タイトル:【CE】入学式記念マラソンマスター:八神太陽

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/20 10:47

●オープニング本文


 西暦二千八年十二月、カンパネラ学園教師である南条・リックは自室で青空に浮かぶ雲をぼんやりと眺めていた。この空が遥か海の向こう、今年の入学式の会場であるグリーンランドと繋がっているのかとぼんやりと考えていた。
 今朝、職員会議で今年の入学式がグリーンランドで行われることが発表された。だが正直実感が沸かない。何故グリーンランドでやる必要があるのか理解できなかったからだ。説明は一応あった。入学者の激増、バグアのランダムとも言える攻撃、場所の確保、来賓のスケジュール等が理由らしい。だがやはり釈然とはしなかった。
「いっそのこと、グリーンランドの平定のためと言ってもらったほうが分かりやすいんだがな」
 聞いた話ではグリーンランドでもバグアが出るらしい。そいつらの牽制なり退治なり言ってくれたほうが南条にとっては理解しやすかった。もちろん世の中そんなに分かりやすくできているわけではないのだろう。だが能力者でもない一兵卒上がりの彼にとって、そんな小難しい話は犬にでも喰わせちまえばいいものだった。
「今回の入学式に納得できないのは俺だけじゃないんじゃないだろうか」
 椅子の背もたれに体重を預けながら、南条はそんなことを考えていた。短くなった煙草から立ち上る紫煙が、自慢のリーゼントをかすめて窓の外へと逃げていく。その様子を南条は何となく見つめていた。
 自分の単細胞ぶりは重々承知している南条ではあったが、それでも教師という手前それなりに説明を受けている。だがそれでも理解できなかったということは、生徒の中でも理解できない奴は多いのではないだろうか。それが彼の行き着いた結論だった。そして結論と同時に一つの考えが浮かぶ。ならば何か分かりやすくする企画を考えてやればいいのではないか?
 そして思いついたのはグリーンランドを一周するマラソン大会、もとい雪原行軍であった。

●参加者一覧

/ 比留間・トナリノ(ga1355) / アルヴァイム(ga5051) / 百地・悠季(ga8270) / 神浦 麗歌(gb0922) / RENN(gb1931) / フェイス(gb2501) / 美環 響(gb2863) / エリザ(gb3560) / 青海 流真(gb3715) / 織部 ジェット(gb3834) / ファーリア・黒金(gb4059

