タイトル:死者の書 Andhaka2マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/30 18:08

●オープニング本文


 宵も覚めやらぬ早朝、兵舎にジリジリと大きな火災報知器のベルが響き渡る。
 慌てて飛び出す兵ら。
 当直の警備担当を捕まえ、兵の一人が火元を尋ねる。
 まだ若い警備担当者が慌てて答える。
「西棟2214号室です!」
 火元の場所を聞いた兵が「またか」という顔をする。

「ちっ‥すげー損した気分」
「あ〜っ、寝なおし、寝なおし」

 皆、不満気にゾロゾロと己の部屋に帰っていく。

「え? え? あのっ?!」

 訳のわからぬ警備担当に兵の1人がいう。
「お前、新人だな?」
「ハイ、先週から配属になりました!」
 敬礼をする警備担当に能力者か尋ねる。
「ハイ、エクセレンターであります!」
「んじゃ、俺がベルは切っておいてやるから火元を確認してこいよ」

 部屋に入る前に必ず覚醒してから入るように注意をする。
 頭に?マークを大量に浮かべながら火元へ向かう警備担当をヒラヒラと手を振り見送る兵。仲間の兵らが楽しそうにいう。

「あ〜あ、いっちゃった」
「あいつ、殺されても知らねぇぞ」
「かわいそーに」
 ニヤニヤとしながら警備担当がどのくらいの怪我で済むかトトカルチョを始める兵たちであった。


 火元の2214号室を外部モニタから覗くと真っ白である。
 故障かと思い、マスターキーで開けてに入る警備担当者。
 部屋中に真っ白い煙が立ちこめ、大音量の音楽が流れる。
「な、なんだ? 煙? 水蒸気?」
 誰かいるのか、と叫んでみても中に人がいるのかどうか判らない。
 オーディオの電源を探してソロソロと中に入る警備担当者が何かを踏んだ。
「ブラジャー?」
 よく見ればそこかしこに下着や装備が脱ぎ捨てられ、床は水蒸気でビチャビチャである。

 どうやら火災ではなく住民の女が風呂のドアを開けたまま大量の湯を出し、それが警報機の隙間に入り込んだ為に回線がショートしたらしいと、流石の新人警備担当者も気づく。兵らの反応を思い出してみれば、部屋の住民の女は常習者なのだろう。
 人騒がせな住民に文句を言おうと女の姿を探す警備担当者の後ろで気配が動いた。


「──で、死んだのか?」
 S・シャルベーシャ(gz0003)が書類から目を離さないまま副官のシンにいう。
「いえ、腕と腹を切られただけで済みました」
 シンの隣には、同じく副官の中山 梓がいる。
「ふーん‥‥」というサルヴァをちらりと見る梓。
(「ううっ‥‥怒られた方がマシだよ」)


 人というのは「なくて七癖」というように非常に癖を持つ生き物である。
 その癖は本人の自覚があったりなかったり、他人様の役に立つものだったり役に立たないというよりも迷惑と思われるものだったりと様々である。
 傭兵という常に精神が張り詰めている状況やPTSDより他人様には奇行としか思えない癖を持つ者も少なくいる。

 梓もまたPTSDを抱える一人である。

 梓がただの高校生であった夏の日差しが強い夏のある日、家族と住む村にバグア軍の歩兵部隊が来襲したのであった。
 梓と家族は多くの村人共に生きたまま井戸の中に放り込まれた。
 上から井戸の中に撃ち込まれる銃弾。
 死んだと思えば上からまた新たな犠牲者が井戸に放り込まれ、再び銃弾の嵐が起こる。
 それが繰り返された。
 梓は大量の死体と共に三日三晩井戸の中に放置されていた状況で発見されたのであった。生存者は3名。正気を失った2名はそのまま精神病院に放り込まれ、「生きていた人間」は梓1人であった。

 だが、それ以降、閉所恐怖症に苦しめられている。
 KVの適正試験を激しい怒りと根性で何とか誤魔化し、傭兵となった。
 更に過酷なMaha・Karaのテストに合格し、ほぼ完璧に閉所恐怖症を克服したが、ふとした弾みに恐怖が戻ってくる。人がリラックスするはずの風呂やシャワーといったものが、梓に取って恐怖対象なのである。
 その事を隊長であるサルヴァも当然知っている。
 だが、だからといって梓の行為は本来は許される行為ではなかったが、一部から脳筋娘と呼ばれる梓同様、兵舎警備を担当する者もまたMaka・Karaである。己の襲い掛かる刃を防げない者は、Maha・Karaにいらないのだ。


