タイトル:極寒地での戦闘方法マスター:八神太陽

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/11 06:40

●オープニング本文


「グリーンランドか、面白そうだな」
 西暦二千八年十二月、カンパネラ学園AU−KV研究員であるコバルト・ブルーは一人考えていた。今度グリーンランドを舞台にして戦闘が起こるかもしれないという噂を聞いたからである。戦闘が起こることは本音からいえば楽しみだった。だが気になるのは雪原での戦闘である。
 寒冷地によってSESが発動しなくなるという不具合はまだ聞いた事が無い。推測ではあるが、恐らく問題は無いのだろう。だが足場が悪いことに間違いは無い。特にアイスバーン等寒冷地特有の地形には対策をとる必要があると考えていた。
「何かアイディアは無いかね?」
「寒さ対策のですか?」
 コバルトの元にはクラブ・エースことボブが呼び出されていた。学園内での喫煙が見つかり弁解の場として実力試験が行われたのだが不評、停学となるところを実験に手伝うということで免除されていた。一方でコバルトも臨機応変な対応の利くAU−KVの能力に可能性を考えていた。まだ未発達な部分がある、前回の依頼でそれをコバルトは考えていた。
「そうだ。寒冷地という特殊な環境なら、また異なる対策が必要になるだろうからな。折角だから君にも意見を聞かせてもらおうかと思ってね」
「俺なんかより、もっと経験のある人に聞いたほうがいいんじゃないですか? それにAU−KVだけではなく、KVにも適用できそうな対策考えたほうが喜ばれるかと思いますよ」
 手伝う気があるのかないのか、ボブは相変わらずトランプを扱っていた。一人ということで今はタワーを立てている。そのためか口数も少ないのだが、その事をコバルトが咎める様子は無かった。
「ふむKVもか、確かにKVの研究もAU−KVの発展につながるからな」
 一人ご満悦のコバルト、そしてボブの事を気にせず依頼を出しに行くのであった。