●リプレイ本文

「オーロラが見たい‥‥か」
「別にこのマラソンを甘く見ているとか思っているわけじゃないのですよ? むしろ行軍訓練の一環で、これからの戦闘を有利に動かすためのものだとわかっています。ですがだけそんなご褒美というのでしょうか、そんなものがあってもいいかとも思いませんか」
「俺、悪いとか言ったか?」
「‥‥」
「やるなら楽しんで来い」
 マラソン大会の前日の夜、チューレ基地の外に作られた即席会場に参加希望の能力者と大会スタッフによる簡単な出発式が行われた。景気づけのためにウォッカが振舞われたが、学園生など未成年者もいたためオレンジジュースも準備されていた。同時にルールの最終確認や申請されていたGPSや通信機、アルヴァイム(ga5051)と神浦 麗歌(gb0922)から申請が来ていたソリ、そしてスコップが配布されることになった。
「ところで先生はオーロラを見たことあるんですか?」
 美環 響(gb2863)がオレンジジュースを片手に南条に尋ねる。もう片方の手には情報収集デジタルカメラが握られているおり、南条を撮影していた。
「ないんだな、これが。今日でてくれればありがたかったが、生憎こんな天気では見られないらしい」
 オーロラが見られたらいい。それが外で開会式が行われた理由のひとつだった。だが外は曇っており、地元の人に言わせればこんな時には出てこないという。そのためかいつも以上にそそり立っていた南条の髪型も、どことなくうなだれて見えていた。
「オーロラっていうのは本来は常に出ているものらしいんだが、天気や周囲の場所なんかの条件で見えたり見えなかったりするらしい」
「そうなのですか?」
 小刻みに身体を震わせて寒さを絶えていた比留間・トナリノ(ga1355)が思わず大きな声を上げる。
「うっうー! こ、この寒さは死んでしまいます‥‥誇張抜きで!! オーロラが見られると思って我慢していたのですが、見られないのですか?」
 彼女の傍では同じチームであるフェイス(gb2501)、織部 ジェット(gb3834)も備え付けられたストーブのそばに陣取っていた。マップを見渡しつつ、行軍ルートを確認していたのだが、織部は負傷中ということもあって余り無理をしないで済む方法を考えているところだった。
「オーロラ自体にはそれほど興味ありませんが、その天候というのは気になりますね。何かの指標になるかもしれません」
「一応断っとくが、ドクターのチェックは受けてきてる。競歩程度だが逃げることも可能だぞ」
 フェイスの言葉をバグア登場の前触れだと考えたのだろう、織部は多少意固地になって自分の頑丈さをアピールする。するとフェイスは僅かにはにかんだように笑い、ストーブの火で手持ちの煙草に火をつけた。
「別にそこまで考えてませんよ。ただ吹雪けば視界は当然悪くなる。このような寒冷地特有の現象でしょうけど、それを味方につけたバグアがいたらやっかいだなと思いましてね」
「それは同感ですね」
 話に割り込んだのは百地・悠季(ga8270)だった。半歩引いたところにはアルヴァイムが控えている。
「あいつらは頭がいい。悔しいけどあたしたちと同等の事は考えるべきだと思うね」
「つまり、吹雪に身を隠すと?」
「そう。うまくいけば同士討ちなんかも狙えるかもしれないからね。あなたは他に何か思い浮かぶ?」
「やはり地形でしょう」
 アルヴァイムが答える。
「このグリーンランドが今後どれほど重要な意味を持つのかは分かりませんが、一つだけ確実にいえることは交通の便が悪いということです。巨大な島だとは知っていますが、この島だけで武器防具類を間に合わせるのは不可能だと思われます」
「つまり飛行機やKV、タンカーや揚陸艦、そういったものに適した地形が狙われるということね?」
「そうです」
 比留間の言葉にアルヴァイムは頷いた。
「ですから私はそういったところを重点的に見てまわるつもりです。百地様と一緒に」
 先程まで半歩前にいた百地がいつも間にか半歩下がり、アルヴァイムの隣で腕を握っていた。そういう関係なんだと納得する一同、そんな中で青海 流真(gb3715)がアルヴァイムに声をかけた。
「それなら僕も手伝いますよ。沿岸沿いまわるつもりだったからちょうどいいし」
「それは助かりますね」
 答えるアルヴァイム。だが青海の視線はアルヴァイムではなく、カンパネラ学園の生徒である柿原 錬(gb1931)を向いていた。
「というわけだから錬君一緒に行こう?」
「え?」
 先程まで周囲の話に耳を傾け笑っていた柿原は突然素っ頓狂な声を上げた。
「いや、僕は一人でも大丈夫だから」
「え?」
 今度は青海が素っ頓狂な声を上げる。
「ダメ‥‥かな?」
「駄目とかそういうのじゃないんだ。ただ今回は僕一人でどこまでできるかを試してみたいんだ」
「そう‥‥なんだ」
 笑顔で寂しさをごまかす青海、だが心の中では柿原を追いかけることを強く決心していた。一方でファーリア・黒金(gb4059)は沿岸より多少内側を回る予定だったため、離着陸地点になりそうなところが無いかを調べてみるとアルヴァイムやフェイス達に算段をつけている。そんな話を聞きながらエリザ(gb3560)は、不可解なものを感じていた。
「一ついいかしら?」
 前置きをおいてエリザは南条に問いかける。
「今回のマラソンがグリーンランドでの今後の戦闘を有利にするためのものであることは分かります。ですがやはり無理があるのではないでしょうか?」
「無理?」
「そうです」
 南条の問いにエリザが即答する。
「私達は能力者ですが同時に人間でもあります。このような土地では生命活動としての限界をいずれは迎えるでしょう。安全を考慮して、AU−KVのバイク移動やKVでの移動も認めてもよかったのではないでしょうか?」
「それも悪くは無いんだがな」
 南条は一呼吸置いて周囲を見回した。同様の質問を抱えていた参加者がいるかもしれないと考慮したためだ。そしてゆっくりと全員の顔を確認して答える。
「一つはバグアに余計な刺激を与えたくないということだ。AU−KVならともかく、KVの飛行形態はその大きさもありどうしても見つかりやすい」
「もう一つは?」
 エリザに代わり青海が尋ねる。すると今度は南条に変わり神浦が答えた。
「自分の限界を知るためですね。今後の戦闘で自分達がどこまでやれるのか、それを知っているだけでも戦略に幅が出てきます」
「その通りだ」
 南条が答える。
「もう気付いている者も多いようだが、今回のマラソンは行軍訓練の一種だと考えてもらって構わん。それ相応の覚悟で挑んでもらいたい」
 南条の言葉を最後に前夜祭は終了となった。三々五々に散っていく能力者達、その様子を薄暗い闇が覆っていった。
 