「‥‥まだ、何かあるのか?」
 今度こそ書類から顔を上げたサルヴァに見つめられてドギマギする梓。
「べ、別に‥」
「なら、仕事をしろ。Andhaka隊の方はどうなった」と尋ねるサルヴァだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA

●リプレイ本文


「ふむ‥‥何かと思えば、サルヴァさんの隊の方ですか」
 Maha・Karaでの鳴神 伊織(ga0421)の評判は高い。
 そんな伊織と戦える事は梓にとって己を高めるに好都合だった。
「どう?」
「至らぬ身ではありますが、お相手とあらば付き合う事としましょう」

 ***

 先手を取ったのは、伊織である。
 梓の銃を封じる為にフェイント使いながら一気に間を縮めていくが、梓は逆に間合いを詰めようとしない。
「逃げてばかりじゃ実力はつきませんよ」
 続けざまに放った伊織のソニックブームが、梓を横転させると立ち上がる隙を与えぬよう、追撃する。
 梓は、そのまま転がりながら銃で反撃をする。
 全弾撃ちつくした瞬間、ぱっと伊織の顔面に向かって銃を投げつける。

 伊織が鬼蛍で弾く僅かな間に立ち上がるとそのまま瞬天速で伊織の間合いを狙う。
 梓のナイフを伊織のナックルが弾き、豪力発現を乗せ柄頭を振り下ろす伊織。

 頭を庇う梓の腕がボキリと鈍い音を立てた。
 鈍い感覚に思わず顔を顰めたのは、梓ではなく伊織であった。
 僅かな間に、着物の裾を掴むと思いっきり引っ張り上げ、伊織を転ばせる梓。
 そのまま伊織の足首を掴み、アンクルホールドに入ろうとする。
「関節技ですか‥‥」
 伊織の容赦ない蹴りに梓も溜まらず伊織を放すと、そのまま後ろに跳び退る。

 この時を待っていたのは、伊織である。

 コン──

 伊織の懐から放られた閃光手榴弾が炸裂する。
 目を庇う梓の脇に伊織のしたたかな一撃が加えられた。

 ***

「大丈夫ですか?」
 医療スタッフの手当てを受ける梓を伊織が心配そうに覗き込む。
 隊では良くあることだ、と答える梓が伊織に向かって「アンダカの瞳」を投げる梓。
 Andhakaが編成された場合、恐らく初陣は占領地域である「ヒマラヤ」になるだろう、と笑う梓だった。



「相変わらず暴れているらしいね」
 鯨井昼寝(ga0488)、そう言われドギマギする梓。
「別に普通だよ。今もこうして対戦相手を探しているだけだし‥」
「ふふ。あの時からどれくらい成長したのか、この昼寝先生に確かめて欲しい‥‥そういうことね?」
 にやりと笑う昼寝が「胸を貸してやろう」といった。

 ***

 右と思えば左。
 昼寝の二段撃によって次々と繰り出される包丁。
 梓も負けじと銃のグリップとナイフで昼寝を反撃するが、二刀流ならぬ二包丁で綺麗に捌き返していく。
 ナイフを弾かれ追い込まれているのは、梓である。
「あず郎、敗れたり!」
 追い込まれていく梓を昼寝の言葉が更に追い詰める。
 パワーで弾き飛ばされ、体が崩れる梓に昼寝の包丁が迫る。

 ──バシっ!

 梓の靴先が昼寝の包丁を弾いた。
「会わない間に足技を覚えたってか?」
 他にもね、という梓にゾクゾクとした感覚が昼寝を駆け上がっていく。
「でも、まだまだまだまだッ!!」
 更に激しく一気に猛攻で迫る昼寝であった。

 ***

「あたしに勝とうなんて100年早い」
 ひっくり返っている梓を見下ろす昼寝。
「本当に‥‥昼寝は‥強いよ」
 ゴソゴソとポケットから「アンダカの瞳」を取り出す梓。
「あげる。本当は前ん時、渡そうと思ったんだけどさ」
 うっかり忘れた、という梓。
「あず子は、短気なだけじゃなく『うっかり』でもあるのか」
 しょうがない奴だ、と苦笑いする昼寝だった。
「だってさ、昼寝は‥(ごにょごにょ)」
「はっきり言え、あず子っ!」
 梓をくすぐり倒す昼寝であった。



