崎も諦めるしかなかった。すまんなと詫びの言葉をかける南条、それに二人は軽く手を上げて答えるのみだった。
続いてスノーストームと戦うヴァレスと火絵だが、システムの再立ち上げに時間がかかる。今か今かと自分の番を待ちわびていた火絵は待ちきれず、ヴァレスと南条に作戦の確認を求めていた。
「スノーストームって吹雪を起こすのが幻影なんですよね?」
「そうだな。最も情報の大半がニコライによるものらしいから、どこまで信頼できるかは不明だがな」
「ちなみに吹雪に法則性などはあるのです?」
「正直あってほしいんだがな。そうすれば弾道の計算がしやすい」
「その答えを聞く限り、法則性は無いってこと?」
「それも検証中だ。変更できる可能性が高いというのが個人的な見解だけどな」
「弾道を変える為ですか?」
「それもある。だがスノーストームは今のところ敵の最新鋭機だろ? 吹雪だけ起こせて弾道計算されちまうような奴を俺は最新兵器だと認めたくないんだ」
「その考え気に入った! 南条さん、あなたいい男だね」
「それはこの年で妻も子供もいない俺への当て付けか?」
「人間減ってるから、いい男を見る目を持った女も減ったってことでしょ」
「笑えない冗談だよ、それ」
ヴァレスが言うと、南条も苦笑を浮かべる。それと同時に立ち上がるシステム、ヴァレスと火絵は話をそこで打ち切り、モニターと向き合うことにした。
「さっきも話したが、吹雪は時折変化する。巻き込まれないように」
「大丈夫だよ。俺は超長距離砲に徹するつもりだから」
「それ、あたし一人危険に飛び込めっていうの? こんなにか弱い女性なのに」
「でも結構オイシイって思ってるでしょ?」
「あら、バレバレ? それじゃ火絵楓突貫します!」
UK−10AAMを全弾吹雪の中に放り込んで、火絵の乗ったディアブロは吹雪の中心へと突入を図る。一方でヴァレスはレーザーライフルを構え、風の弱い位置を探っていた。
「どっか、風の弱い部分とか知りません?」
「そんなのあったら面白くないだろ」
「楽しんでませんか?」
「強敵の登場にわくわくしているのは俺だけじゃないようだが?」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう」
アームレーザーガンを撃ちながら火絵が叫ぶ。彼女の前には既にスノーストームが現れていた。
「ちょっと吹雪ののまれて三半規管おかしいから手伝って〜」
「それじゃ敵が狙撃できるところまで引き付けてよ」
「またあたしに吹雪の中を通り抜けろっていうの?」
「スノーストーム倒したら吹雪もなくなりますよ」
「ヴァレスさんあったまいい〜ソードウイング全開でいっちゃうよ」
「いや、真に受けてもらいたくないんだけど」
だがヴァレスの言葉を聞く前に飛び込んだ火絵は返り討ちにあう。仕方なくシュテルンの特殊能力である垂直離着陸を使えるよう低高度を滑空、風の中心地点で着陸離陸を行い上空めがけてPRMシステムを発動したレーザーライフルを使用したが、そこまでだった。
「まだまだまひるんを扱いこなせない、か。精進精進っと」
「ウゲ〜そんな事より〜あたしゃ〜ウガ〜!! シュミレターでよった〜きもちわるい‥‥」
「吹雪が強すぎたか?」
喚く火絵をなだめるように南条が声をかける。だがヴァレスも困惑した表情を見せる。
「実は俺も戦ったこと無いんですよ」
「それじゃ吹雪がどれぐらい強いかわからないか」
「だけど強い方がいい練習にはなるんじゃないですか?」
「彼女を見て、その言葉言えるか?」
二人の視線の先にいたのは、まだ一人騒いでいる火絵であった。
三組が終わったところでコバルトが戻ってくる。だが表情は険しい、最後まで待ったロレンタが声をかける。
「アクティブソナーは難しかったですか?」
「結論から言えば、音の速度が遅いのが問題みたいね。後は反響の問題」
「反響?」
「障害物が多い場所だと難しい気がするわ」
「なるほど。では今回のシミュレーションでの各機の動向などのログをいただけませんか?」
「それはまず私じゃなく、他の人に確認を取ることね。それとアクティブソナー搭載のKVはちょっと気になることがあるから何とかできないか私の方でも調べておくわ」
「ありがとうございます」
「サイドカーは?」
「そっちも考えておくわ」
全員に了解を得るロレンタ、そして新しいKVに期待して能力者達は学園を後にしたのだった。