タイトル:ロッタとグリーンランドマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/07 02:05

●オープニング本文


「というわけでグリーンランドに行くのです〜」
「はい、いってらっしゃい」
 西暦二千八年十一月、カンパネラ学園購買部を担当しているロッタ・シルフスは購買をしばらく生徒に任せ、出張に出ることにした。行き先は極寒の地であるグリーンランド、世界最大の島として知られている場所である。今回学園の施設ができるということで、今後必要なものはなにかあるかを調査に行くためである。
「でもロッタちゃん自身が行く必要あるの? 危ないよ」
「んー確かにそう言われる事もあるんですけど、ロッタが行くのが一番手っ取り早いみたいなのです」
 何故ロッタがグリーンランドに行く必要があるのか、その理由の一つは相手に警戒心を持たせないためである。初対面の相手だと、どうしても服装や身に付けているものである程度相手を推察してしまう。相手が男であれば警戒させてしまうし、女だと色仕掛けを懸念される場合がある。そういう意味でやはりロッタは適任であった。おまけにもう一つ理由を挙げるとすれば、ロッタなら子供料金で飛行機に乗れるということだろうか?
 ロッタがいない間、購買部は自称ロッタファンクラブ会員のエドワーズ兄弟が立候補していた。かつてカメラ小僧と呼ばれ、ロッタの写真を販売していた人物である。今回も写真を撮っていいという条件で定員役を引き受けていた。
「気をつけてくださいね」
「大丈夫ですよ〜出張は結構行っていますからねっ」
「そうなの?」
 思わず問い返すエドワーズ弟。ロッタが言うには特別アイテムの在庫確保等のために、結構出張に出かけることも多いという。
「お土産買ってきますから楽しみにしててくださいねっ」
 元気に手を振って学園を後にするロッタ、だが数日後学園に一本の連絡が入る。グリーンランド近海で航空機の墜落、数名の行方不明がでたということだった。ロッタはVIP扱いされたために優先的に確保されたらしい、そして学園とULTに連絡をしたということだった。
「おっ、俺達も何かできる事ないか?」
「俺達にできることってなんだ‥‥?」
 顔を見合わせるエドワーズ兄弟、そしてほぼ同時に一つの結論にたどり着く。自腹で救援に行ってくれる能力者を雇うことであった。
 