「よう、聞いたぞ。梓の身体を覗いた馬鹿がズンバラリンされたってなあ。まあ、覗くなら殺されないようにしないとなあ」
 緑川安則(ga4773)に言われ、思わずムッとする梓。
「サルヴァの旦那と違って、俺は梓ぐらいの胸が程よく好きだし」
「なんで隊長(S・シャルベーシャ(gz0003))が出てくんよの。大体あたしの胸のサイズは関係ないじゃない」
「俺も梓自身に興味があるぜ」
「何よ、それ?!」
 安則の言葉にドギマギしながら「邪魔をするな」といったが、思い直して「そんなに暇ならあたしの腕試しをしてくれ」という梓。

 ***

「懐かしいぜ。もっとも陸自にいた頃は槍じゃなくて銃剣訓練ばっかりだったけどな」
 突撃一番、先手必勝とばかりに槍を構えると瞬速縮地で一気に突撃を仕掛ける安則。
 穂先をナイフで弾き、逆の手が柄を押す梓。
 懐深くにはいろうとする梓に槍を回転させ、引いた石突きを鋭く突き出す安則。
 腹に一撃を食らった梓の口から呻き声が漏れる。
「思えばエミタの力に俺たちは感謝しないとな。北海道で眠っている戦友と共に戦えないのは残念だが‥‥」
「死ぬのは弱いからよ‥‥にしても余裕ね、安則。ちょっとムカつく」
 腹を庇いながら後ろに跳び退った梓が吐き出すように言う。
「余裕? 冗談。本気には本気で向かわないと、失礼に当たる」
 想定内の梓の回避に真音獣斬を放つ安則。
 梓の足が止まったのを確認し、獣の皮膚で防御し、再び瞬速縮地で迫る安則。
「ごめん、本気の梓ちゃんが素敵だからな」
 槍が梓を突いた。

 ***

「自分でやっておいてなんだが、せっかくの綺麗な肌に傷づけちまったなあ。責任とって嫁にでももらうかな?」
 梓に応急処置をしながら安則がいう。
 一方の梓と言えば、押し黙ったままである。
「あ、こいつは後で飲んでおいてくれ。それとも口移しで飲ませてやろうか?」
「綺麗なんかじゃない‥‥」
 そう呟くと安則からミネラルウォーターを奪い取って飲む梓であった。



「Andhaka?」
 派遣の登録とかと同じ感覚でいいと梓は、目の前にいる榊 刑部(ga7524)にいう。
「今ん所、Maha・Karaの一部情報サービスが受けられる以外ないけど、誰にも彼にもあげられる訳じゃないのよ」という。
 なのでよかったら一試合しないか? と言う梓。
 対人戦闘の経験を積む機会がない自分にとっては、梓と一戦交えるのは良いことだろう。
「それでは中山さん、宜しくお願いしますね」

 ***

 梓が噂どおりであれば付け焼刃の搦め手で勝てる勝算はフィフティである。
(「グラップラー相手にスピード勝負を挑むつもりはありません。戦士には戦士なりの戦い方がありますからね」)
 スピードをつけ正面から挑む梓に蛍火を抜けるように構える刑部。
 梓の動きに惑わされないように銃口と刃先がどこにあるか、見つめる。
(「来るっ!」)
 刑部が踏み込み蛍火の刃が届くだろう距離でパッと脇に逸れると続けざまに2発撃つ梓。
 フェイントからの突撃、突きを警戒する刑部が後ろに跳び下がり、そのまま蛍火を振り下ろす。
 ナイフとグリップで刀を受けた梓の体が一瞬沈む。
 飛び上がり、梓の足払いを避ける刑部に向かって至近からトリガーが引かれる。
 さっと刀を立て、腕と刀で体の軸を守る。
 間合いを取ろうとする刑部が蹴りを繰り出す。
 梓のナイフが刑部の股を狙う。
 刑部の払う刃に梓のナイフが落ちる。
(「勝機!」)
 豪力発現を使い、この一閃に気合を込める。
 鋭い突きが梓を襲った。