 そして出発初日、早速というか来るべきというか、能力者達を出迎えたのは吹雪だった。ひっきりなしに降り続く雪と、心の底まで凍て尽くすような風が周囲に吹き荒れる。能力者達は一時チューレ基地入り口へと避難し、開会を見合わせている。昼過ぎには多少落ち着くということだったが、まだその様子は見えない。不審がる能力者達に南条は一つ発破をかけた。
「一応聞くが、出発取りやめにする人はいるか?」
「‥‥」
 目の前の景色がそうさせるのか、押し黙る能力者達。だが百地は笑う。
「吹雪だとバグアは待ってくれるのかしら?」
「待ってくれるといいですね。昨日の話でもでてきましたが、吹雪ではどうしても視界が狭くなりますからね」
 フェイスが答える。だがその答えには含みがあることは誰から見ても明らかだった。
「だがそんな事は前から分かっていた事だ。今更議論することもおかしいぜ」
「それも最もな意見ですね」
 フェイスの意思を汲み取ったのか、続くように跡部と比留間が答える。
「むしろ問題は単独での参加を予定されている人だと思いますが、どうしますか?」
 南条の心を代弁するかのように比留間が尋ねた。今から止めることも可能なのかとでも尋ねたげな目を一度南条に向けての発言だ。一方で尋ねられた方も、その視線の意味を汲み取り答える。
「吹雪が来ることは始めから分かっていたことです。違いがあるとすれば、それが初日に来たということ。確かに実際に目にして驚きましたが初日ならば距離は稼げない、いざとなれば引き返すこともできます」
「助けるほうとしても楽でしょう」
「多少苦労しないと自分の限界が見えてきませんから」
「沿岸部を走るから大丈夫。海好きだから問題ないわ」
 口々に答える能力者達。彼等彼女等の言葉に応える様に吹雪は徐々に収まりつつあった。
「それじゃみんな防寒対策は大丈夫だな」
 南条が全員に確認する。そしてゆっくりと外へと全員を誘導し、出発を示す空砲を空に掲げる。
「五日後、必ず帰って来い。死ぬことはゆるさねぇ。では行って来い」
 乾いた音がグリーンランドの空に響く。能力者達は思い思いの気持ちを込めて、第一歩を踏み出した。 

