●オープニング本文
前回のリプレイを見る「キメラ研究禁止令だと? ふざけやがって」
カンパネラ学園生徒であるデュナミス・ニートは寮の自室で一人憤っていた。原因は先日出されたキメラ研究を禁止する呼びかけである。実際に禁止するほど法的な制限力は無いらしい。だが目星のつきそうな生徒には一組の男女が実際に訪問し呼びかけを行っているということだった。噂によると、その中にデュナミスも入っているらしい。うっとおしいことこの上ない。
「この世の中は腐ってやがる」
俺は命がけでバグアをキメラを倒しているにもかかわらず正当に評価されない。しかし一方では単に呼びかけるだけで優良生徒の称号を手にしているやつもいる。許せない。怒りに身を任せ、先日捕獲したキメラに八つ当たりをする。
「いい気なもんだ」
捕獲して分かったことだが、このキメラという生物は八つ当たりの対象にはちょうどいい。覚醒せずに戦えばほとんど死なないからである。つまり嬲り殺しできるわけだ。弱いキメラを捕獲し、動きを封じてやれば逃げ出す心配も無い。それにやっていることはキメラ退治、今では公然の正義といわれる行為。誰に咎められる事もない。
「結局今の世の中っていうのはお前たちのおかげかもしれんな!」
今回捕獲してきたキメラはアリだった。仮死の状態で四五匹程捕獲してある。聞いた話ではコンクリートも溶かす酸を吐き出すらしい。嫌がらせをするにはちょうどよかった。
「ふう」
やっと一匹を素手で苛め倒し、一息つくデュナミス。大きく息を一つつくと、パチパチと拍手が送られた。振り返ると部屋の扉が開けられ、一人の見知らぬ男が立っていた。バイキング系の、いかにも戦闘狂という姿だった。
「誰だ、あんたは?」
「私か? 私は南条・リックの友人でロベルト・マッキーノという」
「南条? あぁ教師にそんな奴がいたな」
何となく顔が思い浮かぶ。厳密には顔ではなくリーゼントの頭であったが、それは気にしないことにした。
「ところで君は力を手に入れてみたくないか?」
「はあ?」
馬鹿なことをいうおっさんだ。それがデュナミスの感想だった。バグアを倒すために力が必要、当たり前のことである。いまさら言われるまでもなかった。
「ならば私と一緒に来ないか? 実は他にも同志がいる」
いぶかしむデュナミス、だが結局はついていくのであった。
「これで地下水路の方はひとまず安心なのデース」
「みたいですね、まぁ私にかかれば当然ですが」
「杉様、あまり調子に乗らないで下さいよ」
西暦二千八年十一月、カンパネラ学園教師であるダニエル・アウラーは同学園生徒の美景杉太郎、深郷田邦子を引き連れ地下水路の確認を行っていた。前回までに能力者によってキメララット、スライムを退治、しかし増殖する可能性があるためこうして確認に来たのであった。だが確認の結果、増殖した形跡は無し、そこで三人はダグラスの部屋へと戻り、次の作戦、つまり学生達への独自の研究の禁止を呼びかける作業をどうするのかという話をしていた。
「校則か何かで縛れないのか?」
「無理だと思うのデース。具体的なものを明示できないからデース」
「具体的なものっていうのは?」
「どのくらいの施設、どの程度の知識があれば研究していいかという目安なのデース」
ダニエルが言うには、何か法的なものを作るとなると厳密な基準が必要になるらしい。美景も深郷田も納得したらしく、軽いため息をついていた。
「となると一人ひとりに呼びかけるわけしかないのですね」
「そうなのデース」
面倒なことになったな、そんなことを考えていた矢先、部屋で大きな物音が聞こえる。あわてて駆けつける三人、だが犯人の姿はもうなく、中にはキメラアントが四匹。何かなくなっているかもと調べたいところではあったがそれどころでもなく、まずは依頼を出すことにした。
●リプレイ本文
「何、今回はアリなの?」
「そのとおりなのデース。何か良くない前兆のような気がするのデース」
「それは俺も同感だね。どうせ外ではドンパチやっているんだ、ここが火の海になるのもそんなに遠くないことかもしれないしね」