 ***

 刑部の、刀技のセンスは、間違いなく一流である。
 だが、試合形式ではなく実戦だった場合の刑部を見てみたいと思う梓。
「誘っておいて、ゴメン。もし良かったらもう一度、別な場所で戦ってみない?」
 困った梓は、素直にいった。



 植松・カルマ(ga8288)は、梓の噂を聞いてトレーニングセンターにやって来た一人である。
「マジ喧嘩って久々なんで参加させて貰ったッス!」
「喧嘩ではなく腕試しだよ」
「タイマン、上等ッス!」
 何でもアリ、精々学ばせてもうッス。というカルマ。
「で、俺の相手は何処ッスか?」
「あんたの相手は、あたしだよ」と答える梓。
「ええっ、マジッスか? お、お手柔らかに‥‥へへへ」と揉み手をするカルマであった。

 ***

 散弾を撒き散らし梓の動きを牽制し、剣で斬りつけるカルマ。
 一撃を加えたら、さっさとバックステップで離脱する。
 梓が銃を構えれば、剣を盾にジグザグに動いて射程を絞らせないように勤める。
 銃の再充填は梓のタイミングにあわせてカートリッジを装填する。
 武器の特性を理解し、敵を有効攻撃域に入らせない──

(「こいつ、チャラ男かと思ったけど‥‥」)
 梓もここまでされれば接近した時の隠し玉を警戒せざるを得ない。
「へへ‥‥顔色が悪いッスよ!」
 隠し玉が待っていようが、その方法しかないと一気に走りよる梓。

「パスっ!」
 接近する梓にパスをするように剣を投げるカルマ。
 自身はそのまま流し斬りで右に回りこみ、腰に隠したナイフを抜いて梓の脇を薙ぐはずだった。

 ──ギン!

 カルマのナイフを防いだのは、さっき投げたカルマの剣だった。
「折角のプレゼントだもの、使わなきゃね」
 ソニックブームを放ち、回避に回ったのはカルマのほうだった。
 銃を構えるカルマの目の前から一瞬、梓の姿が消え、次の瞬間、カルマの顎と腹に硬い金属の感触が突きつけられていた。
「あんたパネェ! マジリスペクトって奴ッスよ!」

 ***

「いーんッスか、貰っちゃって?」
 クルクルと「アンダカの瞳」を回して玩具にするカルマ。
「まあ、あんたの暇つぶし位にはなるんじゃないの?」
 そう梓はいった。



「中山‥‥梓ちゃんよね? よかったら私とも一勝負しない?」
 冴城 アスカ(gb4188)は、ここ数日の梓の行動を見て、梓に興味を持ったのだという。
「今回はよろしくね、梓ちゃん♪」

 ***

「ほらほら、防戦一方じゃ私に勝てないわよ♪」
 激しいアスカの蹴りのラッシュを腕で防戦一方の梓を挑発する。
「そういえば梓ちゃんサルヴァさんの事、ぶっちゃけどう思ってるの?」
「‥‥隊長に興味があるんだったら、あたしなんかダシにしないで直接いいなよ」
「あらあら、顔が紅いわよ?」
 あからさまにムッとする梓にサマーソルトを放つアスカ。
 避ける梓に、アスカの服の裾からナイフが飛ぶ。
 思わず両腕で顔面をガードし、足の止まった梓に閃光手榴弾を投げるアスカ。
 激しい閃光が収まるとアスカの姿は、投げたナイフと一緒に消えていた。

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」

 楽しげなアスカの声だけが部屋に響く。
 ──一方の梓は大きく深呼吸を何度か繰り替えした後、頭を掻いてポツリといった。
「このままあたしの負けでいいからって‥‥帰ったら怒るかな?」

 ***

「あいたた‥‥やっぱ作戦が拙かったかしら?」
 医務室で手当てを受けているアスカ。
 消毒薬が傷に染みるとぼやきながら何が悪かったのだろうか? というアスカに、
「閃光手榴弾を使った時点で技を畳み掛けられたら負けていたのは、あたしだったと思う」と梓はいった。



「梓さん、宜しくお願いします」
 ナンナ・オンスロート(gb5838)は北アフリカ侵攻作戦での白兵戦闘を予定しており、腕試し兼調整を考慮しているのだという。
 梓の装備は、シエルクラインとヴァジュラである。
 装備の質も練度も似ている以上、負けられない、と思うナンナ。