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

 薄暗い雲が空を覆いつくすグリーンランドの大地、十二月という寒い季節が関係しているのかしていないのか、今日もグリーンランは吹雪いていた。救助要請に応えるべく到着した能力者達だが、想像通りというべき状況に揃って軽くめまいを覚えていた。
「ここにじっとしているわけには行かないわね。作戦通り手早く行動に移るとしましょうか」
 一度深呼吸をつき、鯨井昼寝(ga0488)は言う。肺の中まで凍りつくその空気は感覚を鈍らせる反面、神経を鋭くさせていた。この近くに何かが潜んでいる、そんな直感めいた感覚が張り詰めた空気の中から感じられていた。
「そうしますか。この状況、遭難者には辛すぎるでしょうし」
「だね〜。我輩はバグアがエミタを狙っての犯行だと睨んでいるよ」
 鯨井起太(ga0984)、ドクター・ウェスト(ga0241)がそれぞれ観想を口にする。
「輸送機ってことは何人か能力者がいると考えたんだろうね〜加えて場所がまだUPCの手があまり入っていないらしいグリーンランド、バグアにとってみては格好の舞台だったんじゃないかな〜」
「その辺に関しては聞き込みで確認するしかないと思います。一度ロッタさんにも話をしておいた方がいいと思いますし」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)が言う。遭難者が四名という話は聞いているが、特徴等はまだわかっていない。そのあたりに関しては一度確認する必要があった。だが黒川丈一朗(ga0776)は微妙な表情をしていた。
「確かに彼女にも話を聞いたほうがいいだろうが、あまり酷な事はさせたくないな。ULTのショップの定員をしてもらっているが、まだ十三歳だからな」
「僕も十三歳ですよ?」
 笑顔で返すヨグ、黒川も思わず苦笑する。
「まぁ黒川だっけ? あなたも気持ちもわからないじゃないけど、ロッタも蚊帳の外じゃかわいそうでしょ。必要になったら手伝ってもらえばいいじゃない」
 ゴールドラッシュ(ga3170)が言葉を挟む。彼女としてはロッタに恩を売りたいところであったため、彼女が関与してくれて方がありがたかった。
「とりあえず人の名前と特徴くらいは確認してくるよ。そうしないと動きづらいでしょ」
 今回聞き込み担当となったクリス・フレイシア(gb2547)にとって、今回の依頼には奇妙な部分があった。突如襲ってきたという機体の制御不能である。ひょっとすればそれは今後の戦況にも影響を及ぼしかねない、そんな一抹の不安も感じていた。
「ですね、よろしくお願いします」
 多少緊張気味に言ったのはロジャー・ハイマン(ga7073)、一つは時間的な問題である。この打ち合わせの時間が大事なのは重々承知しているが、それでも刻一刻と遭難者に残された体力は低下しているはず。加えて二つ目に、ロジャーの個人的な問題ではあるが、久しぶりの空戦ということがあった。だが情報が少なく状況がまだはっきりしない。そこで軽く打ち合わせをした後、空と海の両方から自分達の目で調査することにした。だがそれぞれ調査に向かう前に話を聞いたのであろう、ロッタ・シルフス(gz0014)が能力者達を見つけ駆け寄ってきた。
「さっき学園の方から連絡があったのです。みなさん、よろしくお願いしますね」
 いつも通り振舞っているつもりなのだろうが、覇気が無い。黒川はそう感じていた。
「任せときな、これだけの人間が揃ったんだ。何かしら手がかりを見つけてくるぜ」
「よろしくおねがいします」
 本当なら全員助けてやるというべきなのだろうと黒川も分かっていた。だが状況が絶望的というのは全員一致の見解、おそらく目の前の少女も薄々気付いてはいるのだろう。全員無事救助という一時の夢物語で元気を取り戻させる事も可能だろうが、絶たれた時の衝撃を考えると迂闊に口に出すわけにはいかなかった。だが暗い雰囲気の中でいつまでもいるわけにもいかない。ドクターが話を切り出す。
「ところで行方不明者の中で能力者はどのくらいいるのかね〜? エミタがバグアの手に渡ると何かと問題となると思うのだが、どうかね?」
「それは大丈夫なのです」
 ロッタは答える。
「今回遭難された方の中に能力者はいないのです」
「だから遭難したともいえるわけか」
 ふむ、と一言呟いてドクターは納得する。だが鯨井昼寝、起太の姉弟は違和感を口にした。
「逆に言うと、体力的に辛いとも言えるわけね」
「特に水中は辛いかも」
 グリーンランドへと向かう道中、嫌でも見えたのは海を覆う氷であった。氷上に問題の輸送機が転落していれば確認もできたであろう。だがそんなことは捜索部隊も考えたのであろう。残念ながら確認できなかった。
「それと気になるんだけど」 
 クリスが尋ねる。
「副操縦士の人の話、もう一度聞かせてもらえる? ちょっとおかしなところがあるんだ」
「下から引っ張られたという感覚ですか?」
 ヨグが言うと、クリスは小さく頷いた。
「自然現象、例えば太陽風とかだったらありえる話だと思ってね。そのあたりを確認させてもらいたいわけさ」
「ふーん」
 納得したのかしてないのか、ゴールドラッシュは気のない返事を返す。一方でロジャーは先程とは違い、決意の表情を浮かべている。
「こちらでもできる限りの準備はしておくのです。だからみなさんもよろしくおねがいします」 
その言葉を聞いて、能力者達はそれぞれ自分のKVに乗り込んでいた。

「それでもう一度話聞かせてもらえる?」
 クリスの問いに副操縦士静かに頷いた。
「正直まだ頭の中混乱しているんですけど、分かる限りでよければ」
「それで構わないわ」
 副操縦士はまだ操縦暦一年半の見習いということだった。それなりに操縦経験はあるのだろうが、残念なことに能力者ではない。自分の経験したこと以上のことはわからないということだった。
「時間ははっきり覚えていませんが、グリーンランドが見えてきたくらいの時間だったと思います。急にセンサーが誤作動を起こしたんです」
「具体的には? 例えばメーターが振り切れたとか、常にゼロを示すようになったとか」
「ちょっとそこまでは覚えていないです。ただ何というかジャミングにあったような気がします」
「ジャミング?」
「えと、あの、そうだなぁキューブワームに狙われた時に似たような状況が起きるって聞かされたことがあります」
「へぇ」
 緊張しているのか、目を泳がせながら答える副操縦士。だがクリスは何か感じるところがあるのだろう、妙に納得している。
「キューブワームがいるのね」
「あの、でも、その、何となくそんな気がしただけだから。本当にキューブワームがいたってわけじゃないかとおもうんです」
「大体のことはわかったわ」
 まだ療養中ということもあるので面会も早々に切り上げるクリス。その後調査中の能力者に連絡を入れるのであった。