外は雲さえもない晴天だった。だが周囲を包む空気はどことなく重い。それを感じているのか感じていないのか、能力者達は普段より饒舌になっていた。合わせる様にしてダニエルも口数が多くなっている。
「何か嫌な感じね」
ブラスト・レナス(
gb2116)が言う。
「何ていうか空気が重い。何かが待ち受けている感じがする。優、しのぶを守ってあげるんだよ?」
「何で俺が?」
思わず声を荒げる高橋 優(
gb2216)、そしても顔を隠すようにしのぶ(
gb1907)もAU−KVを身にまとった。
「私は優くんなんかに守ってもらわなくても大丈夫なんだから」
「そうだ。お前だってコイツの凶暴さは知ってるだろ?」
「凶暴って何よ、私はただいつも全力全壊でいってるだけで」
「ならなぜAU−KV展開しているのさ」
皆城 乙姫(
gb0047)が笑いを堪えるようにして話しかける。
「守られるっていうのはいいものだよ。誰かに頼られてるっていうか、誰かの存在を常に感じていられるっていうか、女冥利に尽きるっていう感じなんだって」
「うらやましいわね」
「いや、だからそんな関係じゃないし」
慌てて否定する高橋、だがからかう様に笑う皆城とブラスト。そしてそんな話題に耳を傾けつつ、依頼人であるダニエルは自分の部屋へと歩を進めている。
「こちらなのデース」
何度か来ている場所なのだが、すでに別次元のような空気を醸し出していた。流石に先程までの悪態を正し、正面を向く能力者達。それを見てやっとダニエルは説明を始める。
「中にはキメラアントと呼ばれるキメラが五匹いマース。ですが確認できただけで五匹デース」
「つまり他にもどこかに潜んでいる可能性があるというわけね」
「そういうことデース」
やっと正常に戻ったのか、そんなことを臆面も出さず答えるダニエル。
「気をつけてくだサーイ。他にも強敵がいるはでデース」
「了解ですよって」
いつも異常にくどいダニエルに少なからず違和感をだきつつ、能力者達はダニエルの自室へと繋がる扉を開ける。そしてそれを出迎えるように迎えたのは、先程説明があったキメラアントだった。
「ちょっと、いきなり?」
「いきなりだからだろうね」
「冷静に分析している暇じゃないでしょ」
キメラアントの奇襲に一瞬戸惑いを見せるブラストと高橋、だが皆城は冷静に答える。
「そんなに強い敵じゃないんだからあせる必要も無いでしょう?」
「必要ならAU−KVをまとえばいいじゃない」
「それもそうか」
だがそれをさせまいとキメラアントが五体揃って先制攻撃をしかけてきた。
始めに狙われたのは高橋だった。扉に近かったというのが狙われたのだろう、足を中心に攻撃を仕掛けてくるキメラアント。廊下という場所は案外場所が狭く、戦いには向いていない。そこで高橋は敢えて攻撃を受けることで敵を引き付け、その間にダニエルの自室へと侵入することにした。それを確認して後から部屋へと入る高橋、キメラアントを引き付け、広い場所での戦いへと移った。
「このくらいの敵なら楽勝ね」
「自分で死亡フラグを立ててどうするつもり?」
「そんな物騒なものも壊してやるの。私はいつでも全力全壊なんだから」
「戦いも恋も全力全快なんて妬けるわね」
「違うの、全力全壊なの」
「とはいっても壊したくないものもあるんでしょ?」
相も変わらず、いや愛も変わらず容赦ない口撃を行う皆城とブラスト。キメラアントがそれほど強敵ではなかったことが原因なのか、しのぶと高橋、特に高橋はいつも以上の疲労を感じていた。
すべてのキメラアントを倒した後、ダニエルは早速資料を確認作業に入る。その間、キメラアントに開けられた穴を
能力者達が埋めていた。だが人が通れる程の大きさまで開けられた穴は簡単に修復することができず、時間がかかっていた。同時にダニエルによる資料確認も美景、深郷田と三人がかりで集められたものであるため、資料は膨大なものになっている。