 ***

 小銃の攻撃をシールドで受けながらナンナが梓との距離を離していく。
 グラップラーのスキルとシエルクラインとスノードロップの性能差を冷静に判断しての戦法である。
 盾と遮蔽物を上手く利用しての消耗戦である。

 だが、物陰に隠れた梓の攻撃が、ピタリと止まる。
 盾を構え、警戒しながら接近するナンナ。
「ダクトですか‥‥」
 訓練用とはいえ小さなビルのフロアを模しているトレーニングルームには本物さながらのエアダクトが用意されていたが、ミカエルを装着したまま侵入は不可能のサイズである。
「小銃と剣がありませんね‥‥」
 梓の残していった装備を見ながら、梓が何をするつもりなのかを想像するナンナ。
「ダクトからの狙撃? ‥‥でも、剣は?」
 トリックを使った攻撃も考えられた。

 小銃の発射音に身を伏せるナンナ。
 どちらの方向からしたのであろう? と耳を凝らす。

 ドアを出て、別の部屋に向かおうとするナンナの前に梓が飛び出し、弾が注がれる。
 退避の為にドアノブを回そうとするが回らない。
 梓が、脇のドアに細工をしたのである。

 狭い通路に逃げ道はない。
 ドアを叩き割る僅かな隙を与えられないナンナ──必死に冷静になれ、と自分に繰り返す。
(「シエルクラインは練力食い。そう繰り返し使えない。次にくるのは突撃‥‥!」)
 小銃から壱式に持ち替え、先手必勝とばかりに先に攻撃を仕掛けたのはナンナであった。

 ***

 結局、双方とも致命傷を与えられず時間切れであった。
「今度やる機会があればナンナとは、フル装備で戦ってみたいよ」
 アフリカは頑張ってきてくれ、という梓。
「梓さんも頑張ってくださいね」
 なんとなく意気投合し、握手をするナンナと梓であった。



 声をかけてきた加賀・忍(gb7519)が、ストレッチから始まり素振り──丹念に準備運動をする姿を面白そうに見つめる梓。
「相手、お願いできるかしらね?」
「いつでもOKだよ」
 1スクエア離れた所で一礼をし、手合わせ開始である。

 ***

 瞬天足で目の前で現れた梓。
 近すぎる間合いに忍は盾を使い、梓を押し返し距離を取ろうとするが、僅かな隙間から梓のナイフが捻りこんで来る。
 忍は円閃で回避を試みる。
 だが、間合いの短い梓には効果が出ず、脇を斬られる忍。
 一瞬、痛みに顔を歪ませたが、距離がないのであれば距離を作ればいい、と疾風を使い、梓を振りほどくように離れる忍。

 梓の隙と死角を探るが、忍と梓、スキルが似通っている為に有効な攻撃を加えられぬまま時間だけが過ぎていく。

 策を変える事にした忍が、梓に圧されるように部屋から廊下に下がる。

 ──機会が来るのを待っていた。
 十分な距離、梓がドアから離れたと判断した忍が、三角壁蹴りを仕掛けた。
 激しく仕掛ける忍と避ける梓。

「足りない‥‥」
 パッと盾と刀を投げ捨てるとそのまま梓をタックルを仕掛けると、そのまま壁に体当たりをした。
 そのまま離れようとする忍の髪をがっちりと掴み放さない梓。
「肺に穴が開くのと、首を切られるのと、どっちがいい?」
 ナイフを忍に突きつける梓だった。

 ***

「センスは悪くないんだけどね」
 トレーニングルームに残りクールダウンのストレッチをしている忍を見つめる梓であった。





「あ‥‥凄い経歴」
 ベットの上で転がりながら、ULTのデータバンクにアクセスして手に入れた経歴を見ながら、うんうんと頷く梓。


 ──傭兵は何万人もいる。

「前も今回と同様気になる奴もいたけど、ね。2度と会えない奴もいるかもしれないからね」

 尤も「アンダカの瞳」を与えたは良いが、ミッションに参加してくれない相手では意味がない。
 次に募集する時は、もっと実戦に近い状況を作り、その上で慎重に評価しよう。
 ではないと今回以上ユニークな奴らを相手にした場合、1回の手合わせでは正しく評価できないかもしれない。
 そう思う梓であった。