「キューブワームがでる?」
「厳密にはキューブワームらしきもの‥‥みたいですよ。飛ぶのは久々だったので心配してましたが、何とかなってよかったです」
 一日の捜査を終え、ロジャーは安堵の言葉を吐いた。
「どうしたのだね?」
「空戦やるのは久しぶりだったんです。五大湖解放戦以来で」
「それは随分と間を空けたね。だけどそんなに間を空けたのは何か理由があったのだね?」
「そういうわけでもないのですけどね。戦闘より人命救助を優先したかっただけですよ」
「我輩で言うところの研究を優先したということか、まぁそれは仕方ない。いやむしろ当然のことだね」
 勝手に盛り上がる二人、一方で黒川も鯨井姉弟との久方ぶりの再会を楽しんでいた。
「随分久しぶりだが、腕のほうは鈍ってないよな?」
「それはこっちの台詞です」
「生きていて何よりだよ。簡単にくたばるタマじゃないとおもっているけどね」
「言ってくれるぜ」
 憎まれ口をたたきあう三人。だがそれも一つの友情の形であることも確かだった。
 一方でゴールドラッシュは不思議に思えていた。ロッタの頼みのために参加したのだが、何か足りないものを感じていたからだ。クリスの話からブラックボックス等の場所は確認させてもらった。実際に潜ってみたところ、確かにそれらしき輸送機が落下。そしてその腹の部分には鋭利な刃物で突き立てたような跡が残っていた。だが海中にはそれらしきものが見当たらなかったのである。
「どうしたんです?」
 ヨグが上目使いに問いかける。
「そんな目で俺を見るな」
「でもお兄さん、何か悩んでいるんでしょ? だったら話してくれた方がすっきりすると思うんです」
「だったら金くれるか? 金がないんだ」
「そんなの僕も無いですよ。ほら、依頼人のお兄さんたちもお金が無いとか言ってたじゃないですか」
「ん? そういえばそうだったな。だったらお前はもってんの?」
「持ってないですよ。武装新調とか学生服の準備とか色々あったんですから」
「まぁそうだよな」
 一瞥して納得するゴールドラッシュ、海の男にも話を聞いたが、まだまだ大人は難しいと感じたヨグだった。

 数日後、クリスから行方不明者のリストが上がる。正操縦者の他にグリーンランド基地の整備員が二名と入学式会場設営のために招かれた女性が一名の計四名だった。操縦者と整備員は体力には多少自身があるかもしれないが、女性はそれほど体力もなく暑がりで、輸送機の中でも薄着をしていたということだった。
「まず始めにその女性を見つけたいってことでOK?」
「大丈夫でしょう。命に優劣をつけたくはないですが、助ける順番はつけざるを得ませんからね」
 墜落地点、ブラックボックス回収地点を確認したにもかかわらず、すでに人のいる様子は無かった。あったのは無残に破壊された輸送機と思われる残骸だけである。思い出したように昼寝が言う。
「そういえば大型のキメラがいるとは話聞いてたけど、それだけってわけじゃないみたいだわ。当て付けなのか挑戦状なのか、回収不可能ってぐらいに破壊されてたからね。ブラックボックスだけでも回収できて良かったと思うべきかも」
「そんなにひどかったのです?」
「酷かったね」
 ヨグの問いにゴールドラッシュが答える。
「空より海の方が戦力整っている気がするね、多分見えないところから徐々に準備を整えている気がしたわ。そういえばキューブワームもどきっていうのは?」
「確認できなかったね〜」
 ドクターが答える。隣にいた黒川も頷いた。
「我輩の腕を振るう機会だと思ったんだが、敵が恐れをなしたのだろうね〜」
「俺は試験だったのかもしれないとも思ったがな」
「試験?」
 今度は起太が問う。するとロジャーが答えた。
「新型がいるということだと思います。今後実践投入するつもりかと」
「どこからそんな資金がでてくるのか、一度問いただしてみたわよ」
 昼寝の愚痴とも言える笑う一同。そして再び捜索に乗り出すのだった。

 最終日、見つかったのは女性のみだった。運よく荷物と一緒に飛ばされたという幸運に恵まれ、誰かが作ったと思われるイグルーで過ごしていた所を空中の捜索部隊が発見したのであった。他の三人も始めは一緒だったが食料や救援隊の捜索に行って帰ってこなくなったということだった。なんとなく釈然としないところもあった能力者達だが、友人と思われる人が涙を流しながら歓迎したところを見ると、照れくさい気分になっていた。
「ところでロッタ」
 感動の対面の後、黒川がロッタに話しかける。
「俺達の依頼料、自腹で払ったんだそうだ。小僧ども、かなり懐は痛んだと思うぞ?」
「貴兄様達にも写真をお願いしますね」
 ヨグも合わせて言うと、ロッタは久々の笑顔で「了解なのです〜」と答えたのであった。