 初日の吹雪が功を奏したのか、能力者達は気を引き締めていた。だが二日目、三日目と好天気が続く。オーロラが出ることを期待されたのだが、明るすぎると観測できないという問題もあり、観測できなかった。そして四日目、遅くまでオーロラを観測するために待っていた能力者達を襲ったのは初日以上の吹雪だった。
「錬力残しておいて良かったわ」
 始めに帰還を計画したのはエリザ、フォーリアの単独参加組だった。早朝エマージェンシーキッドにある防寒シートから抜け出した二人は寒さから吹雪が来ていることを看破、GPSと包囲磁石を元に自分の位置を確認し、南条に帰還することを報告する。二人が運が良かったことはドラグーンであること、そして自分の力を過信しないことだった。エリザにとってはミカエルの試運転であり、食料、錬力にも気を配っていたこと。フォーリアも規則正しい生活を心がけ、無理強いをしないことだった。だが同じ単独参加組でも全員が早期帰還を考えたわけではない。柿原は吹雪の中で弱度ながらもホームシックを煩っていた。
「さすがに北極圏の近くだけ有るな寒さが全然違うよ」
 初日に体験したものではあるが、あの時はまだ周囲に人がいた。見られているという意識もあれば、助けてもらえるという気持ちもあった。いや厳密にはあったのかどうか分からない、自分の中で気付いていなかっただけかもしれない。そんな事を考えていた。
「お姉ちゃんは何しているんだろ」
 テントから顔を出そうとするが、周囲は銀世界なんて綺麗なものではなく、暖かさや自信といったものまで飲み込む白い悪魔の様相を呈していた。建て方が悪かったのか、そんな事を思い出そうとしても思い出せない。一歩を踏み出そうとしても勇気が沸かない。ただかつて感じた姉のぬくもりを求めるように右手を差し出す柿原。だが当然の如く反応は無い。消え行く連力を維持するためにAU−KVを解除、そして最後の力で救援を求める無線を送ったところで意識は途切れた。右手を差し出したままうつ伏せで倒れこむ。そしてその手を最初に握ったのは、柿原を追いかけていた青梅だった。

 残る単独参加者である神浦はスブロフを燃料に火をつけ、コーヒーを飲みながら暖を取っていた。ゴッドホープ、タシーラク、チューレ基地の三拠点を回る予定であったが、現在タシーラク近郊で足止めを食らっている状態。当初の目的である三拠点制覇を実現させるためにはどう考えても最終日にぎりぎりまで走り通すという強硬手段をとるしかなかった。そのために今は少しでも体力を維持し、何度も地図で描いて確かめた最短距離を脳裏の思い起こして復讐していた。
「後はオーロラが見てみたい‥‥かな」
 多少計画に無理はあるものの、当初の目的の大半は達成できると踏んだ神浦。心残りがあるとすれば、オーロラの鑑賞、そして何度か依頼で一緒になったフェイスの無事だった。
「挨拶はしたけど、今はどうしているかな」
 しかし人の事にまで気を回せない現実の中で、神浦はじっと耐えることを選択していた。

 そしてそのフェイスだが、同行者である比留間と急遽穴を掘っていた。ビバークである。負傷者である織部の傷が悪化したからであった。
「すまねぇな‥‥片棒担がせてしまって‥‥」
「しゃべらないでいいです。まずは体力を温存してください」
 多少きつめの口調で比留間は言う。このグリーンランドの地形の特徴なのか、遮蔽物が少なく狙われやすいように三人は感じていた。だから少しでも身を隠すことが出来、かつ暖を取れる方法として、比留間は穴を掘っていた。その間フェイスはバグアから襲撃が無いか警戒に出ている。喧嘩仲間であるゆえに互いの力量は分かる三人、だがバグアが数で攻めてくることがあれば勝つ事は出来ない。一心不乱に作業に取り掛かっていた。だが完成したのはすでに昼を回り、太陽は傾きかけている。苦笑を浮かべつつ三人は、その穴を最後のねぐらとした。

「たまにはこういうのもいいですね」
 四日目の夜、吹雪が収まった後は静かな夜だった。空には天候が回復していることを示すようにオーロラが浮かぶ。アルヴァイムと百地は互いに寄り添うようにして一枚の毛布に包まり、テントの中からオーロラを眺めていた。
「何もかもを忘れてくれそう」
「ですね」
 それは言葉にならない美しさだった。実際二人も何を話したのか覚えていない。ただ、このオーロラを他の能力者達も無事で眺めていて欲しい、そんな祈りにも似た気持ちでただただ眺めていた。

 そして五日目、帰還時間こそ違えど、能力者達は全員無事戻ってきた。ハイタッチを交わすもの、早速乾杯するもの、喜び方は人それぞれだったが、全員が一線を越えたたくましさを身に着けていた。