●参加者一覧

/ 綿貫 衛司(ga0056) / 井筒 珠美(ga0090) / 火絵 楓(gb0095) / 常世・阿頼耶(gb2835) / 青海 流真(gb3715

●リプレイ本文

「寒冷損傷に陥っても急激に暖めるよりゆっくり体の中心から暖めるのがよいでしょう」
 カンパネラ学園に新しく設けられたコバルト・ブルーの研究室には、彼女の呼びかけに答えた三人の能力者、綿貫 衛司(ga0056)、火絵 楓(gb0095)、青海 流真(gb3715)が用意されたパイプ椅子に腰を下ろしていた。三人に向かい合うようにコバルトが座り、彼女の右手、つまり能力者達の左手側にはホワイトボードが置かれ、今までの意見がまとめられていた。そのボードの横では書記役として、いつの間にか助手の真似事をやらされ、仏頂面を浮かべているクラブ・エースことボブの姿があった。
「つまりカイロのようなものより湯たんぽのような方がいい?」
「いや湯たんぽも凍れば意味は無くなる。むしろ唐辛子の方がいいだろう」
「えっ‥‥」
 青海が呻き声のような言葉を出す。今回の依頼は実験台、いわゆる実験のモルモットだと思っていた彼女は、今の話の流れだと自分がグリーンランドの極寒で唐辛子巻きにされて数日放置されると予想したからである。
「ボク、確かにコートの下はショートパンツで確かに露出は多いけど、これはポリシーって奴で唐辛子を貼り付けやすくするためとか、塗りやすくするためとかじゃないんだからね」
「そういうのもアリじゃないの?」
 否定する青海、だが火絵は笑いながら答える。
「あたしは勘弁だけど、そういうのも楽しそうじゃない」
「‥‥」
 火絵の発言に綿貫は顔をしかめた。自分としては真剣な話をしているのだが、発言があまりに軽率だからである。だが声を荒げるのも大人気ないと感じた綿貫は、黙して何も語らず視線を一瞬火絵に向けただけで留まった。
「それじゃボクがその唐辛子パックとでもいうのかな、それをするとして、あなたはどうするの?」
「あたし? あたしはもちろん着ぐるみに決まっているじゃない」
 装備している鳥の着ぐるみを見せ付けるように、火絵は席を立ち上がり軽く一回転してみせる。
「これLv2まで強化してあるの。寒さが防げるだけでじゃ戦闘はできない、それなりに軽くないといけないからね。そういう意味で着ぐるみは最適じゃないかな」
「面白い考えね」
 コバルトが興味深げに答える。だがボブも、そして綿貫も相変わらず黙したままだった。一方で青海は火絵の纏う着ぐるみを触ったり、抓ったり、捻ったりと珍しいものを見たかのように色々試していた。
「この毛って何でできてるの?」
「この毛? あたしにも分からないんだけど、きっと何かの鳥の毛だと信じてる」
 オヤジ趣味で同性の趣向がある火絵は、単純に青海が近づいてきてくれる事が嬉しかった。そして青海は自分の技術を高めるために細かいところまで確認していた。仲良く戯れる二人、だがそれまで静観していた綿貫は静かに言い放つ。
「着替えはどうするんです?」
「着替え?」
 聞き返す火絵、その答えを予想していたのか綿貫は即答した。
「雪や氷は元々は水、浴びれば当然濡れる。濡れたままの服を着ていれば凍傷にかかるぞ」
「‥‥」
「着ぐるみでも?」
「そこまでは試したことは無い。だが一着だけで大丈夫と言えるほど楽観視したくもない」
 『金で買える楽なら買う』そう公言している綿貫にとって、どんな衣装であれ着替えを用意していないのは自殺行為だと考えていた。
「勘違いしないでほしいのですが、別にその着ぐるみが悪いというつもりはありません。ただ単純に雪原を甘く見てもらいたくないだけです」
「‥‥確かにそうね」
 まだ完全には認めていないものの、火絵も着ぐるみで凍傷になる可能性が皆無ではないことを認めた。それに濡れれば重くなる、軽いというメリットが薄れそうな気がしないでもなかった。
「どんな装備でも一長一短ってことだな」
 これまで聞き手にまわっていたボブが初めて口を開いた。
「俺はグリーンランドにまだ行った事がないから明言はできないんだが、油断はするなというのが綿貫さんの意見だな」
「そうです」
 静かに綿貫は頷く。
「もう古い話になりますが、かつて日本の冬山で二百名近い死者を出した事件がある。参加者のほとんどが死亡したという事件です。私はその事件の当事者ではなく、グリーンランドがどんな地形なのか精通しているわけではないため推測にしか過ぎませんが、その事件の二の舞になりたくはない。ただそれだけです」
「そういう考えも間違ってないと思うわよ」
 コバルトが言う。
「備えあれば憂い無しだっけ? その事件があった日本で言われている言葉だと聞いたことがあるわ」
「だが問題がないわけでもない。重装備をすればそれだけ進行が遅くなる可能性がある。それに、それだけの準備が出来る時間が無い火急の用事がある場合もある」
「その通りです」
 ボブの解釈に綿貫は肯定した。
「戦闘がどんな状況で起こるかは分かりません。バグアがこちらの都合を呼んで攻撃してくれるのであれば、人類がこれほど苦戦しているわけはないからのですから」
「それはそうだね」
 青海が答えた。
「ボクも今日の依頼参加しなければ、唐辛子パックなんてしなくて済んだのに」
「するの?」
「しなくていいの?」
 火絵の質問に青海が問い返した。
「したければ止めないよ。あたしも興味ないわけじゃないし」
 含み笑いをしながら答える火絵。目は先程までと変わらないが、口元だけは笑っていた。慌ててコバルトに視線を送る青海、だがコバルトも目元が笑っている。
「希望があれば準備しますよ。どれぐらい効果があるか、どの程度唐辛子が必要なのか調査してみたいですから」
「‥‥ちょっと考えさせてください」
 唐辛子パックには今後役に立つ可能性があることは理解した青梅だが、やれば何か女として重要な何かを失いそうな気がする。考える時間がほしかった。
「まぁ希望があれば言って頂戴、こっちとしても準備する時間が欲しいところだしね」
「やるんですか?」
「効果的なんでしょ?」
 青海の問いを受けて、コバルトは綿貫の方を向いた。
「実際に試したことは無いですが、あればあるに越した事は無いでしょう。先程話した事件でも唐辛子を巻いて凍傷を予防したという話も聞いた事があります」
「実績はあるってことだな。生活の知恵という奴か」
「そういうことですね」
 大仰な装備を嫌うボブにとっても唐辛子パックは多少興味惹かれるものだった。だが大量に運ぶ必要があるのなら無意味なものであり、何より逆に肌に悪影響が出る可能性も無いではなかった。
「それなら、あたしの着ぐるみも検討してもらえないですか? 防水仕様というか雪原仕様っていうか分かりませんけど」
「それなら迷彩等も検討した方が効果的だろう」
 綿貫が助言を加える。
「着ぐるみの外に何か着る事はないだろう、それならば周囲に溶け込む方が効果的です。後は発汗後の適切な処置、下に着るもので手早く着替えが出来るものが望ましいかと思います」
「それっておしゃれ?」
「‥‥何種類かあれば、選べる自由は生まれるでしょうね」
「ボクは海にも着ていけるのがいいな」
 青海の答えに窮した綿貫は明言を避けた。その傍らで青海は鼻歌でも歌いそうなほど陽気である。先程まで唐辛子パックをしなければいけないのかと心配していた人とは別人のような様子に火絵は目を細めて笑っている。
「それじゃとりあえず唐辛子パックと着ぐるみの改良? あとは着替えだけど、それはショップにあるので大丈夫ね」
「ですね。後は何より知識が必要なのですが、それは実際にやってみないと分からないこともありますからね」
 テント設営など言いたい事はあったが、今実践するにしても道具が無い。多少心残りを感じたものの、それで満足することにした。
「では開発できないか考えて見ましょう。大量生産できるかどうか分かりませんが、将来的にショップに並べてもらいたいですしね」
「楽しみにしてますね。ボブさんともお手合わせしたいですし」
「実験台もお願いしたいですしね」
 そこで話し合いはお開きとなる。それなりに満足した能力者三名を送り出すコバルト、そして部屋には解放されるのはいつなのかと悩むクラブ・エースが残されていた。