「それで問題の書類ですけど、見つかりそうですか?」
「ちょっと待つデース。焦るの禁物デース」
諭されるように引っ込むしのぶ、だが能力者一向の気持ちは一緒だった。すでにダニエルが捜索を始めて十分が経過、だがそれらしいものは見つかっていない。能力者の中には焦りのようなものを感じていた。
「まぁそんな気持ちになるのは分かりますけど、見つからないものは見つからないのデース。それに最近は別方面からも探ってくれている方もいるので、そっちの資料もあって膨大な量になっているのデース」
「別方面?」
高橋が問い返すと、ダニエルはとっておきの笑顔を出して答える。
「伝説の樹のことは知っていまスーネ? あの樹を調べてくれていたエカテリーナ女史が土に関して調べてくれているのデース」
「土?」
今度は高橋が問い返す。
「よくは私も理解できないのデースが、地下の方がキメラの生育がよくなるかもという仮説らしいのデース。証拠らしい証拠はないらしいのデースが、地下で成長したキメラが見つかったらしいのデース」
「あっ」
思わず声を上げたブラスト。
「例のヒルの事ね」
「私も実物は見たこと無いのデースが、多分それであっていると思うのデース」
言われて思い出したのだろう、しのぶと高橋は首を縦に振って納得する。一人まだ疑問符を浮かべていた皆城にブラストが簡単に事のあらましを説明した。
「そんなこともあったのね。納得」
「そんな事もあって二人の仲は進展したんだけどね」
思わずいつもの雰囲気になると考えた高橋は話を元に戻す。
「それで、その資料というのは見つかったのです?」
「いやまだ見つかってないのデース」
「ちょっとまって私も探す」
しのぶが壁埋めの作業を止め、ダニエルの下へと駆け寄ろうとする。それを手で静止する高橋。思わず手と手がふれあい、見つめあう二人。そしてそれを見て皆城とブラストは格好の餌を見つけたと囃し立てた。
「お暑い二人だね」
「ちょっと通気性よくするために、この辺の穴を少し開けておこうかしら」
「それはいいアイディアですね」
「さすがにそれは困るのデース」
一応止めに入るダニエル、その声で高橋としのぶは元の世界へと戻ってきた。
「君が手伝えば逆に駄目になるって」
「そんな事言ってどうするのさ」
そんな収拾のつかなくなりつつあるところで、美景と深郷田が姿を現す。
「エカテリーナ女史がなくなりました」
開口一番の美景の声に一向は一瞬思考が止まる。それを察したのは深郷田が慌てて追加の説明に入る。
「まだはっきりと分かったことはないのですが、恐らく地下ではキメラの育成がよくなるという仮説が誰かの逆鱗に触れたんだと思うのです」
「つまりエカテリーナさんの仮説は正しかった?」
「正しいと判断するのは早計だと思いマースが、何らかの核心に近づいたのは間違いないと思うのデース」
「ですね」
ダニエルの言葉に皆城は同意する。
「それなら早くエカテリーナさんの方へ向かわないと」
「待つのデース」
外に出ようとするしのぶ、だがそれをダニエルが止めた。
「まずはここでの作業を終わらせるべきデース。敵の狙いはこっちが本命なのかもしれまセーン」
「残酷な言い方かもしれないけど、確かにそれはそうかもしれないです」
ちょっと残念そうにブラストが答える。
「ならばさっさとその作業を終わらせないと‥‥」
作業の手を止めて、皆城とブラストも腰を上げる。すると一陣の風が部屋を通り抜けた。舞い上がる書類、その中で一通の封筒が皆城の手に落ちる。
「何でしょう?」
視線で開けていいか確認する皆城、ダニエルが小さく頷くを確認して開封する。中には一枚の便箋が入っていた。新聞の切り抜きで作られた、脅迫状のような手紙だった。横から覗くブラストを気にした様子も無く、皆城は読み上げる。
「警告する。下水道の浄化および調査を直ちに停止し、資料を破棄すること。さもなくば我々の方で搾取した資料を抹消、および強硬手段に出すことも辞さない」
その後、誰も言葉を発することなく作業に戻り、解散するのであった。